年金加入者の個人情報約百二十五万件が外部に流出した。日本年金機構へのウイルスメールが原因である。今年十月から全国民に付番が始まるマイナンバー制も標的にならないか不安がさらに募る。
「厚生年金基金制度の見直しについて」と件名がついたメールだったという。日本年金機構の複数の職員が少なくとも十数件受信し、開封したため、数十台のパソコンがウイルスに感染し、外部者から不正アクセスを受けた。
「その業務に就いている職員が開封しても仕方がないようなメール」だったと同機構は弁明するが、危機管理が本当に徹底していたのか疑問が大きい。猛省がいる。このような不正アクセスの手段は、むしろ一般的だからだ。しかも、先月八日から十八日まで断続的にメールが送られていた。警察に相談したのは十九日のことで対応が遅すぎる。情報管理の在り方を一から考え直すべきである。
流出したのは、年金記録を管理する基礎年金番号と氏名、生年月日、住所である。深刻なプライバシー侵害事件と受け止めねばならない。こうした基本情報が外部に知られると、本人に成り済まして年金がだまし取られる被害が出ないとは言い切れない。
「本人確認を徹底する」と同機構は言うが、細心の注意を払って二次被害を防止してほしい。懸念は年金詐取ばかりではない。年金にかかわる個人情報は「名簿化」される危険性が高い。年金受給世代を狙ったさまざまな悪質な勧誘ビジネスや詐欺事件に巻き込まれる可能性もぬぐいきれない。
心配はマイナンバー制にも及ぶ。国民一人一人に生涯不変の番号を付け、納税実績や社会保障分野などの情報を結び付ける。個人の銀行口座にマイナンバーを付けることも進められる。
さまざまな生活の場面で使われれば、それだけ情報の集積が進む。行政事務が効率化されるというが、いったん今回のような情報流出事件が起きると、被害もいっそう深刻になる。米国では他人の社会保障番号を用いてクレジットカードをつくる成り済まし犯罪が多発しているし、韓国でもネットの闇市場で番号と名前などが売買される現状だ。
プライバシー侵害を回避しようとすれば、個人情報を集中させないことに限る。情報の分散管理が適切であるはずだ。マイナンバー制はその正反対だ。不正のリスクが高まることを強く懸念する。
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