(慶次)新九郎お前は石田三成様のお子です。
(竹)
前田慶次様は上杉様の領国米沢で今は亡き石田三成様のお子を育てておられましたが新九郎様が三成様のお子である事をついに明かされたのでございます
(新九郎)この俺が三成の子…。
あっうこぎ飯おいしそうですよ。
旦那様。
新九郎様をお呼びしたのですがお返事がございません。
まことの事をお話しすべきと前々から申し上げていましたものの果たしてこれでよかったのかと…。
もう言ってしまったんです。
あとは本人に委ねるしかありません。
はい。
旦那様。
新九郎の事長い間黙っていてすまなかった。
旦那様おやめ下さいまし私ごときに。
ちょっといいかね?はい。
新九郎は多くの者に命を狙われていました。
出自を隠さねば殺される。
そういう過酷な定めを生まれながらに背負っていたんですよ。
はい。
頂きます。
ハッハッハ。
しかし何を背負っていようとですよ芽を摘み取ってしまうような世であってはいかん。
あいつは生き延びねばなりませんでした。
石田三成様に新九郎の事を託された時私は決めました。
住まいを替え身内からも離れ人生をなげうってでもあいつを守ろうと。
だからって私にまで黙っていらしたんですか。
水くさいじゃありませんか。
フフフッ。
竹さんにはお話になられたでしょ。
いや竹さんはね新九郎の母親代わりになってもらったんですよ。
あの人はもともと私を連れ戻すために金沢の女房殿が遣わしたんです。
ですから女房殿の命に背いてここにいてもらうためには全てを話して分かってもらうほかなかったんです。
私だって旦那様や新九郎様のお役に立ちたい気持ちに変わりはありません。
それをそのように差をつけられては…。
ハッハッハッハ。
そういう事をさらりと言うあなたにこそいてほしかったんですよ。
竹さんと私は秘密を抱えてる以上どこか新九郎とは本音でぶつかり合う事ができなかったんです。
そこで風穴のようなあなたがどれほど救いになった事か。
いやそんな…。
フフッ。
何だか…。
佐乃様よいのですよ。
これは竹の仕事ですから。
(佐乃)竹。
兄上のご様子は?お部屋に籠もられたままです。
そうですか…。
いつものように薙刀のお稽古でもなさったらいかがです?お天気もいいですし。
そんな気分になれません。
父上はどうして私や母上たちにまで兄上の事を黙っていたのでしょう。
皆様の事をお守りするためです。
新九郎様が三成様のお子だと分かれば金沢の皆様にまで累が及ぶかもしれません。
ですがたとえつらい事であろうとも共に受け止めるのが身内というものだと私は思います。
旦那様はお優しいのです。
でも兄上を守るために私たちを捨てたのですよね。
私少し混乱しているようです。
米沢に来て兄上がいると分かってようやくその事にも慣れてきたと思っていたのに…。
(次右衛門)あっ!あっ!私の勝ちです。
難しいものでございますな。
なかなか思うようにはいきませぬ。
竹さん。
はい。
今夜は私も家で食事をしますから。
はい。
それから北川殿の分もお願いします。
これはかたじけない。
分かりました。
うん。
改めていきましょう。
お願い致します。
・
(竹)新九郎様お膳をお持ち致しました。
ああ分かった。
・
(竹)お召し上がり下さいますか?朝から一口も食べておられないのです。
召し上がるまで竹はここから動きません。
あ〜うまかった。
よい食べっぷりでございました。
情けないのう。
自分の事が分からなくなっても腹は減る。
当たり前でございます。
体は正直なもの。
生きるためには食べねばならぬのです。
そうだな。
生きていてよいのだろうか?俺は石田三成の子。
徳川に盾ついた謀反人の子。
俺を祭り上げて戦に突き進みたい者もおる。
俺の事を握り潰したい者も…。
米沢のため民のためとのんきな事を言っておったが…。
俺がいなくなる事が民のためには一番いい事なのかもしれぬ。
何をおっしゃいます!新九郎様が…新九郎様がいなくなってしまったらこの竹が困ります!私は新九郎様がおられたから今まで生きてこられたのです。
竹。
私には夫がおりました。
