2015
06.03

雪の夜の話 太宰治

Category: 近代   Tags:太宰治
雪の夜の話(青空文庫・えあ草紙)


 書評サイトの掲示板テーマ「太宰はお好き?」参加書評です。
 『ろまん燈籠』で、太宰の陽の面がなんだか好きになってしまい、『文学少女』第一作で触れられていたものを読んでいこうと思って、続けざまに読んでいます。
 
 これも短いお話です。
 雪の降ったある日、少女が雪の道を、やや興奮気味に歩いていました。すると、手に持っていたスルメ入りの新聞包を、落としてしまいます。
 これは、知り合いから分けてもらったもので、少女が、妊娠中でお腹がすいている兄のお嫁さんにあげようと、ひそかに楽しみにしていた大事なスルメでした。
 探しましたが見つからず、がっかりしてしまう少女。

 けれどそのかわりに、心揺さぶるような雪景色に出会いました。
 少女は、昔兄から聞いた、亡くなった人の目に最後の光景が写し取られていたという、嘘か本当かわからない話を、思い浮かべます。
 そして少女は雪景色を目に焼き付けて家に帰り、お嫁さんに、こういいます。
「お嫂さん、あたしの眼を見てよ、あたしの眼の底には、とっても美しい景色が一ぱい写っているのよ」

 なんだか、泣きたくなるような話ですね。宮沢賢治が得意としているような……。

 スルメをお嫁さんにあげようとわくわくしていた少女の心情が簡潔かつ丁寧に書かれていて、少女がスルメをなくしてしまったことが、本当に悲しくなってきます。
 また、風景が目の底に映り込むという想像を、信じたいと決めて信じ、せめてそれを持って帰ろうとする少女のけなげな様子に、途方もないやさしさを感じてしまいます。

 お嫁さんははじめ、笑いながら対応していたのですが、重ねて少女が言ったあと、かなしそうな顔を浮かべました。
 どうして、お嫁さんは、かなしそうな顔をしたのでしょうか。
 分かるような気もします。言葉にすれば、あまりにもけなげでやさしい少女の提案に、泣きたくなってしまった、というところでしょうか。でも、言葉にしなくてもいいような気もします。お嫁さんの中にはきっと、言葉以上の強い感情が引き起こされたと思うので……。



追記

 何か見落としがあるかもしれない気がして念のため検索しましたが、これが1944年の「少女の友」5月号に掲載されたという短編で、戦時中の食糧難という背景をもっていることを、完全に見落としていました。ますます少女のやさしさが痛いです。
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