とにかく自販機の台数が欲しい。
(栗林)ああ。
ハァ。
よいしょ。
(栗林)ああ。
もう!
(みさき)私も手伝います。
(栗林)女の子に手伝わせるわけにいかないよ。
僕の車だしね。
(みさき)栗林先生。
(栗林)わざわざこんな田舎に寄り道して雨まで降りやがって!あっ。
(湯川)代わりましょうか?栗林さん。
(栗林)大丈夫です!
(湯川)ご迷惑をお掛けしています。
(女性)いいえ。
どうぞ。
これ使ってください。
(湯川)いや。
しかし…。
(女性)私の分はあるんで大丈夫です。
どうぞ。
(湯川)ありがとう。
助かります。
(湯川)親切な女性です。
(栗林)貸してくれたんですか?
(湯川)ええ。
2本あるから1本どうぞと。
うわー。
ありがたいな。
恐れ入ります。
どうも。
おしゃれ傘。
女性ですか?ええ。
(栗林)どんな…。
(みさき)急ぎましょう。
(栗林)分かってるよ。
「御座位岳の祠」
(栗林)「烏天狗のミイラ」
(みさき)この土地に伝わる天狗伝説です。
(栗林)天狗伝説。
しかしこれはどういうことかな?
(栗林)立ち入り禁止って。
ハァ。
ここまで来てミイラを拝まないわけにはいかないですよね?失礼します。
(みさき)ああ。
ちょっちょっ。
ちょっと待ってください。
(栗林)何?・
(合田)みさき。
(みさき)あっ。
合田君。
(合田)湯川先生ですね?はい。
上都賀署の合田と申します。
このたびはご協力ありがとうございます。
(栗林)はっ?
(合田)県警から調査費用が出なかったのでホントに助かります。
調査費用?
(栗林)僕ら天狗のミイラ見に来ただけなんですけど。
協力って何のこと?
(合田)えっ?ちゃんと説明しなかったのか?みさき。
あっ。
先生。
実は今天狗のミイラを見ることはできないんです。
はあ!?
(栗林)君が誘ったんでしょ!?遠野君!
(みさき)ごめんなさい。
(栗林)茨城であった学会の帰り道なんですよ僕らは。
遠野君が私の地元はすぐ近くでそこに天狗のミイラがあるからぜひ見てくださいって!
(みさき)ごめんなさい。
(栗林)ゼミの学生である君がどうしてもって言うから湯川先生は!栗林さん。
そんな頭ごなしに責めなくても。
(栗林)いや。
しかし…。
遠野君。
いったいどういうことなのか説明してもらえないか?
(合田)僕が説明します。
ここは烏天狗を祭った神社であそこには烏天狗のミイラが納められているんです。
それはホントなんです。
でも3週間ほど前いきなりここの神主がそのほこらをコンクリートで固めてしまったんです。
なぜ?ミイラが盗まれるからと言って。
(栗林)ミイラを盗む?誰が?
(みさき)烏天狗です。
(栗林)烏天狗?この山にすむ烏天狗がミイラを取り返しに来るって。
(栗林)はあ?
(合田)自分の親戚のミイラなのかも。
・
(カラスの鳴き声)
(カラスの鳴き声)
(栗林)ハァ。
遠野君。
君仮にも物理学者目指してんだろう?物理学者がそういうオカルト話を。
気持ち悪い。
それで僕に何をしてほしいんだ?
(みさき)このコンクリートの中を調べていただきたいんです。
(栗林)何で?
(みさき)烏天狗のミイラがあるかどうかを。
(栗林)えー?神主さんは盗まれたくなくてふさいだんじゃないのか?
(合田)実はミイラを包んでいた布が発見されたんです。
神主の死体のそばに。
(栗林)死体!?2週間前に白骨死体で発見されました。
ちょうどここで。
(栗林)ええー!?
(みさき)かわいそう。
(栗林)何で急にそんな展開。
(合田)本署は事件性はないと判断しました。
神主は心臓に持病があって今までに何度も倒れたことがありましたから。
(みさき)白骨だったのは野犬かカラスに食べられたからだろうって。
でもこのほこらの中にミイラがなかったら話は変わってきます。
神主は烏天狗に殺されたのかもしれない。
(栗林)いやいやいやいや。
烏天狗なんているわけないだろう。
(みさき)でももしこの中にミイラがなかったらコンクリートで固められてるのに盗むことなんて普通の人間にはできないでしょ?
