――北欧の国々を評価していますね。
「北欧が優れているのは再分配の水準が高いからでない。腐敗が少なく効率よく運営されている質の高い政府がある点が重要だ」
「評価の基準になるのは国民全体の利益に沿って偏りなく公的サービスを提供する政治制度が存在するか否か。ここでは3つの要素が必要になる。第1に権力を持ち、使う能力がある国家、第2は国を律して運営するルール、第3が民主的な説明責任だ。10年先、15年先をにらみ持続性の高い予算を毎年きちんと策定できるかどうかは政府の質の指標となる。この基準では米国にはよい政府がない」
――米国で、不満が爆発しないのは不思議です。
「政治制度が社会とあまりにかけ離れた場合、本来は大衆運動などが起きるが、いまの米国では考えにくい。人々の怒りや不満が、各方面に分散しているからだ。民主党は経済格差より同性愛者などへの差別の是正を重視する。むしろ共和党のほうが総じて『小さな政府』で一致しているが、やはり論点は銃規制や堕胎問題などに分散している」
「何を論点と定め、それがどう国民の利益になるのか説得することが偉大な指導者の役割だが、近年の米国はこれを欠いている」
――かつて米国では、1920年代にかけても権力や富の集中が進みましたが是正に成功しました。
「その後のフランクリン・ルーズベルト大統領の強い指導力と大衆運動で政治制度が大きく改革された結果だ。だが、大不況などコストも甚大だった。強い指導者など再現が難しい要素も多い。米国が今後どうなるかは未知数だ」
(聞き手は米州総局編集委員 西村博之)