アスリートの魂「負けてこそ強さを知る 柔道 近藤亜美」 2015.05.28


(近藤)うそ!近藤さん。
ちょっと早いですけど20歳のお誕生日おめでとうございます。
今月二十歳の誕生日を迎えた一人の柔道家。
あら。
柔道界の期待の新星。
人懐っこい笑顔が人気の的です。
ひとたび畳に向かうと表情は一変。
去年8月の世界選手権で初出場の近藤選手は優勝候補を次々と撃破。
頂点に立ちました。
(実況)初出場近藤亜美!金メダル!すい星のごとく現れたニューヒロイン。
10代での日本選手の優勝は谷亮子選手以来二人目の快挙でした。
近藤選手の強さの秘密は必殺技の払腰。
一瞬の隙をついて担ぎ上げ思い切り投げる豪快な技で勝ち続けてきました。
リオデジャネイロ・オリンピックの代表争いが始まる今年近藤選手は大きな壁に直面します。
払腰をライバルたちに研究され決まらなくなったのです。
相手をしとめる新たな技への挑戦が始まりました。
しかし実戦で使える技を身につけるのは容易ではありません。
思わぬ敗北による初めての挫折。
築き上げた自信は崩れていきました。
オリンピック代表への期待が高まる中どうすれば自分らしい柔道を取り戻し真の女王になれるのか。
敗北を乗り越え本当の強さをつかもうと戦う近藤選手の挑戦を見つめました。
おめでとうございます。
寒い…寒いよ。
レッツゴー。
レッツゴー。
近藤亜美選手の一年が始まりました。
今年は柔道人生の勝負を懸ける年。
来年のオリンピックにつながる世界選手権の代表選考会が4月に行われるのです。
(鈴の音)目指すのは48キロ級の代表の切符です。
近藤選手が所属するのは都内の実業団。
過去に5人のオリンピックメダリストを輩出した名門です。
近藤選手は愛知県の高校を卒業。
去年の春この柔道部に入りました。
規律と上下関係の厳しい武道の世界で近藤選手は異質なキャラクター。
担当コーチに対しても全くものおじせず冗談すら口にします。
やればできんじゃん。
やりたくないだけでしょ?いや〜。
格上の相手を投げ飛ばすのが一番の喜びです。
稽古後のおしゃべりでも中心は近藤選手。
話題は子どもの頃の遊びです。
ひなたぼっこしてた。
マジかよ!しゃれおつ。
長年指導してきたコーチから見ても近藤選手の器の大きさは際立っているといいます。
すごい自分を我慢しないで出すっていうところはある意味こう…何て言うんですかね。
チャンピオンの人たちにあったような性格なんじゃないかなと思います。
自分がやってる人はトップ選手なんでこの人に挑戦できるんだって思うともう本当すごい楽しいですね。
柔道に対しては不安は全くないですけどまあもっと休みが欲しいぐらいですかね。
近藤選手の女子48キロ級は日本の看板階級。
谷亮子選手などの活躍でオリンピック世界選手権で女子最多の12個の金メダルを獲得してきました。
(実況)田村亮子でも金。
そして谷亮子でも金メダルを獲得しました。
しかし谷選手の引退後ヨーロッパ南米などの選手が日本の柔道を研究。
2012年以降世界で金メダルを取れなくなっていました。
伝統復活を懸けた去年8月の世界選手権。
近藤選手は初出場ながら思い切りのいい柔道で海外の強豪を圧倒。
(実況)得意の払腰に組み込んでいく!攻めています近藤。
前回のチャンピオンとの一戦。
払腰を決めます。
一気に頂点まで駆け上がりました。
(実況)初出場近藤亜美!金メダル!谷亮子選手以来となる10代のチャンピオンの誕生。
日本柔道の新時代を予感させました。
もう1試合目からすごい試合が楽しくてもう会場に人がすごい埋まっているのを見てこんな大きい舞台でできてるんだなっていう感動の中でやってました。
今日はとにかく楽しかったです。
世界選手権以降も去年出場した全ての大会で優勝。
快進撃を支えてきたのが一つの必殺技です。
(実況)得意の払腰にいく。
技あり〜!そのまま抑え込みにいきました。
相手の一瞬の隙をつき腰に担いで投げるこの技…決まれば一本を取れる大技。
(歓声)近藤選手はこの豪快な投げ方にこだわってきました。
勝利をもたらす払腰。
全日本女子の強化部長を務める増地千代里さんは近藤選手の突出した身体能力がこの技を可能にしていると言います。
注目するのは下半身の動きです。
軽量級の選手の多くは片足で相手を担ぎ上げると重さに耐えられず体勢を崩してしまいます。
しかし近藤選手は下半身の筋力が強く安定しているため左足一本で相手の体重を支える事ができます。
更に足首が柔軟なため宙に浮いた右足を使って相手の動きを封じ一気に投げ飛ばす事ができるのです。
やっぱり世界一だと世界あの〜…トップだと言っても間違いないと思います。
抜群の威力を持つ近藤選手の払腰。
それは毎日行う独自の鍛錬によって培われてきました。
つま先でジャンプを繰り返しふくらはぎの筋肉を強化。