(合田)ここの山の烏天狗は壁を通り抜けられるといわれているんです。
(栗林)大の大人が何言ってんだか。
(合田)この村の人はみんな烏天狗がいるって信じています。
(栗林)あり得ないよ!あり得ない?えっ?1959年。
アメリカウェストバージニア州パインズビルの山中でダグラス・シェルトン少年が捕まえた猫には翼が生えていた。
(栗林)翼!?地元紙ポストヘラルドによればペルシャ猫に似たその猫の体長は75cm。
翼の長さは約23cmで。
翼の中には軟骨らしきものが入ってることが分かったそうだ。
(合田)猫に?猫以外にも翼の生えた馬。
翼の生えた蛇などは各地の伝説に登場する。
それらは同一個体内に異なった遺伝情報を持った細胞が交じっているわけで生物学上ではキメラと呼ばれている。
この烏天狗が仮にカラスと何かのキメラだとしたら。
実に面白い?とまでは言いませんがそこそこ興味はあります。
(みさき)湯川先生。
だったらさ君があのコンクリートをぶち壊してさっさと調べりゃ済む話じゃないの?
(合田)中のミイラを傷つけてしまいます。
(栗林)あのさ。
駐在さん。
簡単に調べろって言うけどもあんなんでがっつり固められてたら無理よ。
専用の機材でもないかぎり。
(みさき)持ってきました。
(栗林)えっ?
(みさき)振動ドリルに電磁波レーダー。
それに工業用内視鏡も。
十分だ。
よし。
空洞まで貫通している。
CCDカメラを入れてください。
(栗林)はい。
ああ。
栗林さん。
リジットスリーブを付けましょう。
(栗林)ですね。
遠野君。
持ってきてんでしょう?
(みさき)はい。
(結衣)みさき。
(みさき)結衣ちゃん。
(合田)結衣。
(結衣)久しぶり。
(栗林)今度は誰?
(結衣)あっ。
あっ。
先ほどはありがとうございました。
物理学者の湯川と申します。
栗林さん。
傘を貸してくれた女性です。
(栗林)えっ?ああ。
(みさき)結衣ちゃんだったの?私も車の中にいたんだよ。
(結衣)そうなの?
(みさき)小島結衣さんです。
地元の友達で。
(合田)幼なじみなんです僕ら。
ああ。
さっきはホントに助かりました。
(結衣)あれぐらいのこと。
(栗林)いい子だね。
どうしました?服がぬれている。
傘は?
(結衣)これはちょっと。
大丈夫です。
ミイラあった?
(みさき)あっ。
まだ調査中。
(栗林)えっ?君もミイラの関係者?
(結衣)えっ?
(合田)関係者どころじゃないですよ。
どころじゃない?実は死んだ神主と最後にしゃべったのが彼女なんです。
(ノック)・もうちょいもうちょい。
AとAマイナスぐらいですかね。
・そうだね。
はい。
OKです。
AとAマイナス。
・AとAマイナス。
・はい。
次いきましょう。
(美砂)あれ?
(美砂)湯川先生は?
(折川)いらっしゃいません。
(田窪)お戻りは夕方の予定です。
えー?ああ。
どうしよう?
(萌子)また変な事件が起こったんですか?違う。
(宇野原)でも岸谷さんが来るときいつも。
突っ返されたの。
経理から領収書。
今まで湯川先生がやった実験だの何だのの伝票に専門用語が多過ぎて意味不明だって。
だからそれをもっと細かく分かりやすく書き直してもらいに来たの。
(折川)ああ。
(萌子)警察にも経理とかあるんですね。
(田窪)大変ですね。
(結衣)私時々神社の掃除を手伝ったりしてたんです。
(みさき)前から結衣ちゃんは神主さんと親しくて。
ただあの日。
(結衣)《立ち入り禁止?》
(神主)《しばらく誰もここには入れん》《ほこらもふさいだ》
(結衣)《どうして?》
(神主)《烏天狗がミイラを取り返しに来よるんでなぁ》《えっ?》《これは私一人で解決しなけりゃならん問題なんだ》《あいつだって分かってくれる。
腹を割って話し合えば》
(栗林)あいつ?えっ?烏天狗!?
