相棒 season5 2015.05.27


(パトカーのサイレン)
(伊丹憲一)石場大善…。
(伊丹)たったこれっぽっちの出血で血も飛び散っちゃいねえや。
どこかで殺されて運ばれたホトケさんだ。
この上から落ちたって事にしてえのか?
(芹沢慶二)このビルの屋上にこれが…。
(米沢守)被害者は石場大善。
現場のすぐ近くの金融会社いわゆる街金の社長です。
死亡推定時刻は今日の午前0時から2時の間です。
(杉下右京)この傷に生活反応は?
(米沢)ありました。
(亀山薫)じゃ殺される前についた傷?これだけの深い傷です。
そのまま放っておくはずがありません。
しかし放っておかざるをえなかった。
じゃ殺された時についた傷?そうでしょうねぇ。
ちなみにこちらは?あっ…ちょっと。
後頭部です。
致命傷に付着してました。
科捜研で調べた結果赤レンガでした。
では凶器はレンガ?ええ。
どこかで殴り殺され運ばれたホトケです。
つまり殺害現場には…レンガがある。

(三浦信輔)これだけですか?金を貸してある客のリストは。
(高根沢ともみ)あはい。
そこにあるだけです。
秘書として何か社長が殺されるような心当たりは?
(ともみ)ありません。
大体本当に殺されたんですか?
(シュレッダーの音)おいおいおい…!とか何とか言って何気にシュレッダーにかけない!
(伊丹)何だ?これ…。
(伊丹)もうお前らは何をしに来てんだよまた〜。
ちわ〜す。
(三浦)警部殿…。
すみませんね。
は?何ですかね?これ。
ちょっと失礼。
古典的な裏帳簿ですねぇ。
なぜ裏帳簿だと?簡単な試算表です。
このアトランダムに並んでいる年月日らしき番号は顧客名の代わり。
その隣の列の数字は貸した元金。
そしてこの列は前の月の残金。
これが現在の残金。
ざっと計算しただけでも軽く年利30パーセントを超えています。
つまり違法な金利。
正規の貸し付け業務ではない。
ああだから裏帳簿。
さすが昔捜査二課にいただけの事はありますね。
これは刑事なら誰でもわかるような事ですよ。
プ!「プ!」じゃねえよ!マイルドにバカにされてますね。
痛っ…。
(伊丹)まあまあ…。
違法な金利で金を借りた客か…。
怨恨の線ですかね?ああ。
って話に入ってんじゃねえよ!はい。
で…この裏帳簿の客は?
(ともみ)あ…それについては社長しか…。
その裏帳簿ですがデータをプリントアウトしたのでしょうねぇ。
きっと元になっているデータがどこかにあると思いますよ。
…捜せ!あはい。
ああここにあるのならわざわざプリントアウトして置いておく必要はないのではないでしょうか。
プ!チッ…!
(三浦)これお借りします。
…失礼。
(三浦)行くぞ!え…どこ行くんですか?ガイシャの自宅だよ!何すか?「ランゲ」…。
「ランゲ」?少なくとも月に一度は入っている予定ですねぇ。
ああ「ランゲ」って…何すかね?「ランゲ」…フランス語では「舌」という意味ですねぇ。
ええ…。
(ともみ)そこは社長行きつけのレストランです。
レストランですか…。
行かれた事は?何度か…社長と。
どのようなお店なのでしょう?…はい?いえいえ。
レストランに行く予定をわざわざスケジュール表に書き込んでいるのが気になりましてね。
ああ。
有名なワイン評論家のお店です。
「ブラインド・テイスティング」?ん?レンガ造りですね。
…あっ!?あっ…ここですね。
何やってるんすかね?ワインの銘柄とボトルの形を隠していますねぇ。
あああれがブラインド・テイスティング?ええ。
その中でもかなり高度なテクニックですよ。
あの黒いグラスはワインの色をわからなくするため。
味覚と嗅覚だけでワインの銘柄やそれが生産された年までをも当てる利き酒です。
ああ…。
それを雑誌の連載で行うとは随分思い切った事をなさる方のようですねぇ。
(藤巻譲)この滑らかな渋みは…メルローだね。
そして動物的な香り…豊かな果実味…。
「トロロン・モンド」だね間違いない。
(若月)「トロロン・モンド」だとすると先生ヴィンテージは?サンテミリオン地区の…いやいやボルドー全体の当たり年のワインだね。
えーっと…2000年の「シャトー・トロロン・モンド」。
どうかな?
