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「これでどうだ!?」 にやりと不敵に笑うカガリに、キラは一瞬呆けた。 「何で」 その間の抜けた顔に、カガリはくすぐったそうに笑った。 「お姉サマをバカにするなよ? ラクスとはお前よりずっと仲良しなんだぞ」 場にそぐわぬ茶化すような言い回しに、キラは内心憮然となりながら呟く。 (『より』って、どういう意味かな、全く……) 不意に、カガリは笑みを消した。 「お前が、誰でもないお前が自分の意志で使うって決めたんだ。だから、私は信じるんだ。しくじるなよ?」 不意に見せたカガリの祈るような真摯な眼差しに、キラはかすかに笑んだ。 「分かったよ……」 次の瞬間、キラは表情を引き締めた。 操縦桿を握る手に力が篭もる。 二度目の陽電子砲によって、絶対の『盾』は今や、漆黒のそれへと転じていた。 虚空の闇とは一線を隔した、空間の歪みによる異変は視界よりも手のひらにより感じることができた。 キラの手を弾かんばかりに返ってくる反動はオリハルコンの展開にかかる負荷だ。 それが、時が迫ってきているのを如実に伝えていた。 今、気を緩めれば、オリハルコンは消失してしまう。 次の機会を待つ時間は残されていない。 (…………るか) 傷つきながらも戦って、その末にある未来は。 嘆きながら、捜し求めてきた希望の在り処は。 すべての想いと命の、その意味を。 「なくして、たまるか――――ッ!!」 その瞬間、キラの叫びに応じるように、ストライクフリーダムの翼が広がった。 光の粒子を纏い、虚空の闇を押しやる翼から光の欠片が飛び立ち、『破壊者』へと向かう。 それは、二年前、浜辺で見た降り注ぐ流星のようだった。 人の嘆き、愚かさに泣いて堕ちる、数多の星。 だが、今、虚空を駆け抜ける流星は、人の想い、可能性を乗せて、同じ人の傲慢と罪の証たる『力』を射ぬかんとしていた。 絶対の『盾』は矢の如く降り注ぐ星光を受け入れた。 一瞬の静寂。 それは、永遠にも等しく長いようにも感じられた。 「!?」 誰かが何かを言うより先に、絶対の『盾』は突如として、その性質を変えた。 虚無の牙が光を喰らい、『破壊者』に喰らいつく。 それは、まるで、失敗を塗りつぶすような呆気なさでデストロイの半身が消えた――否、呑み込まれたのだ、虚無の顎に。 「……ブラックホール?」 呆然としたアスランの呟きに、シンは間抜けな声を上げた。 「はあああ!? ブラックホールって、あのブラックホール!?」 「そうとしか考えられない」 計器の数値と、周囲の変化を見て取り、重々しくアスランは答えた。 「艦長、これは……」 「ええ、これがオリハルコンのもう一つの姿よ」 絶対の『盾』に対する、『剣』。 あらゆるすべてを無へと帰す、虚無の『剣』だ。 揮う者の次第では、敵も味方もなく滅ぼすそれは、マリューたちが見ている前でデストロイを喰らい尽くそうとしていた。 「これは、また、とんでもないものを隠していたもんだ……」 呆れを装ったネオの声は常の軽口とは比べ物にならない畏怖が含まれていた。 エネルギー転換で発生する一時的な重力磁場。 その重力磁場を圧縮崩壊させることによって、人為的に虚無の穴を発生させる。 すべてを呑みこむ虚無を前にして、いかなる力も無意味だ。 「大佐」 強張ったイアンの声に、ネオはおどけるように小さく笑った。 「な? だから、言ったろ? 下がっておいて正解だ」 「こりゃ、驚いたな……」 「何を暢気にほざいている!? 一歩間違えば、大惨事だぞ!?」 血相を変えて叫ぶイザークに、ディアッカは軽く肩を竦めた。 「まぁな」 事前に連絡があった通り、デストロイをポイントまで追いやった後、即座に離脱しなければ、こちらまで巻き込まれていただろう。 一見、緩やかに見える侵食だが、それは対象があまりにも巨大すぎるせいでしかない。 モビルスーツの一機や二機、逃げることもできず呑み込まれて終わりだ。 「だから、尚のこと、キラで良かったじゃん」 「!」 息を呑むイザークを画面越しに見やり、ディアッカは笑いかけた。 「アイツなら平気だろ?」 一方的な利益や正義で、不用意に他者を傷つけたりしない。 そういうキラだから、畏怖に相当する力を目の当たりにしても必要以上危機感を抱いていない。 「……どういう根拠だ、それは」 むすりと呟くイザークの声にそれほどの棘がないことに気付いて、ディアッカは苦笑した。 「ミリアリアさん……!」 説明を求める呼びかけに、ミリアリアは視線をモニターの虚無に注ぎながら、ミリアリアはかぶりを振った。 「分からない……でも」 無意識のうちに、ミリアリアは手を握り締めていた。 「きっと、これで終わる」 その確信に満ちた声音に、ミーアはただ、息を呑んでミリアリアを見つめ、そして、再びモニターを食い入るように見やった。 「何だぁ、あれ……?」 水色の瞳を丸くして凝視して尋ねてくるアウルに、スティングは舌打ちした。 「俺が知るかよ」 投げやりに答えて、スティングは睨むように翼を広げたモビルスーツを睨み付けた。 「アイツに聞けよ、やったのはアイツだろ」 「何珍しいじゃん、素っ気無ーい」 自分たちの中で一番『強さ』に拘っているスティングがさらりと流すのは珍しい。 「うるせぇよ、バカ」 言いながら、スティングはじとりと額に浮いた汗に顔をしかめた。 これはもう『強さ』どうのこうの言うレベルじゃない。 「ふーん?」 軽く首を傾げるアウルの瞳が、ふと見開かれる。 「あ、消えた」 人のいかなる思いも、罪も嘆きも、傲慢で愚かな力も、そして、光さえも飲み込む虚無の穴は『破壊者』を逃がさなかった。 次々と生じる爆発の煌きさえも瞬く間に消え、崩れ落ちる巨体の破片もまた虚無へと帰っていく。 それでも、『破壊者』はその名に操られるように、最後の時まで、破滅の光を放っていた。 だが、それさえも、間近に在る虚無に吸い上げられ、何の意味もなさない。 崩壊の音はなかった。 否、あったのか知れない。 だが、それを聞く者は誰もいなかった。 その末路まで見届けた彼らの誰も。 終息は呆気ないほど、突然訪れた。 まるで自らの役目を果たしたことを知っていたかのように、虚無はその大きさを縮小し、虚空に散るように、または溶けるようにして消えた。 「……終わった?」 カガリの呟きに、静かな声で返したのはキラだった。 「いや、まだだよ」 その瞬間、全員が息を呑んで我に返った。 「まだ、終わりじゃない」 「キラ」 アスランの呼びかけに、キラはしっかりと頷いた。 「まだ、僕たちの『戦い』はこれからだ」 |
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