歴史に名高い「桶狭間の戦い」。
織田信長に討ち取られてしまう武将が…スーパースター信長を引き立てる「戦国一のやられ役」として描かれる義元ですが…実際は信長も家康も憧れる…義元のすごさの秘密。
それは偉大な師匠…厳しくしつけるゆえ覚悟せよ。
幼い義元の教育係として時に厳しく時に優しく義元を導く雪斎。
やがて義元は東海地方随一の戦国大名としてその名をとどろかせるようになります。
義元の前に立ちはだかった…自ら大軍を率い信長との決戦に臨む義元。
お師匠…。
そこには師・雪斎との誓いを果たすという義元の強い決意が秘められていました。
雪斎と共に二人三脚で戦国の世を駆け抜けた今川義元。
その真実の姿に迫ります。
名峰・富士の麓に広がる駿河国。
現在の静岡県です。
しかし5歳になると突然親元から離され寺に預けられてしまいます。
五男とはいえ今川家の男子。
武士のままでは家督争いの種になると僧侶として生きる事を定められたのです。
父上母上…。
自分は両親や今川家にとって必要のない人間なのかもしれない…。
幼い義元の胸中はいかばかりだったでしょうか。
そんな義元を特別な思いで見ていた人物がいます。
義元の教育係…心の声この子が乱世にて己の居場所を見つけられるとよいが…。
雪斎はもともと今川家の家臣で武家の出身。
幼い義元に自らの境遇を重ねたのでしょうか。
雪斎は義元に自身の手で人生を切り開く術を身につけさせようと決意します。
芳菊丸。
これより拙僧がそなたの師じゃ。
厳しくしつけるゆえ覚悟せよ。
(笑い声)ここから雪斎と義元修行の日々が始まります。
「兵は機動なり」。
雪斎の教育は一風変わったものでした。
僧侶にするならお経を教えるところが…むしろ武士としての教育を施します。
「心をばもみじに染めてさかきばの…」。
更に和歌などの手ほどきにも力を入れ義元を「教養人」として育てていきます。
来る日も来る日も厳しい学問修業に明け暮れる義元。
そして数年がたったある日の事。
雪斎は義元に尋ねます。
そなた京へ行く気はないか?都へでございますか?京都は雪斎が若い頃修行に励んだ地でした。
雪斎は義元と二人きりで京へ旅に出たのです。
(雪斎)大丈夫か?はいお師匠。
うむ。
京都に着くと雪斎はかつてのつてを生かし…雪斎の厳しい教育のおかげか義元はすぐに京都のみやびな世界に溶け込みます。
いやいや若いというに大層よい歌を詠まれる。
その一方で義元と雪斎は京都と駿河を何度も行き来します。
そういう役割は考えてたでしょうね。
次第にその活躍は今川家の家臣たちの間でも評判になっていきました。
あのお方は5番目の弟ではあるが大したものよ。
うむ。
今川家になくてはならぬ若君じゃ。
自らの人生を自らの手で切り開く。
雪斎と義元の努力は見事実を結びました。
しかし雪斎は更なる野望を秘めていたと考えられています。
一大事にございます!それは今川家の当主氏輝が急死したという知らせでした。
しかもその死には不審な点がありました。
「今川氏輝同彦五郎同時に死す」。
長男と次男が相次いで亡くなった今家督を継ぐ可能性のある兄弟は3人。
その中で正室の子は義元だけ。
義元は一躍次期当主の有力候補に躍り出る事になりました。
不自然すぎる2人の死には義元に今川家を継がせようとした雪斎が関わっているのではないか。
そんなうわさもささやかれました。
兄たちの突然の死に戸惑う義元。
そこに更なる事件が…。
・
(家臣)申し上げます!否応なしに家督争いに巻き込まれた義元に雪斎は決断を迫ります。
大名の座を勝ち取るか許しを請うて兄君に従うかいかがいたす。
戦国の世では自分の居場所は自分の力でつかみ取らなければならない。
そして義元は心を決めます。
お師匠私は大名になりとうございます。
義元の決意を見極めた雪斎。
これは…「義元殿が家督を継ぐ事はまことにめでたい」。
義元は兄を迎え撃つため兵を率いて出陣。
そして兄を自害に追い込みました。
自らの居場所を戦国大名と定めた義元は師・雪斎と共に乱世へと乗り出していくのです。
ようこそ「歴史秘話ヒストリア」へ。
義元が当主となった今川家。
近年の調査でこの今川家が当時他の大名を超える富を誇っていたとうかがわせるものが発見されました。
平成17年度に静岡市で行われた今川家の本拠地今川館の発掘調査です。
そこで出土したのがこちら金のかわらけです。
「かわらけ」とはお酒を飲む時などに使う素焼きの器の事。
本来は消耗品で飲み干したあとわざと割ったりする事もあります。
そ〜んなものに金箔を貼るなんてなんて豪勢な…。
しかしこの駿河国の豊かさが多くの敵を呼び寄せ大名になりたての義元を苦しめるのです。