(若月)2000年の「トロロン・モンド」お見事です先生。
(関紀子)さすがです先生。
今回も全問正解ですよ。
今度こそ間違えてもらおうと思って難しいワインばっかり用意したんですけどね。
おかげで幸せな思いをさせてもらったよ。
先生来月こそは覚悟しておいてくださいよ。
楽しみにしてるようん。
ハハハ…。
ありがとうございました。
じゃあ失礼します。
(藤巻)はい。
(谷山)失礼します。
2005年も楽しみだねこれね。
はい!すみません。
勝手にお邪魔しまして。
(藤巻)どちら様でしょう?警視庁の杉下と申します。
亀山です。
あの…何か?昨夜遅く金融会社の社長石場大善さんが転落死されました。
ああニュースで見ましたが。
その石場さんですが昨夜こちらのお店にお見えになってますね?ええ。
それが何か?その事で少しお話を伺いたいと思いまして。
あの社長が何時頃いらして何時頃帰ったとかですね。
はあ…。
あのそろそろ開店の準備を。
あ頼む。
その前に1つだけ。
…はい。
昨夜0時から2時の間何をされていたでしょう?…え?ああすいませんね。
被害者が最近接触した方みなさんにお訊きしているものですから。
私はここが11時に終わりますからそれから片づけをして店を出たのは0時頃です。
で夜1時には家に。
そうですか。
先生は?ええ私も彼女のすぐ後に店を出ました。
それで帰宅したのがやはり夜1時頃でしたか。
そうですか。
ええ。
亀山君彼らも。
あ…はい。
あ!先生。
はい?1つお願いが…。
お願い?何でしょう?雑誌を拝見しました。
先生ご自慢のワインを拝見させていただけませんか?
(紀子)こちらです。
(藤巻)どうぞ。
重厚なレンガ造りですねぇ。
ワインは呼吸するからね。
湿度を保つレンガが最も適しています。
あ悪いけど。
あもちろん触りません。
下手に揺らして一方向に溜めた澱が混ざってしまっては大ごとですからねぇ。
わかってくださる刑事さんで助かりますよ。
恐縮です。
失礼しまーす。
しかし素晴らしいワインばかりですねぇ。
この棚にあるワインはすべて最近買ったものなんですよ。
最近…?これすべてですか?ええ。
ここにあるワインだけで5000万円は下らないと…。
はあ…。
5000万!?ちなみに購入するワインのセレクトは?
(紀子)もちろんすべて藤巻先生が。
儲かってんですねこの店。
いやその逆ですよ。
この店は大赤字なんです。
えっ!?こんなにいいワインばっかり揃えてるのに?そこまで高いワインを飲む客などほとんどいないという事ですよ。
つまりここにあるワインは先生の個人的なコレクション。
少し違うかな。
ただ並べて楽しむだけじゃない。
飲むんです私が。
だから経営的には大赤字になる。
豪勢な赤字理由ですねぇ。
舌を磨くにはそれ相応のお金がかかるという事ですよ。
刑事さん。
(紀子)あっ!?おい君!!はいはいはい…?おやおや…。
え…何すか?ああ…!失礼しました。
これは彼に買い取らせます。
え!?
(杉下・藤巻)ああ…!
