日本経済に広がりつつある「老人共産圏」

そもそもだが、高齢者にはカネがない。世帯年収のピークは100~300万円程度であり、夫婦二人が暮らす中で月に6万円程度の貯金を切り崩しながら生活している。小遣いは月に一人3万円程度であり、できれば働いて家計を補助したいと考えている。貯金を取り崩すことには抵抗があるから、手取りで得られる年金の範囲で質素に生活する。
この世帯年収が100~300万円の高齢者夫婦を、素直に良い消費者とみなすのは難しい。なぜならスーパーで生活用品を買い、食品を買い、健康がすぐれないために高止まりした医療費を支払い、たまに温泉旅行に行けば、もうその先には消費がないからである。

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こういった平均的な老人は良い消費者とは呼べず、その理由は徹底したケチぶりにある。年収が十分に低い老人は、徹底的に商品を買い叩きながら購入する傾向がある。また、老人特有の感情として「尊敬してほしい、優しくしてほしい、丁寧に接してほしい、安全に配慮してほしい。」という高級ホテルのようなハイコンタクト・サービスを要求する一方で、支払いの側を徹底的にケチる。つまり、彼らは常に過大な要求をする割には、その要求に見合うマネーを払わない。この現象を簡単に確認できるのが、温泉、ゴルフといった高年層が好む娯楽に関するネットの口コミで、そこには辛辣な批判ばかり並んでいる一方で、施設やサービスを褒めるものが少ない。
従来のマーケティングは、このような「無理筋な顧客」を想定して来なかった。ブームに乗ってくれる若者は、いつも良いお客様になってくれた。旺盛な消費をするファミリーや50代には十分に支出できる経済力があった。しかし、高齢者にはこういった消費者としての好条件がほとんど存在しない。

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さらにまずいことには、マクロ経済スライドによって操作される形で、これから2038年までに国民年金は3割、厚生年金は2割カットになる。さらに消費税が上がり、10年後の2025年には15%に到達していると多くの専門機関は予測している。この消費税15%と年金削減を簡単に織り込んで試算すると、高齢者世帯の医療・介護費を含めた自己負担率は現在の19.3%から27.7%に上昇してゆく。月額の取り崩し額が現在の6万円から10万円に迫ってくる中で、仮にも現在の生活水準を落としたくないというなら、高齢者はさらに節制志向を強めてゆくことは間違いない。つまり、現在よりも消費者としてさらに魅力を失った、極限を行くケチへと変貌してゆくのである。この膨大にして貧困、徹底して吝嗇な客を相手にビジネスを営むのは正直、かなり厳しい。

このように消費者でない老人が増えれば、資本主義が部分的に終わってしまうことが確実である。この最先端をゆく「資本主義の終焉」は、はすでに起こり始めている。2014年になって、大手スーパーのイオンは利益を出せなくなってきた。イオンは強大な仕入パワーを持ち、すでに規模拡大を極めているのに、それでも利益を出せない。その理由は想定よりも消費者の価格志向が強く、消費増税後にその傾向が強まったからだと関係者はコメントしている。これは牛丼屋の分野でもすでに起こっている現象だが、節制志向の消費者があまりにも支出をケチると、事業者の側は利益を出せなくなる。スーパーは高齢者が集中して利用する業種だから、彼らの節制志向の影響を大きく受けるため、こうして赤字が慢性化しやすい。高齢者の経済は10人居たら10人が徹底的にケチる経済だから、スーパーのように事業者の側が根負けしてしまうという訳だ。

もし利益が出なければ新規の投資ができなくなるから、ここで資本主義の原理が停止する。例えば、高齢者向けのスーパーに投資できる可能性はゼロに近い。なぜなら、建てたところで顧客は徹底的にケチるから利益を出せず、その投資額を回収することが出来ないからである。こうして利益から投資を回収する資本主義のメカニズムは、老人たちの過剰なまでの節制志向によって封印され、その機能を停止してゆく。
このような理由から高齢者分野にある医療、介護、ヘルスケアなどのほとんどのビジネスは公費によって賄われており、そこが社会主義経済であることを意味している。このようにして、あまりに購買力がないうえに節制嗜好が強すぎる高齢者市場は、最終的には「老人共産圏」の拡大に行きつくのである。

よく高齢者については「市場が拡大している」という言うが、それは浅はかな勘違いも甚だしい。そこは「市場」ではなく「共産圏」なのだから、最初から市場とは呼べない代物だからだ。社会主義化が進み、官需のシェアが伸び、公共を経由するマネーが税投入される世界は「市場」ではなく、ソビエトと同じように停滞した社会主義に過ぎない。ここには利益が存在しないのだから、簡単に投資が出来る状況でもない。
ビジネスが行う投資の回収原資が利益である以上、業者に利益をよこさない老人の人口がどんなに増えても、民業に恩恵は無いのである。

中村事業企画(NBI)中村
http://nbi.tokyo/