クローズアップ現代「ほかに行き場がなかった〜川崎 簡易宿泊所火災の深層〜」 2015.05.27


猛烈な炎に包まれる川崎市の簡易宿泊所。
10人が死亡。
10日たった今も多くの人の身元が分かっていません。
今回、私たちは全焼した宿泊所から逃れた人26人を取材しました。
初めて明らかになった宿泊所の詳細な構造。
内部には燃えやすい材質が使われ特異な構造が火災を急速に拡大させたことが分かりました。
宿泊者の多くは生活保護を受けている高齢者。
行き場のない人たちの事実上の住まいとなっていたのです。
さらに自立した生活を目指す40代の働く世代でも宿泊所に入るとなかなか抜け出せない現実が見えてきました。
行き場のない人たちの受け皿となってきた簡易宿泊所。
火災から見えてきたその実態に迫ります。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
川崎市の火事で全焼した2軒の簡易宿泊所で名簿にあった74人のうち70人が生活保護を受けていました。
火元となった宿泊所です。
建物の内部は細かく仕切られ1つの部屋は3畳ほどの広さです。
1泊2000円程度。
光熱費がかからずキッチンやトイレは共同です。
高度経済成長期に全国各地の工業地帯の近くで爆発的に増えた簡易宿泊所は日雇いや出稼ぎの人々の一時的な住まいとして利用されました。
川崎市は、簡易宿泊所が密集する地域の一つで51軒が軒を連ねていましたが宿泊する人の実に9割1349人が生活保護の受給者です。
かつて日雇いなどで働く人が短期間利用する宿だった簡易宿泊所は、今回の火災で高齢や貧困などで安定した住まいを持つことが難しく福祉のニーズが高い人々の事実上の住まいに変貌していたことが浮かび上がってきました。
10人が亡くなった火災から10日。
宿泊していた人の名前は分かっていますが家族が見つからないなどの理由で本人かどうか確認ができないことからいまだに6人の身元が分かっていません。
なぜ、必ずしも安全とはいえない簡易宿泊所が多くの高齢者生活保護を受けている人々が長期間暮らす住まいになったのか。
利用していた人が高齢化し生活保護を受給するようになったということもありますが一方で自治体がきょう寝る場所すらなく生活保護を受けたいとする人々に一時的な滞在先として宿泊所の存在を伝えていたことが分かっています。
いつのまにか高齢者の事実上のついのすみ家生活に行き詰まった人々の受け皿となっていた宿泊所を襲った火災の実態です。
火災が発生した簡易宿泊所吉田屋です。
消防が通報を受けた6分後には火は建物全体に広がっていました。
映像には建物から逃げ出す人たちの姿が映し出されていました。
私たちは全焼した宿泊所から逃れた人たちの半数近くに当たる26人から話を聞くことができました。
特に火の回りが早かったのは火元と見られる1階ではなく2階より上の部分だったといいます。
今回、消防や火災から逃れた人たちへの取材で建物内部の詳しい状況が明らかになりました。
1階に住んでいた人は全員生存が確認されました。
亡くなった10人は2階部分と3階部分に集中していたと見られます。
部屋の扉はベニヤ板。
廊下はウレタン製で警察は燃えやすい素材が使われていたと見ています。
さらに特徴的だったのが2階部分と3階部分が吹き抜けでつながっている構造でした。
もともと2階建てだった建物を事実上の3階建てに改築し部屋を増やした際にこうした構造になったのです。
同じ地区の吹き抜けがある宿泊所です。
3階部分から2階部分が見渡せます。
川崎市によると市内の簡易宿泊所49棟のうち23棟が同じような構造でした。
火災の専門家はこうした建物の材質や構造が上の階の被害を急速に拡大させたと見ています。
京浜工業地帯に程近い川崎市日進町。
高度経済成長期、日雇い労働者が全国から集まりました。
この川崎という所がそのような男たちを必要とする土地でもあるので。
そうした人々の短期の滞在場所として簡易宿泊所が次々と建てられたのです。
しかし今簡易宿泊所で暮らす人は様変わりしています。
川崎市によると、その多くが生活保護を受けているといいます。
受給者1300人余りのうち8割が60代以上です。
生活保護の相談に訪れた人が市から宿泊所の存在を教えられやって来るケースもあります。
宿泊所は、こうした人たちの受け皿になっているのです。