(亀山美和子)これが5万円!?ああ…。
5万円これ!?あ…あぁ…。
もうちょっとどういう事よ!薫ちゃん。
すいませんすいません…。
(宮部たまき)ごめんなさい。
うちにはこんなグラスしかないんですけど…。
例えば…。
被害者が…こうして…ワインを開けている時に突然後ろから頭を殴られたとしたら…。
ガツン!ああーっ!?あ…!?それで指を切っちゃった?かもしれません。
あのワインセラーには1本だけ…このキャップシールが切り取られたボトルがありました。
(美和子)じゃそのワインセラーが殺害現場?すぐに鑑識入れましょう。
米沢さんに連絡だ。
しかしそれでワインセラーから殺害の痕跡が出てソムリエナイフから被害者の血液が検出されたとしても殺害場所を証明したに過ぎません。
そこに入れる人なら誰でも犯人の可能性ありますよね?ええ。
店のシェフもギャルソンも。
藤巻先生もソムリエの彼女も。
(たまき)女性の場合はソムリエール。
あそうなんすか。
え…もしかして右京さん。
その事を薫ちゃんに教えるためにこのワインを?ええ!?ならもっと安いワインでよかったんですけどね。
いえこれはただ僕が個人的に飲みたかったんです。
えっだったら自分で買ってくださいよ!
(美和子)うわ…美味しい!
(たまき)亀山さんのおかげでいい思いしちゃった〜。
支払いはもう済んでますよ。
え…これの?ええ。
ああ…ごちそうさまです〜。
ハッハッハ…。
いただきまーす!はいカンパーイ!え…?すいません。
うん!ああうまい!で明日どうしましょうかね?ワインの費用はどこから出たのでしょう?そらあ先生が買ったんだから金も先生でしょ。
5000万円も?金持ちですよねぇ。
お店は大赤字。
あそうか。
殺されたのは街金の社長。
確かに藤巻先生から融資の申し込みあったようです。
ああ。
でも融資不可になってますけど。
融資しなかったって事ですか?ええ。
担保不良ですね。
え担保ならあのレストランがあるじゃないすか?あのレストランもご自宅にもすでに銀行の抵当権がいくつか設定されてますね。
はぁそんなに借金あったんだあの先生。
高いワインいっぱい買ってる場合じゃないじゃないですかねぇ?確かに新たに5000万円ものワインですからねぇ。
それこそ担保になりそうな額ですもんねぇ。
(ともみ)残念ながらうちでは飲食物担保設定しないんで。
貸金業務としてはできない?ええ。
しかし個人的にお金を貸すのなら担保は何でも可能?まあそれは個人の自由なんで。
あ裏帳簿。
その顧客とするならワインの担保も成立しますねぇ。
社長の個人的な賃貸借については私は知りません。
でもそこまでして先生に金貸すってのはね。
先生と社長とはどのような関係だったのでしょう?どのようなって別にレストランのオーナーとその常連客じゃないんですか?それだけでしょうか?まあ仲は良かったみたいですけど。
仲は良かった…。
以前はよく一緒に会食してました。
「以前は」…?最近は違っていたかのようなおっしゃり方ですね?まあ最近は互いに忙しかったか…もしかしたら…。
(藤巻)これはどこのかな?
(ギャルソン)厚岸産の生ガキです。
(藤巻)いいカキが入ったんだね。
(ギャルソン)はい。
(石場大善)じゃせっかくだからここは「シャブリ」で。
(ソムリエ)はい。
ヴェルジェの1級畑を頼む。
ヴェルジェの1級畑でございますか…。
…かしこまりました。
石場君…生ガキなら「シャブリ」ってそんな「バカの一つ覚え」みたいに。
それも樽発酵させたヴェルジェの1級畑なんて…。
最悪の組み合わせじゃないか。
ねえ?え…ええ…。
いささか屈辱だったのかもしれませんねぇ。
ええ。
その日を境に会食する事は…。
でもさっきの話じゃわかんないっすね。
はい?いや藤巻先生が石場社長を殺す動機ですよ。
そうでしょうか。
逆ならまだわかりますよ。
恥をかかされた石場社長が藤巻先生を殺したってなら。
そこで重要な点が2つ。
何すか?その「シャブリ」の件があって以来石場社長は藤巻先生を快く思っていなかったかもしれない。
かもしれませんね。
にもかかわらずお金を貸していた可能性がある。
うーん変ですよねぇ裏帳簿の客にまでして。
そして月に一度は先生のお店に通っていた。
先生の事はともかく店の事は気に入ってたんですかね?もしくは月に一度店に行くべき用事があった…。
…ん?
