朝鮮半島有事を想定した周辺事態法から「周辺」を抜いて地理的制約を解く。日米安保の枠を超え、米軍以外の他国軍にも後方支援する――。

 この「重要影響事態」は、新たな安全保障関連法案のなかでもおそらく、政府にとって最も使いやすい概念だろう。

 「そのまま放置すれば、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」と政府は説明するが、11法案からなる「切れ目のない法制」を象徴するような法案と言える。

 重要影響事態とは何を指すのか。その認定基準について、安倍首相は衆院特別委員会の審議でこう述べた。

 「武力紛争が発生または差し迫っている場合、我が国に戦禍が及ぶ可能性、国民に及ぶ被害などの影響の重要性から、客観的、合理的に判断する」

 いったん政府が認定すれば、米軍などへの後方支援が世界規模で出来ることになる。その重みに対応する明確な基準はないに等しい。

 首相はまた、重要影響事態の例として「中東、インド洋などの地域で武力衝突が発生し、我が国に物資を運ぶ日本船舶に深刻な影響が及ぶ可能性がある」というケースを挙げた。シーレーン(海上交通路)防衛で後方支援が可能という考え方だが、周辺事態が想定した朝鮮半島有事に比べれば、日本への影響は大きくはない。

 岸田外相は当初、経済的影響だけでは重要影響事態にならないと明言していたが、その後、「総合的に判断する」と後退させた。政府の裁量でいかようにも認定できるという懸念はますます高まる。

 そもそも一連の法案には様々な「事態」が盛り込まれ、概念が入り組んでわかりにくい。

 このうち武力攻撃発生事態、武力攻撃切迫事態、武力攻撃予測事態はいずれも日本への直接攻撃を想定しており、専守防衛にかかわる。

 それに対し、重要影響事態のほか、今回の法整備で新たに盛り込まれた存立危機事態、国際平和共同対処事態という考え方はそれぞれ定義があいまいで、しかも専守防衛を踏み越える恐れがある。

 将来、何が起きるかわからない。だから多様な事態を乱立させ裁量も広げておく。これらの法案の下敷きになっているのはこうした発想だろう。

 とにかく国民はときどきの政府の政策判断を信じればいいと言っているようなものだ。法案には「歯止め」という考えが決定的に欠けている。