TUFJapan 改めRoad to UFC: Japanでジョシュと共にコーチに就任したロイ"ビッグカントリー"ネルソンですが、彼は強打をものともしない頑丈さで有名です。ドスサントス戦では138発、ミオチッチ戦では129発の打撃を食らってもKOされませんでした。
彼の打たれ強さについて、スポーツ医学のスペシャリストにして、リングサイドドクターの経験もある「Fight Medicine」の著者マイケル・ケリー医師が語ります。
最後に概要をまとめたので読みづらい箇所は飛ばしても結構です。
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FIGHT LAND
「鋼の顎」と呼ばれるような顎を持つ選手について、明確な説明はいくつかできる。一つは強い首の筋肉、それによってかなりの衝撃を吸収できる。二つ目は顎の形、顎の形のせいで打たれ弱い選手もある程度存在する。そして過去にKOされた数、多くのKOを経験する事で試合ごとに打たれ弱くなっていく。
ネルソンは首の筋肉がとんでもなく強靭なのかもしれない。強靭な首の筋肉は打撃による回転の力をおさえるのだ。
だが人がKOされるか否かは衝撃が脳に伝えられる場所が大きく関わっている。横から来るフックのような打撃は、ストレートの軌道で来る打撃に比べ、多くの力が脳幹の網様体賦活系(脳の覚醒状態の維持を司る)と呼ばれる区域に伝えられる。
脳の画像リンク
網様体賦活系が働きかけることで人は眠り目覚める。実際の所、賦活系は多くが脳の下部にもある、それを含めて網様体賦活系と呼ばれる。
脳の上部は液体の層で包まれている。横からフックで顎を打ち抜かれ強い旋回力が頭にかかった時、脳の上部はある程度髄液に浮かんでいるので動くが、その時も脳幹はしっかりと繋がれたままである*。
それは強大な力をかけられることを想定していない。
だから、強力な打撃を受けた時に、脳の上部(動く)と脳幹(固定されている)にねじれが生じ網様体賦活系に負担がかかることで意識の消失が引き起こされる。
訳者注
*脳幹下部の延髄は脊髄と繋がっており固定されている
脳は非常に柔らかく、ゼラチン状の物体である。人が震盪性の脳損傷を起こす時、即座に脳は様々な方向に力がかけられ、顕微鏡で確認できるレベルで一瞬の内に形を変えている。そして脳幹のイオンチャネル*とニューロン*の調節に不具合を引き起こす。最終的に細胞の内外の通常のナトリウムイオン*のバランスに異常をきたす。これがニューロンの機能不全*の原因になる。
訳者注
*細胞がイオンの出入りを管理する扉のようなもの
*神経細胞、出生後から増えることは無い
*ナトリウムイオンは神経細胞を活性化させる重要な役割を果たす。
*脳震盪でイオンのバランスが乱れ、損傷した神経細胞は多くは時間を置けば回復するが、少数は変性壊死する
と言うわけで、横から打撃を受けて頭部が回転させられるときは、少し回転力が脳に伝わりやすい。
ところが、打撃が顎の最適な場所に当たった時でも、特別頑丈な顎の場合は少し難しいことがある。そこでは顎の形状が物を言う。
全ては顎の形と大きさに起因する。その2つが力の頭蓋底への伝えられやすさを決めるのだ。
だから人は選手に対して「ボタンを押された」という言い方をする。それは間違ってないが、「ボタン」という言葉が最適かはわからない。「ボタン」はそこに打撃をうけた時、下顎を通った力が脳底部に伝わる威力が最大になるエリアのことである。
脳幹は脳の中で最も繋がれ固定されている。だから頭部が強い旋回力にさらされた時にねじれが生じ意識が失われる。同時に、強い直線軌道の力を下顎に受け、脳底部に力が伝わる時、脳幹は相対的に前に動き、フック軌道の打撃を受けた時と同じ原理で意識が失われる。 だが、ある方向にねじれを起こしているのに対して、また別のねじれがねじれを深くする。
そして一度KOされると、またKOされやすくなる。人の体は不具合を起こした細胞の内外のイオンバランスを元に戻せるが、脳震盪を起こす毎に少しづつその能力が弱くなる。と言う理屈でそれは説明される。
