震災の仮設住宅を回って、ライブ活動を続けています。
川崎市で起きた中学1年生の殺害事件から3か月。
事件に関与したとして起訴された少年のうち2人は保護観察中でした。
少年院や刑務所に収容するのではなく地域の中で少年を見守り更生させる、保護観察。
しかし今、保護観察中の少年が再び犯罪を犯すケースが相次いでいます。
ことし1月、スーパーの商品につまようじを入れたと見せる動画などを投稿し、逮捕され少年院に送られた19歳の少年。
さらに男女3人を殺傷し死刑判決を受けた18歳の少年も保護観察中に事件を起こしました。
一体、保護観察の現場で何が起きているのか。
取材を進めるとSNSなどのコミュニケーションツールの発達や、地域社会の変化によって少年たちの情報がつかみにくくなっていることが分かってきました。
どうすれば地域の中で子どもを見守り立ち直らせることができるのか。
保護観察の現場から考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
罪を犯したり、非行した少年の更生を支援する重要な仕組みが保護観察です。
保護観察とは地域の社会の中で少年を見守り更生へと導くものです。
少年の立ち直りに向けて専門家である保護観察官が計画を作ります。
そして無給のボランティアである保護司が実際に見守りを行います。
ところが、保護観察中の少年が再び事件や非行を起こし処分される割合は5人に1人。
この20年近く改善されていません。
このところ、社会を震かんさせる重大事件も起きていまして少年が再び犯罪や非行に手を染めないようにする保護観察が直面する課題その在り方が問われる事態となっています。
少年が事件を起こしますと警察から検察を経て家庭裁判所で、少年審判が開かれ処分が下されます。
事件が重大な場合少年は検察に送り返され起訴されると、大人と同じように刑事裁判を受けます。
また、家庭裁判所の判断で少年院に送られるケースもあります。
圧倒的に多いのが、保護観察です。
保護観察となるのは処分を受けた少年の75%にも上ります。
その上少年院送致を受けた少年がスムーズに社会に適用できるよう仮退院するときにも行われます。
このように保護観察は少年を更生させるうえで極めて重要な役割を担っているのですが地域社会の変化などに伴い保護観察がうまく機能しなくなっているのではないかという指摘も出ています。
初めに、保護司を中心として見守りが難しくなっている現状からご覧ください。
神奈川県内の保護観察を管轄する、横浜保護観察所です。
現在、およそ1400人の少年を対象に、保護観察を行っています。
どのように少年を更生させるのか。
その中身を決めるのは心理学などの専門知識を持つ保護観察官です。
きょうはよろしくお願いいたしますね。
処分が決まった少年に対して面接を実施。
非行の内容や家庭環境などに合わせて更生させる具体的な計画を立てていきます。
計画の基本となるのが遵守事項と呼ばれる、約束事です。
これは過去に傷害事件を起こしたある高校生のもの。
共犯者との交際を絶つこと。
深夜に、はいかいしたりたむろしたりしないこと。
そして、欠席せずに学校に通うことなどを義務づけました。
遵守事項を定めた保護観察官は、次に少年が暮らす地域の保護司に少年の担当になってもらいます。
保護観察官の監督の下、保護司が実際に見守りを担うのです。
保護司は、非常勤の国家公務員。
月に2回程度、少年と面接をし必要に応じて家庭訪問を行います。
そして、月に1回少年の様子を報告書にまとめて保護観察官に送ります。
これは先ほどの傷害事件を起こした高校生のケースで提出された報告書です。
面接で得た情報を詳しく記述しています。
共犯者ではなく、中学校時代の友達と会っていること。
高校は遅刻せずに行っていること。
そして遵守事項には違反していないものの耳にピアスを開けるなどの変化が見られることを報告しています。
保護観察官は報告書などをもとに、少年が遵守事項の違反を繰り返すなど更生の見込みがないと判断した場合少年院送致など新たな処分を家庭裁判所に求めることができるのです。
地域の中で少年を見守り更生させる、保護観察。
しかし、その中心的な役割を担う保護司は今新たな課題に直面しています。