(結衣)その後神主さんの姿を見掛けなくなって合田君に相談したんです。
それで僕があの奥の院に行ってみたらあの場所で。
(栗林)白骨死体。
(合田)本署の鑑識によると死後2週間。
骨だけしか残っていなかったので結局死因は特定できませんでした。
ミイラを取り返しに来た烏天狗が神主を。
(栗林)いやいやいや。
それはないと思うけどな。
(みさき)でも栗林先生ビビってる。
(栗林)怖くないよ僕は。
東京にもいるんだよ。
オカルト事件ばっかり持ってくるおたんこ刑事が。
コーヒーまだあるね。
つぐからね。
いいよいいよ。
何じゃ?こりゃ。
恐竜?オクラホマ。
(宇野原)あっ。
それ内海さん。
(田窪)ああ。
お土産ですよ。
(折川)時々届くんです。
内海さんって私の前任の湯川先生の担当刑事だった内海薫さん?
(田窪)そうです。
(薫)《変人ガリレオの思考回路は私にも永遠に分からない》はあー。
お土産。
(合田)これが唯一残ってる写真です。
(栗林)えっ?写真なんてあんの!?
(合田)撮影されたのは60年前。
(栗林)早く見せなさいよ。
これが烏天狗のミイラ。
・
(結衣)あの。
私ちょっと失礼します。
(みさき)どうしたの?
(結衣)お母さんに何度電話しても出ないの。
(合田)家の電話は?
(結衣)出ない。
お父さんもいるはずなんだけど。
ああ。
じゃあ私も一緒に行こうか?お願い。
(みさき)うん。
哺乳類のようにも見えるし鳥類のようにも見えます。
(栗林)爬虫類のようにも見えませんか?湯川先生。
ここで待ってて。
(みさき)一緒に行くよ。
大丈夫。
通行止め?
(合田)雨で土砂崩れがあって町に下りる道がふさがってしまったそうです。
ふさがった?
(合田)復旧には最低でも数時間はかかるだろうって。
他に道は?
(合田)ありません。
えー!じゃあ僕ら帰れないじゃない!
(合田)はい。
すいません。
今夜はどこかに宿を取りますので。
(栗林)駄目だよそんなの。
先生はあした授業があるんです。
結果が出ました。
結論から言うとほこらの中にミイラはありませんでした。
えっ?
(栗林)ない!?工業用内視鏡で撮影したデータを解析したところそれらしきものは何も映っていませんでした。
(栗林)盗まれてるんですか?
(合田)やっぱり烏天狗が?そしてこの烏天狗のミイラも偽物でした。
偽物?
(栗林)えー!・
(結衣)キャー!神主がそれを知らなかったとは思えない。
もし何者かによってすでにミイラが盗まれていたのだとしたら宝を失ったことよりもそのミイラが偽物であることが発覚するのを恐れたんではないでしょうか?だからほこらをコンクリートで?じゃあ結衣が聞いたあの言葉は?《あいつだって分かってくれる。
腹を割って話し合えば》窃盗犯と取引をするという意味では?
(合田)窃盗犯?あくまで臆測ですが。
(栗林)そいつから金でミイラを取り戻そうとしたんだよ。
その取引に失敗して神主は殺されたんだ。
あいつ。
心当たりが?去年神主は金髪の悪がきを一人神社に住まわせていたんです。
どうしようもないやつで結局改心することなく姿をくらましました。
(栗林)その金髪君ならミイラの正体知ってるかもしれないな。
署に連絡します。
(栗林)お手柄でしたね。
先生。
今夜の宿を探しましょう。
(栗林)あっ。
ああー。
えー?
(合田)あっ。
どうした?みさき。
(みさき)結衣ちゃんのお母さんが殺されてるの。
殺されてる?
(栗林)えっ?
(みさき)お父さんも。
壁に烏天狗って。
烏天狗?
(栗林)はあ!?それで僕に何を?
