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巨大なモビルスーツの中央からシンの乗る機体が離れるのを目まぐるしく変わる視界の隅で認めたキラは思わず笑みを零した。 だが、目的を果たしたシンの意識がすっかりその手の内に向けられているのに、柳眉がひそめられた。 時として残酷なほどまっすぐな心は、見ている側からとしては危なっかしい。 周囲に対する注意力がないに等しい機体に、絶対の『盾』の守護を与えながら、キラは嘆息した。 コックピットを奪われ、すでに沈黙していてもおかしくない『破壊者』はいまだその猛威を振るっていた。 連合の切り札。 それを駆使するに足る能力を与えられた『エクステンテッド』。 (つまり、『部品』には代用があるってことか) 地球連合軍の『彼ら』に対する扱いは、おぼろげに理解できた。 パイロットである少女が不測の事態で、操縦不能になっても、攻撃システムは動くように、システムプログラムが組み込まれているのだろう。 あれほどの巨大で、多岐に渡る武装だ。 一人の人間が、操作し切れるものではない。補助となるOSが武器管制の大半を制御していると推測できた。 最も、状況判断が伴わない圧倒的火力に拠る攻撃は、数々の戦場と死地を潜り抜けたキラたちにしてみれば、無人であることを含めて戦い易い『敵』だ。 (ザフト軍が来るまでに沈める!) 自らの切り札を過信する地球連合の布陣はまだ遠い。 総力戦になる前に、目の前の『破壊者』を墜とし、ザフト軍を止める。 それが、キラたちの狙いだった。 不意に、キラは貫くような鋭い感覚が走り抜け、次いで警報が鳴った。 警報が鳴るより先に反転していたフリーダムの真横を光の一条が走り抜ける。 「!」 素早く走らせた視線の先には、急速に迫ってくる白いザク――ブレイズザクファントムだ。 的確に砲撃を放つザクに、キラは双眸を細めた。 ザクに遅れる形で、見慣れた戦艦の姿が現れる。 (ミネルバ) キラが気づいたように、その機影を認めたエターナルが転進する。 アークエンジェルに『破壊者』を任せ、自らはミネルバの相手をするつもりなのだと分かった。 (ラクス) 隙間を縫うように襲い来る無数の光条を回避し、突進してくるザクに迫った。 擦れ違う間際、機体を捻るようにスラスターを吹かせ、キラはビームサーベルを抜き払う。 その動きがそのまま鋭い一閃となり、ザクの持つビームライフルが爆破された。 巻き起こる爆煙の中から放たれた無数の誘導ミサイルに、キラは応戦しようと砲身を定めた瞬間だった。 二機の間に、鮮やかな閃光がミサイル群を呑み込んで走り去る。 「っ!?」 そのまま、追撃をしようとしていたザクが機先を制された形になり、制動をかける。 「キラさん、ここは私が!」 そうして、入った通信に、キラはかすかに瞳を細めた。 モニターに映っているのはビーム砲を構えた赤いガナーザクウォーリア。 「ルナマリア……!?」 わずかに動揺を帯びた声が白いザクから零れ届く。 それに耳に留めながら、キラは通信モニターに現れた少女を見やった。 「任せて大丈夫?」 「はい!」 気持ちの良い返事に、思わず、笑みを零し、キラは頷いた。 「うん、じゃあ、任せた」 言うや否や、キラはペダルを踏み込む。 そして、追撃を封じるとばかりに、ブレイズザクファントムに接近すると、鋭い蹴りを放ち、その反動で転進する。 向かう先は知れている。 「っ!!」 対応に遅れたブレイズザクファントムはそのまま、近くの小惑星に激突した。 「……あの人、見かけによらず、やることが派手なのよね」 呆れたように呟き、ルナマリアは自らも小惑星に向かう。 身を起こした白いザクが、弾かれたように攻撃態勢を整えた。 それを見て、ルナマリアはムッと眉をひそめた。 「私はあんたの敵なの? レイ」 相手が息を呑む気配を、何故か感じて、ルナマリアはかすかに笑った。 「……何故、お前がここにいる」 聞き慣れた冷静な声がおかしくして、笑みはそのまま声となる。 「私がいちゃ、おかしい?」 「ルナマリア」 「ねぇ、レイ」 呼びかけに含まれた苛立ちを心地よく思いながら、ルナマリアは口を開いた。 いつだって、冷静沈着だった相手がこんな風に感情を滲ませるなんて、今まであったろうか。 「あんたはあんたでしょ」 「!?」 ルナマリアは静かに双眸を細めて笑みを浮かべる。 「嫌になるくらい優等生で、優秀で、無表情を張り付かせて、口煩くて……」 「ルナマリア」 (あ、怒った) 「でも、ちゃんと人を見てるのが、私の知っているレイ・ザ・バレルだわ。ラウ・ル・クルーゼなんて、私、知らない」 その瞬間、相手が絶句したのが分かった。 思わず、ルナマリアは苦笑した。 知らないと思っていたのだろうか。 何も知らないから、ここにいると思ったのだろうか。 「私を甘く見ないでよね」 アークエンジェルは、そこで戦っている人たちは何も隠さなかった。 知り得たこと、決して、公けにできないことを、シンやルナマリアに教えてくれた。 L4コロニー『メンデル』の秘密。 二年前の戦争の裏側。 そして、今回の……戦争に描かれた思惑を。 何も知らなければ、ただ、自らの正義を信じて戦えただろう。 けれど、シンもルナマリアも知ることを選んだ。 そして、彼らはそれに応えてくれたのだ。 「知ってた? クルーゼ隊長って、案外、人に好かれてなかったみたいよ」 そんな評価を零したのは赤髪の青年士官。 破天荒な上司に振り回されながら、それでも好意を隠そうとしていなかった。 「レイは違うわよ。シンなんか、迷惑そうにしていてもあんたに構ってもらったら嬉しそうだし。私も、結構好きよ、レイのこと」 ふわりと微笑みながら、ルナマリアは不敵な眼差しで白いザクの機体の奥にいて見えない少年を見据えた。 「レイは?」 「!?」 「レイは、私たちのこと、好き? 嫌い? 『敵』として戦って……殺しても全然平気なの?」 「ルナ、マリア」 掠れた声音が戸惑ったように名を呼んだ。 「私たちを『敵』にするかしないか、選ぶのはあんたよ。デュランダル議長なんかじゃない」 「!」 そして、ルナマリアは毅然として声を張り上げた。 「さあ、選びなさい、レイ・ザ・バレル!!」 そうして、示された『答え』に、少女は勝ち誇った笑顔を浮かべた。 |
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