箱庭で語られる超越の物語   作:妖精の尻尾
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リアルで予定立て込むと、本当に書く気がなくなりますね……。


来 年 は 本 気 出 し ま す か ら

※追記
CS版で今話の前半部があったんですね……。
CS版買ってから出直してきます。
とりあえずオリジナルということで流していただけるとありがたいです。

※さらに追記
前半部分書き直しました。
本当は次話投稿と同時にしたかったんですが、次話がなかなか書き終わらないので、こちらを先に。
それと最新話の投稿でなくて、すみません。改稿にしてはかなりばっさり行ったので、このような形で更新させていただきました。
とは言え、読まなくて大丈夫です。
むしろ読まないことをお勧めします。

……波旬VS守護者3柱(マリィ√)の詳細と言えば、結末は分かりますよね?


女神といちゃいちゃ(後編)

『こうであればいいのに』

 
 神座、太極座、王冠、ジュデッカ、頂点、底……いくつもの呼ばれ方をする超次元空間。
 そこにあるのは宇宙の核であり───全能のシステム。
 全にして一、そこより神が渇望(ねがい)を流れ出すことで、世界の法則が定められる根源。

 己が善であると願えば”二元論”に、悪を以て悪を駆逐せんと祈れば”堕天奈落”に、悪に塗れた世界を救済したいと欲すれば”非想天”に───
 神の資質、そして覇道の渇望を持ったもののみがたどり着ける領域。

 当代、そこに坐すのは黄昏の女神。
 万物を慈しみ、抱きしめ、幸せを祈る母性。
 他者を己の法に従わさせる覇道でありながら、人の多様性を重んじ、強制力の一切を持たない慈愛。
 5番目の法、それが第五天の織り成す”輪廻転生”という理である。

 しかし、彼女が認めた人の多様性が、皮肉にも彼女の首を絞ることになってしまう───




───(なにか)(おれ)()れている

 マーラー・パーピーヤスという神咒。神という枠組みすら壊しかねない超重量の魂。神聖さの欠片も持ち合わせない邪悪な神気。
 それ(・・)が女神の存在に気づく。気付いてしまった。
 徹頭徹尾己のことしか見ないそれ(・・)が、自分に触って(だいて)いる(めがみ)を排除せんと座へ潜航する。
 寄るな、触れるな、関わるんじゃない───

「……?」

 女神は突然目の前に現れた存在に疑問を抱く。
 言語を絶するほどの醜悪な神気を纏ってはいたが、しかし彼女はそれでも抱きしめる。
 善人は勿論、例え悪人であっても幸福を願うから。相手の幸せが己の幸せ。


 だがそれは、狂人には関係のない理屈だった。
 善意で差し伸べられる手は、しかしそれにとって不要どころか害悪ですらあった。
 (めがみ)自分(おれ)に触れようとしている。

「滅尽滅相ォ!」

 極大の下種によって、女神の覇道共存機能は砕かれてしまった。
 それは明らかな異変。
 覇道を流出させながら世を移ろう水銀にも、人としての生を繰り返している黄金にも、女神の触角と行動をともにしている刹那にも、すぐさま伝わる黄昏の危機であった。
 水銀は平行世界に干渉、獣の爪牙(レギオン)をかき集める。黄金は水銀の自滅因子(アポトーシス)として、また友として神格へと再び至る。刹那は鎖していた覇道(じごく)を、愛する彼女を守るために展開する。

 三柱は特異点から座へ即座になだれ込む。
 彼らが見たのは、三つ目の神格(かいぶつ)が女神を引き裂こうとする瞬間。
 黄昏に襲い掛かる惨劇の未来は、秒読みどころか次の瞬間のことになろうとしていた。

流出(Atziluth)───新世界へ(Res novae) 語れ超越の物語(Also sprach Zarathustra)!」

 しかし───その刹那にこそ彼は疾走する。
 氷結地獄(コキュートス)がごとき凍結した世界を、誰より疾く駆け抜ける。
 そして無間の法───停止の縛鎖が敵を捕らえる。
 停止の(いのり)は何よりも堅牢な覇道。それゆえに神格”永遠の刹那”は”黄昏の女神”を背に、簒奪者から守り切れる───はずだった。

