札幌のとある住宅街。
この雑居ビルにちょっと気になる食堂があります。
はいいらっしゃいませ。
メニューは一食210円から。
生活困窮者を支援する団体が開く飲食店です。
客のほとんどがこの食堂の近くで独り暮らしをする人たちです。
皆複雑な事情を抱えています。
ここに集まる客は生活保護や年金など最低限のお金を受け取っているもののさまざまな理由で人とのつながりが失われています。
このため一人ではうまく暮らしていけません。
布団持ってきましたよ。
都会の中で孤立する生活困窮者。
札幌ではそんな人たちと真正面から向き合う独自の活動が始まっています。
コップと歯ブラシ。
ね。
それから歯磨き粉。
あっいたいたいたいた!実は困窮者を支えるスタッフもまた自らの人生に行き詰まった経験を持つ人々。
今注目される新たな支援の形。
札幌の現場を見つめます。
人口195万の…生活保護の受給率は政令指定都市の中で大阪市に次ぎ2番目の高さです。
目玉焼きなはいよ。
山本さん目玉焼きで。
あといつもどおりです。
食堂は年中無休。
朝7時から夜6時半まで3食を提供します。
この場所では今270人が支援を受けています。
よし飲め。
この日また新たな生活困窮者が助けを求めてきました。
西部さん77歳です。
数日前札幌の刑務所を出たばかりで家もありません。
食っちゃおうかな。
いいよ食べて。
出所後埼玉に暮らす姉を頼ろうとしましたが断られ行き場をなくしていました。
何年も食べた事なかったんだろうからな。
西部さんは若い頃から安定した仕事に就けず窃盗を繰り返し刑務所を出たり入ったりの生活を50年以上続けてきました。
西部さんは支援スタッフの助言で生活保護を申請する事にしました。
この生活保護費を元に支援団体は西部さんに保証人なしでアパートを貸すのです。
この団体の支援は部屋を貸すだけではありません。
生活困窮者が日々の生活を確実に送れるようさまざまなサポートを行います。
これバスタオル。
これフェースタオル。
コップと歯ブラシ。
ね。
それから歯磨き粉。
生活困窮者からは家賃とは別に月に6,000円を受け取ります。
これを活動資金としてその人が抱える問題を一緒に解決していくのです。
この西部さんの場合習慣化した窃盗の癖をどう直していくかが最大の課題です。
うんうん分かってる。
1円も何もねえんだから。
はいはい。
毎朝支援スタッフは会議を開き一人一人にどんな支えが必要か話し合います。
現在生活困窮者270人に対し支援スタッフは6人。
人それぞれ異なる課題にきめ細かく対応していきます。
病院への付き添いや区役所での手続き更には就職の手伝いまで。
社会から孤立した生活困窮者にとっては支援スタッフが唯一頼れる存在です。
まあ本人にはそういった面あったら何か言えと…。
実は支える側のスタッフもかつて自らの生活が立ち行かなくなった苦い経験を持っています。
そんなとこです。
去年支援スタッフとなった高野一明さんにもやはり人生に行き詰まった過去があります。
高野さんは知的障害者の施設で25年働き代表も務めていました。
しかし仕事に打ち込む一方で家庭がおろそかになり家族との関係が途絶えました。
一人孤独に暮らし自暴自棄な生活で身を崩したところをこの団体に助けられたのです。
自らも苦い経験があるからこそできる支援とは一体どのようなものなのか。
高野さんには3か月前から担当している一人の青年がいます。
(チャイム)高野です開けて。
今NHKさんの人来てるけど。
直人さん26歳。
ここに来るまで札幌でホームレスの生活をしていました。
最近飲食店でアルバイトを始めました。
目標は仕事を長く続け生活保護を受けずに暮らす事です。
どれどれ?見ていい?ねえ。
お〜いくらたまったのかな?ちょっと待てよ。
すごいねおっ!1234567891011121314。
おお〜1万4,000円もたまった。
これは危ないな〜。
大丈夫かい?今回は。
通帳作って通帳に貯金したら?カードで下ろせるようにして必要な分だけ。
直人さんには知的障害があります。
このため本来生活に回すべきお金を遊びに使ってしまう危険があるといいます。
直人さんは高等養護学校を卒業後菓子メーカーに就職。
しかし20歳を過ぎ度々家を飛び出すようになりました。
繁華街で遊びにふけりお金を使い果たす日々。
ついにはホームレスとなり支援団体に保護されました。
高野さんがサポートに駆けつける場面は毎日のように起こります。
直人さんはこの日の前日出勤時間に寝過ごし無断で仕事を休んでしまいました。
そしたらね…明日そして…かつて自らも乱れた生活を送っていた高野さん。
直人さんがどんな場面で助けを必要としているのか手に取るように分かります。
高野さんは直人さんの身の回りの買い物にも積極的につきあいます。
