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「周辺宙域に、エターナルとミネルバ及びレジェンドを確認、ミネルバとレジェンドからは入港許可要請が来ていますがいかがしましょう」 メサイアの中心部、その管制室にある自身の席に着くや否や、入ってきた報告にデュランダルはわずかに眉を上げた。 (タリアとレイ、か……) 「許可しよう。エターナルの方はどうだ?」 「特に何も……。こちらから仕掛けますか?」 敵と認識されているエターナルに対する対応を求められ、デュランダルはしばし考えた。 あの艦にはラクス・クラインがいる。 墜としたいのは山々だが、『あの』ラクス・クラインが何の策もなしに正面から現われるだろうか。 (何か、あると考えるべきか) 「いや、こちらから無為に仕掛ける必要はない。ただし、周辺の監視は強化してくれ。他からの襲撃が考えられる」 「は!」 「ミネルバの入港を許可します。誘導に従って、5番ゲートより入港して下さい」 メサイアからの返答に、アーサーは思わず安堵の吐息を吐いていた。 次いで、敵ではないのに、危機感を抱いた自分に彼は首を傾げた。 だが、その疑問はタリアの発言にすぐさま消し飛んだ。 「アーサー、悪いけれど後は頼んでいいかしら」 突然の言葉に、アーサーは驚いて上官を見やった。 「艦長?」 タリアは艦長席を立ちながら続けた。 「私はこれからデュランダル議長に面会してくるわ」 ふわりと艦橋を浮遊して艦橋を出ようとするタリアをアーサーは視線で追った。 「艦長、何を」 「状況がどう転ぶか分からない。貴方の判断で、この艦を守りなさい」 「私の判断って……艦長はどうするんですか!」 アーサーの問いに、タリアは軽く肩を竦めた。 「それはあっちの出方次第ね」 そして、常と変わらぬ冷静な声でタリアは続けた。 「いざとなったら、私のことは考えなくていいわ」 「艦長!?」 動揺の声を上げて呼び止めるアーサーを無視して、タリアは艦橋から姿を消す。 思わず、呆然となるアーサーを不安そうな眼差しでメイリンは見つめた。 気付けば、他のクルーも同様の視線を注いでいる。 「……っ!」 無言の重圧にアーサーは強張った笑みで振り返った。 「か、艦長も困ったものだな〜」 渇いた笑いが空しく艦橋に響き渡る。 今、この窮地を救ってくれる人間がいたら一生感謝するだろう。 アーサーの願いは、その数秒後、意外な人物によって叶えられた。 ミネルバを降りたタリアは先導を申し出たザフト兵に連れられて管制室に足を踏み入れていた。 「やあ、グラディス艦長。メサイアへようこそ」 落ち着いた微笑を投げかける相手に、タリアは心の中で舌打ちをする。 (白々しい) 一段高い場所にいる彼の元へと歩きながら、タリアはその表情を伺った。 すでにデュランダルはタリアが自分の意向に反する意志を見せていることに気付いているはずだ。 にも関わらず、その態度は変わらない。 (昔から、貴方はそうだったわね……) 子どもが欲しいと言って、別れを切り出した時も。 変わらない穏やかさに、冷淡なのかと思ったが、そうではないことを今のタリアは知っている。 「一言、言っておいて欲しかったものですわ」 「ん? 何がだね?」 「何の断りもなく、本艦を離れられては困ります」 率直な言葉に、デュランダルは静かに笑った。 「それは悪いことをした」 (全く思っていないくせに) 飄々と言ってのける辺り、『タヌキ』と評した自身の判断はやはり間違いではないとタリアは確信を抱く。 いつもなら、このまま食い下がる所だが、今回はそうはいかない。 「それで、これからどうなさるつもりです?」 その瞬間、デュランダルの双眸がかすかに細められた。 「どう、とは?」 小さく溜め息を吐き、タリアは再び口を開いた。 「では、質問を変えます。こちらに来て、何をするつもりですか」 タリアの追及に、デュランダルは落ち着き払った深みのある声音で答えた。 「決まっているだろう。私はプラントを守るために、ここに来た。地球連合の、あの恐るべき兵器は破壊せねばならない」 真摯な声はそれだけで聞く者を強く惹きつける力があった。 デュランダルの言っていることは正しいのだろう。 確かに、あの兵器――デストロイの砲口をプラントに向けさせる訳にはいかないのだから。 タリアの脳裏に、ベルリンの凄惨な光景が蘇った。 「このメサイアにはそれに足る力がある。使うべき時を私は見誤って失いたくないのだよ――大切なものを」 理解を求める毅然な眼差しを振り払うように、タリアは首を横に振った。 だが、彼女にできたのはそれだけだった。 告げるべき言葉が見つからない。 彼の言っていること、していることに矛盾はないのだ。 ただ、違和感が残るだけで。 