「───ァ?」

 (せつな)(めがみ)を守っている。
 そんな光景を目の当たりにして、邪神は彼らの行いを全く理解できない。ああ、なんて───気持ち悪い。
 停止の縛鎖を容易く引き千切り、邪神は呟く。
 その一言にはあまりにも桁違いの”重さ”があり、ただそれだけで刹那は存在ごと押しつぶされそうになる。

「レン!」
「これはこれは……。女神の治世に貴様のような存在が生まれるとは、なんと嘆かわしい」

 ギシリと刹那の覇道が歪み、悲鳴をあげる。刹那自身も想像を絶する圧力に、苦悶する。
 そして彼の恋人である女神は悲痛を帯びて彼に呼びかける。

 蛇は女神を傷つけられたことに怒りの感情を覚えながら、しかし冷静に状況を把握しようとしていた。
 水銀の王は一目見て、邪神を嫌悪する。
 愛するがゆえに、彼女のためだけに恐怖劇(グランギニョル)の筋書きを描いた。座を譲り、彼女の胸に抱かれて死ぬことを願った。
 けれど彼女の抱擁(のろい)未知(おわり)を迎えることはなかった。とは言え、今の女神の地平は己の望みであったことは確か。
 ゆえにこそ、水銀は女神を害そうとする邪神を許すことは出来ない。

■■■(Sic) ■■■■(itur) ■■(ad) ■■■■■(astra).■■■■(Dura) ■■■(lex) ■■■(sed) ■■■(lex)

 占神である水銀の蛇。彼が司るのは占星術であり、それは全ての天体を支配し、森羅万象の確率を操作するという業である。
 これ(・・)はそのうちの一つ。

 銀河面吸収帯の衝突を意味し、銀河系の数万倍の質量集中が起こることによって生じる重力異常。
 すなわち───グレート・アトラクター。
 旧世界において白騎士(アルベド)黒騎士(ニグレド)の両者によって消滅させられた一撃。
 しかし邪神に対しては、悲しいほどに無力だった。
 魂の桁が余りにも違いすぎて、毛ほどの傷もつけられない。

「女神の世界に、貴様はいらんよ」

 けれど蛇が諦めるということはありえない。
 幾星霜もの間、回帰し続けた。時の牢獄(ゲットー)に囚われ、無数の既知を味わった。
 それでも唯一つの愛した既知(めがみ)に出会うため、そして未知を知るために。
 黒円卓、己の代替(ツァラトゥストラ)代替の自滅因子(ゲオルギウス)……多くの面々の生を弄んだが、すべては黄昏の世界へ繋げるために。
 なればこそ水銀は決して諦めない。

「我が愛は破壊の情。そこに例外はない───ゆえに卿も破壊してみせよう」

 水銀の一撃が簒奪者に傷をつけることはなかったが、足止め程度にはなっていた。
 邪神の額にある三つ目は万象を見通す天眼、しかしその渇望(ゆいが)ゆえに何も映し出さない。
 超規模の一撃、そして(すいぎん)が己に(かかずら)おうとしてしている───その事実は邪神を発狂させるのに十分だった。
 その場で肉体を掻き毟り、汚れを落とそうとする様は、はっきり言って隙だらけだった。

 それを軍神である男が見逃すはずはない。
 戦争の具現化、鉄風雷火の戦場を楽土とする覇道。
 黄金に輝く獣が己の聖遺物”聖約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)”を構える。
 赤騎士(ルベド)白騎士(アルベド)黒騎士(ニグレド)、そして爪牙(レギオン)の総和こそが獣の力であり、ゆえに聖槍から放たれた一撃は総てが収束した神殺しのそれだった。

 無論、それをただ黙って見ている刹那ではない。
 邪神の重圧に膝を屈しそうになったが、即座に体勢を立て直し、攻め込む。
 刹那の右腕と融合している聖遺物”罪姫・正義の御柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)”は処刑の断頭台。
 覇道神としての超身体能力と自己時間加速によって、放たれる斬首の一撃は光すら置き去りにし、絶対の処刑となる。