(合田)お掛けください。
(合田)土砂崩れのせいで本署からの応援がいつ来られるかまだ分かりません。
今ここにいる警察官は僕一人で本署からはとにかく現場には触るなと指示が出ています。
そうでしょうね。
しかしこれだけの重大事件の場合初動捜査のミスが大失敗につながりかねません。
もし僕が何か大事なことを見落としていたら大変なことになります。
先生は東京で事件捜査に協力されているんですよね?仕方なくですが。
分からないんです。
分からない?あの状況をいったいどういうふうに考えていいのかまったく分からないんです。
これを見てください。
これが事件現場です。
ご主人の小島太一さんは胸を散弾銃で撃たれ奥さんの啓子さんは首を絞められて殺されています。
ほら。
奥さんの首に付いているこの血痕。
これは犯人が首を絞めたときに付いたご主人の血液でしょう。
合田さん。
僕は物理学者です。
分かっています。
警察に協力するのはあくまでも科学的検証が必要なときのみであって。
待ってください!最後まで聞いてください。
結衣がご両親のこの無残な姿を発見したとき玄関のドアにはまだ鍵が掛かっていたんです。
後から入ってきた先生のゼミのみさきちゃんも確認しています。
凶器に使われたとみられる散弾銃が庭に落ちていました。
犯人が逃げる際に投げ捨てていったんでしょう。
でもこの写真を見てください。
鍵が掛かっている。
そうです。
銃は庭に落ちているのに庭に抜けるこの窓には鍵が掛かっているんです。
犯人は壁を擦り抜けて逃げたとしか考えられない。
湯川先生。
(合田)この散弾銃は普段どこにあったんだ?
(結衣)リビングに飾ってあった。
(合田)弾を込めた状態で?そんなわけないよな?分かんない。
(みさき)結衣ちゃん。
やっぱり後にしよう。
しばらくここにいて。
私も一緒に。
(結衣)お母さん。
お母さんはずっとあのまんまなの?
(合田)鑑識が来るまで現場を変えちゃいけないんだよ。
体を温めた方がいい。
精神的なものもあるだろうが雨にぬれて体温が低下しているはずだ。
(みさき)冷たい。
あったかいシャワー浴びる?いいよね?シャワーを浴びる前に浴室の写真を撮っておけば問題ないでしょう。
(合田)分かりました。
行こう。
先生。
ごめんなさい。
遠野君。
君も一緒に死体を発見したのか?えっ?彼女と一緒にあの部屋に?私は車の中で待ってました。
そしたらすぐに結衣ちゃんの叫び声が聞こえて。
本当にごめんなさい。
(折川・宇野原)お疲れさまです。
「君たちに頼みたいことがある」「今からそっちに写真を送る」「そこに写っている椅子の形状を数値化してほしい」分かりました。
そしてそれを三次元モデリングしたものを作ってほしい。
もちろん座っている人間もだ。
(宇野原)「急ぎですか?」すぐに頼む。
詳細は後でメールする。
(一同)「はい」「あっ。
ちょちょちょちょ」・「何…」「先生。
今みんな忙しいんです」なぜ君がそこに?「先生のせいで山のような雑用が」ほら。
それをみんなに手伝ってもらってたんです。
「こっちで殺人事件が起こった」僕が捜査に関わることになってしまったんだ。
はっ?
(合田)僕は警察官失格です。
結衣がかわいそうで見ていられない。
お母さんは結衣のただ一人の肉親だったんです。
父親は。
小島太一は結衣の本当の父親じゃありません。
死んだ人間を悪く言いたくはないけどあれはひどい男でした。
小島太一はこの辺りで一番の金持ちでした。
不動産で成功して。
でも傲慢で自分勝手でみんな嫌ってたんですよ。
角速度か。
そんな男が十何年か前借金で苦しんでる子連れの女性と結婚した。
みんな驚いたそうですよ。
やはりそうか。
でもそれは見せ掛けのパフォーマンスです。
小島が結衣の母親と結婚したのは周りに敵が増え過ぎて自分の仕事に支障が出始めたときなんです。
しかし…。
かわいそうなバツイチの女性と結婚してその娘の面倒を見ている。
小島にとって周りの信用を得るための手段にすぎなかったんですよ。
分からない。
結衣は小学校のころから虐待を受けていました。
あの男から。
でも少しでも父親に気に入られようと必死でいい娘を演じていた。
僕にはよく分かりました。
合田さん。
ちょっと集中させていただけませんか?でもあいつは大人になって東京に出たがった結衣をこの町に閉じ込めて自分の仕事を手伝わせていたんです。
僕には興味のない話です。
かわいそうに思った母親が別れ話を切り出してもまったく受け入れなかった。
お前たちの自由など認めないって言って。
どこまでも2人を支配しようとしたんです。
殺されても何の不思議もありませんよ。
それは警察官にはあるまじき発言ですね。
警察官ですよ僕は。
でも一人の人間として許せなかった。
いつも結衣を助けてやりたいと思っていた。
合田さん。
個人的な感情は判断を混乱させます。
それどころかあなたのその考えでは被害者を最も憎んでいるのは結衣さんということになりますね。
結衣が母親まで殺すはずがありません!それに小島太一を恨んでいる人間はたくさんいるんですよ。
もうやめましょう。
僕は犯人にもその犯行動機にもまったく興味はありません。
どうぞ。
合田です。
・
(合田)道が通れそう?よかった。
(合田)はい。
現場は現状維持。
了解です。
・本署からの応援が?
