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 昨年に続き、今年もバターが足りなくなりそうだ。農林水産省は7千トン以上の不足を予想し、10月までに1万トンを緊急輸入する。慢性的な不足の背景には、酪農家の減少とバター特有の「役割」が影響している。

■「1個限り」呼びかけ

 5月下旬、東京都足立区のスーパー。牛乳や生クリームが並ぶ陳列棚に品物がないスペースがある。バターのコーナーだが、店員は「有塩バターが不足し始めた」と言う。都内の別のスーパーでは「お一人様1個限り」と呼びかけていた。

 「午前中に買いそびれると高級バターしか残っていないので手が届かない」。東京都内の主婦(46)は自宅でのパンやケーキ作りを控えている。トーストを食べる回数も減り、「バター不足は家庭のメニューを直撃しています」。

 農水省によると、品薄状況は店舗ごと異なる「まだら」な状況だ。昨年末のバター不足で、乳業メーカーが出荷を控え、消費者は買いだめに走った。その影響が残る。また、一部の流通業者が特売用に安く仕入れようとする店への供給を絞っていると打ち明ける関係者もいる。

 横浜市港南区のパン店「ブーランジェリー トレフール」では昨冬、バター不足などの影響でクリスマスケーキの製造販売をやめた。経営者の笠間智裕さん(35)は今年、業務用の無塩バターを多めに仕入れている。少しずつ冷凍し、冬季によく売れるクロワッサンや焼き菓子に使う。「なんとかお客さんをつなぎとめたい」。企業努力で乗り切るという。

 品薄は価格にも影響し、バターの仕入れ値は4年半ほど前の開業当時より約2割高いという。さらに、円安などの影響でパンや菓子に使うナッツやドライフルーツも高騰し、仕入れ値は開業当時の約2倍になったという。「パンに価格転嫁して売れなくなったら元も子もない」と笠間さん。

 一方、パン大手の山崎製パンの担当者は「業務用バターは長期契約して仕入れており、品薄の影響はない」。7月にパンや和洋菓子を一部値上げするが、円安の影響で小麦粉や乳製品、小豆など原料の原価上昇が理由だという。「バターは主要原料ではなく、直接的な値上げの影響にはつながっていない」と話す。フジパンの担当者も「バターはスタッフがなんとか確保しており、在庫不足にはなっていない」と話す。