「ァ───アアアアア!!!!塵が塵が塵が塵が!!!!煩わしいんだよォ!消えろ消えろ消えろ───滅尽滅相ォ!」

 しかし───しかし、それらが一切通用しない。
 紙に描かれた炎が人の肌を焼くことなど有りえないように、格下(せつなたち)の攻撃が格上(はじゅん)を害することなど出来なかった。
 ただ矮小な蟻が全身にたかろうとしている───そんな、麻薬の中毒にも似た不快感を与えただけ。
 当たれば壊す(おわる)終焉(まくひき)も、神をも貫く聖槍も、数多の星々を圧縮した暗黒天体も、不死をも殺しつくす断頭台(ギロチン)も───傷一つ付けるには至らない。
 刹那、黄金、水銀、そして波旬。4柱は同じ神の位にあり、けれどもそこには明瞭な格の差があった。

「…………」

 邪神がぼそりとナニカを呟く。
 己しか見れないゆえに、独り言しか口にしない。
 だから波旬の言葉を、刹那たちは聞き取れなかったが、狂気が膨れ上がり、口にするのも憚る不穏さが含まれていたのを感じ取った。
 彼らの目的は黄昏の守護、そして邪神の討伐である。
 刹那が守り、蛇と獣が攻める。
 邪神が何か良からぬことをする前に、彼らの嫌な予感が実現する前に、より果敢に攻勢を強める。

 黄金が聖槍をかかげ、彼の檄の元に死者の軍団(エインフェリアたち)は邪神へと襲い掛かり───

「えっ?」

 黄昏が呆気にとられ、疑問を漏らしたのも無理はない。


 ───黄金が八つ裂きにされたのだから。


 誰もそれが理解できない。
 戦場において致命的な隙をさらすと分かっていても、しかし戦争と死を司る軍神が瞬く間に滅ぼされた。
 彼の攻性には、刹那でさえも───人格はともかくとして───一定の信頼があった。ゆえにその事実は悪い意味で味方に伝播する。
 だから───邪神の次の行動を誰も止められなかったのだ。

「目障りなんだよォ」

 あろうことか、黄金の魂を踏みつぶす。
 何度も、何度も、何度も。
 光り輝く獣を、その黄金の輝きが消えるまで踏んで、潰して、消し去った。
 これで黄金の獣が復活することは、完全になくなった。
 念入りに潰され、輪廻の可能性まで潰えてしまった。

「貴様、何を踏んでいると思っている!」

 自壊()の渇望に誘われ、黄金を友と呼んでいた蛇は激昂する。
 お前のような醜悪な存在が、不滅の輝きを足蹴にするなど許してたまるかッ───
 水銀の切り札である暗黒天体創造。
 超超規模のブラックホールでもって特攻を仕掛けるも、無駄に終わる。

「邪魔だ」

 邪神の髪を揺らすことも叶わず、腕の一振りで消し飛ばされた。
 残った半身も、返す腕の一撃で消滅する。
 己の死を理解することも出来ず、呆気なく消えてしまった。

「マリィ、必ず君を守る!」
「レン、負けないで───」

 残された刹那は過去最高水準で魂を輝かせる。
 どうか、時よ止まれ、愛しい君を守りたいから───
 停止の縛鎖が邪神を捉える。女神を守る盾として、停止の鎧を纏わせる。
 しかし、存在を無視するかのように邪神は邪魔者(路傍の石)を薙ぎ払う。
 少しばかり力は必要だったが───ああ、しかし、塵は塵。容易く払いのけることが出来た。
 邪神は嘲笑い、そして───

「レン!……ぁ」

 ───女神を踏みつぶした。





 見渡す限りの荒野に、一人佇む金髪の女性。
 彼女の顔は憂いを帯びており、しかしそれも含めて、その佇まいは一枚の絵となるような美しさだった。

「どうしたのかね。マルグリット?」
「カリオストロ……。ううん、何でもないの」

 第五天”黄昏の女神”マルグリット・ブルイユ。彼女はひたすらに、恋人を案じていた。
 天魔として、東征軍の絶対的な壁となっている夜刀───すなわち旧世界における藤井蓮。


