(2015年6月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

スイスフランやユーロは高額紙幣があるため、米国などより現金を保管するコストが低くて済む(写真はスイスフラン紙幣 (c) Can Stock Photo

 秘密の金庫室に現金を仕舞い込むのは、通常は犯罪者と関係する類の行為だ。ところが今、スイスの年金基金がこの流れに乗ることを検討している。

 スイス年金基金協会(ASIP)によると、その理由は、年金基金が普通の口座に資金を置いておくだけのために銀行にカネを払うことにうんざりしており、預金をごっそり引き出すことを検討しているからだという。

 マイナス金利というアリスの不思議の国にようこそ。ここは、中央銀行が低インフレの見通しを恐れるあまり、借り入れコストをマイナスまで引き下げ、口座の収支を黒字にするために事実上、金融機関から利子を徴収する「あべこべ」の世界だ。

 政策立案者は、この課金によって、銀行がまだマージンがかなり大きい家計や企業向けの融資を増やすことを期待している。

預金に利子を徴収される世界

 今年3月、ユーロ圏では3年ぶりに企業向けの融資が増えた。だが、マイナス金利は、銀行や他の投資家が多少のリターンを求めてリスクの高い資産を買うことでバブルを生み出すリスクを増大させる恐れもある。

 「極端な低金利は金融市場の主体に、過度なリスクを取るよう促してしまう恐れがある」。ブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルの特別研究員、シルビア・マーラー氏はこう話す。「ユーロ圏の監督構造が今後、かなり強化されること、そして監督官が以前よりはるかに金融の安定性に重点を置くことが極めて重要だ」

 欧州中央銀行(ECB)は昨年6月、大規模な中央銀行として初めてウサギの巣穴に入り込み、現在、ユーロ圏の銀行が中銀の金庫室に預けておく預金に年率0.2%の利子を課している。スウェーデンでは、リクスバンク(スウェーデン国立銀行、中銀)が現在、中銀から資金を借りる市中銀行に年率0.25%の利子を払っている。