連鎖世界





 だが、次の瞬間、ラクスはふわりと花が綻ぶように微笑んだ。


「いいえ、『まだ』ですわ」


 その瞬間、連続した破裂音が響き、レイの銃が弾き飛ばされる。
「な!?」
 咄嗟に応戦しようとしたザフト兵たちもまた次々と撃ち抜かれ、倒れていく。
「くそ!」
 舌打ちし、一人のザフト兵が銃口をラクスに向ける。
「ラクス様!」
 それに気付いたルナマリアが前に出て、引き鉄を引く。
 だが、ルナマリアの銃弾は周囲の機器に当たるだけでザフト兵には当たらない。
「っ!」
 弾かれた際の痛みに顔を顰めていたレイは不意に顔を上げた。


「ルナマリア!!」


 咄嗟に、レイの体が動いていた。
「レイ!?」
 突き倒されたルナマリアは自身に覆い被さってきたレイの体に驚愕の声を上げた。
 思わずレイの肩を掴み、そして、ぬるりとした生暖かい感触に蒼白になる。
「レイ!! ルナマリア!!」
 デュランダルに向けていた銃口をタリアは動かし、続けて引き鉄を引こうとするザフト兵に向けて撃つ。
 ザフト兵はタリアが放った銃弾に倒れた。
 やがて、静寂が戻る。
「レイ! レイ!?」
 上半身を起こし、ずるりと滑り落ちていく少年の体を支えるようにルナマリアは手を伸ばした。
「落ち着きなさい、ルナマリア!」
 駆け寄ったタリアが素早くレイの怪我を確認する。
「艦長……」
「銃弾は貫通しているわ、とりあえず、止血を」
「は、はい……」
 震えながら頷く少女に、タリアは唇を噛み締め、壇上の男を見やった。
「ギルバート……」
 だが、タリアの呼び声に、デュランダルは反応しなかった。
 その眼差しは、タリアたちでもなく、また激しい銃撃戦の中でも怯むことなく立っていたラクスでもない――その先に向けられていた。
(何を、見て)



「「ダブルチェック」」



 重なる二つの声。
 少女と少年の、毅然とした宣言に、タリアは振り返っていた。


「キラ・ヤマト……」


 デュランダルの呟きに応じるように、硬質の足音を立てながらキラはラクスの隣に立った。
 その手には銃が握られ、銃口は迷いもなくデュランダルに向けられていた。
「そうか、君が撃ったのか」
「僕は撃てないと思っていましたか?」
 キラの問いに、デュランダルは苦笑した。
「いや、そうだな。君は『戦士』だ、『敵』を倒す力を持っている」
 その言葉に、キラの表情が歪む。
「止めて下さい、キラはキラです」
 デュランダルの言葉を突き返すような凛とした声音に、キラは息を呑んだ。
「キラの力は守るためのもの、優しさから育まれたものですわ」
 そして、ゆっくりとラクスは右腕を指し示すように広げた。
「決して、誰かの命を、その未来を奪うものではありません」
 キラの銃弾に倒れたザフト兵たちは、皆、痛みに呻いているものの息があった。
(まさか、あれだけの人数を全員!?)
 驚愕に言葉を失うタリアの先で、ラクスは続けた。
「ギルバート・デュランダル議長、貴方の目的は何ですか? 淘汰される不要なものとは何ですか」
 デュランダルは薄く笑みを浮かべた。
「説明しても構わないが、そんな余裕はあるのかね? ネオジェネシスのことを忘れてはいないかな?」
 しかし、ラクスとキラはちらりと視線を交え、頷き合う。
 そして、二人はデュランダルをまっすぐに見つめた。


「先ほど、わたくしたちは申し上げたはずですわ」

「ダブルチェック、と」


 モニターに映っていたネオジェネシスの前に、二機のモビルスーツがいつの間にか現われていた。
 砲台を彷彿させる強化武装ミーティアを纏った赤い機体――インフィニットジャスティス。
 そして、虚空に広がる光の翼を有し、巨大な剣を構えているのはデュランダルも関与したデスティニーだ。
 ミーティアから無数のミサイルが放たれ、ネオジェネシスに降り注ぎ、デスティニーのビームブーメランがその中心部に向かって駆ける。
 それだけではない。
 いつの間にか、再び虚空に戻っていたミネルバと地球連合の戦艦ガーティ・ルーまでがジェネシスに向けて、それぞれの主砲を放つ。
 次いで生じる爆発に、ネオジェネシスは破壊の光を散らし、瓦解していく。
「バカな……メサイアの防衛システムは」
 デュランダルの疑問に対する回答はすぐに返ってきた。
「意外に脆かったですよ、ここのブロックは」
「!?」
 デュランダルの眼差しに、キラは小さく微笑んだ。
「僕は、僕たちは独りで戦っている訳じゃないんです。助けてくれる人たちがいる、その人たちの力がどれほどのものか僕たちは知っているから、貴方の前に立っていられる」




「全く、良いようにやってくれるよ、アイツは」
 どこで知ったのか、ガーティ・ルーの持つミラージュ・コロイドで、メサイアへ接近してくれと告げた少年の顔を思い出し、ネオは軽く肩を竦めた。


『一度はできたんですから、やれますよね?』
『いや、しかし』
『不可能を可能にしてくれますよね、ネオ・ロアノーク大佐?』


 ニッコリと凄みのある笑顔を思い出し、ネオはわざとらしく震えた。
(ありゃあ、かなり切羽詰っていたな)
 昔の純朴だった頃の少年を思い浮かべ、ネオは溜め息を吐く。
「大佐?」
 訝しげなイアンの呼びかけに、ネオは我に返って首を振る。
「ああ、何でもない。さっさと、アレを壊して、スティングたちを迎えに行くぞ」




「対象の熱源反応激減、エネルギー集束率が落ちていきます!」
 メイリンの報告に、心持ち引きつり気味にアーサーが頷き、口を開いた。
「よ、よぉーしっ、このまま、一気に破壊するぞ!」
 震えを帯びている声音に、メイリンはちらりとアーサーを見やり、溜め息を吐いた。
 突然、連絡を取ってきたキラはタリアの不在と、そして残した命令を知り、さらりと告げた。


『分かりました。では、皆さんは、アスランたちと協力してジェネシスを破壊して下さい』
『ええっ!? な、何で!?』
『ジェネシスの起動を確認しました。照準は、先ほどまで僕たちがいたところ……その先に侵攻してくる地球連合軍を議長は撃つつもりです』
『!?』
『議長は何があっても戦争を続けたいようですね』
『そ、そんな』
『地球連合軍はカガリが、ザフト軍はイザークたち――ボルテールが説得を試みているはずです。撃たせる訳にはいかない』


 真摯な眼差しに願われて、アーサーは断れなかった。
(副長より年下、のはずだよね……)
 結局は受けるにしても、もっとしっかり応対できなかったものか。
(艦長、絶対戻ってきて下さいね!)
 メイリンは強く祈り、自身の役目に全うするため意識を集中した。











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