 ───許さない、ゆるさない、ユルサナイ、貴様ら波旬の細胞は滅尽滅相してくれる
 ───早く、速く、ハヤク来てくれ、新世界へつながる覇道の担い手よ

 聖遺物”罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)”に封じられ、藤井蓮に宿っていたために生じた霊的経路(魂のパス)
 世界を隔てていても、その繋がりゆえに彼の心中を理解することは出来た。

 そして、だからこそ彼女は悲しんでいた。
 彼の表で渦巻く憎悪、裏に潜む希望。二律背反(ジレンマ)に苦しみながらも、それしか打つ手がない。
 他者をかえりみない覇道(大 欲 界 天 狗 道)に対抗するために、唯一出来た彼の愛。
 世界を超えて伝わるその思いに、彼女も苦しみ、また彼とともに戦っていた。

「ああ、また近づいたのか───やつ(波旬)との再戦も近い、ということだね」

 世界法則を司る覇道神が、その力に溺れてあらゆる生命を消滅させたとき、箱庭と座の宇宙は一時的に同化する。
 しかし、夜刀がいるからこそ完成していない滅尽滅相(全てが消える法)も、裏を返せば夜刀がいなくなれば完成するということ。
 それゆえに、本来なら刹那のうちに行われる”同化”が、長い時間をかけている。2つの世界が徐々に近づいているのだ。

 そして───世界の接近は、夜刀の消滅への刻限(タイムリミット)を表している。

 舞台装置の一つとしてしか見做していなかった息子(藤井蓮)の存在。
 それでも唯一愛した既知(マルグリット・ブルイユ)へと捧げる愛を数千年、見続けてきた。ならば、認めない道理もない。
 飄々として実態を掴ませない水銀の言葉には、憐憫とありったけの憎悪が込められていた。

「それでも、きっと……レンは勝つんだから。ぜったい、ぜっーたい勝つんだから」

 だからお願い、─────■■■■■■…………。



 女神の願いは音にならず、空に消えていった。





「これはすごいな……」
「ね?わたし、レンと一緒にここを見たかったの」

 煌焔の都。
 それはコミュニティ”サラマンドラ”が、箱庭5桁外門の北区画に構えている本拠地。
 工芸の都でもあり、硝子は赤く光り、幻想的な街並みである。
 極寒の地であるここでは、直径50メートルもある巨大なランプが全域を照らし、暖かな黄昏色へと染め上げている。

「お初にお目にかかります、夜刀殿。もう」
「サラ!」

 二人の前に現れたのはコミュニティ”サラマンドラ”所属、サラ=ドルトレイク。”サラマンドラ”頭首の娘であり、その中では長女である。それを自己紹介にて、夜刀に述べる。
 才気煥発なさまは次期頭首としての期待を背負う、周囲から一目置かれている火龍。
 そして、サラが隣にいる男に声をかけたことで、彼女(マリィ)は懐かしみを込めて呼んだ。

「お久しぶりです、黄昏殿。……まことに勝手ながら、お二人が寛げる場を用意いたしました。よろしければ、こちらへ」

 煌焔の都は三層の城壁が囲んでいる。
 外側の壁の中には精鋭である亜龍の軍の駐屯、真ん中の壁の中には一般の居住区と舞台区画と工房街がある。
 そして最も内側には貴賓用の宿舎が存在している。

 サラは二人を貴賓として招くつもりなのだ。

「気持ちはありがたいが、マリィと歩きながら歓談でもしたいのでな」
「これは嘆願なのです」
「……なに?」

 自分とは初対面だが、恋人は顔なじみであるサラに夜刀は距離感を掴みかねる。しかし、今はマリィと二人きりでいたいがために、提案をにべもなく断る。
 淡々と、脈絡がないことを言うサラに戸惑う夜刀。マリィもきょとんとしている。