この日はリサイクルショップでの防寒着探し。
真冬でも薄着で出歩く直人さんを高野さんが心配し暖かい上着を買うよう連れてきました。
ここで着ても問題ないでしょ。
(高野)それいくらさそれ値段。
(直人)1,900円。
(高野)防水になってるやつ。
直人さんはなんとか遊ぶお金を残そうと安い服ばかりに目をつけます。
しかしスタッフの高野さんは多少値段が高くても暖かいものの方がよいとアドバイスします。
さっきのでいいですよ。
これ3,300円。
いいよこれ。
これちょっと着てごらん。
あ小さいかこれ…。
ちょっと着てごらんこれ。
社会から孤立した生活困窮者に支援スタッフが一対一で寄り添い続ける支援。
こうした支援は伴走型支援と呼ばれ今その必要性が大きく叫ばれています。
一定期間もう大丈夫ですよはいっていって一人でやりますよという訳じゃなくて例えば住まいの問題だけじゃなくてあそこに住んでる事によって日常の生活の中で必要な分のとこの援助はやっぱり継続的にずっとかなり必要になってくるんだと思うんですよね。
今年4月国は生活困窮者自立支援法を施行。
全国にきめ細かい支援の体制を整えました。
しかしこの法律が対象としているのは生活保護を受けていない人たちです。
既に生活保護を受けている人たちがどう暮らしていくのか。
そうした支援はこれまでと同様満足に行われていません。
生活保護が必要な方に関しては生活保護を受けて頂いて必要な金銭的な給付をしている訳なのでそれをもって日常の衣食住は足りているというふうに認識しております。
都会の中で孤立して生きている方々の心の問題までにはなかなか踏み込んでいく事ができない。
支援スタッフの高野さんが所属する団体はこうした活動を10年前から続けています。
行政の補助金はあえて受けていません。
補助金をもらうと活動の範囲がかえって狭くなりきめ細かい支援がしにくくなるといいます。
しかしその一方でスタッフが受け取る報酬は月に5万円。
あくまでボランティア活動としての位置づけです。
皆自らの年金なども生活費に充てて暮らしています。
札幌で続けられる生活困窮者の支援は同じ境遇を背負った者同士が寄り添う事でなんとか続けられているのです。
(取材者)ここに来ると楽しいものですか?この日支援スタッフはある男性を連れて病院へと向かいました。
寒い寒い…。
(取材者)寒いですね。
脳梗塞で倒れた事があります。
特にね今見ましたけどもね変わりはなかったです。
今生活困窮者に対する伴走型支援の必要性はますます高まっています。
その背景には地域や家族から孤立した高齢者の急増という現実があります。
(取材者)お邪魔します。
宮本さんは6年前からここで独り暮らしを始めました。
(取材者)ご家族はいらっしゃるんですか?
(取材者)あっ息子さんいらっしゃる。
(取材者)こちら。
ちょっと見せて頂いていいですか?いいよ。
(取材者)かわいいですね。
息子家族とは何年も連絡を取っていません。
妻は38歳の若さで宮本さんと幼かった息子を残し亡くなったといいます。
現在全国で独り暮らしの高齢者はおよそ600万人。
その中には孤立を余儀なくされる人が数多くいます。
支援スタッフの高野さんが支える直人さんにうれしい日がやって来ました。
(チャイム)直人さんが無事1か月間アルバイトを続け初めての給料日を迎えたのです。
おはよう。
NHKさん来てるんだわ。
大丈夫か?ちゃんとやってる…。
(取材者)給与明細。
すごいね。
いくらもらったの?1か月の給料は前払い分を合わせると12万円になりました。
(取材者)無事もらえたんですね。
(取材者)あっ初めてなんだ。
そっか。
すごい…所得税も引かれているからね。
所得税払ったの初めてだそしたらね。
直人さんの当面の課題はこのお金を遊びではなく家賃や食費などに適切に回していけるかどうかです。
午後直人さんが食堂へ昼食をとりに来ました。
今日は奮発して野菜炒め定食にホットコーヒー。
自分の稼いだお金で食べる初めての食事です。
680円になります。
はい1,000円預かります。
320円のお釣りになります。
ところが…。
この夜直人さんは仕事に行ったきり行方が分からなくなりました。
直人さんが戻ってきたのは3日後の事でした。
(取材者)いつ戻ってきたんですか?昨日の朝ですね。
(取材者)つまり今朝ですか?今朝4時か4時半ぐらいですね。
…だと思うんですけどね。
まだ今寝てるかもしれない。
(チャイム)あっいないわ。
朝いたんだけど音したんだけど。
あっいたいたいたいた!いたわ。
あら〜いたわ〜。
せっかくの黒いやつ汚れちゃう着たまま寝て。
いやいや…。
ちょっと見せて?中。
見ていい?いいかい?中ちょっと見せて…。
あらっ!一万円札1枚ぐらいは残ってるでしょ。
いくら残ってる?