回転を加える事で技に入るスピードを磨きます。
48キロ級の選手はほとんどできないこの大技をオリンピックの舞台で決めたい。
その思いが原動力になってきました。
人の印象に残るというかパフォーマンス性のある柔道をした上で金メダル取って「あ〜あの人すごかったよね」って言われる選手になりたいと思ってます。
1月半ば。
近藤選手は柔道界の有力選手や指導者が一堂に集まる初稽古に参加しました。
近藤選手のもとへ一人のメダリストが近づいてきました。
ロサンゼルスオリンピックで金メダルを取った柔道界の第一人者です。
指摘されたのはチャンピオンになった選手が受ける徹底したマークです。
近藤選手のある試合を見ていた山下さんからのアドバイスでした。
(拍手と歓声)去年12月の国際大会。
(場内アナウンス)「近藤亜美!」。
決勝戦の相手は2度の世界一を経験した…開始から僅か9秒。
近藤選手が奇襲をかけ有効でポイント。
ところがその後思わぬ苦戦を強いられます。
得意の払腰が決まりません。
浅見選手は体を後ろに引き近藤選手の投げを封じていました。
徹底的に動きを研究していたのです。
(歓声)序盤に取ったポイントでなんとか逃げきりましたが払腰だけでは世界で勝ち続けられない事を気付かされました。
まあそれだけでは勝てないっていうのが今回分かったというか。
甘かったです。
相手の研究の上を行き勝ち続けるにはどうすればいいのか。
新たな技への挑戦を始める事にしました。
柔道の投げ技は全部で67種類。
近藤選手はこれまで技のバリエーションが少なく払腰や内股など限られた技で勝ってきました。
得意技を増やそうと取り組む事にしたのは大外刈です。
外側から足をかけその勢いで倒す大技。
パワーとスピードが求められる難易度の高い技です。
大外刈に挑戦するのは相手の研究の裏をかくねらいです。
近藤選手の払腰を警戒した相手は引き付けられないよう上半身を後ろに引いてきます。
重心が後ろに傾いた瞬間大外刈をかけ相手の背中を床にたたきつけようと考えました。
しかしうまくかからなければリスクを負います。
自分が片足立ちになってバランスを崩し相手の返し技に遭うからです。
(ブザー)実戦形式の練習が始まりました。
しかし思うように技がかかりません。
逆に返し技で倒されます。
技をかけ損なうと足元がふらつくため攻め込まれてしまうのです。
力が足りず軽々とかわされてしまいます。
中途半端なかけ方では命取りになってしまう。
足がすくみ技を出せなくなりました。
返されるんじゃないかって思うしかけたところでかかんなくてリスクを負うだけかもしれないっていう可能性の方が高いんでやっぱこういこうって思っても気持ちがついていかないっていうか…。
いやもうめっちゃくちゃ難しいと思います。
外国人のような力の強い相手にも技をきちんとかけて倒されないようにするため筋力強化に一層力を入れました。
返し技の恐怖を振り払おうと自分を追い込みます。
柔道を始めて15年。
より高みを目指す挑戦です。
近藤選手が柔道と出会ったのは5歳の時でした。
幼い頃からクラスの中でも背丈が一番小さな女の子だったといいます。
父の敬造さんは学生の頃相撲の選手。
近藤選手は体の大きなお父さんとよく相撲を取り足腰を鍛えました。
近藤選手の攻めの柔道の原点となった場所があります。
愛知県大府市にある道場。
始め!
(一同)はい!小学6年の時近藤選手は初めての大きなピンチを迎えます。
体格のいい男の子を相手に得意だった背負投を仕掛けたところ肘を痛めてしまったのです。
それでも休む事なく練習を続行。
腕に頼らなくても勝てるよう払腰など足を使った技を身につけました。
厳しい稽古を重ね小中高と日本一になった近藤選手。
その部屋の壁にはピンチの時に心の支えにしてきた言葉が貼られています。
世界選手権の最終選考会までひとつき半。
近藤選手は新たな技を試すためドイツでの国際大会に出場する事になりました。
技を自分のものにしようと続けてきた厳しい稽古。
しかし大会直前の練習近藤選手に予期せぬ事態が起きていました。
減量の苦しみです。
食事や水分を極力断ち短時間で脂肪を燃焼させるトレーニングを繰り返します。
大外刈のために筋力を鍛えたところ筋肉量が増え48キロを維持するのが難しくなっていました。
体が思うように動かず大外刈の稽古でも手応えがつかめません。
不安を抱えたまま本番に臨む事になりました。
大会当日。
近藤選手の調子は上がっていませんでした。
ウォーミングアップにもキレがありません。
初戦。
相手はロンドンオリンピックの銅メダリストベルギーのファンスニック選手。
試合開始と同時に飛び出した近藤選手。
しかし技に入る体勢に持ち込めません。
返し技を恐れ大外刈も出せません。
開始から僅か40秒。
