「イスラム国」(ISIL)と称する組織が日本人を人質にとってビデオ映像を公開した事件で、東京新聞は1月21日付朝刊で「ビデオ映像 加工・合成の疑い 『影不自然』『ピントずれ』専門家指摘」と見出しをつけ、政府関係者や映像編集者などによるコメントを報じた。共同通信が配信し、毎日新聞などにも掲載された。記事には、映像編集者の田巻源太氏による「太陽光では原則こうした影はできない」というコメントが引用されていたが、田巻氏は共同通信の取材に対し、太陽光の下でもこうした影ができる場合があると説明していた。田巻氏の抗議を受け、共同通信が訂正に応じ、東京新聞などの27日付朝刊に訂正記事が掲載された。
東京新聞2015年1月21日付朝刊27面 ※毎日新聞同日付朝刊3面や他の地方紙にも掲載あり。
東京新聞2015年1月27日付朝刊30面 ※毎日新聞同日付朝刊3面にも訂正記事あり。
田巻源太氏が取材を受けた経緯(ブログより一部抜粋)
1月20日の午後20:00ごろに、知人の紹介ということで、共同通信社の記者さんからお電話をいただきました。
後藤健二さん、湯川遥菜さんとみられる人物を、「イスラム国」が拘束し、日本政府に身代金を要求しているというYouTube映像に関して、合成の疑いがあるが、映像制作に携わる人間としてどう見られるか?という趣旨の問いでした。・・・(中略)・・・
自分としては、「確かに、影の方向が左右の二人で違うのは違和感がある。横から光が当たってたとしたら、変だ。ただ、衣服の揺れが違うのは、風向きだけじゃなく、障害物もある可能性もあるし、そんなに気にはならない。広角目のレンズで撮ったにしては、フォーカスがやけにかっちりしてるし、背景もボケとる。もしかしたら、書き割り(背景を巨大な写真や、絵を用意してその前で撮るやつ)かもしれないけど。ただ、地面の影を見ると、ちゃんと影が岩の形に沿って落ちているので、少なくとも地面は本物っぽい。総合して考えると、遠景と空は合成(というかスタジオ?)である可能性を否定できないけど、三人は同じ場所にいるのを撮ってるとは思う。」と答え、その後、21:07ごろに再度お電話をいただき、記事化された文章を聞かせてもらいました。
その時点で、「太陽光でこの影の出方はあり得ない」という文章になっており、「いやいや、そんなことないんです。太陽光でも、カメラの後方に光源があって、そこそこ広角目で撮ったら、ああなるんで、外で普通に撮ったことはパッと見否定できないです。」と伝えたところ、「そうなんですか、そこも書いておかなければいけませんね」という返答で、この日は終わりました。
共同通信社さん配信の報道に関して。(映像屋のざれごと 2015/1/23) ※太字、改行編集は引用者。
- 共同通信社さん配信の報道に関して 続報(映像屋のざれごと 2015/1/27)
問題の人質映像は20日、動画投稿サイト「YouTube」に公開された。映像には、オレンジ色の服を着た後藤健二さんと湯川遥菜さんの影が逆を向いているように写っていた。共同通信は21日付記事で、こうした映像の状況から、政府関係者が「合成の可能性」を指摘したことを伝えた上で、「太陽光では原則こうした影はできない」という田巻氏のコメントを引用。それに続いて、田巻氏が、室内で撮影すればありえる映像であることや、「2人を別々に撮影したとまでは断定できない」と述べたことも記していたが、太陽光の下で2人が同時に撮影された可能性については「影」の不自然さを理由に否定したかのような印象を与える記事になっていた。
この記事に対し、田巻氏は21日、自身のフェイスブックで取材時と異なる趣旨のコメントが掲載されたと指摘。23日にはブログで取材経緯の詳細を明らかにした。それによると、最初の取材では「確かに、影の方向が左右の二人で違うのは違和感がある」と述べる一方、地面の影などを総合すると「3人は同じ場所にいるのを撮っていると思う」とコメント。2度目の取材で、太陽光でもカメラ後方に光源があり、広角レンズで撮った場合は、映像のような影ができるとコメントしていたと説明した。
田巻氏が共同通信社に記事の訂正・謝罪や経緯の説明を求めたところ、26日、同社の責任者が謝罪に訪れ、編集の過程で書き変わり、田巻氏への確認を怠ったことによるミスだったと説明し、訂正を出すと表明したという。
日本報道検証機構も田巻氏に事実関係を確認した上で、25日、共同通信社に見解を求めていた。同社からは27日、「コメントをいただいた方と協議の上、既に訂正記事を配信する措置を取りました」との回答があった。
- (初稿:2015年1月27日 17:56)