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2015年6月5日(金) NEW

“歴史認識” 声明が問いかけるものは

阿部
「国際的にも関心が高まっている日本の歴史認識。
それに関する1つの声明文が注目を集めています。
先月(5月)、欧米の日本研究者や歴史家が連名で発表したもので、いわゆる従軍慰安婦などの問題に関して“偏見のない清算”を呼びかけています。」


和久田
「この声明に賛同する研究者は、発表した当初187人でしたが、徐々に増え、450人を超えるまでに広がりを見せています。
『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者、エズラ・ボーゲル氏や、ピュリツァー賞を受賞した『敗北を抱きしめて』の著者、ジョン・ダワー氏など、“知日派”の中でも著名な研究者も名前を連ねています。」

阿部
「彼らの声明は私たちに何を問いかけているのか、取材しました。」

“歴史認識” 声明が問いかけるものは

タイトルは、「日本の歴史家を支持する声明」。
戦後70年の日本の歩みが世界の祝福を受けるには、いわゆる従軍慰安婦などの歴史認識問題が妨げになっていると指摘。
その上で…。

“この(慰安婦)問題は、日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました。
元『慰安婦』の被害者としての苦しみが、その国の民族主義的な目的のために利用されるとすれば、それは問題の国際的解決をより難しくするのみならず、被害者自身の尊厳をさらに侮辱することにもなります。
しかし同時に、彼女たちの身に起こったことを否定したり、過小なものとして無視したりすることも、また受け入れることはできません。
過去の過ちについて可能な限り全体的で、でき得る限り偏見なき清算を、この時代の成果として共に残そうではありませんか”

この声明の呼びかけ人の1人、アメリカ・コネティカット大学のアレクシス・ダデン教授です。
歴史認識をめぐる政治的な対立が、歴史の検証を妨げているのではないかと懸念を抱いたことが、きっかけだといいます。

コネティカット大学 アレクシス・ダデン教授
「私たちが歴史問題と向き合っているのは、将来のためだと信じています。
私たちは20世紀の歴史を正確に記録に残す必要があります。
21世紀に過去の暴力を繰り返さないためです。」


この声明の作成に関わった1人、ハーバード大学のアンドルー・ゴードン教授です。
アメリカでの日本史研究の第一人者で、去年(2014年)9月から日本に滞在し、研究や講義を行っています。

ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「私たちが重要だと考えたのは、歴史評価における偏狭なナショナリズムや言論に対する制限が、日本だけの問題ではないということです。
そのことを声明の中に適切な形で盛り込むことが重要だと思いました。
その点もしっかり声明に盛り込まれたと考えています。」


声明に賛同した研究者たちの間には今、日中韓の3か国で、異なる立場の意見を認めない雰囲気が広がっているという危惧があります。
たとえば日本では、ヘイトスピーチなど在日韓国・朝鮮人に対する差別的な言動。



韓国では、「20万人の少女が日本軍に強制連行された」という認識は実態とは異なると主張した大学教授が大きな反発を受け、裁判所が本の出版を差し止める決定を下しました。

ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「攻撃されることなく自由な発言ができるかという点で、今の雰囲気は過去に比べて制限されていると感じます。
こうした現実を指摘することによって、歴史家同士が自由な気持ちで議論できる土俵を作りたいと思いました。」

長年、ゴードン教授と親交がある研究者、五百旗頭真(いおきべ・まこと)さんです。
防衛大学校の前の校長で、今回の声明を評価しています。



五百旗頭真さん
「戦争の過去についての自己批判、反省をして、いまの普遍的価値をもって処すべきという議論ですね。」




ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「そう聞くと極めてうれしいですね。
私たちも(声明を)人に読んでほしいし、反発よりは考えていただきたかった。」

今回の声明に賛同できないという研究者もいます。
その1人、現代史家の秦郁彦(はた・いくひこ)さんです。
慰安婦について、「日本の官憲による組織的な強制連行はなかった」という立場です。

秦さんは、声明が慰安婦の数について「永久に正確な数字が確定されることはない」などと表現していることに、違和感があるといいます。




現代史家 秦郁彦さん
「誰も(慰安婦の数を)計算をしようとする人もいない。
ここまでは言えるとか、そういうことをやってみようというのではなくて、(数が)永久に分からないと放り出してしまうのはどうかと思う。
(歴史家は)あくまでも事実を忠実に再現していく。」


さらに秦さんは、声明には政治的な思惑もあるのではないかと推測しています。

現代史家 秦郁彦さん
「臆測すれば、安倍首相が8月に談話を出すといわれている。
それを意識しての呼びかけなのでは。
歴史家としての任務を放置して、そういう政治的策動に巻き込まれるのは避けるべきだと思う。」

ゴードン教授は、今回の声明が過去の歴史と向き合うきっかけになってくれればいいと考えています。

ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「私の希望は、多くの日本人の学者や歴史研究家・市民に話し合ってもらうことです。
我々の役割は一部に過ぎません。
日本政府などの当事国同士が何らかの声明を出すことで、未来志向でありながら過去を率直に見つめ、東アジアの可能性が実るような道を見いだすことを願っています。」

“歴史認識” 声明が問いかけるものは

和久田
「ゴードン教授は『自分たちアメリカ人も歴史を完全に振り返ってはいない。過去の歴史問題に向き合うことは、どの国にとっても難しいことだ』と話していました。」

阿部
「東アジアの歴史の研究を巡っては、日本・中国・韓国の学生たちが参加した新たな取り組みが始まっています。」

日中韓の大学生 共同で歴史の研究

東京外国語大学です。
昨年度から、インターネットで中国・韓国の大学と結び、近現代のアジアの歴史について議論しています。




この日は、中国東北部が満州と呼ばれた時代、そこでの人々の生活や政治などについて発表が行われました。
中国・韓国の学生の発表では、日本の学生にとって耳慣れない言葉が次々と出てきました。
国によって、歴史の伝え方に違いがあることもわかりました。

中国の学生
“中国人は下等民、朝鮮人は二等民、日本人は一等民だった。”

中国の学生が、民族によって差別があったと発表。
一方、日本の学生は「差別の認識はなかった」という証言が残っていることを発表しました。

日本の学生
「(本では)中国人と朝鮮人という民族によって差別はしておらず、五族共和の精神を守っていたと認識していることがわかります。」

韓国の学生
「日本の教科書では、満州開拓当時の不幸な話が事実そのままに載っているのですか?」

日本の学生
「日本人が(満州に)行ってどういうふうに変わったのかは載っているんですが、受け入れた中国側の人々についてはあまり載っていなくて…。」

3つの国の学生たちは来月(7月)、中国東北部をともに訪れて、お互いの国の歴史への理解を深めたいと考えています。

日本の学生
「同じことを発表しているが、国によってぜんぜん考え方が違う。」

日本の学生
「思った以上に日本に対して、戦争責任を重く向こうの学生達は考えているというのを感じた。」

日本の学生
「どんどんこれから交流をなるべく密にしていって、わかり合うことで、やっとちょっとずつこういう難しい問題も解決していくのかなと思う。」

“歴史認識” 声明が問いかけるものは

阿部
「歴史認識の問題は重い課題ですが、異なる立場を尊重しながら、私たち一人一人が歴史について考え、少しずつその溝を埋めていくことが大切だと感じます。」