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ただ、名を叫ぶしかなかった。 それだけが彼の唯一の『武器』だった。 「ステラ!!! 俺だ! ステラ!!」 眼前に迫る閃光に殺意が見えた。 「墜ちろ――――っ!!!」 巨大な機体が信じれない動きで、彼――シンが駆る機体に接近する。 ほぼゼロ距離の状態で、彼はその巨体の脇に回り込んだ。 「ステラ、俺は敵じゃない!」 届いてくれと強く願った。 気づいてくれと強く祈った。 シンの脳裏にあれほど憎んだオーブ代表の少女の面影が過ぎった。 『オーブ軍ッ、私の声が聞こえないのか、言葉が分からないのか!? オーブ軍!! 戦闘を止めろッ!!』 彼女も、こんな思いで、あの時、叫んでいたのだろうか。 そうして、続いて浮かんだ凄惨な光景に、シンは唇を噛み締めた。 彼女の言葉は届かなかった。 誰も聞こうとしなかったから。 否、聞こえていたのに、考えようとしなかったから。 誰も――そう、シン自身も。 (違う) 「……俺は、違う!」 同じような結果になんてさせない。 声が届かないまま、失うことなど。 「ステラ!!」 「お前っ、邪魔だ――ッ!!」 次の瞬間、避け切れない軌道で放たれた砲火に、シンが息を呑んだ。 「っ!!」 だが、闇を裂く光は、唐突に出現した光の盾に阻まれる。 「な!?」 「何をしているんだ、シン!!」 我に返ったシンが見たのは流れるような動きで、虚空を駆け、無数に備え付けられた火器のみを的確に撃ち抜く翼を有した機体だった。 間接部分が金色になっている以外は見覚えのあるフォルムにシンはその正体を理解した。 「キラさん!」 「早く、彼女を!」 「っ! 分かってます、でも!」 焦燥が滲むシンの叫びに、キラは唇を引き結んだ。 「……コックピットを狙え」 「なっ!?」 「コックピットごと、引きずり出すんだ!」 無茶苦茶なことを言う。 咄嗟に、そんな言葉が零れそうになるのをシンは堪えた。 代わりに、別の言葉が溢れた。 「そんなの、どうやって、やれって言うんです!?」 叫んでから、シンは自身の不甲斐なさに顔を歪めた。 いつだって、自分は他者に答えを求めてばかりだ。 この戦いが始まってから、ずっと。 主張だけは一人前で、他者が出した答えを、偉そうに批判してきた。 ……批判するだけだった。 問い返されたら、答えらしい答えを導くことさえできないほど幼いことを自覚できていなかった。 だから、こんな時に、どうしたらいいのか分からない。 気持ちばかりが先行して、焦りばかりが募っていく。 「あれの攻撃は僕が一手に引き受ける。君は、彼女を救い出すことに専念すればいい」 「だから、どうやって!」 叫んだ瞬間、警報が鳴り、背後に迫る熱量に気づいた。 だが、シンが回避行動を取るより先に、再び現れた光の『盾』が行く手を阻み、一瞬黒く変じて対消滅する。 「!?」 「こうやって、だよ」 慌てて見やれば、そこには光の粒子を翼に纏うフリーダムの姿があった。 (今の……) キラの、フリーダムのしたことなのだろうか。 シンが疑問を口にするより先にキラが続けた。 「援護はアークエンジェル、エターナルが引き受けてくれる。僕は守りを」 気づけば、アークエンジェルの傍にはピンク色の高速戦艦があり、二艦は絶え間なく、連合の巨大モビルスーツに攻撃を仕掛けていた。 「キラさん」 「大丈夫だから」 穏やかな声音に、シンの焦燥がわずかに収まる。 「君は一人じゃないから」 「俺は、一人じゃない……」 「うん」 モニターに映るキラが静かに微笑した。 それに硬く頷き、シンは強く見据えた。 「でも、貴方は大丈夫なんでしょうね? 借りの作りっぱなしなんて俺はごめんですよ」 憎まれ口を叩くシンに、キラは苦笑を返した。 「平気。……僕だって、死ぬ訳にはいかないんだから」 かすかに細められた双眸に映るものが何なのか、わざわざ問うまでもなかった。 「一つ約束破っているから、これ以上はね」 「は?」 訝しげにシンが見やると、キラは小さく笑った。 「使うなって言われてたんだけどね」 「?」 そして、キラは瞬く間に笑みを消した。 「さあ、早く! ザフト軍が、ミネルバが来る前に彼女を!」 促され、シンは意識を再び『破壊者』の名を冠する機体に向けた。 搭乗しているのは、彼が守ると約束した少女。 一度は繋いだはずの手。 引き剥がされ、それを受け入れてしまった結果がこの現実。 (でも) 「ローエングリン、てぇ――っ!!」 アークエンジェルから撃ち放たれた陽電子砲をリフレクターが受け止めるのが見えた。 戦闘不能にするのが困難である以上、キラの言う通り、無茶であろうと何であろうと、コックピットを引きずり出すしか方法がない。 覚悟を決め、シンはペダルを踏み込んだ。 (もう一度) 接近してくる機体に気づき、ステラが叫ぶ。 「邪魔だ――!!」 全方位から襲い来るミサイル群が瞬時に出現した白き盾に着弾し、すべてを無効化する。 一瞬視線をフリーダムにやれば、伝説とまで言われる強さを誇る機体は色鮮やかな閃光で虚空の闇で軌跡を描き出していた。 華麗に舞うような動きは紙一重で相手の攻撃を回避し、接近しては火力を奪っていく。 その確かな強さに、シンは後押しされるように、『破壊者』の中心に取り付いた。 持てる限りの火力で、周辺の装甲の強度を下げる。 「ステラッ!!」 「お前ッ、お前――ッ!!」 シンを引き剥がそうとバルカン砲の砲身が狙いを定めた。 「ステラ、守るから!!」 「!?」 「今度こそ、ちゃんと! 俺が! 約束したから!!!」 戦争という『生き物』に取り憑かれたような顔つきだった少女の動きがぴたりと止まった。 「まも、る……?」 「守る!! 俺が、君を!!」 「……だ、れ……」 弱った装甲が剥がれる。 剥き出しになっていくコックピットにシンはレバーを操作して手を伸ばした。 背後では絶え間ない爆発と、閃光が続いている。 いつの間にか、シンのいるコックピット周囲には光の壁が生まれていた。 無骨な冷たい手が、コックピットを捕まえた。 「っ!!」 不意に襲い掛かってきた振動に、少女の体が硬直し、左右に振られる。 無防備だったステラは衝撃をそのまま受け、頭部を強く座席の隅にぶつけた。 ヘルメットをしていても、殺し切れなかった衝撃はそのまま彼女の意識を混濁させる。 「ステラ……っ!!」 ふと、かすかに開けた瞳に、ノイズが走るモニターに少年の顔が映った。 (だれ……。……アウル? ……スティング?) おぼろげに浮かんだ名に、ステラはいつも一緒だった二人の少年の姿がどこにもないことに今更気づいた。 (……ネオ……みんな、どこ…?) 「ステラ!!」 (だ、れ……?) ゆっくりと双眸を細め、ステラはモニターに移る少年の顔を確かめようとした。 (わたしを、よぶの……) 「ステラ!」 「…………シン?」 その瞬間、ステラの脳裏で脳裏で閃く光景があった。 『俺が守るから! 君は死なない、死なないから!!』 「シン……っ!!」 虚空に散る閃光に照らし出された少女の顔には小さな花に似た微笑みがあった。 |
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