(ほら貝)
(兵たちのおたけび)新米大名義元を悩ませたもの。
それは今川領を狙う隣国の大名たちです。
中でも…義元とその後見役という立場になった雪斎の最初の課題はこの武田家を押さえる事でした。
お師匠武田と戦しこれを追い払うだけではらちが明かぬ。
いっそ武田の娘をわしの嫁にもらい両家のよしみを結ぼうと思うがどうだ?フッフッフッフッフ…そううまくいくかどうか…。
まあやってみよ。
(雷鳴)ところがこの武田家との婚姻が思わぬ事態を引き起こします。
(兵たちのおたけび)義元めこの北条を裏切る気か!なんと今度は東の隣国・北条家が攻め込んできたのです。
まあ言ってみれば義元にしてみれば若気の至りという側面はあります。
もともと北条とはつながりがあると。
ここで武田とも手を結べば盤石だっていう。
それをもくろんでいたと思うんだけど北条の方が怒っちゃった。
これはですからまだ私に言わせると…おのれ北条め…いまいましい!済んだ事は致し方ない。
悔やむ前にまずは北条がかすめ取った地を取り返すべし。
分かった。
(義元)まずは戦に勝たなければどうにもならぬ。
北条家に勝つため…そこで義元が考え出したのが「寄親・寄子」という制度でした。
各地の今川家の家臣を「寄親」その下にいる農民たちを「寄子」と呼び擬似的な親子関係を結ばせます。
構え!強固な指揮系統を確立したのです。
(兵たちのおたけび)戦いへの備えを固めた義元は8年後の天文14年北条家との再戦に挑みます。
よし。
領地は元に戻ったな。
では次はどうする?いま一度武田と縁組みをする。
え?また武田家と結ぶ?そもそも北条家が攻めてきたのは武田家との婚姻が原因だったというのに一体何を考えているのでしょうか。
北条がまた怒ったらどうする?大事ない。
北条と武田も縁組みさせる。
ハハハッ。
義元は娘を武田家に嫁がせ息子には北条から嫁を迎えそのうえ更に武田家と北条家との間にも婚姻を成立させようともくろみます。
三国それぞれが手を結べば事は丸く収まります。
…とはいえ武田と北条は長年の宿敵同士。
簡単に同盟するとは思えません。
雪斎は義元の命を受けて両家の説得に向かいました。
何!北条と?雪斎は武田家と北条家が手を結ぶメリットを説きます。
この時武田家は北に長尾景虎後の上杉謙信という強敵を抱えていました。
また北条家も関東の大名たちと小競り合いを繰り返していました。
今川を含めた三国で背中を守り合えば一方向に戦力を集中できます。
うむ確かに。
よい案かもしれぬ…。
義元の絶妙な策に両家はしがらみを捨て婚姻を結ぶ事を受け入れました。
見事な手腕で平和をもたらした義元はいつしか「海道一の弓取り」東海地方一の名君とたたえられるまでになりました。
心の声あの芳菊丸がよくぞここまで育ったものよ。
しかしその義元と雪斎の前に更なる壁が立ちはだかる事になるのです。
(笑い声)押しも押されもせぬ戦国大名となった義元。
その義元が領国を治めるために自ら制定した法律が残っています。
その中に義元はこう記しています。
いまだ幕府の支配力が強かった戦国時代初期にあって「自分の国の事は自分が決める。
実力こそがすべてだ」というこの義元の言葉は本格的な戦国の世の幕開けを告げる画期的なものだと評価されています。
武田・北条両家と同盟を結ぶ事で今川家の領地の東側を見事に安定させた義元と雪斎。
しかし最大の敵は西にいました。
(いななき)大名として確固たる地位を築いていた…何とぞ当家に後詰めを頂けまするようお願い申し上げまする。
松平家が敗れれば今度は今川家が織田家の脅威に直接さらされる事になるのは明らか。
ここで義元は援軍を送る代わりに一つの条件をつけました。
ご嫡男の竹千代殿を我が今川家でお預かりしたい。
はっ。
しかし約束の期日になっても竹千代は義元のもとにやって来ません。
遅い…一体どうなっておる!そこに驚愕の知らせが…。
お屋形様火急の知らせにございます!何!竹千代が姿を消しただと!しかしなぜか今川家とは逆の方向へ進みます。
おお来たか!ハッハッハッ!待ち構えていたのはなんと織田信秀。
竹千代が連れていかれたのは今川家ではなく織田家でした。
(雷鳴)信秀め卑怯な…!何としても竹千代を取り戻さねばならぬ。
お屋形様人質には人質しかあるまい。
それじゃ!2人は竹千代を取り戻すべく策を練ります。
その城の城主は織田信広。
信秀の実子です。
この信広を捕らえ竹千代との交換を持ちかければ…しかしこの作戦は城主・信広を必ず生け捕りにしなければならないという極めて難しいもの。
お師匠この戦決してしくじりは許されん。
ここはわし自ら出陣いたそう。
今川家のおんため是が非でも信広を捕らえよ!