保護司歴20年以上の河西英彦さんです。
これまで30人近くの少年たちを見守り更生させてきました。
町内会長を務める河西さんは子ども会の活動を積極的に行うなど地域住民とのネッワークを構築。
そこから得られる情報を保護司の活動にも生かしてきました。
気をつけて帰りな。
しかし、最近保護観察をしている少年の様子がつかめないケースが増えているといいます。
数年前に担当した少年はたびたび面接に現れず無断外泊も繰り返していました。
河西さんは、少年の居場所を突き止めようとしましたが地域で見つけることはできませんでした。
少年は、LINEで新しい仲間と知り合い自宅から遠く離れた東京などを転々としていたのです。
どんな生活をしているのか。
どんな交友関係なのか。
結局、詳しい実態をつかみきれずにいるうちに少年は、担当外のエリアに引っ越していきました。
さらに今、多くの保護司が直面している問題が地域社会の変化です。
東京・江東区で17年間保護司を続けてきた主婦の中澤照子さん。
これまで地元の暴走族など50人以上を更生させてきました。
こんにちは。
中澤さんはこれまで面接に加えて隣近所の人たちから、さりげなく聞き取った情報をもとに少年たちの生活を把握してきました。
ところが、子どもたちに目をかけてくれていた住民は高齢化し、街にあまり姿を見せなくなりました。
加えて、街の再開発によってここ10年で転入者が30%余り増加。
街の雰囲気が一変したといいます。
地域のつながりを前提として成り立ってきた保護観察。
地域社会が変容する中で岐路に立たされています。
今夜のゲストは、少年非行にお詳しい、福島大学大学院教授の生島浩さんです。
保護観察官として長年、更生に携わった経験をお持ちなんですけれども、今のリポートを通して、保護司の方々、少年が見えづらくなった、見守りづらくなった、関わりづらくなったといったことを繰り返しおっしゃってたんですけれども、保護司の方々の環境っていうのは、どう捉えてらっしゃいますか?
更生保護制度というのは、保護司さんですね、地域の民間の…の方々が、地域で少年を助けると、そういう制度なんですが、非行自体から地域性ということが消えて久しいと思うんですね。
今、保護司さんも地元のっていう言い方をされてましたが、地元の不良交友、あるいは地元の暴走族、そういうその地元というのが消えてしまった。
不良行為も盛り場にたまるとか、あるいはコンビニの周りにたまるということも、この数年来、消えてしまいましたし、暴走族も、もちろん名前はありますけれども、現実に地域の名前をつけて、暴走族、バイクも何十台も走ってた、そういう風景は全く最近、見なくなったと思うんですね。
ですから、その地域っていうのから非行が消えてしまった以上、保護司さんはどういう形で、そういう少年たちにアプローチしていくか、難しくなった、そういう子どもたちも、子ども会の活動だとか、地域活動というところに参加しなくなってます。
保護者の方もそうなので、保護司の方々、いろんな地域活動に参加されていますけれども、そういう形ではアプローチできないという事態が進行していると思います。
保護司の河西さんもおっしゃってましたけども、以前、担当していた少年が、SNSを通して、全く新しい交友関係を築いて、そしていつの間にか、担当外の地域に出てしまった。
見えないところでの新しい交遊関係、SNSなどを通したコミュニケーションツールというもので、接触も難しくなっているんでしょうか?
本当にそうだと思いますけども、その辺は、更生保護も、保護観察も、新しいツールを使わなきゃいけないと思います。
例えば、面接、カウンセリングも、最近ではメールを使うというようなことが、ほかの領域でも行われてますし、もちろん保護観察の場合は、本人かどうかっていう、本人認証の技術的な問題ありますけれども、そのへんはクリアして、メールなどを使って、きちんと接触していく、生活実態を把握していくと、そういうような方法が必要だと思います。
その生活実態を把握するうえでの、1つの大きな手がかりとなって、そしてサポートもしてきたのが、少年の親御さんたちだったわけですけれども、この親御さんのアプローチも難しくなっているというふうにいわれていませんか?