(藤巻)確かに私は石場君に融資を頼みました。
ワインを新たに買い増すために。
ちょうどいい出物がいくつかあったんでね。
しかし融資は断られた。
何か…担保不足とかでね。
では新たに購入なさったワインの5000万円はどちらから?その事をお話ししなければならない義務があるんですか?義務ではありません。
任意です。
それでは今日のところはお引き取りください。
ちょっと整理しなければならない事があるんで…失礼。
エチケットですね?ちょっと…よろしいですか?どうぞ。
エチケットって…?ラベルの事です。
ああ。
さすが先生。
分析もされてらっしゃる。
エチケット収集も私にとって大切な勉強の1つだからね。
きれいにはがせるものなんですねぇ。
今はそれをはがすシートはどこでも手に入りますから。
石場さんが殺された夜奥様と飲まれたワインはどれでしょう?…は?奥様に伺いました。
あの夜先生は1時頃帰宅されて就寝前の奥様を呼び止め一緒にワインを飲まれた。
そのワインのエチケットはどれでしょう?それは…そこにはないよ。
コレクションされなかった?それほどのワインじゃなかったんでね。
あそうですか…。
(藤巻多津子)お昼の用意ができました。
わかった。
これはこれは失礼しました。
また伺います。
ああ。
どーもお邪魔しました〜!お構いもしませんで。
ご主人はお昼からワインですか?ええ…これも勉強だとか言って。
あ…あの夜ご主人と飲まれたワインですが銘柄は?銘柄…?さあ…。
私ワインには興味がないもので。
何だまだいたのか。
ああ…。
お昼からワインとはうらやましいですねぇ。
美味しそうなワインですね。
飲みたいのかね?いやぁ飲みたいですけど勤務中ですから。
構いませんよ。
え?い…いやでもあの…。
エヘヘ…。
すみません。
あぁ…。
あ…。
(グラスに注ぐ音)ああいい音。
どうぞ。
あじゃいただきます。
ホントにいいすね?おお〜うまいっすね。
ワインの味がわかるのかね?いやもう…わからないんすけどこれも何かコーヒーの香りがしちゃったりするし…。
え…?あすいません。
ちょっと待ってなさい。
でも本当に奥さん飲んだんですかね…?はい…?先生とワインあの夜…。
たとえご夫妻でワインを飲まれたとしても死亡時刻の深夜0時から帰宅される1時過ぎまで藤巻先生にはアリバイがありません…。
そっか…。
その間にワインセラーで殺して死体を発見現場まで運ぶ事は十分可能ですもんね…?証拠もありません…。
はい…。
ああ…。
何が始まるんです…?ブラインド・テイストをさせるつもりだと思いますよ。
俺そんな事できませんよ。
飲んでみなさい。
あ…はい。
あっ…ああ同じコーヒーの香りですけどさっきより断然うまいっすね。
やっぱり…。
まぐれじゃなかったんだな。
は?あちゃ〜同じワインだ。
確かに。
同じ「ペトリュス」というワインですが先程君が飲んだのはこちらの87年。
一方今飲んだのは当たり年といわれている86年。
外れ年のワインは風味や香りを失わせないようにデカンタージュをしない。
しかし当たり年のワインはデカンタージュをしたほうが美味しく飲めるとおっしゃる方が多いようですよ。
大した知識ですね。