「彼の世界の法は完成し、我らも第六天と戦うことになるでしょう。───いえ、我ら程度では、戦いにならないかもしれません」

 サラが紡ぐのは真実。
 近い将来訪れるであろう、確定した未来。

 大欲界天狗道(自愛に狂った世界)から森羅万象滅尽滅相(己以外を消滅させる世界)へと変わり果てる終末。

「その時に主力になるだろう夜刀殿───あなたは数千年に及ぶ戦いで、疲弊している。それゆえに落ち着いて、癒えて欲しいのです」

 最強の武神衆である”護法十二天”に、孫悟空が所属している”七天大聖”、帝釈天率いる”仏門”。他にも最強の階層支配者(フロアマスター)である白夜叉など、最強種である星霊や神霊たち。
 それらの総てを足し合わせても───波旬には及ばない。
 有りえないことではあるが、拝火教の魔龍が味方したとしても打倒は不可能である。相手の性能をそのまま自分に上乗せする疑似創星図(アナザー・コスモロジー)”アヴェスター”を使ってもだ。
 相手の性能を取り込んでも、波旬は敵という他人(・・・・・・)がいるだけでその質量を増す。つまりイタチごっこになるだけなのだ。その果てにあるのは、霊格の限界による自己崩壊。

 徐々に箱庭が蝕まれていく現状に、サラは焦りを隠せなかった。

「嘆願とはすなわち、箱庭全住民からの期待だということ。ですので時が来るまでは、休んでいてほしいのです」
「ああ、そういうことか。ならば結構、断らせてもらおう」
「なっ」

 なぜだ!?
 サラは思わずそう叫ぼうとし、しかし相手が相手ゆえに咄嗟に自重を取り戻した。

「そのように言いたい気持ちはよく分かる。分かるがしかし……」

 そう言って夜刀は空を見る。
 空のその先にいる、主役を気取りたいであろう彼らの姿を見ようとする。
 好意は抱けなかったが、それでも伝えるべきことは伝えられ、それを受け取った彼ら。

「覇道の何たるか、既に託し終えている。やつらなら波旬の支配を乗り越えられる」
「レン……」

 心配する様子を微塵も見せない夜刀に、その胸中を感じ取ったマリィが嬉しそうに呟く。
 同時に、夜刀の腕を両腕と胸で強く抱きしめ、その熱にサラはあてられる。

「なるほど……。出過ぎた真似をしたようですね」
「いや、正当性ならそちらのほうにあるだろう。波旬の細胞が、その支配から脱却する根拠は、対峙した俺たちの感覚だけだからな」

 実際に正面から戦った者の意見を尊重しないわけにはいかない。
 箱庭においてはまだまだ若輩者であるサラも、拳を交えたことは何度もある。
 ならばこそ、その直感は軽視していいものではないと、サラは思う。

「わざわざ気を遣ってくれたこと、感謝する。行こうか、マリィ」
「うん!ありがとね、サラ」
「ええ。何かありましたら、我ら”サラマンドラ”、5万の同士がご助力いたします」

 そして二人は工房街へと去っていく。
 今は祭りの時期ではなく、凄まじいほどの賑わいはない。
 けれど箱庭でも高レベルの技術を持つこの街は、平時でも見所が多い。
 それらを見せるために、マリィが夜刀を先導するのだろう。

 サラは今はまだ頭首でないが、一定の権限を持ち合わせている。
 南区画でもなく、初めに北区画に来た理由がサラの発言にある。
 箱庭下層および中層で練度、組織力、人材全てで高い水準なのがサラマンドラの特徴である。
 ゆえにこそ、面通しをするならばサラマンドラが最初がいいと、水銀は女神に助言したのだった。

 ちなみに上層の神群は、夜刀がアポなしで会いに行くとピリピリと神経を尖らせるため、適当に会ってハイお終い、というわけにはいかないのだ。
 ゆえに伝手がある白夜叉が今奔走している。

「頼んだぞ。夜刀殿にあれだけの啖呵を切ったのだ。はやく、この(そら)を終わらせてくれ」

 サラのその本心は、皆と共有できるものだった。

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