おっしゃるとおりで、少年たちの生活実態というのは、外からは見えません、ご家族しか見えないので、そのご家族にどうやってアプローチしていくか。
保護司さんは、親の先輩として、今まで家庭訪問などによって、アプローチしてたんですが、今、家庭訪問っていうのが、非常に難しくなっている。
学校現場でもそうだと思いますが、人の家庭の中に入って、いろんな事情を重ねた難しいご家庭が多いので、そこにアプローチしていくには、専門的なアプローチ、私、家族療法を専門としてるんですが、そういったようなアプローチも必要かと思います。
家族にはなかなか接触できない、少年たちの交友関係も見えない、本人たちとも違うつながりが出来ているっていうふうになりますと、この保護観察制度そのものに、無理が生じているんではないか、これが本当に有効な機能、この時代、できるんだろうかというふうに思えてしまうんですけど。
これは先ほどご紹介ありましたように、確かに再犯が1割、2割いらっしゃる。
でも8割の方は、保護観察で、再非行なく立ち直って、普通の生活をして、大人になっている、そういう事実を踏まえると、やっぱり時間と、社会側の寛容さというか、立ち直りを認める、それは必要だと思いますね。
ただ、現実に地域で立ち直らせることができる人たちと、それから専門的なプログラムが必要な人たちを、きちんとより分ける、選定する、私たちはアセスメントというふうに呼んでますが、そこは非常に厳格なアセスメントが必要になっているというふうには思います。
専門的なプログラムとおっしゃいましたが?
今、成人のほうでは進んでいるんですけれども、性犯罪から始まって、薬物であったり、暴力であったりということなんですが、中心は成人犯罪になっています。
やはりこの少年に対しても、さらに広げた形で、専門的なプログラム、ただこれは保護司ではなくて、保護観察官がやらなければいけませんが、その数が圧倒的に足りない状況ですので、そこらへんは、スタッフを充実させるということが必要不可欠だと思います。
保護観察官の専門性を生かさなくてはいけない分けですけれども、その体制が整っていないという、今の状況ですね。
さあ、全体として、地域の力が落ちてきている中で、子どもに関わる行政機関が連携して、保護観察を支える取り組みを始めたところも出てきました。
福岡県北九州市。
少年事件の発生率が全国の中でも高いことに長年、頭を悩ませてきました。
この街の保護観察は5年ほど前から他の行政機関と連携して行われています。
保護観察官の青木美香さんです。
青木さんは担当している少年たちの情報を幅広く得るためにたびたび、市民会館を訪れます。
この市民会館では、警察の組織で少年たちの相談に乗る少年サポートセンター。
そして教育委員会と児童相談所が1つのフロアに同居。
補導歴や学校でのトラブルそれに家庭環境などそれぞれが把握している情報を必要に応じて共有しています。
少年サポートセンターに連絡が入りました。
少年は学校を飛び出して帰宅。
母親では手に負えないといいます。
電話を受けた職員は、少年を一時保護する可能性があるため児童相談所と情報を共有しました。
このように、北九州市ではそれぞれの組織が持つ少年の個人情報をちゅうちょせず共有しています。
保護観察所を含め、それぞれの組織が守秘義務を負っているため情報を共有しても外部に漏れないという考え方を採用しているのです。
連携によって得られる情報を保護観察官の青木さんは積極的に生かしています。
この日、青木さんは保護司だけでは対応が難しい10代後半の少女と面接を行いました。
少女は、暴力事件などで保護観察を受けています。
すばらしい。
この日、青木さんは少年サポートセンターの職員に同席を頼みました。
交友関係を十分につかみきれていなかったため少女と顔見知りのサポートセンターの職員に様子を見てもらおうと考えたのです。
面接が続く中少女が、ある少年の名前を出したときでした。
サポートセンターの職員が少年の名前に反応しました。
以前から、その少年が薬物に関わっていることを知っていたのです。
保護観察だけではすくいきれなかった交友関係の情報を連携によって知ることができた青木さん。
その少年が出入りする場所に近づかないよう少女を諭しました。
少年たちに関わる大人たちが連携を始めて5年。
北九州市では少年犯罪の発生率がおよそ5%減りました。
保護司、保護観察官だけの取り組みでは限界がある中で、行政機関が情報を共有する。
非常にこれは有益な方法ではないかと思うんですけども、なぜ広がっていないんですか?