あいえいえ…。
しかし彼の舌がすごい。
お2人が一緒になればこれはいいワイン評論家になれるかもしれませんよ。
(2人の笑い声)実はうちの店でワインの試飲会をやってるんですがね。
試飲会ですか?ええ。
今度なかなか飲めないボルドーを何本か開けようと思ってるんですが。
いやうらやましいよ。
君のようなそんな舌が持てるなんて。
いや…。
先生も若い頃から鋭敏な味覚をお持ちだったのでしょうねぇ。
いや…あまりにも無頓着だった。
ぜひお伺いしたいですね。
味覚を究める事になったきっかけを。
ああ興味あるな。
私がまだソムリエをしていた頃にね。
あソムリエだったんすか先生。
大切な試飲会があってね。
大切な試飲会ですか。
有名なワイン評論家や日本を代表するマスターソムリエたちが客として来ていてその席で開けられたのが…かの有名な「ロマネ・コンティ」だった。
(安藤久)1986年「ロマネ・コンティ」。
いいねぇハハハ…。
(藤巻の声)もちろん私も飲んでみたかったがまだその席に呼ばれるような身分じゃなかった。
…素晴らしい。
(安藤)「ヴォーヌ・ロマネ」を用意したまえ。
おい君!
(藤巻の声)そんな私の気持ちに気づいたのかその席にいた安藤先生という評論家が何とその「ロマネ・コンティ」を1杯私にご馳走してくれると言い出してね。
当時でもたった1杯で数万円というワインだ。
(藤巻の声)ありがたくいただいたよ。
懸命に味わって自分の知りうるすべての表現を使ってそのワインを褒めた。
絹のような舌触り…豊かな果実味。
偉大なテロワールと丁寧な手作業を感じさせます。
さすがは稀代の銘酒「ロマネ・コンティ」です!
(一同の笑い声)
(藤巻の声)その瞬間試飲会は嘲笑の渦になったよ。
私が飲まされたのは「ロマネ・コンティ」などではなく同じロマネ村で作られてはいるが100分の1程度の値段の「ヴォーヌ・ロマネ」というワインだったんだ。
それから私はその店ではもう働けなくなった。
えどうして?だってそんなソムリエが客にいくらワインのアドバイスをしたって何の説得力もないだろ。
それで評論家の道を?ああ。
ワインときちんと向き合うためには人のためにワインを開けるソムリエじゃ難しいと思ってね。
今でも夢に見て夜中に急に飛び起きるんだ。
すると体中が熱いんだ恥ずかしさで。
いやいや…悔しさで。
(一同の笑い声)「ロマネ・コンティ」ですって。
その時同席された先生方とは今でも?まさか。
ええ!?今じゃ百発百中の舌をお持ちなのに。
また彼らに会う時までに私はもっともっと自分の舌を研ぎ澄ませておかなければならない…。
そう思ってるんだよ。
はぁ〜…。
(藤巻)必ずいらしてください。
ええ必ず伺います。
あでもあの…ワインの試飲会ってのはどんな格好してくれば…?
(藤巻)格好…格好は何でも構いませんが。
こんなのでも…?ああ…。
(笑い)ちゃんとさせますのでご安心ください。
あよろしくお願いします。
じゃ開店の準備がございますので私はこれで失礼します。
ああ藤巻先生!…1つだけ。
まだ何か?あの夜奥様と飲まれたワインですが…。
またその話ですか。
何でしょう?そのワインの銘柄を教えていただけませんか?あ先生大変です!
