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「隊長、オレンジシグマ22、レッド9に艦影、ミネルバです!」 その報告に、かつて『砂漠の虎』と呼ばれた隻眼の男は器用に片眉を上げた。 「思ったより追いつくのが遅かったな」 「致し方ありません。ミネルバも最新鋭の艦です、機動力も並ではないのでしょう」 後方より届いた可憐な声に、彼は振り返った。 毅然と前を見据える薄紅の少女は険しい眼差しを虚空に注いでいた。 「更に前方に、ザフトの移動要塞メサイアです!」 続く報告に、彼は再び視線を正面モニターにやる。 「拡大映像を出せるか」 そして、映し出されたのは人工の円環を持つ巨大な岩塊だった。 その至るところから内部にある施設と思わしき一部が突出している。 「バルトフェルド隊長」 「ん?」 「あれは何だと思われますか」 「あれ?」 訝しげに呟き、改めて移動要塞を見やったバルトフェルドは、次の瞬間、顔色を変えた。 「ラクス、あれは」 驚愕と剣呑を宿した声に、ラクスはゆっくりと双眸を細めた。 「やはり、貴方の目にも『そう』見えますか」 鏡面にも似た内部、円錐状のそれは、二年前、見たものと酷似していた。 「……ジェネシス」 ぽつりと呟いたバルトフェルドに、ダコスタは驚愕の面持ちで振り仰いだ。 「隊長!」 ガンマ砲――ジェネシス。 二年前のヤキン・ドゥーエの戦いで、それは地球連合の大半を消滅させ、月面にあった基地も抹消した。 今、徐々に距離を詰めていく移動要塞には、そのジェネシスを彷彿させるものを有していた。 「結局のところ、どっちもどっちってことか」 理不尽な大儀名分を掲げ、核を撃ち放った地球連合と、そして、プラントも。 「……持ち得た力を自ら捨て去るのは、とても勇気の要ることですから」 さらりと庇うような発言をするラクスに、バルトフェルドは意外そうな眼差しを注いだ。 その視線を気付いているのかいないのか、ラクスは全く変化なく続けた。 「ですが、それは愚行と言うべきでしょう。変化を求めるなら恐れていては始まらない」 「ラクス」 「それがどんなに難しいことであろうとも、諦めては終わりなのですから」 軽く瞳を伏せ、そして、ラクスは穏やかだが、鋭さを秘めた声で告げた。 「ミネルバと回線を繋いで下さい」 バルトフェルドはすぐさま無言で指示を下した。 数秒間の空白を置いて、正面モニターの横に、タリアの姿が映し出された。 「グラディス艦長、デュランダル議長は?」 ラクスの問いに、タリアは表情を強張らせた。 「たった今、メサイアにシャトルが入港したのを確認したわ。そのシャトルの認識コードは本艦所属のものだった」 その言葉が意味するのはただ一つ。 ミネルバを脱したギルバート・デュランダルがメサイアに入ったのだ。 「……危険ですわね」 「っ!」 唇を噛み締めるタリアを冷静に見つめ、ラクスは問いかけた。 「『彼』はあれを使うと思いますか?」 「……そこまで愚かではないと信じたいところね。でも」 無意識のうちに、タリアは拳を握り締めていた。 「彼なら、やりかねない」 『彼』の最終目的は定かではないが、それに至るまでの必要なものとして、ザフトとプラントの衝突を望んでいるのは間違いないのだ。 ユニウスセブンの人為的落下を発端とする一連の事件、そのすべてが地球とプラントの確執を深めていった。 デュランダルは何も知らぬ、そんな素振りで自身とプラントの正当性を主張してきた。 だが、その内面をわずかなりとも知っているタリアは他の人間のように素直に受け入れていなかった。 『彼』という人間がデストロイという起爆剤が使えぬとなれば、『ジェネシス』を投じることを考えないはずがない。 「そうですか」 すでに予測していたのだろう。 ラクスの声音に動じた様子はなかった。 「では、何としても『彼』に会う必要がありますわね」 柳眉をひそめて見つめるタリアに、ラクスはにこりと微笑みかけた。 「一度はお話しなくてはならないと思っていました」 「何を」 タリアが警戒しながら問いかけようとした瞬間だった。 「艦長!」 うろたえたメイリンの叫びに、タリアは弾かれたように顔を向けた。 次の瞬間、メサイアに向かって駆ける機影がモニターを横切った。 「何!?」 「あれは、レジェンドです!」 オペレーターの報告に、タリアは息を呑んだ。 「うええぇ!? レジェンドって、誰が!?」 アーサーの驚愕が艦橋に響き渡り、タリアは唇を噛み締めた。 「……レイ」 ぽつりと呟いたタリアに、アーサーが勢いよく顔を向けた。 「レイが乗っているんですか!?」 「……恐らくね」 そして、タリアはメイリンに肩越しに見やった。 「レジェンドとの交信は?」 「やってみます!」 目指す先に、『彼』がいる。 その事実に、操縦桿の握る手に力が入った。 不意に、モニターの片隅に通信画像が開く。 「レイ、何をしているの!」 厳しい顔つきのタリアに一瞥を与え、通信を切ると、次いで視界の片隅に移った戦艦ミネルバとエターナルの姿にレイは唇を噛み締めた。 (ラクス・クライン……) ――やはり、彼女の扱いが一番の問題だな。 ――彼女? ――ラクス・クラインだよ。白のクィーン、と言うべきかな。 人工の陽光を受けて弾く硝子の駒を見つめ、彼は呟いた。 ――新たなる『世界』を、彼女が受け入れるかどうか……。 ――何故? ――さて? どれほど聡明であろうとも、現実を知らぬ幼い子どもだからかもしれない。 その微笑みは、揺るがない大きさを持って「仕方ないな」と語っていた。 ――願わくば、理解してもらいたいものだ。そうでなければ、私も彼女もとても不本意な結果になるだろう。 その表情の意味するものをレイは知っていた。 (ギルの邪魔をする者は……!) 不意に、蘇ってきた決意と感情に突き動かされ、レイは照準をエターナルに向ける。 だが、次の瞬間、それを阻むように正面に滑り込んできた機体に、レイは硬直した。 見覚えのある、それは。 (インパルス……シン!?) 咄嗟に、パイロットだった少年の顔がレイの脳裏に閃く。 だが、次いで、耳に飛び込んできたのは高く澄んだ声だった。 「何やってんよ、レイ!!」 「ルナマリア……?」 「さっさと、その砲口を降ろしなさい!」 レイの困惑など知らぬ様子で居丈高に告げるのは姉として生まれたせいだろうか。 緩々と降りていく砲口に、ルナマリアはホッと表情を緩めた。 「何故、お前がその機体に?」 「残っていたのがこれだからよ。それが何?」 「……いや」 言葉を濁すレイに、ルナマリアは眉根を寄せた。 「何よ、私じゃ乗りこなせないとでも言いたい訳?」 勝気な彼女らしい発言に、思わず、レイは苦笑していた。 「いや……おかげで頭が冷えた」 ぽつりと呟き、レイは再びメサイアへと意識を向けた。 「ちょ、レイ!?」 慌てて追おうとしたルナマリアの手元に通信が入ったことを知らせる点灯が灯る。 「もうっ、何なの!?」 苛立ちながら回線を開いた数秒後、ルナマリアは驚きの声を上げていた。 |
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