参加者はさらに吉本の劇場がある新宿駅南口へ移動し、ここでもやはり「吉本をぶっ潰せ」「叩き出せ」などとシュプレヒコールを繰り返した。この際、たまたま通りかかった老人が「うるさい」と抗議すると、参加者はその老人にわっと詰め寄り、よってたかって殴る蹴るの集団暴行をおこなうといった一幕もあった。
この件に関して、在特会若手メンバーの一人は、私に次のように話している。
「我々の血税が無駄に使われていることに腹が立つんです。河本は在日(コリアン)[注6]だという噂もあるから、ますます許せないんですよ」
彼の意識の中には、彼の何十倍もの税金を納めているであろう"納税者としての河本"といった視点は存在しない。とにかく「税金が無駄に使われた」という思いが、排他的でナショナルな気分も相まって、自制の利かない怒りを沸騰させているのだ。
おそらくは"河本叩き"に加わる多くの人々が共有するのも、こうした感情ではなかろうか。
私個人の意見としても「高収入を得ているなら親の面倒くらい見てやれよ」という気持ちがまったくないわけじゃない。だがこれはあくまでも一般的なモラルの問題である。制度上[注7]は不正でもなんでもない。
こうした生活保護バッシングの波に押される形で政治も動いた。厚生労働省は不正受給に対する厳罰化、親族の扶養義務強化などの方針を矢継ぎ早に打ち出した。8月17日に政府が閣議決定した来年度予算の概算要求基準でも、生活保護費の見直し、圧縮の方針が盛り込まれた。
生活保護を見直せ---「河本騒動」を端緒に湧き上がった怨嗟の声に、政府は珍しく迅速に対応したのだ。数万人規模の反原発デモが何度繰り返されようとも「大きな音ですな」としか反応しなかった、あの野田内閣[注8]が、である。
「ジャンヌ」片山の主張
騒動は、思わぬ「時の人」をも産み落とした。ネット上で「ジャンヌ・ダルク」とまで賞賛されるようになったのが、自民党の片山さつき参院議員である。
当初は匿名で報道されていた「お笑い芸人」が河本であることをツイッターで明かし、「怠け者がトクするような社会を見直せ」と、「生保改革」の旗を振り続けているのが彼女だ。いまや「ナマポ追及の急先鋒」である。
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