(合田)1時間後に来れそうです。
復旧作業が予定よりも早く進んだそうで。
それはよかった。
これでもう僕は必要ありませんね。
先生には無理を言って来ていただいてすいません。
とんでもない。
先生にはご迷惑をお掛けしました。
(水音)
(合田)《壁を擦り抜けて逃げたとしか考えられない》
(みさき)《すぐに結衣ちゃんの叫び声が聞こえて》
(合田)《結衣の本当の父親じゃありません》な…何なんですか?合田さん。
鑑識が来る前に確認したいことがあります。
えっ?
(みさき)栗林先生。
栗林先生。
(栗林)はい。
はい。
(みさき)湯川先生が2人で先に帰ってくれっておっしゃってます。
えっ?2人で?2人で。
うん。
栗林先生と私とで。
(栗林)ちょっ。
ちょっと待った。
湯川先生は?
(みさき)鑑識が来るまでにやらなきゃいけないことがあるって。
(栗林)鑑識って。
何でそんな警察みたいなことやってんだよ?先生は。
(みさき)先生はあした帰るそうです。
どこかに泊まって。
(栗林)駄目。
駄目。
呼んできて。
あしたの朝一で湯川先生は授業があるんですから。
(みさき)栗林先生に代講してほしいそうです。
(栗林)駄目だって!代講!?僕に?
(みさき)湯川先生の代わりに。
あの女子学生で超満員の教室で?頑張ってくださいとおっしゃってました。
ああー!ついに僕の晴れの舞台が!
(クラクション)
(栗林)よっしゃ!あっ。
もしもし?先生に言われたことは全て調べあげました。
それで?ご苦労さまの一言ぐらい。
早くしてくれ。
実証できた?はい。
僕が立てた仮説はおそらく間違いないでしょう。
仮説?鑑識が来る前に君たちに話しておきたい。
(合田)君たち?どうぞ。
合田さんが見せてくださった事件現場の写真には物理学的に不可解な点がありました。
それはあのロッキングチェアです。
ロッキングチェア?小島太一さんはロッキングチェアに座ったまま死んでいた。
(合田)それのどこが不可解なんですか?ロッキングチェアに座っている人間を至近距離から散弾銃で撃ったらどうなりますか?
(合田)どうなるって。
椅子は?
(合田)後ろに傾く。
そう。
大きく傾くはずだ。
しかし上質なロッキングチェアはよくできていてどれだけ後ろに傾けても倒れることはまずない。
あなたのお父さんが座っていたのはまさにそれだ。
(合田)だったら問題ないじゃないですか。
問題はその後です。
後ろに大きく傾いたロッキングチェアはその後どうなりますか?それは…。
反動で前に戻ってくるはずです。
これもロッキングチェアの特徴の一つでこの反動を使えば足の弱い老人も立ち上がりやすい。
(合田)はい。
しかし座っていたのが散弾銃で撃たれた人間だったらどうなるのか?
