僕はギリシャがユーロ圏を離脱することはないと考えています。

その第一の理由は、ギリシャを救済する側、つまりドイツ、EU、ECB、IMFなどにとって、ギリシャを支援し続けることのコストは取るに足らないからです。

第二にギリシャをユーロ圏内にキープすることから得られるメリットは絶大です。

一方、ギリシャ国民はユーロ圏離脱を支持していません。先の選挙に勝った急進左派連合は選挙の公約でユーロ残留を約束しています。ユーロ圏離脱の民意を背負って当選したのではないから、もしツイプラス政権がユーロ離脱の検討に追い込まれたら、まず国民投票を実施し、その是非を直接国民に問う必要があります。

EUは、そのようなレファレンダム、つまり国民投票は大嫌いです。

なぜならひとつの国で国民投票が実施されると、他の国々でも連鎖的にEUの是非に関して国民投票をしろという要求が高まり、EU崩壊のリスクが高まるからです。

実際、1992年に、このシナリオが起こり、各国で相次ぐ国民投票がスケジュールに上がった時点で、イギリスがEMSという通貨バンド内にポンドを抑え込むことに失敗し、EMSを離脱した経緯があります。

それでは具体的に目先のスケジュールはどうなっているのかということですが、まずトロイカのギリシャ救済プログラムは6月30日で一旦区切りとなり、プログラムの延長をする必要があります。それに先立って、今週金曜日からIMFへの最初の返済期限が来てしまうのです。

6月、7月の具体的な借金の返済期限の到来をグラフにすると、こうなります。

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水色がIMFです。6月5日の支払いは3億ユーロ程度であり、金額的には小さいです。その他、6月末までにIMFだけで全部で4回の支払期限が到来することがわかります。これにギリシャ国債の償還を加えると、6月中に67.6億ユーロ(9200億円)の返済が必要です。今年通年でみれば270億ユーロ(3.7兆円)ということになります。 

今年通年の返済合計額をグラフにしたのがこれです。

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今年を過ぎてしまえば2016年からはいくぶんラクになります。でも2050年まで年間500億ユーロの返済ペースが続きます。向こう5年間はECBへの返済が主です。IMFへの返済もあります。2021年から2040年にかけてはドイツとEFSFが主な返済先です。

大事な点は、今年だけで3.7兆円というと巨大な金額に聞こえるけれど、欧州全体、あるいは世界全体の文脈からいえば、3.7兆円など取るに足らない金額だということです。

一例として日本は年間170兆円国債を発行しているので、その2.1%にすぎません。

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なるほど、ギリシャにはおカネはありません。でも今問題なのは、ギリシャにすでにおカネを貸しているEU,ドイツ、IMFなどが、継続してギリシャにおカネをかすメリットがあるか、無いかです。

ギリシャとIMFとの間での話し合いは、目下、クライマックスを迎えています。

IMFは柔軟に対応すると繰り返しており、最初にはしごを外す張本人の役目をIMFが果たすことに、とても尻込みしています。

だからEUなど他の当事者とよく話し合って、コンセンサスを形成したいと発言しています。

それでも今週金曜日には一回目の支払期限が来てしまうので、もしギリシャがそれを踏み倒したらどうなるのか?という質問が先週のIMFの定例のプレス・カンファレンスで記者団から出ました。

IMFはそのような五月雨的に到来する支払い期限をギリシャがしくじった場合は、たんにバンドル条項を適用して、それはデフォルトと見做さないことを公言しています。

バンドル条項とは1970年代に定められた支払期限の月末一本化の措置です。これまでに実際にそれを使ったのはザンビアのみです。それは1980年代の出来事です。もしバンドル条項を適用してもさらにギリシャが支払いをしなかった場合、IMFはデフォルトではなく、遅延扱いにすると公言しています。

その場合、そこから長い時間をかけて支払の繰り延べが協議されるのが既定路線です。言い換えればIMFはどんなことがあっても自分からギリシャはデフォルトしたという断定することはしたくないのです。

すでにIMFは先々週代表団をギリシャに送り込んでギリシャ政府の資金切りに関してディスカッションしました。だから今週、ギリシャが支払うかどうかについては、かなり見当がついてると思います。

でもギリシャ国内ではいろいろ微妙な政治的駆け引きがあるため、ギリシャ政府の手元資金の状況をIMFが先にリースすることはしたくないと言っています。

またIMFはギリシャのユーロ圏離脱はベースライン・シナリオ、つまり基本シナリオではないとしています。

さらにIMFは若しギリシャがユーロ圏から離脱しようとしたら、それを全力で阻止すると公言しています。

ギリシャがユーロ圏を離脱したら、ギリシャ経済そのものが大打撃を受けるだけでなく、ユーロ圏経済も大きな痛手を受けます。金融市場が混乱するかもしれません。

IMFは「それを阻止するかどうかはEUの肚一つだ」と発言しており、IMFは自分がトリガーをひくことは絶対にしたくないとしてドイツに下駄をあずけているのです。