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七機のモビルスーツがデストロイを翻弄する最中、アークエンジェルとガーティ・ルーがその死角に入り込む。 「射線上、確保!」 「エネルギー充填率、90パーセント!」 「「ローエングリン照準!!」」 マリューとイアンの声が重なり、アークエンジェルと、ガーティ・ルーの巨大な砲口に光の粒子が集束していく。 「「ってぇ――!!」」 圧倒的な熱量に晒され、デストロイはリフレクターに守られながらも、その巨体を後退せざるえない。 その姿をモニターに収めながら、キラはひたすらコンソールキーを打ち込んでいた。 (座標軸設定、誤差規定値、展開距離範囲固定、空間歪曲率……) 目まぐるしく流れていく数字と文字の羅列を瞬時で読み取り、次々と打ち込んで、必要なデータを割り出していく。 「キラ!!」 アスランの強い呼びかけに、キラは我に返った。 デストロイの砲口がストライクフリーダムを捕捉している。 溢れ出る光、それは破壊の矢。 連なるようにして虚空を駆け、触れるデブリを呑み込んで、それらはキラの視界を鮮やかに染め上げようと迫った。 次の瞬間、キラの裡で何かが弾ける。 解放される五感。 迫り繰る破壊の光が震わす空間の余韻さえ分かるような感覚。 自身の呼吸も、どくどくと打つ鼓動も聴こえる。 足先から指先までの神経が際立ち、視界に入ってない部分まで別の感覚が補い、『世界』をキラに伝える。 自らのいう個が解放され、すべてが溶け合い、合一されるような感覚の中、意識だけが冴えていた。 その瞬間、キラがレバーを引き、ペダルを踏む込む。 間近を駆け抜けていく光条の軌跡が消えるより早く、ストライクフリーダムの全砲門が立ち上がる。 狙う先は、光条の源――デストロイの円周部に残っていた砲口だ。 鮮やかな色の光が、まるで吸い込まれるように消えていく。 次いで、生じる爆発に、デストロイは揺れ落ちた。 (今だ!) その瞬間、デストロイの動きが止まる。 「何だ!?」 突然の異変に、イザークが戸惑う。 「光の、壁……!?」 ディアッカの呟きの通り、デストロイは二つの淡く輝く光の障壁に挟み込まれていた。 デストロイが沈黙した訳ではない証に、残っていた砲口から絶えることなく砲火の輝きが迸っている。 だが、光の障壁は消えることなく、留まり続け、その威力を受け止めていた。 「オリハルコン展開を確認!」 オペレーターの報告に、マリューはすぐに応じた。 「この宙域から一時離脱、通信弾打て!!」 キラのしようとしていることは、デストロイを誘導したポイントで凡そ予測はついている。 「アスラン君たちにも退くように言って! 下手をすると巻き込まれるわよ!」 続いて、センサーを見ていたクルーが叫ぶ。 「デストロイ周囲に、微量の重力磁場発生!」 「!」 (始まった……!) 「磁場の変動に注意して! それから、『起点』に備えてローエングリンのエネルギー再充填を開始!」 そうしているうちに光の壁に無数の黒点が生じていく。 通信弾を見て、アークエンジェルの周囲へと移動しながら、アスランとシンはモニターに映る光の壁と黒点を注視した。 「何が起こって……」 「キラさん?」 シンの問いに、キラは答えることができなかった。 「……っ!」 まるで見えない力が機体を押し潰そうとしているような感覚。 オリハルコンの展開は、核エネルギーという無尽蔵の主力源がなければ作動しないほどのシステムだ。 だが、それでも、使用できるのは通常の『絶対の盾』としてのそれ。 今、キラが仕掛けている『剣』としての側面は、本来、禁じ手というべき代物なのだ。 『自由』と冠する機体を器として宿る、核と言う力は、その力を必要とするオリハルコンに注ぐために活性化し、膨張して、器そのものを破壊せんと荒ぶる。 (後、少し……!) オリハルコンの、その絶対的防御の理由はその攻撃そのもののエネルギー転換にある。 いかなる攻撃に対しての中和現象を引き起こすことができるのだ。 中和――対消滅によって生じるエネルギーはエネルギー保存の法則によって、一時的に重力磁場を転換され、その後の余波や衝撃さえ遮断する。 その重力磁場は原子核を持たないがゆえに、すぐに消えてしまうのだが、今、キラは全く同じ位置にオリハルコンを展開することによって封じ込めていた。 黒点は宇宙空間が歪んでいく証だ。 よく見れば、気付いただろう、黒点が生じる箇所がデストロイの砲火を集中的に浴びていることに。 黒点意外にも淡い光は緩やかに黒く、何かに浸食されていくように変化していく。 ステラというパイロットを失っても、沈黙しないデストロイだが、厄介なのはリフレクターと数多に存在する火器だ。 その攻撃スタイルは規則性がある。 時間さえかければ、確実に火器を破壊し、徐々に削ぎ落としていくことができただろう――それを成すキラたちの戦力が持続すれば。 だが、時間もなければ、投入し続ける戦力もない。 危険があっても、もはや、これしかない。 だが。 (リフレクターのエネルギー出力が思ったより低い) 計算違いだ。 これをどうやって、訂正するか。 次の瞬間、キラは通信回線を開いていた。 「マリューさん、ローエングリンをオリハルコンに!!」 状況を固唾を呑んで見守っていたマリューは弾かれたように問いを放つ。 「充填は!?」 「まだ30パーセントです!」 その返答は、キラの耳にも届いていた。 (ダメだ、足りない) だが、その瞬間、力強い声が割り込む。 「任せろ、キラ」 「カガリさん……?」 マリューは艦橋に入ってくるなり、通信士から通信機を奪い取った金髪の少女に驚きを込めて見やった。 次の瞬間、あらぬ方向から、陽電子砲の光が虚空を射るように閃き、オリハルコンに衝突する。 「な!?」 驚愕の面持ちで、すべての人間が見やった先には一隻のナスカ級戦艦――『ボルテール』とオーブの戦艦。 放った砲火の余韻と思わしき燐光を纏うオーブの戦艦の主砲は、紛れもなく、ローエングリンのそれ。 「いいんですか、撃って……」 艦橋の一席に座り、蒼白で震えながら見ていたミーアは縋るように上方の席にいるミリアリアを見つめた。 「いいんじゃない? やれって言ったんだもの、カガリが」 答えるミリアリアの顔もかすかに強張っている。 『ローエングリンは撃てるか!?』 突然、何の説明もなく、音声の通信で問い質してきたカガリの声に艦橋は一瞬動揺した。 雑音交じりの通信は、艦橋からではなく、移動しながらのものだったのだろう。 訳分からないまま、是と答えると、カガリは一切の躊躇いもなく、撃てと叫んだ。 何の説明もない、ただの一言。 だが、それはどこまでも力強く、明確に導く者のそれとして貫き、行動を促した。 「ここまで来たら、信じるだけよ」 想いを等しく、同じ未来を求める者として――。 |
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