国民は政府が安心を呼び掛けたから安心するのではなく、政府が現状を確実に管理・統制していると本当に認識できたときに安心するものだ。ところが今回のように政府の説明が何度も変わるようでは、国民は政府の指示に従わなくなり、その結果「無政府状態」ともいえるような雰囲気あるいは認識が広がってしまうだろう。このような現状にもかかわらず、大統領がいまだに「対策を検討」「真剣に協議」などと言っているようでは、あまりにものんきだと言わざるを得ない。
今後大統領はためらうことなく決断力を発揮し、実際の行動に移らねばならない。今必要なのは協議や議論ではなく行動だ。例えば大統領も防塵服を着用し現場を訪問するなどして、現状を正確に把握すると同時に、国民を安心させられるような対策を講じねばならない。政府は専門家による分析や判断に基づいて医療機関を確実に管理し、必要であれば人が密集する施設や空間の閉鎖、あるいは感染の危険が高い集団を強制的に隔離するなど特段の措置が必要だ。幼稚園や学校に対しては校長の判断にばかり任せるのではなく、感染の可能性が高いと考えられる地域では、父兄や児童・生徒の不安が収まるまで休校措置を下すことも必要だろう。また感染が疑われるにもかかわらず国の指示に従わない患者がいる場合は、強制的にでも他人との接触を遮断しなければならない。少数が犠牲を甘受することで、多くの国民の生命を守れるよう決断を下すことこそ、政府を率いる統帥権者である大統領の責任だ。もしそれによって統制を受けた患者などに何らかの被害が発生すれば、事態が収束した後に相応の救済措置を取ればよい。
今の政府の危機管理能力に対しては、旅客船「セウォル号」沈没の際にその信頼がほぼ失われてしまっている。それに加えて今回のMERS感染拡大により国民の不信感が一層広まってしまうと、政府は信頼回復が不可能な状況にまで追い込まれてしまうだろう。そのような点で今は朴大統領にとって政権運営の非常に大きなヤマを迎えているともいえるわけだが、現状は本人だけがそのことを悟っていないようにも感じられる。