(藤巻)あどうした?なくなってるんです!なくなってる?何が?「パルトネール」です。
「パルトネール」の1986年がセラーにないんです。
今在庫確認してたら…。
どうしよう私…全然気づかなくて。
落ち着きなさい。
でも「パルトネール」ですよ!86年の。
私なんだよ。
は?すまない。
君にはちゃんと話しておくべきだったね。
それはどういう…?こないだね私が店から持ち出したんだよ。
飲まれたんですか?あの「パルトネール」を。
妻とね。
普段の労をねぎらってというやつだ。
ではあの夜奥様と飲まれたワインというのは…。
ああそういう事です。
ああよかった…。
驚かしてしまったね。
申し訳ない。
在庫確認戻ります。
ああ頼むよ。
じゃ失礼。
先生!はぁ…今度は何でしょう?先生は先程こうおっしゃいましたよねぇ?そこにはないよ。
コレクションされなかった?それほどのワインじゃなかったんでね。
ボルドーで最も高価なしかも当たり年の1986年の「パルトネール」はコレクションするほどではありませんか?仕方がない。
正直にお話ししましょう。
お願いします。
実は…私はあの夜かなり酔っていてね。
誤って捨ててしまったんだ。
誤って捨ててしまわれた?みっともない話だけどね時々やってしまう。
ああそうだったんですか…。
もったいない事したよ。
ええ…本当に。
一昨日の夜ご主人と飲まれたワインですが…。
(多津子)またその話ですか?デカンタージュされましたか?はい?あの…デカンターにですね。
知ってます!あの人がボトルからそのまま注いでくれました。
それが何か?いえ。
ありがとうございました。
失礼しました。
あ失礼しまーす!
(紀子)何か?すみませんねぇ。
先生が先日こちらから持ち出し奥様と飲まれた「パルトネール」ですがこちらのお店に「パルトネール」はそれ1本だけでしょうか?ああ…いえ。
うちにある「パルトネール」はあとこれだけです。
87年のものですか。
ええ。
先生がお飲みになった86年の「パルトネール」1本で87年のなら数十本は買えます。
そんなに違うもんなんすか?それがワインです。
これですべてがわかりました。
手口も動機も…。
ああ…。
その手口と動機を突きつけて素直に吐きますかね?先生。
素直に自白はしないと思いますよ。
(角田六郎)おい…!おっ!ええ〜!?ど…どうしたの?ヘヘ…。
ハハハ…人の結婚式出る前にさ自分の結婚式ちゃんと挙げなさいよ〜。
ワインの試飲会ですよ。
ワイン?いいねぇ暇な上にオシャレで。
カァ〜…。
では行きましょうか。
え…もうですか?途中何人かお迎えに上がらなければなりませんから。
誰を?藤巻先生を素直にさせる方を。
ん…?行ってきます。
おう。
オシャレ〜。
いらっしゃいませ。
まだ何かご用ですか?はい?今夜は月に一度の大切な試飲会なんです。
またの機会にして…。
招待していただきましたよね?お招きいただきましてありがとうございます。
さようでございました。
それではこちらへどうぞ。
あっ…安藤先生!?いやこれは光栄だね。
覚えていてくれたんだ。
(嶋定好)雑誌で連載見てるよ。
ご活躍だね〜。
すごいもんだねぇ君のブラインド・テイスティング。
ま私は昔から君の味覚には一目置いてたけどね。
…え?ああそうそう君がソムリエをしていた時からねぇ。
覚えていらっしゃらないんですか?ん?私がソムリエをしていた時その…「ロマネ・コンティ」を。
(嶋)おお!そういえば一緒に飲んだね。
ああそうそう!あれは素晴らしい「ロマネ・コンティ」だった。
(安藤)ねえ?ハハハ…。
(藤巻)いや…私は「ロマネ・コンティ」は飲んでおりませんが。
え?何で…飲んでないの?…「何で」?