(銃声)
(合田)えっ?椅子の形状や重量被害者の身長や体重を推定してざっと計算してみました。
その結果がこれです。
あっ。
(銃声)椅子が戻ってくる反動で体は前に投げ出されるはずだ。
銃で撃たれた人間がロッキングチェアに座ったままというのは明らかに不自然なんです。
ではなぜ死体は前に投げ出されなかったのか?椅子は揺れなかったからです。
(合田)揺れなかった?銃弾による衝撃を受けた瞬間同時に逆方向へ向かう力が働いたんだ。
体を前に引っ張る力が。
犯人が引っ張ったってことですか?犯人にはできない。
両手が銃でふさがってるはずだ。
(合田)もう訳が分かりません。
何をおっしゃりたいんですか?もし引き金を引いたのが被害者自身だったとしたら?
(合田)えっ?銃弾が発射された瞬間反作用で銃そのものから後ろ向きへの大きな力が伝わり椅子は揺れなかった。
つまり小島太一さんは足の指を使って自分で引き金を引いたんだ。
そう。
これは自殺です。
自殺!?
(銃声)
(合田)ってことは奥さんを殺したのはご主人?つまり無理心中だってことですか?でも待ってください。
先に死んだのはご主人ですよね?奥さんの首には彼の血が付いてるんですよ。
偽装されたんだ。
偽装?この事件にはもう一人別の人物が関与している。
その人物が捜査をかく乱させるために偽装工作を働いたんだ。
庭に散弾銃が捨てられていたのも偽装工作の一つだ。
(合田)えっ?そんなこと誰が?そもそも心中事件を強盗殺人事件に偽装するメリットがどこにあるんですか?メリット?
(合田)殺人事件の犯人が現場を心中事件に見せ掛けるっていうんなら分かりますよ。
ご主人を銃殺した後奥さんを絞殺した犯人がさも無理心中したように偽装するっていうんなら。
その反対です。
(合田)えっ?偽装工作をした人物にとって最も重要なのはその順番だったんではないでしょうか?順番?そうですよね?小島結衣さん。
(合田)えっ?父親が母親を殺害した後銃で自殺。
これは君にとって非常に都合が悪かった。
そこで実際には存在しない殺人犯が父親を射殺しその後母親を絞殺したふうに偽装したんだ。
そしてその順番をさらに強調するために母親の首に父親の血を付着させた。
僕に傘を貸してくれた後そのままここへ来た。
(結衣)《お母さん》
(結衣)《お母さん?》《お母さん》《あっ!?》
(結衣)《お母さん!?お母さん!お母さん!》《お母さん》《どうしてお母さんまで?》《何て勝手なの》《お母さん》そして僕たちの前に現れた後烏天狗の話を聞いた君はさらに捜査をかく乱させるために。
《ここで待ってて》
(みさき)《一緒に行くよ》《大丈夫》・
(結衣)《キャー!》
(合田)ちょっと待ってください。
何で結衣がそんなことしなきゃならないんですか?小島太一さんと結衣さんの間には養子縁組がなされていない。
つまり戸籍上は彼女は彼の子供ではないんです。
どうしてそれを?東京の知り合いの刑事に調べてもらいました。
事件のトリックを解明するためにはやむを得なかった。
戸籍上の子供じゃなかったら何だっていうんですか?相続の仕組みの問題です。
相続?小島啓子さんが太一さんよりも先に亡くなってしまったらその時点でもう太一さんと結衣さんの間には何の関係もなくなってしまう。
つまりその後太一さんが亡くなっても君に遺産は相続されない。
しかし太一さんが先に亡くなってしまえば夫の財産は妻へ。
つまり君の母親へ渡りその後君は全てを相続することができる。
そのための偽装だ。
(合田)嘘だ。
ロッキングチェアに死体が座ったままだったという現象と遺産相続のルールから導きだした論理的な仮説です。
(合田)でもあなたの推理にすぎません!実はこの仮説を裏付ける根拠が他にもう一つあるんです。
傘です。
(合田)傘?
(結衣)《どうぞ。
これ。
使ってください》《いや。
しかし…》《私の分はあるんで大丈夫です》《どうぞ》《ありがとう。
助かります》君が僕に傘を貸してくれたとき確かにもう1本持っていた。
だがミイラのほこらに来たとき君は雨にぬれていた。
《これはちょっと。
大丈夫です》傘を持っていたはずの君が雨にぬれていたということは傘を置き忘れたまま雨の中に出たということだ。
冷静に偽装工作をしたつもりでもやはり君は動揺していた。
雨にぬれたまま車に乗り込んで神社へ来た。
だからあんなに体がぬれて凍えていたんだ。
僕の仮説は間違っているかい?