しかし、それこそが一番の問題なのだ。 ザフトの軍人だからと、自身を納得させることはできる。 実際、タリアは今までそうして来たのだ。 そうして、確かに好感を抱いたマリュー・ラミアスとも敵対し、砲火を交え、オーブにもその矛先を向けた。 (でも、それを私は) 止めると決めたのだ。 ザフトの軍人である前に、彼女は人間なのだから。 助けてもらえば、感謝し、また助けたいと思う、ただの。 「タリア?」 そっと囁くような呼びかけに、タリアは拳を握り締めた。 個人的な感情は命取りだと分かっていて、見限ることができない。 それが、もはや罪悪感なのか、それとも全く違うのか判断できないまま、タリアは言葉を探した。 このまま、時間だけが無為に費やされるのかとタリアが歯噛みしたい気分に襲われた瞬間だった。 「それは無用な心配ですわ」 澄んだ声音が管制室に響き渡った。 「っ!?」 思わず、振り返った先に立っていた少女にタリアは絶句した。 「デストロイは、プラントに至る前に破壊されるでしょう」 タリアほどではないにしても、『彼女』の登場はデュランダルにしても想定外だったのだったろう。 「君は……」 小さな呟きは紛れもない驚愕の色を帯びていた。 陣羽織姿の勇ましくも可憐な姿。 結い上げた薄紅の髪は静かなる決意の証のようで、ふわりと揺れる赤いリボンが鮮やかに印象的に視界に残る。 管制室にいたすべての人間の注目を浴びて、尚、怯むことなく、少女は悠然と微笑みを浮かべた。 「初めまして、ですわね。ギルバート・デュランダル議長。わたくしはラクス・クラインですわ。ようやく、お会いすることができました」 にこりと微笑んで挨拶する少女の死角でザフト兵がゆっくりと携帯していた銃に手を伸ばそうとした瞬間だった。 弾けるような破裂音がザフト兵の足元で炸裂する。 「!」 我に返って、タリアは視線を動かす。 「妙な真似はしないで下さいね」 緊張を帯びながらも笑みを浮かべたパイロットスーツ姿の少女に、タリアは思わず声を洩らしていた。 「ルナマリア……!」 銃を構えて牽制し、ラクスを護衛するような位置に立つ少女に、デュランダルは軽く眉を上げた。 「君は確か、ミネルバの」 デュランダルの眼差しに、ルナマリアの体が更に緊張を帯びるのが気配で分かった。 「わたくしがお願いして連れて来てもらいましたの。エターナルの入港は許可していただけないと思いまして」 「これはこれは、意外なことを。君が来ると知っていれば喜んで迎えたものを」 その言葉に、ラクスはくすりと微笑み返した。 「銃口の歓迎はご遠慮申し上げますわ」 「……」 「何分、わたくしは『貴方のラクス・クライン』ではありませんので」 その瞬間、沈黙が生まれる。 徐々に満ちていく緊張感に、タリアとルナマリアは動くことができなかった。 肌を突き刺すような空気の中で、不意にデュランダルは溜め息を吐いた。 「やれやれ、救国の歌姫にはすべてお見通しか」 「あら、お互い様ですわ」 さらりと受け流すラクスに、デュランダルの双眸に剣呑な光が過ぎる。 「ならば、こうなることも予測のうちだろうか」 次の瞬間、デュランダルの周囲に配置されていた画像パネルに光が走り、一つの映像を結ぶ。 それを見た瞬間、ラクスたちは顔色を変えた。 円錐状の装置に光の粒子が収束していく。 「ジェネシス……!」 「ギルバート、貴方!!」 ラクスとタリアの驚愕の声に、ゆっくりとデュランダルは口元に笑みを馳せた。 「新たなる世界のために、不要なものを淘汰するには『戦争』はとても有効なのだよ」 唇を噛み締め、ラクスは蒼い双眸を鋭く細めた。 「ネオジェネシスの光は、その始まりだ」 ――光、あれ。 天地創造の際、神がそう告げたように。 「貴方は神にでもなるおつもりですか」 ラクスに憤りに満ちた声に、デュランダルは答えなかった。 「ギルバート!!」 次の瞬間、タリアは懐に隠し持っていた銃口をデュランダルに向けた。 だが、タリアの指先は動かなかった。 「グラディス艦長!」 ラクスの声と同時に、タリアは背に硬い感触を覚えて硬直した。 小さな円形……銃口だ。 「レイ」 「レイ!?」 デュランダルとルナマリアの声が、タリアには自身の背後にいる存在を知らしめた。 「その銃を降ろしてください、艦長」 感情を廃したような声は年齢よりも幾分も落ち着いた印象。 「レイ……貴方、何を」 意識をデュランダルとレイ、双方に傾けながらタリアは銃を握る手に力を込めた。 「ギルは、誰にも傷つけさせない」 小さな呟きが答えだった。 デュランダルは薄く笑み、そのまま厳しい表情のラクスを見やった。 「チェックメイト、かな?」 |
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