(一同)オー!僧侶でありながらも兵法に通じる雪斎の指揮の下今川軍の怒濤の攻撃が始まりました。
心の声義元…若いがやりおる。
さすがの信秀も我が子を見捨てるわけにはいかず…松平広忠が嫡男竹千代でございまする。
こうして義元と雪斎は竹千代を取り戻します。
松平家を味方につけた事で織田家の侵攻は食い止められました。
そしてその2年後織田家を倒す好機が訪れます。
信秀がこの世を去ったのです。
これまで強力なカリスマ性で織田家を引っ張ってきた…
(雪斎)信秀亡き今こそ織田を討ち今川の覇権を固める絶好の時である。
2人は織田家の代替わりに乗じて尾張を攻める事を決意。
しかしそのさなか…。
突如雪斎が病に倒れます。
(義元)お師匠…。
この時雪斎は既に60。
自分の命が長くない事を悟っていました。
お屋形様いや…芳菊丸。
もはやそなたを助けてはやれぬようじゃ。
お師匠…。
安んじられませ。
お師匠。
義元と二人三脚で戦国の世を駆け抜けた太原雪斎。
宿敵織田家との戦いを義元に託しこの世を去りました。
静岡市にある臨済寺。
ここに雪斎の遺品が伝わっています。
義元のため師匠としてそして相棒として自ら刀を振るい戦いの最前線に立ち続けた雪斎。
その雪斎亡きあと義元はある決断を下します。
それは嫡男・氏真に家督を譲るというもの。
義元が率いる兵は二万五千。
対する織田家は四千余り。
万全を期しての兵力でした。
心の声お師匠この戦必ず勝つ!更に義元は周到に尾張攻略の根回しも行っていました。
各地に…今川軍の勢いのすさまじさを記録はこう伝えます。
心の声ここまでくればあと一押しで織田を倒せよう。
見ていてくれお師匠…。
誰の目にも今川軍の勝利は揺るがぬように見えました。
しかしここで思わぬ事が起こります。
5月19日昼過ぎ今川軍は突如大雨に見舞われます。
義元は無理をせず陣を敷き兵を休ませました。
そこは「おけはざま山」。
その時です。
・
(兵たちのおたけび)
(馬のいななき)織田じゃ!織田勢じゃ!それはまさに天のいたずら。
織田じゃ!織田の手勢がそばにおるぞ!雨のせいで気付くのに遅れた今川軍は満足に応戦できず…自ら刀を振るい織田の兵士を斬り伏せる義元。
しかし押し寄せる敵の前についに力尽きます。
心の声お師匠…すまぬ…。
師・雪斎と共に乱世を駆け抜けた戦国大名今川義元はその志半ばで桶狭間の露と消えました。
今宵の「歴史秘話ヒストリア」。
最後は…そんなお話でお別れです。
家康は幕府を開いたあと義元の本拠地であった駿府現在の静岡市を終の住みかと定めます。
静岡市にある臨済寺。
今川家の人質となった竹千代こと家康はこの寺で学びました。
今も残る竹千代手習いの間。
ここで家康の教育係となったのが太原雪斎でした。
家康は義元と同じく雪斎に学ぶ事で後に天下を取る武将として成長したのです。
家康は晩年この地での思い出を語っています。
そしてもう一人。
桶狭間で義元を倒した織田信長もまた生涯義元に敬意を払い続けました。
ここに信長の愛刀が伝わっています。
その名も「義元左文字」。
桶狭間で義元が持っていた刀です。
義元亡きあと信長のものとなったこの刀を信長は終生手元に置き続けたと伝わります。
若き日に自らの前に立ちはだかった戦国きっての大名今川義元への強い憧れを胸に信長は天下の覇者へと駆け上がっていったのです。
「義元左文字」は天下人の刀としてその後信長から秀吉そして家康の手へと渡りました。
「自分の国の事は自分が決める。
実力こそがすべて」。
かつて義元が掲げた戦国大名としての信念。
それを受け継いだ男たちが乱世を終わらせ新しい世を築いていく事となったのです。
2015/05/27(水) 22:00〜22:45
NHK総合1・神戸
歴史秘話ヒストリア「師匠、オレは戦国大名になる!“やられ役”今川義元の真実」[解][字]
桶狭間で信長に討たれた“やられ役”今川義元。実は、信長も家康もあこがれる超一流の戦国大名だった。“すごさ”の秘密は、義元を支え続けた師匠との熱き絆にあった。
詳細情報
番組内容
大河ドラマ等では織田信長の格好の“やられ役”として描かれる今川義元。ダメ武将のイメージが濃厚だった義元だが、現在、歴史研究の場においては“先駆的な戦国大名”“有能な領国経営者”との評価に激変しつつある。その背景には、生涯の師であり、また友であった人物がいた。戦国一の軍師とも言われる太原雪斎だ。戦国の世を、師・太原雪斎とともに戦い抜いた今川義元の真の姿を描く男の友情物語。
出演者
【キャスター】渡邊あゆみ
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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日本語
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日本語(解説)
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