(一同の笑い声)「ロマネ・コンティ」ですって。
すみません。
勝手にお客様をお連れして。
いいっすよね?どうぞこちらへ。
どうも。
ちょっとよろしいですか。
…はい。
87年の「パルトネール」がセラーに1本ありますよね?ああ…ええ。
先生にはお話ししたのですが1つお願いがあります。

(藤巻)飲み頃はあと数年先ですがデカンタージュする事でうまく開かせる事ができたと思います。
(拍手)…何だ!?これは。
予定になかったじゃないか。
セラーから持って来たのか?はい。
じゃ戻してきなさい。
(嶋)おお「パルトネール」か!ほぉ何年もの?あ…87年のものですが。
87年か…いやそら残念だな〜。
じゃ戻しておこうな。
え?え…。
うん?あ…これそちらの刑事さんから。
…え?このワインの費用は我々が持たせていただきます。
ほぉ刑事さんのおごりとは面白いねぇ。
じゃあ我々が払っている税金分は振る舞ってくれるのかな〜?
(一同の笑い声)これはこれは手厳しいですねぇ。
ああ!藤巻先生はこれの86年を飲んだ事があるんですよね?86年の「パルトネール」を!?
(嶋)そらすごいな〜。
(安藤)そらすごい。
ぜひ君のテイスティングを聞きたいね〜。
(キャップシールを切る音)あっ!?
(嶋)86年もうらやましいけど87年でもいいじゃないですか。
いただきましょうよ。
(安藤)そらもう…。
どうぞどうぞ。
(安藤)楽しみだな〜。
アハハハ…。
失礼します。
ああどうも。
おい…何してるんだ!?君は。
…え?それはちゃんとデカンタージュして…。
えっデカンター!?ハハハハ…!87年のボルドーをですか?
(嶋)藤巻君87年は当たり年じゃないんだから。
何言ってんだか…。
この「パルトネール」をデカンタージュしないなんて冒だよ…。
先生何か?あ…いえ。
香りはきれいだが…弱いねまだ閉じている。
(安藤)涙はしっかりしている。
(安藤)うん「パルトネール」らしい干しスモモの香りはするが…やっぱり弱いねぇ。
やはりこれは藤巻先生のおっしゃるように…デカンタージュしたほうがよさそうですね。
うーんそうまだ本来のポテンシャルじゃないような気がするなぁ。
いや…この「パルトネール」は結局そのレベルのワインなんでしょう…。
それこそデカンタージュなんかしたら台無しになってしまうと思いますが…。
ああ…。
うちの杉下のデカンタージュもなかなかのもんでしょ?ええいいですねぇ。
ね?ね?ね?
(一同の笑い声)これ楽しみだよ君…。
おお…!一気に味と香りが花開いたぞ〜。
あスゲーうめえ。
森の枯葉のにおいもするわ。
(嶋)ああこの絹のような舌触り…さすが「パルトネール」だね〜。
これがホントに外れ年の87年のですかね〜?先生はお飲みにならないのですか?あ…いただきます。
素晴らしい…。
ええ…本当に。
(安藤)しかしやっぱりあれだね86年の「パルトネール」には遠く及ばないねぇ藤巻君どう?86年の「パルトネール」をお飲みになった事が?以前ね。
(嶋)うーん。
この前飲んだ92年の「パルトネール」のほうが上出来かもしれん。
(安藤)うーんじゃあこの後はそうだな〜同じ年の「マルゴー」を飲みたいねぇ。
(安藤)口直しにハハ…。
「口直しに」…?
(嶋)同感だね〜「マルゴー」なら同じ87年でももっと感動するかもしれないからねぇ…。
はあ!?…はあ?
(藤巻の笑い声)この…この「パルトネール」が…86年の「パルトネール」に遠く及ばないって?それで92年の「パルトネール」のほうがもっといい?何その後に…口直しに87年の「マルゴー」が飲みたい!?何それ?
(笑い)私は…私は今までこんな人たちの事をこんな人たちに言われた事をずっと気にして…。
私は今まで…今まで何をやってたんだ私は…。
ど…どうしたんだ?
(藤巻)この素晴らしいワインをあなたたちのような人に侮辱させる事は絶対に……絶対に許さない!!何だ君!
