藤原カムイ、二ノ宮知子、荒川弘、里中満智子、池田理代子など、有名漫画家たちが重厚な歴史人物を奔放に描いたことで世間を驚かせ、大ヒットした分冊百科「週刊マンガ日本史」が1月27日、5年ぶりに「改訂版」として再刊された。創刊号の卑弥呼、第31号の雪舟、そして付録である歴史人物カード450枚を描いた藤原さんに編集部が再刊記念インタビューを行った。

――藤原先生の大ファンで『雷火』という邪馬台国を舞台にしたマンガをお描きになっていたので、創刊号の卑弥呼を描いていただけないかお願いしました。お忙しいからダメ元だったんですが。

藤原:面白い企画だと思ったんです。『雷火』の場合は、卑弥呼はおばあさんで、冒頭に殺されてしまいます。その卑弥呼を若く描くってちょっと面白いかなと。年を取らないというイメージになって、ちょっときついかなと感じたんですが、アイコンとしてはこのほうがキャッチーで良いと思いました。

――編集部からとくに要望はなかったんですが、最初いただいた絵では卑弥呼の生足がかなり出ていて、意見を聞いたお母さんたちから「ちょっとイヤらしい」と。

藤原:それで描き直したんですよね(笑い)

――人物設定で苦労したことはありますか。

藤原:連載ではないのであまり悩みませんでしたが、一般の人間を超越した能力を持っているカリスマ性をどこで出すかということは考えました。でもやっぱり人ですから、そこは抑え気味ではあります。装飾を付けて人の前に姿を現したときには神々しく見えるとか、鏡を配してステージっぽくしたり。太陽光が差した瞬間にバッとライティングされる演出などですね。カリスマ性というよりは、演出で人智を惑わしているというイメージです。

――あまりやり過ぎてはいけない、ということは打ち合わせましたよね。

藤原:変な呪文を唱えてなんとかしてしまうことではないでしょう、と。

――60年たっても年を取っていない卑弥呼。

藤原:そうですね、弟はどんどん年を取っていくんですが。

――一般的なイメージであるおどろおどろしい、オカルトっぽい雰囲気とは無縁の、人間的弱さも感じる卑弥呼ですよね。

藤原:なんとなく幸せそうじゃないですよね。この姉弟は幸せではないんだろうなって。

――卑弥呼もユニークでしたが、31号の雪舟も評判でした。特にほかの漫画家さんがスゴイって言うんです。この墨っぽく描くタッチは。

藤原:『西遊記』では水墨画のイメージで描いていました。仕上げはパソコンでやったんです。ちょうど個展を開いた時期で、会場に机を持ち込んで全部そこでやりました。できたらアシスタントに渡してスキャニングして、仕上げはデジタル。この見開きもかなり色調整をして、新品というか、昨日描き上がったふうに調整しています。

――ほかの先生も、みなさんこの企画を本当に面白そうだと言ってくださいました。

藤原:子どものころに学習漫画を読みましたが、とても楽しめるような代物ではなかったというイメージがあったので、バカにしちゃいかん、子どもはちゃんと分かるんだ、と思いながら描きました。

――村上もとか先生は「久しぶりに子ども向けに描くのがうれしい」と。安彦良和先生は「子ども向きに限定する必要はないよ、面白いから大人も喜んで読むよ。僕は勝海舟を描きたいな」とおっしゃいました。

藤原:作家のラインナップは充実していますよね。

――日本の漫画界を引っ張っている人たちが協力してくれました。若手の先生はベテランの中でやれると必死で頑張っていました。

藤原:結果はあまり意識はしていませんでしたが、売れたということは、誰もやっていないことをやったからではないでしょうか。ありそうでなかったものがちゃんと形になった。新鮮だったし、漫画家がみんな本気だということが伝わったんだと思います。

――450人の歴史人物を描き分ける付録カードも大変でした。あまり資料もなかったし。

藤原:そのほうが逆によかったんですよ。資料が残っているような時代になって、なんかつまんなくなってきてしまう。背広姿が増えてきたときに、描いていて楽しくないなって。あと僕は、かっこいいって言われている義経などは、かっこわるく描きたくなってしまう。(笑い)思い入れがある人には叱られるけど。でも毎号(50号まで)9人ずつやり遂げた達成感はありました。

――再刊ですが、当然初めて出会う人がたくさんいます。どんなところを見てほしいですか。前回はこの本を読んで歴史が好きになったら、学者になりたいという子どもたちがたくさんいました。

藤原:歴史人物に感情移入するため、子どもたちにアピールするため最良の道具ですからね、このシリーズは。歴史が好きになるきっかけって、その人物に共感を覚えて、惚れるところから始まりますからね。
 
※「週刊マンガ日本史改訂版」は全101号。500円(創刊号特別価格180円)。2009年10月から刊行した「週刊マンガ日本史」と「週刊新マンガ日本史」計101冊の発行順を変更し再刊行するもの。マンガ、記事(一部更新)の内容は同じ