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[東急電鉄]伝統の大卒新人教育――全寮制と現場修業で大きく成長

2013年07月01日 公開

哲学のある人づくり 〔レポート〕

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年7・8月号 Vol.12
【特集・哲学ある人づくり】より

沿線のブランドイメージが高く、現在はとくに東京・渋谷の再開発で注目を集めている東急電鉄。大卒新入社員の全寮制教育が伝統である。寮内で研修教育を受ける一方、さまざまな現場において、立派な“東急人”となるべく修業を積む。同社の研修担当者と若手社員への取材をもとに、その定評ある新人育成法をレポートする。
<取材・構成:川上恒雄(本誌編集部)/写真:永井浩>

 

コミュニケーション活発
寮生活は楽しい!

 閑静な住宅街が広がり、多摩美術大学のキャンパスや五島美術館のある、東京都世田谷区の上野毛。東急大井町線沿線のその落ち着いたエリアに、東京急行電鉄(以下、「東急電鉄」と表記)の「上野毛慎独寮」は建っている。大卒新入社員(大学院卒含む、総合職)が全員、1年間の生活を送る寮だ。ここ数年は毎年、40名前後の新人が入寮しているという。

 こうした大卒新入社員の全寮制を採用している企業はほかにもみられ、東急電鉄に固有のことではない。しかし同社の場合、寮内にセミナールームを完備して、実際の職場での研修とも併せ、1年間びっしりと体系的な教育を実施している。同社のような大手でここまでやっている企業は珍しいのではないか。「少なくとも首都圏の鉄道会社では、当社だけだと思います」と、経営管理室人材開発部キャリア開発課の朝倉敦子課長は言う。東急電鉄の新入社員教育に対する力の入れようの大きさが伝わってくる。

 さて、同社の大卒新入社員は、入寮すると、2人で共有の相部屋に住む。筆者はこのことを知って、素朴な疑問が浮かんだ。いくら同社の全寮制教育が立派だとはいえ、小さいころから1人部屋を与えられている温室育ちの若者が多い昨今、寮生活を1年間、しかも相部屋で送りたいと積極的に思っている人はどれだけいるのだろうか。

 実際、昨年度に入社したばかりの五十嵐真理さん(都市開発事業本部ビル事業部渋谷ヒカリエ運営部)は、「『全寮制』と最初聞いたとき、とても驚きました」と語る。しかも驚いたのは当人だけではなかったようで、入社後、他社に就職した同期の知人らから「どこに住んでいるの?」との質問に「寮に住んでいる」と答えるたび、「たいへんだね」ということばが返ってきたという。しかし、現実の寮生活は、「とても楽しかった」。ルームメイトとはもちろん、違う部屋の女性とも仲よくなり、集まってはおしゃべりに興じたそうだ。

 五十嵐さんの「寮は楽しい」という感想に対し、コミュニケーションの活発な女性同士だからこそ共同生活が楽しいのであって、男性の感想は異なるのではないか、とみる向きもあるだろう。そこで、2008(平成20)年入社の百瀬拓史さん(社長室広報部広報課)にきいた。

 すると、「学生時代まで実家暮らしだったので、一人暮らしをしてみたかった。結果的には(寮では1人でなく)2人部屋でしたが、入社前から早く入寮したいとワクワクしていました」との返答。入寮後もその期待を裏切らず、五十嵐さん同様、ルームメイトにも恵まれ、「いびきがちょっとうるさかったですが……」「(就寝時間の異なる)夜勤のときに起こされましたが……」といったこと以外は、休日に新人同士でいろいろな所に出かけたりして、寮生活をエンジョイしたそうだ。また、ルームメイトのいびきも、夜勤のときに起こされたことも、「今となっては楽しい思い出」だという。

 朝倉課長によると、慎独寮では年に数回「部屋替え」をする。「いろいろなキャラクターの人と腹を割った関係性をつくれるよう、意図的にシャッフルしています」とのこと。仕事というのは多くの場合、1人だけでなく、さまざまな人間関係の中で協同して進めるものだ。とくに東急電鉄の場合、他部門やグループ他社との連携が非常に重要になることから、どんなタイプの人とも仕事をやっていける社会性を、若いときから養うようにしているのだろう。
   

伝統の「木曜講座」
経営層との交流も

 楽しい寮生活とは対照的に、寮の名前はいかにも厳格な「慎独寮」。五十嵐さんのように、寮生活の実際を知らない知人から「たいへんだね」と言われてしまうのも分かる。しかし、この寮名にはきちんとした由来がある。

 慎独寮は、戦前に東急電鉄を大企業に築き上げ、五島美術館の設立も構想した、かの五島慶太の私財によって建てられた。その目的は、五島が平素から心がけていた「慎独」の理念にもとづく社員の人間修養。「慎独」とは、中国古典の『中庸』にある「君子ハ其ノ独ヲ慎ム」からきており、「他人の目がない自分一人のときでも、行いを慎み雑念が起こらないようにすること」である。つまり、自己を律することのできる人になるよう、その精神鍛錬の場として寮が設けられたのだ。この寮設立の精神は今にいたるまで受け継がれ、寮名として残っている。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。以下、「ホテルでシーツ替え 駅では清掃の日々」「本配属先はバラバラでも同期の結束は固く」などの内容が続き、最後に、東急電鉄・大卒新入社員教育の方針について、取締役経営管理室長の髙橋和夫氏へのインタビューを掲載しています。
記事全文につきましては、下記本誌をご覧ください。(WEB編集担当)

 


<掲載誌紹介>

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年7・8月号 Vol.12

<読みどころ>
 7・8月号の特集は「哲学ある人づくり」。

「企業は人なり」というとおり、企業が発展するも衰退するも人材次第、ということに疑問をはさむ余地はない。とはいえ、その人材とはどんな人材のことをいうのだろうか。単にビジネススキルの優秀さのみを指すわけではなかろう。
 本特集では、長年人づくりに情熱を傾け、独自の人材育成哲学を持つ注目のリーダーの取り組みと、こだわりの教育システムを確立している企業の事例を取り上げた。

 そのほか、松下幸之助のそばに28年間仕え薫陶を受けた、PHP研究所客員の岩井虔による講演録や、「代々初代」の心持ちで経営をする兵庫県・新宮運送の理念継承の事例も、読みどころ。
 また、朝倉千恵子氏による人気連載・最終回も、ぜひお読みいただきたい。

☆おしらせ☆ 当サイトの『PHPビジネスレビュー』紹介ページで、最新号の特集に掲載された全ての記事の冒頭部分をお読みいただけます。ぜひご覧ください。

 

 

BN

 

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