(合田)結衣。
日本の警察は優秀だ。
母親の首に付いていた血痕が後から意図的に付けられたものだということぐらいすぐに突き止めるだろう。
君が行った偽装行為は簡単に見破られる。
そうですよね。
どうしてそんなこと…。
(結衣)だってあいつはお母さんを殺した!最近仕事がうまくいってないからっていつもお母さんに八つ当たりしてた。
きっとまたかっとなって口論になって。
それでお母さんを殺しちゃったの。
それで怖くなって自殺した。
最後の最後まで自分勝手。
私は許せなかった。
だから遺産を?
(結衣)そのぐらいの権利はあるでしょう?
(結衣)ホントはお金なんてどうでもいいんです。
(結衣)どうでもいいの。
私にはもう欲しいものなんて何にもないし楽しいことだって何にもない。
ただ…。
あいつの思いどおりにだけはさせたくなかった。
このまま終わるなんて。
こんな終わり方なんて。
お母さんがかわいそ過ぎる。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
結衣。
結衣さん。
警察には君が最初に現場を見た状況を正直に話すべきだ。
そして気が動転して現場を荒らしてしまったとそう言えばいい。
えっ?合田さん。
君は僕にこう言った。
自分は警察官である前に一人の人間だと。
彼女を守りたいなら後は全て君が判断すればいい。
僕には関係のない話だ。
湯川先生。
結衣さん。
あのときは傘を貸してくれてありがとう。
一つ頼みたいことがある。
鑑識が来る前にどこかいい宿を教えてくれないか?
(学生たちのざわめき)現象には必ず理由がある。
(栗林)悲しい理由がね。
(ハウリングする音)
(栗林)失礼。
続けよう。
2015/05/26(火) 14:55〜15:50
関西テレビ1
ガリレオ #07[再][字]
「偽装う(よそおう)壁を抜ける!?天狗伝説殺人事件!」
福山雅治 吉高由里子 渡辺いっけい 澤部佑 渡部豪太 香椎由宇 ほか
詳細情報
番組内容
湯川学(福山雅治)は、助手の栗林宏美(渡辺いっけい)、湯川ゼミの学生・遠野みさき(逢沢りな)とともに学会に出席する。その帰り道、湯川たちは、みさきに誘われて、彼女の地元にある神社に奉られているという烏天狗のミイラを見に行くことになった。
だが、一行がその神社——御座位神社に到着すると、みさきの幼なじみだという警察官・合田武彦(渡部豪太)が現れ、捜査協力に対する感謝の言葉を湯川に伝える。
番組内容2
実は、御座位神社の神主が、3週間ほど前に烏天狗のミイラが納められている祠をコンクリートで固めてしまったという。烏天狗がミイラを取り返しにくる、という理由からだった。しかし、その神主は2週間前に白骨死体で見つかっていた。地元警察は、神主には心臓の持病があり、度々発作に襲われていたことから事件性はないと判断していた。だが、もし祠にミイラがなければ、神主は烏天狗に殺されたかもしれない、と合田は言うのだ。
番組内容3
この話に興味を抱いた湯川は、みさきが予め用意していた機材を使って、祠の中を調べることにする。するとそこに、小島結衣(香椎由宇)という女性がやってくる。結衣も、みさきたちの幼なじみで、死んだ神主と最後に話をした相手でもあった。
そんな折、思わぬ事件が起きる。結衣の両親、太一(中丸新将)と啓子(宮田早苗)が自宅で殺害されたのだ。そして、殺害現場の壁には『烏天狗』という文字が書かれており…。
出演者
福山雅治
吉高由里子
澤部佑(ハライチ)
渡辺いっけい
ほか
スタッフ
【原作】
東野圭吾
【脚本】
福田靖
【企画】
鈴木吉弘
【プロデュース】
牧野正
【演出】
西坂瑞城
澤田鎌作
【音楽】
福山雅治
菅野祐悟
『オリジナルサウンドトラック』(ユニバーサルミュージック)
【主題歌】
KOH+『恋の魔力』(ユニバーサル J)
【制作】
フジテレビドラマ制作センター
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
ドラマ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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