5年前に簡易宿泊所に移り住んだという72歳の男性です。
港の施設で働いていましたが病気のため仕事を続けられなくなりました。
男性は身寄りがなくこの宿泊所以外に行き場がないといいます。
取材を進めると簡易宿泊所での暮らしから抜け出そうとする若い世代がいたことも分かってきました。
宿泊所の3階部分の奥の部屋に住んでいて亡くなった市川実さん、48歳でした。
かつて市川さんと共に宿泊所で暮らし親交があったという同世代の男性です。
去年の秋市川さんからもらったというセーター。
市川さんは自分に余裕がなくても収入があったときには困っている人に気遣いを見せていたといいます。
宿泊所の向かいにあるこの公園でよくサッカーボールを蹴っていた市川さん。
高校時代はサッカー部で活躍していたといいます。
その後、長距離トラックの運転手をしていましたが腰を痛めて働けなくなり1年ほど前から簡易宿泊所に移り住みました。
川崎市内の倉庫で派遣労働者として働きながらなんとか自立へのきっかけをつかもうとしていたといいます。
簡易宿泊所に一度入ると抜け出すことが難しい現実も浮かび上がってきました。
高橋利光さん、46歳です。
同じ地区の宿泊所に5年半住んでいます。
生活保護を受けながらようやく見つかったのが野菜の箱詰めをする不定期の仕事でした。
宿泊所から出て自立するために正社員の仕事を探し続けてきた高橋さん。
これまで50社以上に応募しましたが簡易宿泊所に住んでいることを告げると断られたこともあったといいます。
今夜は、NPOで、生活困窮者の支援に携わっていらっしゃいます、藤田孝典さんと共にお伝えしてまいります。
川崎市の簡易宿泊所で生活している方の9割が、生活保護を受けていらっしゃった。
しかも、その多くの方が高齢者であると。
この現実が、今回の火災を通して、浮かび上がってきたんですけれども、どのように受け止めていらっしゃいますか。
そうですね。
大変痛ましい事件だったと思いますし、さらに、こんなに低所得の高齢者が、この簡易宿泊所を利用しているのかということを、改めて、新鮮な驚きを持って見たというところですね。
実態としては、旅館ではなくて、もう高齢者施設化しているんじゃないかということを感じますし、そういった高齢者が、こんな危険で、ましてや狭い住宅しか得られていない、それも、行政がそこに紹介しているというケースもあって、かなり問題は複雑化しているんじゃないかということを感じますね。
それにしても、なぜ多くの人たちが、本来なら短期間、宿泊する施設に、長期間、いわば、ついの住みかすらになってるような現実が生まれているのか、なぜ、こうやって集まってきているのか、何が社会的な、構造的な問題として、背景にあるんでしょうか。
まずは、1人暮らしの高齢者が非常に膨大な数で増え続けているということですね。
それに対して、家族がいないし、さらに低所得であるということもセットになると、これはもう、安心して、借りられるような住居とか物件が、非常に広がっていないですので、公営住宅も足りないし、そういった高齢者が入れるような福祉施設も足りないっていう状況がありますので、フランスであれば、20%ほどが公営住宅、社会住宅なんですが、日本の場合には、3%程度しか公営住宅もありませんので、なので、安くて安心して住めるような公営住宅が足りないし、住居ももう根本的に足りないということがいえますよね。
そして、その転居を支援する、VTRの中には、ここから出たいと、思ってらっしゃった方もいらっしゃいますし、そこからなかなか出られないという現実もありましたよね。
そうですね。
なので、一時的に、とりあえずは住まいがないっていう形を、受け入れる受け皿としては、機能してもいいと思うんですが、問題は、一時的な範囲を、どれくらいの期間にするのかという話なんですが、中には、今回の簡易宿泊所も、10年、30年って暮らしている人もいますので、長くそこに入れば、入っているほど、自立が難しくなるということがいえますから、なので、なるべく早くそこから転居をして、就労支援なり、次の住まいでの生活支援に結び付けていくというような、そういったサポートを積極的にやる必要があると思うんですけどね。
そうした転居支援のサポートも少なかった。
その行政が考える、一時的な滞在っていうことと、現場で支援をされてらっしゃるお立場から見た、一時的滞在っていうのは、かなりギャップ、感じられますか?
