――オーブ代表カガリ・ユラ・アスハ氏が明後日に行われる講和協議会に参加するために本日来国しました。同氏は、戦後復興の技術提携を提唱しており、協議の内容にはそれも含まれる模様です。


 窓の外の光景は眺めながら、キラは室内に流れるニュースを聞いていた。
 緑が広がっている穏やかな日常。
「すぐに呼んできますので、少々お待ちください」
「ええ、お願いしますわ」
 柔らかな応対の後、扉が開いて閉まる音がした。
「キラ」
 呼ばれて、キラはゆっくりと振り返った。
「……ここに来て良かったの?」
 静かに尋ねられて、ラクスはきょとんと瞬いた。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ……。協議の準備に忙しいでしょ?」
 キラの問いに、ラクスは微笑んだ。
「だからこそ、今日ここに来たのですわ」
 あの戦いから、数ヶ月。
 状況は目まぐるしく変わり、多くの仲間たちの立場も変わっていた。
 それは、キラとラクスも例外ではない。
 世界を争いへと裏側から先導していた『ロゴス』は力を失い、そして、その『ロゴス』さえも利用していたデュランダル議長もいなくなった。
 それにより、世界は今や指針を失った状態にある。
 大きな勢力を持っていた各国も中枢部が弱体化し、クーデターやテロが続く地域もあるという。
 逸早く、落ち着きを取り戻したオーブは自国の復興と各国との接触や協力体制を作ることに共に、プラントとも講和を進めるために力を尽くしている。
 その代表であるカガリはもちろん、オーブ軍所属となったアークエンジェルも各地の混乱を鎮めるために奔走している。
 だが、どんなに忙しくても、キラはここに来なければならなかった。
 それはラクスも同じ思いだったのだろうと気付き、キラはかすかに笑みを口元に浮かべて頷いた。
「そうだった……約束だものね」
「ええ」
 そして、再び、扉が開かれる。
 扉の向こうから現われたのは一人の女性に連れられた少年だった。
「さあ……」
 女性に促され、戸惑いながら少年がキラたちの前に進み出る。
 キラは屈み込んで視線の位置を合わせた。
「こんにちは」
 にこりと笑いかけると、少年は安心したように笑顔を浮かべた。
「こんにちは」
「僕はキラ。君は――」
 キラの言いたいことがすぐに分かったのだろう、少年は自ら名乗った。


「ガヴィ」


 その瞬間、キラとラクスは息を呑んだ。
「僕はガヴェイン・グラディスだよ、キラお兄ちゃん」
 無邪気に告げる幼い子どもの言葉に、キラの手が震えた。
 そっとラクスの手がキラの肩に触れる。
 そして、微笑を浮かべながら、ラクスも屈み込んで、ガヴィと名乗った少年に視線を合わせた。
「こんにちは、ガヴィ。わたくしはラクスといいます。貴方に大切な言葉を伝えるために、わたくしたちは来ました」
「大切な、ことば?」
 ゆっくりと表情を綻ばせ、キラは頷いた。
「うん、君のお母さんから――」
「ママ?」
 そして、キラとラクスは微笑みかけた。


「そう、大切な言葉を」

――どこにいても、愛している。貴方が幸せであることを願っている。

「そして、約束を守るために」

――あの子の生きる世界を戦いに満ちたものにしないで。















 僕たちは生きていく。



「あ、ネコ……!」
「ああ、ステラ! まだ走っちゃダメだよ!」
「……ダメ?」
「っ!」


 明日が見えなくても。


「……それ以上、ステラに近付いたら――――撃つ」
「どーでもいーけど何で俺たちがコソコソしなきゃなんねー訳?」
「黙れ、アウル」
「……ああ、もう、このステラバカ……」


 何が待ち受けていたとしても。


「ふっふっふっ……ようやく完成だ!」
「……何やってんですか、隊長」
「ん? どうだ、君も飲むかね、俺の新作ブレンド」
「謹んでご遠慮申し上げます」


 信じるものは確かに在るから。


「……お前、ちゃんと寝てるのか?」
「久々に会って開口一番のセリフがそれか」
「飯も食っているんだろうな? 顔色悪いぞ?」
「カガリは元気そうだな」
「もちろん、三食きっちり食べているからな!」


 想いは確かに繋がっていくから。


「前々から聞こうと思っていたのだけれど」
「ん〜?」
「その仮面……誰の趣味?」
「あれ、カッコよくない?」
「……私の前ではつけないでくれると嬉しいわ」


 カタチとなることはなくても、それは心に。


「そう、睨むな」
「へー、じゃあ、レイ、悪いコトしたと思ってるんだ?」
「……幽閉されるのは好きじゃない」
「絶対安静の身の上をだってことを忘れる人間には妥当でしょ」
「それで、お前が見張りか……」


 その痛みも、嘆きも、優しさも、喜びも。


「明日だっけ、包帯取れるの」
「ええ」
「じゃあ、私はようやく『ミーア』に会えるのね」
「……ラクス様のように綺麗じゃないですよ?」
「あら、友だちに、そんなの関係ないわよ?」


 世界はすべてを受け止めて。


「だあああっ、もうダメだ――っ!」
「もうっ、今度は何ですか、艦長?」
「……私は艦長に向いていないんだ!」
「それって、今更だと思うんですけど〜」


 変わるものと変わらないものを抱いて。


「あの阿呆はドコだ――っ!!」
「ああ? それってどっちのことだよ?」
「キラ・ヤマトだ!」
「そーいや、ラクスも今日は見かけてねぇな」
「!?」


 未来へと繋げていく。


「ねぇ、ラクス」


「キラ?」


 人と人の出会い、それは世界の繋がりだ。
 言葉を交わし、思いを伝えて。
 そうして、世界は広がり、形作られていく。


「今、僕は心から思うよ」


 世界は終わらない。


「君に会えて良かった」


 どんなに愚かな過ちを犯しても。
 いつか、犯した罪を贖う時が来るのだとしても。

 それでも。


「キラ」


 僕たちは。


「ありがとう、ラクス」


 生きていくんだ――この世界で。


「君を好きになれて、愛することができて、僕は幸せだよ」












連鎖世界
―終―





後記


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