(嶋)無礼じゃないか!つまり…これは87年の「パルトネール」ではない。
(紀子)え…?でもそれ。
確かにエチケットこそ87年となっていますが中身はボルドーの大当たりの年86年の「パルトネール」。
そうですね?先生。
それなのにこの人たちは外れ年の「パルトネール」と区別もつかなかった。
何だそりゃ…。
ハハハハ…。
何でこんな事を?失礼だ君は!
(安藤)君おい!侮辱するのか!?
(手を叩く音)皆様にはお口直しにバーコーナーのほうで「マルゴー」をお楽しみいただきましょう。
お願いします。
行こう。
許せない!
(嶋)まったく…失敬な。
(安藤)失礼もいいかげんにしたまえ!!話していただけますね?なぜ…86年のエチケットを87年のエチケットに張り替えたのか…?いや…張り替えなければならなかったのか?私は…自分の舌を…この味覚を磨くためだけにすべてを犠牲にしてきた…。
だからうれしかった…。
…うれしかった?ああ…。
石場君が私の舌に出資すると言ってくれた時だよ。
(藤巻)おい私の舌に出資すると言ったあの言葉は…?嘘じゃありませんよ。
だから金は貸したでしょ。
そしてこれだけのワインを購入した。
じゃ何で今月からこんな返済額になってるんだ?
(石場)先生契約書よく読まなかったの?…何!?契約後半年を過ぎた段階で「元金に対して月一割五分」…500万の金利になるんですよ。
そんなバカな話あるか!!
(笑い)先生は本当にワインの事しか知らない「ワインバカ」なんですねぇ。
絶対に無理だ。
返せるわけがない!返せますよ…ここのワインで。
何だと…?あそうか…。
(藤巻)それで…ここのワインを担保にしようなんて…。
すごいですねぇ…。
先生のルートを通すとこれだけのワインが手に入るんですねぇ。
…え?この「ル・パン」の86年なんて一度手放したら二度と手に入らないだろうなぁ。
何でそんなマネをするんだ!?いい顔だ。
何!?俺は先生のそういう顔をずーっと見たかった。
どういう事だ?あの夜…俺がどんな気持ちだったかわかりますか?あの夜…?先生が俺の事をたかが「シャブリ」でそれも人前で「バカの一つ覚え」と言った夜の事だよ!!何の話だ…?ふんやっぱり覚えていない。
(藤巻)おい!何する!?何って…?祝杯ですよ。
やめろ!!なあーっ!!このワインはねもうすべて私のワインなんですよ!
(笑い)あっ…!?ああ…。
それで血痕が付着した86年のエチケットを87年に張り替えたんですね。
その夜奥さんと飲んだワインは1987年の「パルトネール」だったんですね?だからこそデカンタージュをしなかった。
私の持っているすべてのワインを持っていかれる…。
そう思うととても耐えられなかったんだ。
先生がかつてあの2人にされた事を実は先生も…してたんですね石場さんに。
したほうは忘れてもされたほうはいつまでも傷となるんですねぇ。
ところでこの「パルトネール」まだ先生のご感想を伺っていませんでした。
おお…。
それはもう…ボルドー右岸のメルローらしいそうベルベットな口当たりで…うん…上質のトリュフの香り…。
美味しい…!これは…本当に美味しい。
(ため息)本当は…それだけでよかったんだ…。
(グラスの割れる音)血痕です。
間違いありませんねぇ。
血液反応出たみたいですよ。
あのワインセラーから。
そうですか。
黙ってる事もできたんですよねぇ。
86年の「パルトネール」を認めるって事は自白も同然。
店も名声もすべて失う事になるのに。
すべてを失う事になってもそれだけはできなかった…。
ワインに翻弄された人生だったのかもしれませんねぇ。
2015/05/27(水) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
相棒 season5[再][字]

「殺人ワインセラー」

詳細情報
◇出演者
水谷豊、寺脇康文 ほか

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

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