小さな一人息子も。
夫は旦那様について北条攻めに赴き討ち死に致しました。
そして幼い息子もはやり病で…。
前田家にお仕えして懸命に働く事で忘れようと致しました。
けれどそうたやすく忘れられるものでは…。
ですが新九郎様に初めてお会いした時…。
私が運びます。
新九郎様よいのですよ。
これは竹が運びますから。
いいのです。
やらせて下さい。
でも…。
ずっと母の手伝いというものをしてみたかったのです。
母ができたようでうれしいのです。
あのお言葉まことうれしゅうございました。
竹…。
申し訳ございませんこんな話。
ですが私だけではございません。
石田三成様も旦那様も命懸けで新九郎様を守ってこられたのです。
私は天下の事など分かりません。
ですが新九郎様が生かされたのはこれからの世のためであったとこの竹はそう思っております。
(天徳)こたび我らに下った命は石田三成の子を捕らえその守り刀と共に江戸に届けよというもの。
猶予はひとつき。
先のしくじりで相手も守りを固めておる。
かくなる上は我らも力業に出ねばならぬ!まずは新九郎をおびき出しその身を押さえそれを人質とし前田慶次には守り刀を持参させる。
現れたところで亡き者とし新九郎と守り刀を手にする。
(又吉)雫さん。
分かってたよ。
あんたがどういうつもりで俺に近づいたか。
でも俺そんなのどうでもよかった。
うそでもかたりでもあんたがうれしそうな顔をすんの見るのが好きだった。
旦那様にご迷惑をおかけする事はできない。
だけどただ俺あんたの事が…。
(雫)私うれしかったんです。
幸せを呼ぶお鷹ポッポ。
あなたが私のために作ってくれた。
初めてだったんです。
人からこんなに優しくしてもらった事…心から大事にしてもらった事。
逃げるか?2人でどっか遠く。
(又吉)雫…。
(継之丞)私の力を借りたいと?はい。
何分火急な事にございまして。
前田殿がじきじきにおいでになるとは珍しい事もあるものだと思いましたが一体何があったのです?実は先日拙宅に賊が入りましてな。
賊?あっ!その賊といいますのが天徳和尚の一味にございまして。
天徳和尚?和尚は徳川方の手先。
あの方は上杉が謀反をたくらむ証しを手に入れそれをお家取り潰しの口実に使おうとしております。
それは謎かけですかな?いえまことです。
安田殿と馬廻組の皆さんのお力を是非ともお借りしたいのです。
このとおりでござる。
ハッハッハッハッハッハ…。
ハハハ…。
前田殿。
和尚が徳川の手先であるなどと一体どこからそのようなたわけた話が出るのです。
何をおっしゃりたいのか…。
前田殿のかぶきぶり私のような堅物にはちと難しすぎまする。
これでは佐乃殿と勝之進が夫婦となっても先が思いやられますな。
ほう米沢を離れられると。
はい。
しかし和尚がいなくなったらどう過ごしていいものやら…。
私これだけが楽しみですから。
いや拙僧も同じく。
前田殿ほどの好敵手はもう見つかりますまい。
ところで和尚先日賊が入りましての。
なんと物騒な。
あんなあばら家をまた…。
入る所を間違えたのではないかと。
(笑い声)しかし賊はまた現れます。
必ず。
さりとてほかに助けを求める事もできずどうやったら防げるか考えあぐねておりますがここはひとつ和尚のお知恵を拝借できぬかと。
ハッハッハッハッハ!拙僧がでございますか?はい。
いや拙僧に賊の気持ちは分かりませぬが…欲しいものがある以上もはや手段を選ばぬのでは?となるとこちらも本気を出さねばなりませんな。
面白い。
きえ〜っ!すんげえな〜。
今日はお二人ともすんげえ力が入っておられます。
私は安心しましたよ。
ずっと家の中におられたのでは体に毒ですから。
・ごめん!は〜い!安田勝之進様の使いで参った。
こちらを新九郎様に。
はあ。
では…。
兄上。
何だ?勝之進様は何と?ああ。
こないだのいさかいの件わびたいと。
上杉家のため生きるか民のため生きるか…。
お考えが食い違いになったままでしたからね。
それでどうなさるのです?もうよいのだ。
これまで俺が正しいと考えてきた事は全て偽りだったのだ。
よしいくぞ!