そうですね。
私たちは一時的な住まいとして、狭小なシェルター的なものが必要だと思っているんですけれども、じゃあ、どれぐらいの期間そこにいて、次の転居支援をしていくのかという話なんですけれども、私たちからすると、半年程度はそこに、最低限、半年はそこにいてもらって、最低限というか、そこにいてもらって、そのあとはもう、なるべく早めに移していくっていうことですね。
最大でも、6か月を超えては、そこにいないっていうような、そういったシェルターの在り方なり、簡易宿泊所の在り方があるべきなんですが、そこに3年、5年、10年といる方がいますので、長期化すればするほど、出づらくなる、支援もしにくくなるということが言えると思いますね。
お伝えしているように、本来は一時的な宿泊施設であったはずの簡易宿泊所が、長期間、生活保護を受けながら生活する場になっているという現実。
その事態を改善しようという模索が始まっています。
簡易宿泊所の火災があった川崎市です。
生活保護を受ける人に一時的な居場所として簡易宿泊所の存在を伝えてきました。
しかし滞在が長期化してきたことから2年前、アパートへの転居を促す取り組みを始めました。
市は、転居をサポートする専門の支援員を配置。
希望する人に不動産業者を紹介し契約の手続きなどを支援します。
この日支援員が付き添ったのは簡易宿泊所に15年暮らしている73歳の男性です。
男性は保証人がいないことなどからアパートに移るのは難しいと考えていました。
支援員は物件の下見にも付き添います。
生活保護費の範囲でできるだけ希望に沿った物件を探します。
保証人の代わりとなる会社も紹介。
行政が仲立ちすることで契約しやすくなるのです。
去年1年間で200人余りが簡易宿泊所からアパートに移り住みました。
その一方で長年住み慣れた宿泊所を離れたくないという人も数多くいるのが現状です。
簡易宿泊所に多くの人がとどまる中で安全を確保しようという模索も始まっています。
およそ160の宿泊所が集まる東京の山谷地区。
およそ2500人が生活保護を受けながら暮らしています。
ここで今宿泊所の建て替え工事が進められていました。
去年までは築60年の木造の宿泊所が建っていました。
地元の台東区は安全で新しい宿泊所になれば観光客も呼び込めるとして建て替えを促しています。
最大1400万円の助成金が活用できます。
しかし助成金を使っても建て替えには数千万円の資金が必要でこれまでに工事が完了したのは3棟にとどまっています。
建て替えが進まない中簡易宿泊所の安全をどう確保していくのか。
宿泊所の組合長上野雅宏さんです。
各宿泊所から集めた資金でことし、消火用の機材を購入しました。
スタンドパイプという、この機材。
消防が到着する前に自分たちで消火活動を始めることができます。
さらに地域の住民とも合同で訓練を重ね町全体で防火意識を高めたいと考えています。
火事があった川崎市では、この1年間で219人の方が、簡易宿泊所からアパートへ転居している。
この取り組み、どう評価されますか。
これはすばらしい取り組みだと思っていますし、これはさらには、質と量を上げていかないといけないということだと思うんですね。
川崎市にとどまらず、まだこういった簡易宿泊所、無料停泊宿泊所等に入っている方たちは、たくさんいますので、そういった人たちに、より厚い支援というんですかね、そういったものが求められていくんだと思いますね。
具体的に質的な部分での、支援の強化って、どういうことですか?
そうですね。
例えば、消極的にここで居座らざるをえない、もうこれ以外の選択肢がないと思っている方たちが多いですので、それ以外の選択肢があるということで、選択肢を提示するっていうことだとか、あとは自由な暮らしがあるんだよということで、そういったものに向けた、転居へのインセンティブとか、あとは動機付けを高めていくというような、そういった面接の中で、そういった転居は、すばらしいことなんだというようなことで、進めていくということが重要かなと思いますね。
とりわけ、若い方で、自立したいと強く思ってる方々もいらっしゃいますよね?
そうですね。
だからそういった方たちについては、海外であれば、ハウジングファーストって呼ばれるんですが、もうあそこに一度、簡易宿泊所に入ってから、就労支援をするとか、就職活動をするということは、限界がありますので、なので、もう一時的にそこを利用して、なるべく早めに、アパートなり、ちゃんとした安定居住を確保してから就労支援していく、あるいは就職活動をしていくということが、より好ましい施策だとは思いますね。
だから、ハウジングファーストを進めていくということは、重要ですね。
ただ一方で、長年、同じ人々と暮らしてきたので、そこにいたい、同じ仲間と暮らしたいっていう方々も、いらっしゃるかと思うんですね。
もうまさにおっしゃるとおりで、なので、危険で、狭い住宅で、い続けていいのかという問題なんですね。
だからそこについては、簡易宿泊所はちゃんと安全でさらにいえば、ついの住みかとなってもいいような、例えば有料老人ホーム化するということであるとか、高齢者施設化していくっていうことに転換していったりだったりとか。
改築して?
改築していくとか、そういったところに補助金をつけていくだとか、なので、実態としては高齢者施設化しているというのは、明らかですので、この部分に、どのような政策が後押しをしていくかということですね。
今回の火災を通して、現場での支援を続けてこられたお立場から、教訓っていうのを、どう捉えてらっしゃいますか。
そうですね。
こんなひどい事件が起こると、特別な事態なんじゃないかと思われるんですが、実は、低所得の高齢者って、ものすごい膨大に増えてきていますし、これから周辺にも起こってくる問題ですので、あすはわが身という視点で、この事件を見ていただきたいんですね。
例えば、厚生年金でも年収400万円で40年間、払ったとしても、月額16万円程度しかもらえない、老後で、例えば普通の暮らしをするとなると、この金額からアパートを借りたりだとか、住宅を確保するというのは、非常に難しくなりますので、多くの人たちが抱える問題なんだということに、目を向けていただきたいと思いますね。
安い住宅が高齢者にとって足りない現実、ここにやはり直視をしなければいけないと。
そうですね。
2015/05/27(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「ほかに行き場がなかった〜川崎 簡易宿泊所火災の深層〜」[字]

21日までに9人の死亡が確認された川崎市の簡易宿泊所の火災。宿泊者の多くは高齢者で生活保護を受けていた。労働者の宿だった簡易宿泊所で、いま何が起きているのか。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】ソーシャルワーカー NPO法人代表理事 聖学院大学客員准教授…藤田孝典,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】ソーシャルワーカー NPO法人代表理事 聖学院大学客員准教授…藤田孝典,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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