(高野)えっ!?
(高野)いやいや何に使っちゃったの?秘密。
(高野)ん?秘密。
(高野)秘密って…うん?明日からどうやって生活していく?生活?うん。
いやいやいやいや…。
失敗を繰り返してしまう直人さん。
それでも支援スタッフの高野さんは諦める事なく人生に寄り添う伴走型支援を続けていく覚悟です。
一人の時の方がいい時もあるけど一人では生きられないんで…まさに彼からすれば家庭の機能は今はここだと思うんですよ僕とか仲間だと思うんですね。
2月の初め。
支援スタッフからある連絡が入りました。
5年間支援を続けていた72歳の男性が突然亡くなったのです。
支援スタッフたちは自らの手で通夜を開く事にしました。
皆で合掌したいと思いますので。
それではいいですか?一同合掌。
はいありがとうございます。
社会から孤立した困窮者を最後に見送る。
ここまでが人生に寄り添う支援です。
(高野)共に暮らしてきた共に支え合ってきたというやっぱりあの〜故人に対する思いだとかそれから無念さだとか彼をしのぶ思いというのは家族よりもしかしたら家族以上のものかもしれません。
札幌に遅い春が訪れても支援スタッフが落ち着く時はありません。
こんにちは。
お邪魔します。
昨年末刑務所を出て助けを求めてきた西部さんです。
この部屋に暮らし始めて4か月。
地域への定着の兆しも見えていました。
しゃば出てうちなんか住んだ事ねえんだから。
しかしこの1週間後西部さんは別の町で警察に逮捕されました。
スタッフは西部さんが戻ってきた日には前と同じように一から支えていくつもりです。
本人にどういう問題あろうかなかろうかそれは問題点としては残るかも分からないけどとりあえずは困っている人をなんとかしてやろうと。
知的障害がある直人さんはこの春から別の店でアルバイトを始めました。
直人さんの障害を理解している店側の協力もあって収入は安定し生活保護を受けずに暮らしています。
いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。
孤独な生活困窮者に人生の終わりまで寄り添おうという支援。
家も近いので安心して頑張ってほしいと。
ね!頼むよ今度はね!は〜い頑張って下さい。
今度は大丈夫だなと思っています。
少しは。
人のつながりが薄れる中札幌の現場には共に生きていく一つの形がありました。
(マイケル)
これは極東の国日本を訪れた2015/05/28(木) 00:10〜00:40
NHK総合1・神戸
NEXT 未来のために「一人では生きられないから〜札幌 生活困窮者支援の現場」[字]
今、注目を集める生活困窮者支援の現場。かつて自らも生活に行き詰まった人たちが、支援スタッフとなり、社会から孤立した人々に生涯寄り添う独特の方法。その挑戦とは!
詳細情報
番組内容
札幌にある一軒の食堂に、元ホームレスや、身寄りのない高齢者、障がい者など、社会で居場所を失った人々が集まって暮らしている。複雑な課題を抱える生活困窮者たちの生活を、こと細かに支えているのが、民間の生活支援会社のボランティアスタッフだ。実は、支える側のスタッフ自身も、失業やホームレスなどワケありの人生を送ってきた。貧困社会の最後の砦で、社会的弱者が寄り添い、絆をゼロから作り出す挑戦の日々を見つめる。
出演者
【語り】糸井羊司
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
福祉 – 社会福祉
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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