(次右衛門)始め!きえ〜っ!兄上は今までの自分さえも偽りだったとお考えなのですか?えい!信じていた事が違っていたからといって親しき仲まで断ち切って別人となってしまわれるおつもりなのですか!?誰の子であろうとも兄上は兄上なのではないですか!?私だって戸惑っております。
兄上だと思っていた人がいきなりそうでなかったと分かったのですから。
ですがまことの事を知ったからといって兄上という人が変わってしまった訳ではない。
兄上は兄上です!このままでは一人っきりになってしまいます。
私は兄上をお支えしとうございます。
佐乃…。
勝之進様にまことのお気持ちをお話し下さい。
必ずや力になって下さるはず。
すまない。
お前にまで心配かけて。
確かにお前の言うとおりだ。
俺は俺。
もっと自信を持たねばならぬ。
受け入れるにはまだしばらく時がかかりそうだが。
やあ!佐乃!兄上!兄上!おわ〜っ!うおっ!兄上!兄上!うっ!佐乃!佐乃!新九郎殿!佐乃!佐乃!佐乃!勝之進!
(勝之進)どうした?新九郎。
これはお前の…。
違う。
新九郎!私がついておりながら…。
前田様これは私の落ち度でございます。
旦那様どうしましょう?佐乃様にもしもの事でもあったら…。
父上!佐乃が…!聞いた。
これも勝之進からのものでは…。
そうでしょう。
父上。
敵の狙いは私です。
私の身を差し出せば佐乃の命は助かります。
新九郎様なんという事をおっしゃるのです!さて…。
父上!私も行かせて下さい。
こんな事になるくらいなら私などもうどうなってもよいのです!北川殿。
はい。
新九郎と竹さんを頼みます。
はっ!父上!落ち着け!焦って動くは敵の思うつぼ。
のう。
(又吉)旦那様。
お供します。
たくらみが狂ったのですね。
目当ては兄だったのでしょう?父は決して兄を渡しませぬ。
それに私も侍の娘です。
覚悟ならできております。
雫さん。
最初からだますつもりで家に入り込んだのですね?愛想のいい顔をして又吉に近づいて…。
あなたには人の気持ちが分からないんでしょう。
人を大切に思った事がないからこんな事ができるんでしょう!私には物心付いた頃から親はおりませんでした。
守ってくれる人なんか誰も。
生きるためにはどんな事でもやらなければならなかった。
女を武器に相手に取り込み用がなくなれば容赦なく切り捨てる。
生きていくにはそうするほかなかった。
佐乃様が羨ましい。
大切な人に囲まれて思った事が言えて。
雫。
はい。
残念じゃのう。
(皿が割れる音)うっ!忍びが情けを持ったら終わりじゃ。
新九郎様!表にこれが…。
「龍経寺に来い」…。
行ってはなりませぬ!北川様!俺が行かなければ!敵が欲しいのは俺なのだ。
俺が行かなければ佐乃が…。
それに父上まで…。
お待ち下さい!行くならこの竹もお連れ下さい。
私は新九郎様のために生きると決めたのです。
初めてお会いした日から母の代わりになると決めたのです。
息子の命が危ない時自分が代わりにと願わぬ母がどこにいます!これはこれは…。
またしてもご足労頂きましたな。
いやいや。
ちょうどお渡ししたいものがございまして。
ご出立の餞別でございます。
見た目はむさ苦しゅうございますが…。
味は絶品。
お納め下さい。
つまらん!ここにおいでという事は我らが何を所望しているかお分かりのはずですな。
新九郎殿は?失礼つかまつった。
新九郎は無苦庵に置いてまいりました。
和尚。
娘をお返し下され。
ハッハッハッハッハ!相変わらずいい度胸をしておられる。
見返りもないままに人質を返してほしいとは一体どういうご了見やら。
娘をお返し願いたい。
前田殿あなた様はもともと上杉家の人間ではない。
なのに何をそのようにこだわっていらっしゃるのか。
拙僧も仏の慈悲を説く者でございます。
戦の世に戻したくないという気持ちはあなた様と同じ。
世の中の平穏を担う事ができるのはもはや徳川のほかにございませぬ。
これは自明の理。
その徳川の世を盤石にする事こそ欠かせませぬ。
盾つく者を潰すのは世の安寧につながります。
もっとも一時は血を見るやもしれませぬ。
しかし長い目で見れば必要な犠牲です。
これが大義というものです。
人の死は見とうございませぬ。
なにをふぬけた事を。
それがあまたの戦場でその名をとどろかせた前田慶次の言う事か!だからこそです。
私は多くの命を奪ってまいりました。
それが務めだったからです。
されどあやめた者たちの顔が頭から消えません。
あやめた時の手触りも消えません。
私は今でも夢を見ます。
和尚奪ってよい命など一つもございません。
徳川の人間の命上杉の人間の命どこの人間の命も等しく尊いものです。
分かりませぬな。
そのためには実の娘の命より三成の子を取るとそうおっしゃりたいのですかな?佐乃様。
どうなされます?前田殿。
父上!新九郎!兄上!佐乃様!これはこれは…。
俺を捕らえろ。
目当ては俺だろ。
俺を捕らえて佐乃を放せ。
自らお出向きになるとはなんと物分かりのいい…。
(天徳)石田三成様のご遺志を守り立派にお育てになりましたな前田殿。
お出し頂くものはあと一つ。
それさえ頂ければもはや手出しは致しませぬ。
何の事でしょうか?これではいけませぬか?これはまた何をおっしゃるかと思えば。
いや見当がつきません。
私の考えていたものとは違ったようで。
この期に及んでまだとぼけるおつもりか!くう…!かくなる上は…!皆の者…。
これの事ですか?これなら最初からお渡ししましたよ。
(戸を開ける音)乾坤一擲!この時を待っておりました。
もうよい!下がれ!下がれ!