先ほど申し上げたように、多くの事情を抱えているケースが多いわけで、そういうときに、多くの機関とか、多くの専門職の人たちが、協力していくというのは、ポイントだと思います。
そのときに会議などは前から行われているんですが、どうしても、役所どうしの役割分担、そういう話し合いに終始してしまうということがあったと思います。
必要なのは、それはそちらの仕事かもしれないけれども、一歩踏み込む積極性と、それはこちらの仕事かもしれないけども、食い込んでこられることの許容性といいますか、そのへんを認める、小さな親切、よけいなお世話じゃないですけれども、そういった形の連携が必要だということで、いろんな機関が連携していくうえで、役割分担に終わらないということがポイントだというふうに思います。
ある機関の方が得た情報を、違う機関の方に積極的に伝えるということで、防波堤になるというか、またその更生に資するような対応ができるということは、多々あるんでしょうか?
大事なことは、それをなんのために使うかということで、秘密の保持が守られるかといっても、専門職どうしの話し合いというのは、全く問題はないわけですけれども、単なる目をつけるだけに終わることではなくて、きちんとその結果として、目をかけるという、方策まできちんと話し合われることが大事で、どうしても単なる情報共有、目をつけるだけで終わってしまうことが、今までの反省だったというふうに思います。
いろいろな社会の変化、あるいは、本当に再開発などによって、そのコミュニティーが変わってしまったということを、一つ一つ乗り越えていかなければならない、具体的にどんな対策がこれから必要だと思いますか?
保護司さんにしても、個人的な努力といいますか、個人的な、社会的なつながりだけで対応していくことは、難しいと思いますね。
きちんとした仕組みが必要だと。
今、法務省のほうで考えているのは、更生法のサポートセンターというのが全国に450か所ぐらいあるそうですけれども、そういう形で、保護司さんが共同して、力を出し合う、それから関係機関にも共同して働きかけるという、そういう仕組み作りが一点必要だというふうに思いますね。
それから先ほど繰り返しましたけれども、8割の人たちが立ち直っているわけで、それを支える社会の許容さというか、やっぱり時間と、立ち直りのためには、時間と、多くの人たちの手間暇がかかるわけですね。
でもそれをきちっとかけてくれれば、普通の生活が送れるように、普通のアプローチで、普通の人の志っていうか、ちょっとした気持ちで、立ち直りができるんだということを、日本の更生保護は示していると思いますので、そこはきちっとやっていかないと、欧米のように、立ち直りとか、そういうことでなくて、モニターということばに変わってしまってるんですが、そういう監視に終わらないように、きちっとしたサポート、支援、そういうものが、社会的な仕組みとして、維持されなければいけないというふうに思います。
2015/05/25(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「相次ぐ少年事件 問われる保護観察」[字]
今年2月川崎市で起きた中学1年生の殺害事件。加害少年3人のうち2人は保護観察中だったが、周囲はその前兆を掴(つか)めなかった。保護観察制度の現状と課題を探る。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】福島大学大学院教授…生島浩,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】福島大学大学院教授…生島浩,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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