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「やれやれ、どうしたものかな、これは」 呆れが滲んだ呟きが思わず、彼の口から零れた。 眼前のモニターに繰り広げられる戦闘は壮絶の一言に尽きた。 地球連合軍、最大の切り札――歪んだ世界を正すために『破壊者』の異称を冠したモビルスーツ。 立ち向かうのは数多の戦場を駆け、不沈艦の名を欲しいままにする『大天使』と『永遠』。 そして、伝説とまで謳われる機体――『自由』と……『運命』――果たして、どんな意図を込めて名づけれたものか。 「援護しなくて良いのですか?」 生真面目さを伺わせるイアンの言葉に、彼はちらりと見た。 「どっちの?」 「は……?」 戸惑うイアンに、彼は再びモニターに視線を戻した。 「上はすでにマトモじゃない。……まあ、最初からマトモとは言い難かったがな」 何があったのか知らないが、彼らの方針を定めていた盟主の精神は完全に使い物になっていない。 そして、その更に上にあった連中に至っては、自らの保身を確保するのに必死だ。 それが徒労に終わるであろうことは、今までの結果と情報が物語っているにも関わらず。 つまるところ、『向こう』が、一枚も二枚も上手だった、ということだけだ。 「ネオ!」 不意に入った通信に、彼は視線を落とした。 「何、グズグズしてんだよ」 「俺たちの出番はまだなのか」 すでにいつでも出撃できる状態の二人の少年に、彼はかすかに笑った。 『戦うこと』――それが、『彼ら』の存在意義だ。 それ以外のことは何も教えられてないし、彼自身も教えていない。 (だが) 脳裏に過ぎった少女の面影に、ネオは視線を『破壊者』に向けた。 変化は人知れず、現れていた。 恐らくは、少女自身、自覚のないままに。 唐突に、『破壊者』の動きに異変が生じる。 「何だ?」 ネオの呟きに、艦橋のクルーが応える。 「『デストロイ』のコックピットとの回線が途絶! 生命反応の消失が確認!」 「「なっ!!」」 その瞬間、少年たちの顔色が変わった。 「どういうことだ、ネオ!」 「アレにはステラが乗っているじゃなかったのかよ!?」 ステラは自身の勝手な判断により、奪取した『ガイア』をザフトに奪い返された。 彼女自身は取り戻すことができたが、その失態を補うことを強いられ、この艦から連れて行かれていた。 その後、密やかに掴んだ情報で『破壊者』のパイロット――否、生体CPUとして組み込まれたことを二人は知っていた。 『損失』として処理された少女を取り戻したのは、彼らだった――少女に纏わる記憶を『削除』したにも関わらず。 それほどに、彼らの『過去』は根強く、三人を結び付けている。 どうやって宥めたものかと思いを巡らせば、『破壊者』から離れるモビルスーツにネオは軽く息を呑んだ。 「おやおや……」 「ネオ!? 人の話聞いてんのかよ!」 「聞こえているさ」 さらりと答え、ネオは続けた。 「ステラなら、大丈夫だ。あの『エースくん』が助けたようだ。囚われのお姫様を見事王子様が救出、といったところかな」 相変わらず、緊迫感のない調子で嘯くネオにイアンが呼び咎めた。 「大佐」 ステラが『破壊者』から離れたことで、その制御は失われた。 圧倒的火力を前にしても、怯むどころか、一層に苛烈に攻撃を展開する二隻の様子に、じわじわと迫ってくる自軍の『切り札』の不利が感じられた。 その上。 「オレンジ20、マーク7、『ミネルバ』です!」 この戦争の発端から、知らぬ仲ではない『戦女神』の登場に、ネオは仮面の下で眉をひそめた。 「我々はどうしますか?」 「んー」 とんとんと軽くアームレストを指先で叩き、ネオは考え込む。 元々、ネオたちは地球連合軍から逸脱した存在だ。 地球連合というより、その影にある『ブルーコスモス』もしくは『ロゴス』の意志によって動いてきた。 だが、今の彼らはそれどころではない。 「……連合側としては援護するのが筋かもしれんが」 一瞬、脳裏に過ぎった面影にネオは苦笑した。 向けられた銃口。 炎に照らし出された驚愕の顔。 爆発の音に紛れて聞こえなかった呟きが、唇の形を通して、何だったのか、ネオは知っている。 撃つべきだったのだ、あの時。 (君は。……そして、この俺も) だが、現実は違った。 だからこそ、今、ここで、ネオは行動を決めかねている。 『敵』か『味方』か。 引かれなかった引き鉄が、その境界を曖昧にさせていた。 次の瞬間、ネオは閃くように貫いた感覚に顔を上げた。 モニターに映る戦場。 虚空を疾駆するフリーダムが視界に過ぎり、その銃口が動く。 「っ!!」 咄嗟に、ネオは叫んでいた。 「来る!!」 「!」 驚愕に息を呑んだのは一瞬。 