生活保護「受給者バッシング」の正体---年間支払額3.3兆円、受給者210万人の「世界」を徹底検証 【第2回】安田浩一(ジャーナリスト)

2012年10月11日(木) g2
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 「09年、厚生労働省から『職や住まいを失った方々への支援の徹底について』と題された通達があったんです。これが流れを変えました」

 受給者急増の流れを解説するのは、前出・都内勤務の40代のケースワーカーだ。

 「もともと生保受給者の多くは高齢者、障害者、母子世帯で占められていました。ところがリーマンショックによって、職と住居の両方を一度に失ってしまう人が増えたことで、多くの若年層を含む生活困窮者が生まれてしまったのです」

 首切りに遭った派遣労働者の多くは、派遣会社が用意したワンルームマンションなどの寮で生活していた。つまり、派遣切りとは住居を失うことをも意味していたのである。

 「これによってホームレスなどが爆発的に増えてしまえば深刻な社会問題になりかねない。そこで厚労省は"職や住まいを失った方々への支援"、つまり、そうした方々への生活保護適用を認めるよう、通達を出したわけです」(同)

 それまで、いわゆる「稼働世代」(働ける能力のある世代)が生活保護を受給するのは非常に厳しかった。「まだ若いのだから」と申請すら受け付けてもらえないケース、あるいは住居がなければ受け付けてもらえないといった事例も多かった。

 生活保護法では、たとえ住居がなくとも申請用件を満たせば生活保護の受給は認められる。だが、それまで多くの自治体では「ホームレスは受給できない」「まずは家を確保してから申請に来るように」といった対応をしていたのである。厚労省の通達は、法に則った対応を厳格に求めるものでもあった。

 この措置によって派遣切りなどに遭った「稼働世帯」(行政用語では、障害、高齢、母子以外の世帯という意味で、「その他世帯」と呼ばれている)の受給者が増えたのである。

 そして、この現象が「怠け者が生保を受給している」といった世間の見方に結び付いている。

データが語る真実

 受給者の急増、そして国家予算への圧迫。少なくともこれだけで判断すれば、「大問題」という認識を否定するわけにはいかない。

 だが、これを果たして「日本文化の恥」であるなどと片づけてよいものなのか---。

 「もう、誤解だらけですよね。生保バッシングには何か意図的なものを感じるんですよ」

 うんざりした表情で話すのは、生活保護に詳しい小久保哲郎弁護士(大阪市)だ。生活保護問題対策全国会議の事務局長を務めている。日常的に受給者の相談に乗っていることから、昨今は世間の風当たりも強い。なぜ怠け者を助けるのか、といった事務所への"苦情電話"も少なくないという。

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