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「ネオジェネシスが墜ちる……」 ぽつりと呟いたタリアは、次の瞬間、我に返ってデュランダルを見やった。 デュランダルは小さく笑っていた。 「さすが、だ。やはり、君たちは何よりも先に排除しておくべきだったよ。下手な欲など出さずにね……」 自嘲の笑みはすぐに消えた。 「君たちは、この世界がどれほど愚かか分かっているはずだ。特に、キラ・ヤマトくん、君はそれをよく知っているはずだ」 名指しされ、キラは唇を噛み締めた。 「何が、言いたいんですか」 「愚かな人間がいるから、争いが終わらない。ならば、いっそのこと思い切って淘汰してしまえばいいと思わないかね?」 「淘汰?」 「そう、争うことの愚かさを知る、真に優れた者だけならば、世界に戦争は起こりはしない」 「その選別を貴方がしようというのか!!」 キラの怒号に、デュランダルは穏やかな笑みで受け止めた。 「罪ならば、あえて受け入れる覚悟はあるよ。この私も、また愚者であることには違いないのだから」 「!?」 睨み付けてくるキラの紫色の瞳を見つめ、デュランダルはくすりと笑った。 「かつて、私はコロニーL4『メンデル』にいたんだよ」 その言葉の意味するものに気付いて、ラクスはタリアを見やる。 その視線を受け、タリアは小さく頷いた。 「貴方は、まさか……」 「君たち姉弟は、博士より母親似だね」 「!!」 息を呑むキラに、デュランダルは続けた。 「君という存在を作るために、一体、どれだけの犠牲があったかと知っているかい?」 「……」 「私の友人もまた、その犠牲の一人だったよ」 悼むようにデュランダルは双眸を細める。 「人の業、などと言ってしまえば、それだけのことだ。だが、実際、その犠牲となった者にしてみれば、君という存在は許されない」 タリアの側で身動ぐ気配がして、息を呑んで見やれば、意識を取り戻したらしいレイがゆっくりと身を起こすところだった。 「レイ」 気遣いながら、ルナマリアが支えるように手を伸ばす。 「……ギル」 しかし、掠れた声は壇上で語るデュランダルの耳には届かない。 「だが、犠牲となった身だからこそ、罪を犯したからこそ、その愚かさは分かる。哀れなことだ、君もまた犠牲者には違いないのだから」 「っ!」 銃を握るキラの手が震えた。 だが、次の瞬間、ラクスの手がキラのもう片方の手に触れ、その感触にキラは強張りを解いた。 そして、一度、瞳を閉じ、鋭くデュランダルを見据えた。 「……人を勝手に『犠牲者』にしないで下さい」 強い否定に、デュランダルは軽く目を瞠った。 「ほう?」 「確かに、僕は一度絶望した。僕という存在がどうやって生まれたのか知って、何故生まれたのか分からなくて」 ――あってはならない存在だというのに! ――知れば誰もが望むだろう!! 君のようになりたいとッ! ――君のようでありたいと! ゆえに許されない! ――君という存在は!! 記憶の奥底から叫ぶ『絶望の声』に、そして、デュランダルの言葉に、キラは反駁する。 「でも、それでも、僕は生きていたい。生きていいって、言ってくれる人がいるから、僕は希望を見つけたから」 キラは静かに微笑んだ。 「僕は、貴方に哀まれるほど不幸じゃないですよ。だって、そうでしょ? 大切な人を見つけて、想って想われて、一緒にいられるんだ。不幸であるはずがない!」 キラの心からの叫びに、デュランダルは怯んだ。 「っ!!」 「ギルバード……」 タリアの小さな呼びかけに、我に返り、デュランダルは拳を握る。 ――子どもが、欲しいの。だから、私。 「貴方が愚かだと不要だと言った人たちも、同じだ。皆、誰かにとっての大切な人なんだ。貴方に決め付けられる謂れはない!」 「……そうやって、甘いことを言うから争いがなくならない!」 「それは貴方の方ではないのですか」 断ち切るようなデュランダルの一言に、突き刺すようなラクスの鋭い声が返す。 「人は変われない、愚かさを学べない、わたくしには貴方がそう諦めて楽な途を選んでいらっしゃるようにしか見えません」 「!」 息を呑むデュランダルを静かに見上げ、ラクスは続けた。 「人は確かに愚かです。平和を望みながら、武器を手にし、他者を傷つける。それしか大切なものを守れないのだと自身でさえ苛みながら世界を哀しみに満たしていく」 「ラクス……」 気遣うような小さな呼びかけに、ラクスは一瞬柔らかな眼差しをキラに向け、そして、再び、デュランダルを見据えた。 「それでも、わたくしたちは気付きました。それが、始まりですわ、デュランダル議長」 無駄に終わると分かっていても、制止の声を上げたカガリ。 それが始まりだった――かの少女の、最初の一歩。 「一つの時代で、すべてを変えようとするのは大きな過ちです。急激な変化に人の心は追いつかない」 それほど、人の心の在り様は容易くはないのだ。 長い間、人が求めながら得ることのできなかった『平和』は、時間をかけて作り上げていくしかない。 「ラクス・クライン……っ」 「何度も、わたくしたち人間は間違うのでしょう。それでも、わたくしたちの思いは、願いは引き継がれ、少しずつ世界に広がっていく」 それは小さな一滴によって波紋が広がっていくように。 「繰り返される過ちを許すことはできませんか、デュランダル議長?」 ふわりと微笑みを浮かべ、ラクスは手を伸ばした。 「人の、わたくしたちの未来を信じることは?」 ずるりとデュランダルは無意識のうちに後ずさっていた。 「今までの悲劇も、これから起こる悲劇も、わたくしは背負う覚悟があります」 ラクスの言葉に、キラもまた言葉を添える。 「それを最小限にするためになら、僕は戦える、そのための力なら揮える」 互いに手を繋ぎ、片方は銃を、片方は誘いの手を向ける二人の姿に、タリアは言葉にできない感情が全身に広がっていくのを感じた。 「一人ではないから」 「一緒にいてくれる人がいるから」 それは、時として家族で、仲間で、そして、愛する者で。 「どうか、デュランダル議長、貴方もまた世界を思い、行く末を憂えるのであれば、共に『希望』を繋ぐために戦っていただけませんか?」 その真摯な声を聞き、デュランダルはおもむろに双眸を閉じた。 「それが、君たちの『答え』か……」 小さく呟き、デュランダルはまっすぐに、怯むことなく見つめてくるキラとラクスを見やった。 「ギル」 荒い息に混じった声に、ゆっくりと首を巡らし、蒼ざめたレイに双眸を曇らせた。 「ギル……彼らの、言葉を」 それだけで何を言いたいのか察したのか、デュランダルはそっと嘆息した。 「……なるほど、確かに」 穏やかな声音に不穏なものを感じ、全員が表情を強張らせた。 「君たちのような者がいれば、人は容易く惑う……!!」 その瞬間、デュランダルは隠し持っていた銃を引き抜き、ラクスに向けた。 「議長!!」 「ギル……!」 「ギルバート!!」 その瞬間、管制室に、渇いた音が響き渡った。 |
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