【ソウル聯合ニュース】人やモノ、文化の往来がますます盛んになる韓日。両国を股に掛ける弁護士がいる。在日韓国人3世の金紀彦(キム・キオン)さん(35)は韓国最大手の法律事務所「キム&チャン」に所属し、精力的に活動する。韓国に来て間もなく2年半。得意の経済分野以外にも興味が生まれ、法律家としての幅を広げている。
栃木県で生まれ育った。両親の教育もあり、物心ついた頃から祖父がやって来たルーツの地、韓国に興味があった。弁護士を志したのは、在日を含めて「誰かの役に立てる仕事がしたかった」から。京都大学法学部卒業後、法科大学院を経て2006年の新司法試験に合格した。
韓国への思いは歳を重ねるごとに強くなった。法科大学院生のころ、在日で初めて日本の弁護士になった故金敬得氏の法律事務所でインターンシップを行い、同氏から在日韓国人の人権問題や権益獲得のために奔走した先輩弁護士の活動を教わった。また在日コリアン弁護士協会(LAZAK)に所属する弁護士との交流も大きな刺激になった。
「韓国を専門的に扱いたいと思うようになったんです」。弁護士になって最初は東京の法律事務所に所属したが、韓国関連のビジネス事案を数多く手がけ、韓国語を話せる弁護士がいることで知られる弁護士法人オルビス(大阪市)に移った。オルビスは韓国留学に送ってくれるとともに、帰国後、東京で韓国に関する仕事をしてはどうかという提案をしてくれた。
金紀彦弁護士=(聯合ニュース)
韓国で最初の9カ月は語学研修が主だったが、法律事務所にも所属し弁護士の仕事を本格的にするようになった。業務はビジネスがメーンでオルビスや自身のクライアントをサポートしている。韓国の企業は日本へ、日本の企業は韓国へ、相互の投資や市場進出が増えている。法律や慣習の違いによるトラブルが発生すれば、間に入って調整する。
韓国の法曹界に日本の法律や判例を伝える役割も担っている。日本の裁判記録や論文のリサーチ依頼を受け、それらを韓国語に翻訳し紹介している。これまで韓国にはなかった判例が訴訟の参考になることもあるという。韓日間の係争はもちろん、韓国企業間同士の訴訟にも日本の判例が影響する。「日本の方が議論や理論がち密。すごく慎重に考えて法や制度を考えているという気がします」と、やりがいを感じている。
逆に、被疑者の権利保障や憲法裁判所があることなどについては韓国の司法の方が進んでいると感じる。韓国の法律の基礎は日本の植民地時代にできたが、臨機応変に素早く変える韓国のスピード感に驚いた。「このダイナミックな時代に、思い切って変えてみるという韓国のやり方は参考になる。変えてみて、駄目なら元に戻せばいいという考えも悪くないですね」と話す。
実際に日本の法曹界は韓国の制度を視察したり、韓国側と意見交換会をしたり、学ぶ姿勢を示している。金さんは両国法曹界の交流を取り持つ役割もしている。
専門は企業のコンプライアンス(法令順守)や知的財産権だが、韓国に来て、思ってもみなかった日本の事件に遭遇したこともあった。韓国人女性が殺害され、一昨年、石川県金沢市で遺体の入ったスーツケースが見つかった事件だ。大韓弁護士協会からの要請で、同事件の裁判で被害者遺族の代理人を務めることになった。韓日を往来し、日本語や日本の法律を知らない遺族をアシストした。
同事件以外にも、韓国で知り合った人からさまざまな声が掛かる。「韓国で暮らし、韓国語を習得すれば、携われる分野が広がると思っていましたが、予想以上です」と手応えを感じている。
大学時代の4年間を費やしたアメリカンフットボールでは韓国代表を務め、定期的に練習に参加している。当初1年の予定だった韓国滞在は大幅に延びた。「年内には帰国しなければと思っています」と話す様子からは、韓国生活の充実ぶりが伝わってくる。「今後はスポーツやエンターテインメント分野の業務にも積極的にかかわっていきたいです」。夢は膨らむ一方だ。(聞き手=張智彦)
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