だからKOされた者の回復力はかつてと同じだけの力を持っていない。
例えるならここに門があるとしよう。門が壊されれば、あなたはそれを修繕する。だが修繕された門は最初ほど頑丈ではない。一度も破壊されたことが無い門ほどの頑強さを回復するのは不可能なのだ。
我々がロイ・ネルソンのような選手についてわかっているのは、後に慢性的な外傷性脳損傷*になる危険がかなり高いと言う事だ。
慢性的外傷性脳損傷と同時にパンチドランカーになった格闘家の脳を検死解剖した結果から、脳のダメージが深い選手は、それだけの分殴られていたことがわかっている。
打撃の蓄積は、一撃KOを10回されるよりも危険度が高い事は明らかである。繰り返しかかる力と脳への微小な外傷のダメージの蓄積に、意識を失うかどうかはあまり問題ではない。
だからネルソンのように10試合を通して430発殴られながらKOされない男*に関して、「大量に殴られるよりはノックアウトされた方がまし。」と言える。
訳者注
*パンチドランカーのような病気
*ミオシッチ戦後に書かれた記事なので当時のUFCでのsignificant strikeの総計
体の構造、強度、頭蓋骨の形、脳の濃度、ニューロンあたりのイオンチャネルの数、細胞内のミトコンドリア濃度などに遺伝的に恵まれた者は確かに存在する。彼らは普通の人間に比べよりダメージを吸収し、脳への影響を少なくできる。人それぞれで違いはあれど、彼らはこういったことに先天的に恵まれているのだ。
多くのスポーツで教わる事も鍛える事もできない強みを持って生まれてきた者が存在する。
だが顎の強度は誰であれ最終的にその強さに追いつく。
効果が表れるまで頭を殴り続けるだけで、ネルソンのようにKOされない才能を持った男を、最終的に誰でもノックアウトすることができるようになってしまうのだ。老いやダメージと言った多様な要因は日々積み重ねられている。
私はボクシングはMMAよりはるかに危険だと考える理由がある。私はMMAとボクシングで何度もリングサイドドクターをしてきた経験からそう考えるようになった。
MMAでは体の全体がターゲットになり、打撃以外でも様々な方法で攻撃できる。ボクシングほど大量に頭部に打撃を食らう事は無い。ボクシングでは拳のみを使って同じ場所を何度も殴りあう。
統計を参照すればボクシングはMMAよりも脳損傷のリスクがはるかに高いことがわかる。医学的な観点から言えばMMAの危険性(安全性)について結論づけるにはまだ早い。だが頭部への打撃の数と質を考えれば、やはりボクシングの方が危険だ。
ボクシングはグローブの形と拳のテーピングの仕方のため*に円形軌道のパンチが多い。
ボクサーは、直線的なパンチが少し多いMMAより多くの旋回力に曝されているのだ。
訳者注
*この箇所は英語力不足で翻訳あってんだかわかんないですwごめんなさい
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記事の要点をまとめます。
・顎の強度には主に、首の筋肉・顎の形状・過去のダメージ、が関わっている。
・ノックアウトは「網様体賦活系」にねじれが生じることで起きる。
・網様体賦活系は脳幹を中心に存在する神経の束であり、覚醒状態の維持を司る。
・パンチを受ける→ある程度浮かんでいる脳の上部(脳皮質)が頭蓋骨の中で動く→脊髄に繋がれ、固定されている脳幹部(網様体賦活系)との間でねじれが生じる→意識消失(KO)
・フックの軌道で来る打撃はねじれを生じさせやすい
・KOされればされるほど、よりKOされやすくなる。時間を置けば回復するが完全には治らない。
これらがこの記事の主な(かつ正確に訳せたと思われる)主張です。
本文末尾のボクシングが危険な理由の円形軌道が云々〜なんかは、うまく解釈できなかったので無視して欲しいですw
脳震盪という物は軽度の「びまん性脳損傷」だそうです。
びまん性脳損傷とは回転加速度を生じるような衝撃で脳底部にゆがみが生じ、脳室周囲白質、基底核部、脳梁、脳幹が損傷される病態を差します。
