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社長は税理士! 型破り鉄道模型会社の快進撃

東洋経済オンライン 6月5日(金)4時50分配信

 「ポポンデッタ」という名前を聞いたことはあるだろうか? 全国のショッピングモールなどに、大型の鉄道ジオラマを備えた鉄道模型店を展開する企業だ。現在の店舗数は、鉄道模型の走るカフェを含め全国38カ所、総売上高は約16億7900万円(2013年3月期)と、鉄道模型店として例のない規模を誇る。同社は、17年前に鉄道模型好きの青年がひとりで立ち上げた中古品のネット販売からスタートした。

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 「鉄道模型の楽しさを多くの人に伝えたい」――。その想いが、業界の常識を超えた展開を実現してきた。

■ 「あの機関車が欲しかった」

 きっかけは、1両の機関車だった。

 「EF81形300番台のローズピンク塗装が欲しかったんです」

 ポポンデッタ代表取締役の太田和伸さん(44)は1999年の創業時を思い出して語る。

 EF81形300番台は、国鉄時代に登場した電気機関車。海底を通る関門トンネル用としてさびにくいステンレス車体で製造され、側面にコルゲートと呼ばれるヒダがあるのが特徴だ。一時期、常磐線で活躍した一部の車両はローズピンク色に塗装されており、常磐線が好きだった太田さんは、この機関車のNゲージ鉄道模型をどうしても手に入れたかった。

 だが、模型メーカーのカタログには載っているものの、当時はなかなか再生産されず、まったく手に入らない状態だったという。

 そんなある日、当時、まだ盛んだった個人売買の雑誌に「自分の所有するNゲージ鉄道模型すべてを35万円で売る」との記事が掲載された。その中にはお目当ての「EF81形300番台ローズピンク」が含まれていた。

 欲しい――。とはいえ、税理士を目指して公認会計事務所で働く20代の青年にとって、35万円は大金だ。しかしリストにある模型は定価なら全部で約100万円分になる。全部買って、自分がいらない模型は別の人に売れば、多少は資金を回収できるのではないか。

 そう考えた太田さんは、親から借りたおカネで35万円分の模型すべてを引き取り、個人売買雑誌や鉄道模型雑誌の売買欄に掲載された住所宛てに「買いませんか」と、商品リストをひたすら送った。すると、約2割の人から購入を希望する返事が届いた。

 「売りたい人がいる一方で、買いたい人とつなげる場所がないんじゃないか」と気づいた太田さん。同時に思い出したのは、鉄道模型に憧れつつも、値段の高さゆえに買えずにいた子ども時代のことだ。「半額だったら子どもにも手が届くのでは」。さらに、税理士を目指して働く中で「経営の実際を知ってみたい」という気持ちも高まっていた。

 1999年11月。ネット販売の個人事業として「ポポンデッタ」はスタートした。

■ 家族と一緒に入れる店を

 「ポポンデッタ」という名前は、鉄道とはまったく関係がない。「ポポンデッタフルカタ」という熱帯魚からの命名だ。

 なぜ「鉄道」とわかるような店名にしなかったのか。それには、創業当時の「鉄道模型」という趣味に対するイメージがある。今でこそ一般にも幅広く認知されるようになった鉄道趣味だが、当時はまだ「暗い」といった印象が根強かったのは事実だ。

 「家族と一緒に、彼女と一緒に模型店に行こうよ、と言ったときに、鉄道要素の強い名前だと『そんなの嫌よ』で終わってしまうんじゃないかと考えました」。そこで、もうひとつの趣味であった熱帯魚の中から「元気の良さにあやかろう」と名付けたのが「ポポンデッタ」だったという。

 初の店舗を渋谷にオープンしたのは2002年5月。太田さんが税理士として独立した駆け出しの頃だ。税理士としての顧問先から「渋谷のビルが1室空いている」と言われたのがきっかけだった。

 最初は事務所として使わないかと持ちかけられた物件だったため、場所は道路に面していない「とても模型店があるとは思えないようなビル」。だが、オープン日には30人ほどの行列ができ、わずか7坪の店舗は入れ替え制にしないと入れないほどのにぎわいとなった。

 売り上げの好調さを受け、同年11月には有限会社化。そして翌2003年の4月には、現在本社を置く秋葉原に第2号店をオープンした。

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最終更新:6月5日(金)7時5分

東洋経済オンライン

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