森の奥からじっと集落を見つめている魔物がいます。
人知を超える自然の力…人の目を盗んで現れ忽然と消える。
獣たちを突き動かし昆虫たちを突き動かし…。
人の暮らしをのみ込んで森へと戻そうとします。
人はその力に抗うすべを探してきました。
人知を超えた力には人知を超えた力で。
紙札に仏の力を宿らせ蟲に挑みます。
森の奥で古より続く自然との闘いの記録です。
深い山に囲まれた早川町。
その谷あいに人口僅か6人の集落があります。
集落の入り口に近づくと固く閉ざされた柵。
森と集落を分け隔てるように延々と続いています。
柵を見回る人に出会いました。
区長の…イノシカチョウ。
(取材者)なんか動物園みたい。
住民の平均年齢は72歳。
暮らしを支えるのは畑です。
食糧として収入の糧として一日を畑で過ごします。
葉物や果物を大量に植えつけます。
必要な量を超える作物。
この土地で生きていくための習わしだといいます。
花をつけ始めていた大豆畑にその理由がありました。
一夜にしてある家の大豆畑が全滅した事もありました。
気配を消し忍び寄る獣たち。
美佐江さんは獣が現れた時間と場所を記録し続けています。
手に負えない力に抗うため集落の人々は不思議な儀礼を生み出してきました。
その儀礼が受け継がれているのが戦国時代に創建された…6人の住民の一人として寺に常駐する住職…先代を務めた父の跡を継ごうと最近神奈川から移り住みました。
そういうの考えた事ありません?都会育ちのため田舎暮らしに戸惑っています。
朝も動物走ってたからさそこの所ずっと鹿が。
でほえてたからさ何かなと思って。
作物が大きく成長する8月。
獣から集落を守る準備を始めます。
古からこの寺の住職が受け継ぐ…法華経の経文をしたためた紙札で森に宿る異能の力蟲を封じ込めます。
獣を突き動かすのも大雨や日照りをもたらすのも森に住む蟲の仕業。
この不思議な風習がいつどうやって始まったのか集落に記録は残っていません。
分かっているのはこの集落が森の恵みを授かり続いてきた事。
山でとれた材木を川に流し町へ。
浅瀬を越えるため船を使わず丸太に直接乗る特殊な技術を誇りました。
森と共に生きるうちその奥に潜む人知を超えた力を知るようになったのです。
集落はその歴史を閉じる瀬戸際に立っています。
(読経)海浄さんがお経をあげるのは住む人がいなくなった空き家。
身寄りがなく亡くなった人や仕事を求め集落を離れた人。
高齢のため町の子供と暮らす事になり合鍵を託す人もいます。
(読経)この50年で集落を離れたのは30人以上。
家が朽ちれば森の蟲が集落をのみ込みます。
(読経)区長の信保さんの父は15年前に亡くなりました。
海浄さんの父と共に集落を守りました。
(読経)終わっちゃった?今飲んでる。
今二人が集落で最も若い住民になりました。
みんなとこの部落を長く保っていければいいなと思ってる。
やっぱり一人じゃ生きていけないからやっぱりみんながいなければね力があって初めて一つの事ができるんだと思う。
法要を終え帰ろうとした矢先…。
治った?海浄さんは集落を守るためおととしから仕事を始めていました。
寺を離れ毎朝向かうのは隣町。
山道を歩きバスを乗り継いで1時間半かかります。
集落から15キロ離れた温泉旅館です。
部屋にお邪魔すると海浄さんはエプロン姿。
週に5日ここで掃除や食器洗いをしています。
えっ?ここで働いてるっちゅう事?食わしてくれるんだったら…。
住民が減った今寺のお布施は年間10万円余りになりました。
寺で修行を積む時間は減りましたが集落を守るにはこれしか方法はありません。
住民たちに蟲封じの札を配る日が来ました。
(読経)札が寺を離れたあとも邪気がつかぬよう霊具木剣でまじないます。
集落を挙げて行われる儀礼。
高齢者の家では子供たちが帰郷し手伝います。
耕した畑に札を刺し結界を張ります。
守るのは秋に実を結ぶ里芋や小豆。
冬の暮らしを支える命の糧です。
仏様頼り…。
何百年って続いてるこの古屋のしきたりだから。
森がざわめき始めます。
獣が集落に入り込みました。
子供を連れた数十頭の群れ。
森の冬に備え栄養を蓄えに来ました。
収穫間近だった近所のブドウ。
1t近くが森へ消えました。
美佐江さんは自宅のブドウ畑の見張りにペットの甲斐犬を加える事にしました。
やだってばちょっと…人には気付かない獣の気配を知らせます。
蟲の力が膨らみ始めています。
集落で大きな出来事がありました。
6人の住民の一人83歳の男性が亡くなったのです。
大工を定年したあと60代で集落に帰ってきた男性。
集落にブドウの栽培を広めました。
男性の妻も集落を離れる事になり住民は4人に。
信保さん夫婦と海浄さんそして90歳の女性です。
(読経)信保さんたちはたとえ最後の住民になってもここにとどまり畑を続けていこうと考えています。
手を掛けた畑がある事。
それが森と人を分かつ最後の境界線です。
森が色づき始めました。
信保さん夫婦の畑で里芋の収穫が始まります。
蟲封じの札を刺してから3か月がたちました。
(取材者)普通ですか?それともいい方ですか?近所のブドウが食べられた以外大きな被害はありませんでした。
(美佐江)蜂も来なかったし。
畑にはこれからジャガイモが植えられます。
海浄さんが旅館の仕事から帰ってきました。
住民が集まれば話題はいつもの蟲の話。
住民が4人になり一つ屋根の下に収まるようになった小さな集落。
雨が上がればまた畑に戻って野菜を作ります。
作物を作り作物を守り。
蟲の力に抗いながら森に暮らします。
2015/05/25(月) 15:15〜15:40
NHK総合1・神戸
ろーかる直送便 ヤマナシQUEST「6人の集落の蟲(むし)封じ」[字]
山梨県早川町の山間に不思議な風習が残る。森がもたらす災いを蟲(むし)と畏れ、その力を蟲封じと呼ばれる紙札で封じるのだ。人知を越えた力に仏の力であらがう物語。
詳細情報
番組内容
山梨県早川町の山間、住民6人の集落に不思議な風習が残る。森がもたらす災いを蟲(むし)と畏れ、その力を蟲封じと呼ばれる紙札で封じるのだ。集落は自給自足のため、山から現れるサルやイノシシの獣害が暮らしを揺るがしてきた。戦国時代に創建された寺の住職は、紙札に法華経の経文をしたためた上、邪気がつかぬよう霊具、木剣でまじないをかけ、住民が畑に刺す。人知を越えた「蟲」の力に仏の力であらがう人々の物語。
出演者
【ナレーション】古野晶子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
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