そのなかで大脳表面と大脳辺縁系、脳幹部を結ぶ神経軸索が切断、損傷され、神経連絡機能が断絶した状態をびまん性軸索損傷と呼ぶそうです。(「スーパービジュアル脳・神経疾患」(成美堂出版)参照)
また科学誌の「ニュートン」(2015年2月号)によると、脳震盪は、脳幹と脳上部(脳皮質)のねじれによって引き起こされる、また、頭部に衝撃を受け頭痛があるがCTやMRIで異常が見つからない場合に脳震盪と診断されるとの事です。
また短期間に2度の脳震盪を起こした場合、セカンドインパクトシンドロームという状況になると言われています。これに関して同誌ではラグビーなどでは、脳震盪そのものでは無く、それにともなう「急性硬膜下出血」が死亡の原因になると書いてあります。脳の頭頂部と、脳の外の「上矢状静脈洞」をつなぐ静脈がちぎれて出血することで、脳を覆う膜に血がたまり脳が圧迫され死亡するそうです。
セカンドインパクトは致死率5割なんて例もあるようなのでK-1トーナメントは即刻廃止して欲しいですね。選手の健康や生命をなんだと思ってるんでしょうか。
記事に一撃KOより打撃の蓄積が脳にダメージを与えるとの主張がありますが、こちらのJAMAの研究でも、アメフト選手の海馬は脳震盪を経験していない選手でも現役が長いほど小さくなっているとの結果が出ています。
軽度の衝撃と脳の後遺症などの記事
ボクシングがMMAより危険と言う主張はこちらの記事でもされています。
しかし「医学的にはMMAの危険性を判断するにはまだ早い」と本記事中に述べられているように、脳のダメージは長期的に調べないと完全にはわからないため、まだ20数年の歴史しかないMMAではデータがありません。あと10年20年たった時にMMAの真の危険性(安全性)がわかるのでしょう。少し恐ろしいですね、聞こえてますかハーブ・ディーンさん。
こちらの脳震盪研究の記事では、脳震盪後はバランス力と認知能が悪化するが90日経つと元に戻る。同シーズンに2度脳震盪をおこしたNFL選手は神経の回復が遅れる。
3回以上脳震盪を起こすと鬱や認知機能障害のリスクが明らかに増す。と書いています。このリンクは後半のJAMA研究翻訳が色々詳しく書いてあるので是非一読を。
最後に国際ラグビー評議会の脳震盪ガイドラインでも脳震盪では、反応時間が遅くなる、集中力、注意力が低下するなどの症状を報告してます。
脳震盪からの回復力の低下などの話と合わせて考えると、JDSのパフォーマンス低下や、アルロフスキーの復調なども納得がいきますね。ロックホールドに打ちのめされて1か月後にロメロ戦を行う予定のリョートが心配です。
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最終的にネルソンどこ行ったんだという感じですが、脳震盪に関する記事でした。ちょっと理解しづらかったでしょうか、訳者の力不足です。本当は後遺症についてもっと掘り下げたかったのですが疲れたのでまたの機会に。
最後に関連、参考リンクを貼っておくのでよければどうぞ。
ニューロンとイオン等
http://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/salt6/salt6-96-05.html
http://hclab.sakura.ne.jp/nerve_phis_receptor.html
びまん性脳損傷
http://www.jikosoudan.net/article/13443005.html
脳外傷について
http://www.geocities.jp/miyadai0403/topin/at-study/st-con/head.htm
後遺症など
http://kaigyoi.blogspot.jp/2012/04/cte.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%BC
2015年06月02日
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