(一同)はっ!佐乃!兄上…。
大丈夫か?佐乃。
北川殿。
勘定頭の安田殿をこちらに。
はっ!すまなかった。
兄上…。
これは…!私がお話しした事信じて頂けましたか?これで証人ができました。
北川殿縄を解いてあげて下さい。
はっ。
何故です?逃がすのです。
でもこんな事になってしまってどうして?とりあえず勝ち負けはつきました。
実のある戦いでございました。
またお会いする日を楽しみにしております。
私も。
では…。
和尚!だましたのだな!?ご自身の思慮が欠けておられたのでございましょう。
また命が一つ…。
旦那様も佐乃様も新九郎様も皆無事に戻られ竹はうれしいのです。
一時はまことどうなる事かと…。
ほらたんとお召し上がり下さりませ。
竹もう食えぬ。
私もです。
私ももう少しお代わり頂けますか?私の命で代わりになるならと何度この身を投げ出そうと思った事か。
けれど竹さんで身代わりになったかどうか…。
気持ちでございます!ハハハハハ!・ごめん下さい!どなたでしょう?こんな時分に。
慶様はおいででございましょうか?旦那様はお留守でございます!慶様!慶様!おいででございましょう?慶様!慶様!いやこれはどうも雪夜さん。
慶さんいらっしゃらないから心配してたんですよ。
お忙しくてちゃんとお召し上がりになってないんじゃないかと思ってお食事とお酒お持ち致しました。
お食事なら今おとりになっておられました。
いやまことにありがたい。
皆で酒盛りをしましょう。
(次右衛門)おお!酒盛り?父上。
とにかく一難去ったんです。
あ今宵は気晴らし気晴らし!あさあさあさあさあさあ!さあさあ!さあさあさあさあさあ!安田殿!
(継之丞)侍としてその責めを負うだけでございます。
俺の父親は石田三成。
兄上はよいのですか?私がよその方の嫁となっても。
(継之丞)勝之進!いずれ江戸とは決着をつけなければいけないでしょう。
2015/05/28(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 かぶき者慶次(8)「瀬戸際の攻防」[解][字]
慶次(藤竜也)から、改めて出生の秘密を明かされその重みに一人悩む新九郎(中村蒼)を下女の竹(田畑智子)が励ます。そんな中、佐乃(西内まりや)が誘拐される。
詳細情報
番組内容
慶次(藤竜也)から、改めて出生の秘密を明かされその重みを受け止めきれず一人悩む新九郎(中村蒼)を下女の竹(田畑智子)が励ます。一方、天徳和尚(伊武雅刀)は、雫(壇蜜)を使い、佐乃(西内まりや)を人質にして新九郎と「守り刀」を慶次に要求してくる。佐乃を取り戻すため、一人寺に乗り込む慶次。そして、佐乃を心配し新九郎も寺にやって来る。勝ち誇る和尚に対し、絶体絶命の慶次が反撃に出る。
出演者
【出演】藤竜也,中村蒼,西内まりや,工藤阿須加,田畑智子,笛木優子,角田信朗,壇蜜,神尾佑,伊武雅刀,火野正平
原作・脚本
【作】小松江里子,【原案】火坂雅志,【脚本】山上ちはる
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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