絞め技で体を押さえつけられます。
(歓声)一本負けでした。
世界一になって以来初めての敗北。
大外刈も得意の払腰も何一つ技を出せませんでした。
乗り越えられなかった技への恐怖。
その気持ちが思い切って攻める自分の柔道のよさをも失わせていました。
これまでの自分の柔道は正しかったのか。
迷い始めていました。
ドイツでの敗戦後近藤選手は心の整理をしようと胸の内をつづっていました。
「自分はこんなものという事を痛感させられた。
分かっていたが認めたくなかった。
少し自分と話し合おう」。
帰国後近藤選手への取材ができない日々が続きました。
再び道場にカメラを入れたのはドイツでの敗戦から2週間がたった時でした。
行われていたのはいつもどおりの稽古。
しかし近藤選手はまだ気持ちを切り替えられずにいました。
相手と組んでの稽古。
中央にいる近藤選手が右側の中村美里選手の相手を務めます。
うわ〜!すいません。
練習を見ていた貝山コーチが声をかけました。
近藤選手が力を出し切れていない事への指摘でした。
一方の中村選手。
力を出し切る事に最後までこだわっていました。
中村選手もかつて挫折を経験していました。
北京オリンピックの52キロ級で銅メダル。
しかし金を期待された次のロンドンではまさかの初戦敗退。
それでもいつも全力で稽古に取り組んできました。
勝負に懸ける中村選手の強い執念を貝山コーチは近藤選手に感じてほしかったのです。
自分の弱さと向き合い常に諦めず挑む事の大切さに気付かされた思いでした。
近藤選手の稽古に変化が見られ始めました。
ドイツでの大会以降避けてきた技の名前を口にしたのです。
基本の動作を一から見直し体に覚え込ませます。
原点に返り自分の柔道を作り直していきました。
5時間の稽古のあと。
自主練に取り組みました。
世界選手権の最終選考会は間近に迫っていました。
最終選考会当日。
各階級で全国から選ばれた選手が代表の座を巡って争います。
初戦を勝った近藤選手。
準決勝の相手は日本一の経験もある森由理江選手です。
開始2分。
絶対に試そうと決めていた大外刈を繰り出します。
優勢勝ちで決勝に進みました。
最後の相手は元世界女王の浅見選手。
(拍手と歓声)始め!序盤から積極的に前に出ます。
開始1分。
前回は封じ込まれた払腰。
かからなかったものの守りに入った浅見選手に指導1がいきました。
ところが残り1分浅見選手が反撃。
体落で有効逆転されてしまいます。
残り10秒。
その時…。
望みを託した払腰でした。
あと一歩及ばなかったものの最後まで攻め続けました。
(拍手と歓声)自分らしく戦い抜いた末の悔し涙でした。
4月末の全日本強化合宿。
集められたのは世界選手権の代表選手たち。
その中に近藤選手の姿がありました。
ちょっと笑顔もう一度撮りますね。
決勝戦での攻めの姿勢が評価され浅見選手と共に代表に選ばれたのです。
2連覇を懸けた8月の世界選手権。
その先に見据えているのはオリンピックの舞台です。
お前のいいところは元気に前に出る事だって言ってくれて攻め続けるその姿勢がお前の強みだって言ってくれたんで今はそれを信じてちょっとやってみようかなっていう部分があって。
別に怖がるような試合は何一つないと思うんで勝ちたいって思う気持ちが夢から目標に変える瞬間を作ってくれると思います。
負けた事で知った強さ。
近藤亜美選手の勝負はこれからです。
真の女王と呼ばれるその日まで。
2015/05/28(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「負けてこそ強さを知る 柔道 近藤亜美」[字]

柔道世界選手権女子48kg級で、谷亮子に次ぐ史上2人目となる10代での優勝を果たしたニューヒロイン、近藤亜美選手に密着。リオ五輪に向け新たな大技に挑む姿を追う。

詳細情報
番組内容
近藤亜美選手は笑顔が魅力の20歳。武器は相手の一瞬の隙をついて投げる払い腰だ。元力士の父を相手に幼少から強じんな脚力を磨いてきた。来年の五輪で金メダルを期待される近藤選手だが、今、女王の座が重圧となって立ちはだかっている。得意技を研究され苦境に立たされても、勝ち続けなければならないというプレッシャーだ。動じない精神と強さを身につけるため、近藤選手は新技を習得する決意をした。若き女王の挑戦を見つめる
出演者
【語り】時任三郎

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – 相撲・格闘技

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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