タイトルは、「日本の歴史家を支持する声明」。
戦後70年の日本の歩みが世界の祝福を受けるには、いわゆる従軍慰安婦などの歴史認識問題が妨げになっていると指摘。
その上で…。
“この(慰安婦)問題は、日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました。
元『慰安婦』の被害者としての苦しみが、その国の民族主義的な目的のために利用されるとすれば、それは問題の国際的解決をより難しくするのみならず、被害者自身の尊厳をさらに侮辱することにもなります。
しかし同時に、彼女たちの身に起こったことを否定したり、過小なものとして無視したりすることも、また受け入れることはできません。
過去の過ちについて可能な限り全体的で、でき得る限り偏見なき清算を、この時代の成果として共に残そうではありませんか”
この声明の呼びかけ人の1人、アメリカ・コネティカット大学のアレクシス・ダデン教授です。
歴史認識をめぐる政治的な対立が、歴史の検証を妨げているのではないかと懸念を抱いたことが、きっかけだといいます。
コネティカット大学 アレクシス・ダデン教授
「私たちが歴史問題と向き合っているのは、将来のためだと信じています。
私たちは20世紀の歴史を正確に記録に残す必要があります。
21世紀に過去の暴力を繰り返さないためです。」
この声明の作成に関わった1人、ハーバード大学のアンドルー・ゴードン教授です。
アメリカでの日本史研究の第一人者で、去年(2014年)9月から日本に滞在し、研究や講義を行っています。
ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「私たちが重要だと考えたのは、歴史評価における偏狭なナショナリズムや言論に対する制限が、日本だけの問題ではないということです。
そのことを声明の中に適切な形で盛り込むことが重要だと思いました。
その点もしっかり声明に盛り込まれたと考えています。」
声明に賛同した研究者たちの間には今、日中韓の3か国で、異なる立場の意見を認めない雰囲気が広がっているという危惧があります。
たとえば日本では、ヘイトスピーチなど在日韓国・朝鮮人に対する差別的な言動。
韓国では、「20万人の少女が日本軍に強制連行された」という認識は実態とは異なると主張した大学教授が大きな反発を受け、裁判所が本の出版を差し止める決定を下しました。
ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「攻撃されることなく自由な発言ができるかという点で、今の雰囲気は過去に比べて制限されていると感じます。
こうした現実を指摘することによって、歴史家同士が自由な気持ちで議論できる土俵を作りたいと思いました。」
長年、ゴードン教授と親交がある研究者、五百旗頭真(いおきべ・まこと)さんです。
防衛大学校の前の校長で、今回の声明を評価しています。
五百旗頭真さん
「戦争の過去についての自己批判、反省をして、いまの普遍的価値をもって処すべきという議論ですね。」
ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「そう聞くと極めてうれしいですね。
私たちも(声明を)人に読んでほしいし、反発よりは考えていただきたかった。」
今回の声明に賛同できないという研究者もいます。
その1人、現代史家の秦郁彦(はた・いくひこ)さんです。
慰安婦について、「日本の官憲による組織的な強制連行はなかった」という立場です。
秦さんは、声明が慰安婦の数について「永久に正確な数字が確定されることはない」などと表現していることに、違和感があるといいます。
現代史家 秦郁彦さん
「誰も(慰安婦の数を)計算をしようとする人もいない。
ここまでは言えるとか、そういうことをやってみようというのではなくて、(数が)永久に分からないと放り出してしまうのはどうかと思う。
(歴史家は)あくまでも事実を忠実に再現していく。」
さらに秦さんは、声明には政治的な思惑もあるのではないかと推測しています。
現代史家 秦郁彦さん
「臆測すれば、安倍首相が8月に談話を出すといわれている。
それを意識しての呼びかけなのでは。
歴史家としての任務を放置して、そういう政治的策動に巻き込まれるのは避けるべきだと思う。」
ゴードン教授は、今回の声明が過去の歴史と向き合うきっかけになってくれればいいと考えています。
ハーバード大学 アンドルー・ゴードン教授
「私の希望は、多くの日本人の学者や歴史研究家・市民に話し合ってもらうことです。
我々の役割は一部に過ぎません。
日本政府などの当事国同士が何らかの声明を出すことで、未来志向でありながら過去を率直に見つめ、東アジアの可能性が実るような道を見いだすことを願っています。」