瞬時に我に返ったイアンが鋭く命じる。 「最大戦速!! 回避――ッ!!」 特殊部隊の名は伊達ではない。 『ガーティ・ルー』のクルーは艦長であるイアンを含め、選りすぐりの精鋭だ。 イアンの命令に彼らは機敏に反応した。 だが、間に合わない。 ネオが唇を噛み締めた、次の瞬間、艦全体が傾ぎ、虚空を貫く閃光が近距離を走り抜けた。 「!?」 その軌道に、ネオは息を呑んだ。 (わざと外した?) 何が狙いだと思った瞬間、答えはオペレーターの叫びだった。 「艦長! 本艦、『アークエンジェル』に捕捉されました!!」 「!」 回避行動を取った際に、『ガーティ・ルー』を隠蔽していたミラージュ・コロイドは自動的に解除されている。 何故、位置が分かったのか。 そう問うことの愚かさをネオは理解していた。 彼が攻撃を予測できたように、あの『パイロット』もまた同様の感覚を持ち合わせているのだろうと何の疑問もなく思った。 「グリーン21、アルファ33に熱源感知! 戦艦クラス、これは……『ガーティ・ルー』です!!」 チャンドラの報告に、マリューは顔色を変えてモニターを見やった。 「地球連合軍……!」 ノイマンの呟きに、マリューは無意識のうちに唇を噛み締めた。 次の瞬間、通信回線が開く。 「マリューさん!」 「キラくん!」 現れた少年の顔に、マリューは思わず腰を浮かせていた。 キラが『ガーティ・ルー』の存在を認識して、あの一撃を放ったに間違いない。 「あっちとの回線コードを送ります。『あの人』と話を!」 その瞬間、クルーが珍妙な顔をしたが、マリューは構うことなく話を続けた。 「キラくん、何を……!」 「たぶん、これが最後のチャンスです。だから」 「っ!!」 マリューは絶句して、双眸を瞠った。 無意識のうちに両手がアームレストを掴んでいた。 「……もう、誰も死んで欲しくないんです。だから」 「戦うな、と言いたいのね?」 力強い輝きを灯した紫色の瞳が笑みを含んだ。 「はい。だって……戦いたくないですよね?」 緩々とマリューは脱力した。自然と苦笑が浮かんでくる。 「そうね。……分かったわ、話すから」 そして、マリューはまっすぐに見つめているキラに柔らかく微笑んだ。 「ありがとう」 「艦長、大佐! 『アークエンジェル』から通信です!」 思いがけぬ報告に、イアンは驚愕した。 「回線コードは!?」 特殊部隊であることもあり、『ガーティ・ルー』との通信コードは地球連合軍ですら限られた存在しか把握していない。 ましてや、『アークエンジェル』が知っているはずがない。 驚くイアンとは対照的に、ネオは呆れ交じりの溜め息を吐いた。 「相変わらず、規格外の能力だよな……」 「大佐!?」 聞き咎めたイアンを軽く手を振ることで流し、ネオは通信オペレーターに告げた。 「回線、開け」 「宜しいのですか」 問うオペレーターにネオは肩を竦めた。そして、小さく呟く。 「…………いい加減、俺も腹を括るかね」 ややあって、通信回線が繋がられ、モニターに毅然とした女性の姿が映し出された。 「私はアークエンジェル艦長を務める、マリュー・ラミアスです。貴艦の指揮官はどなた?」 ちらりとイアンがネオを見やる。 それに頷き、ネオは口を開いた。 「俺だ」 ゆっくりと褐色の瞳がネオを映し出す。 そうして生まれる漣のような感情に、ネオは一瞬笑んで打ち消した。 「ネオ・ロアノークだ。階級は大佐。お目にかかれて光栄だ、ラミアス艦長」 飄々と嘯くネオに、マリューの双眸がすっと細められた。 「こちらこそ、ロアノーク大佐」 ネオの言葉を受けて立つ彼女に、人知れず、苦笑が浮かびそうになるのをネオは堪えた。 「早速ですが、本題に入らせていただきます。……本艦は貴艦との戦闘を望みません。よって、この宙域からの貴艦の離脱を願います」 「貴殿にそんな権限はないと思うが?」 「ええ、ですから、願うと申し上げています」 命じるのではなく、ただ、願う。 「……こちらの所属はご存知かな?」 「地球連合軍特殊部隊『ファントム・ペイン』。ですが、実態はブルーコスモス及びロゴスの私軍、そう受け止めていますわ」 さらりと答えるマリューに、ネオ以外の人間が息を呑んだ。 「さすが、といったところかな。で?」 「で、とは?」 「そこまで、こちらのことを知っていて、退けと?」 試すような物言いに、マリューは静かに微笑んだ。 「不可能と仰りたい?」 揺るがない眼差しで、マリューは続けた。 「不可能を可能にはできませんか、ロアノーク大佐?」 その問いかけに、ネオは一瞬絶句し、次いで、笑った。 「OK。その挑戦、受けようじゃないか」 |
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