日本の話芸 落語「茶の湯」 2015.05.30


是非注意して頂きたいと思います。
今日はどうもありがとうございました。

(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(春風亭昇太)え〜…ってな訳でして今日は皆さんにこちらの方で落語を聴いて頂くというそんなビッグなイベントに参加して頂きましてまことにありがとうございます。
そんなに何て言うんでしょうか無駄に長いものではありませんので全員で力を合わせて…。
(笑い)最後まで頑張り抜いてもらいたいなと思ったりする訳なんですけど。
よく言霊っていう言葉があるじゃないですか。
あれって本当ですね。
ああなりたいこうなりたいっていうのを言葉に出して言ってるとそれが本当に実現するというね。
よくありますよね。
僕あれなんですよ。
NHKに出る度にずっと「『大河』に出たい。
『大河ドラマ』に出たい」ず〜っと言ってたんですよ!…で僕歴史が好きなんですね。
特にあのね中世史が好きなんです。
なので「大河ドラマ」で鎧とかね着てみたいんですよ。
一応マイ甲冑も持ってはいるんです。
(笑い)マイ甲冑持ってるんですが僕の持ってるマイ甲冑は足軽の甲冑なんでもう少し身分の高い人の甲冑を着てみたくって。
ずっとね「『大河』に出たい『大河』に出たい」ずっと言ってたんですよ。
そしたらねやっぱり言ってるとね言霊ですよ。
来るんですよそういう仕事が。
「軍師官兵衛」。
あれに呼んで頂きました。
うれしかったですね。
49話目。
もう一番盛り上がる時ですよ。
当日ねNHK行ったんです。
そしたらね「昇太さん甲冑に着替えて下さい」って言われてスタジオに行ったら3人がかり。
もうかっこいい甲冑をつけてくれて。
「じゃあメーク室へ行って下さい」って言われてメーク室へ行ったんですよ。
そしたらもうメークさんがこうやってくれるんですけどまあ合戦の途中ですからきれいにはしませんよね。
ちょっと顔を汚す訳ですよ。
「昇太さん勇ましいようにヒゲつけましょうか」って言われて「お願いします」ってヒゲをウワ〜ッきれいにつけてもらいましてほいで兜かぶって眼鏡取ったら誰だか分かんなくなっちゃった。
(拍手と笑い)僕の顔で眼鏡ってこんなに重要だったんだと思いました。
それで後でねテレビで見たんですよ。
誰だか分かんなかったです。
(笑い)分かんなくていいんですよああいうのはね。
ものすごい緊迫したシーンにね春風亭昇太出てきてもしょうがないじゃないですか。
分かんなくていいんです。
そういうもんなんですよ。
だけどありがたいです。
そういうお仕事頂けてね。
何かやらして頂くというのは本当にうれしいです。
自分がこの世界に入ったから。
落語家になったからこその話ですよね。
この落語家っていう商売もねもともとは僕落語別に好きだった訳じゃないんですよ。
たまたまなんですがほかのサークルに入ろうとしたらたまたまそこの人がいなくって隣の部室の人が「うちの部室でちょっと休んでいきなよ。
すぐここのクラブの人帰ってくるから休んでいきなよ」って言ってくれて「ありがとうございます」って入ったらそこが落語研究部だったんです。
先輩たちがず〜っと冗談ばっかり言ってるから「4年間楽しく過ごすんだったらここでいいや」と思って落研入っちゃったんです。
好きでも何でもなかったんです。
どっちかっていうと嫌いだったんです。
でも初めて生で聴いたら「あっこんなに楽しかったのか」と思って好きになってやってるうちにだんだん…いったら趣味が高じてこの商売に入ってしまった訳ですよね。
まあね噺家になってからインタビュー受けましてね。
いろいろ落語の話をしてる最後に「そういえば昇太さんは趣味は何ですか?」って言われたんです。
そこで「僕趣味落語です」っていうふうに答えかけて「あれ?これ今趣味落語だって言うと怒られるな」と思って。
「ふざけてやってんのか」って話じゃないですか。
だから趣味1つなくなってしまったと思いインタビュー終わったあとちょっと考えてみたら趣味を仕事にしちゃったからちょっと何か新しい趣味見つけなきゃいけないなと思ったんですがまあ子どもの頃からやっていたお城を見に行くっていう趣味を復活させたんですよ。
ほれでやっているうちにね「本とか書いて下さい」なんて言われたんで本とか書いて見に行ってるうちにだんだんお城のフォーラムとかそういうのあると呼ばれるようになってだんだん仕事化してるんですよ。
(笑い)だからこれもどうなのかななんて思うんですけどね。
でも趣味というのはねたくさんあった方がいいじゃないですか。
ところがね趣味がやっぱりね…僕とおんなじですよ。
仕事やってるうちに趣味を忘れてしまったりなくしてしまう人がたくさんいらっしゃるんですよね。
ちょっと前のね企業戦士の皆さん。
趣味とか持つ時間が実際なかった。
そういう方が会社を辞めた途端やる事がないって事に気が付いて慌てて趣味とかを探すんですがやっぱりある程度の年齢になると一からもの教わるというのはなかなか難しいですよね。
教えてくれるのは全部自分より年下の人だったりする訳ですよ。
だからなかなかそうもいかない。
そういう人が一番手を伸ばしやすいのがカメラなんだそうですね。
若い頃カメラ高級品じゃないですか。
なかなか若い頃買う事ができない。
ところが時代を経てカメラも買いやすくなってますし今デジタルカメラですからそんな高いもんじゃありませんよ。
しかも退職金たくさんもらってるからものすごいいいやつを…プロが使うようなやつを買ってきて。
一眼レフのこんな望遠のやつ。
誰も撮らせてくれませんから。
(笑い)不平不満を言わない花とかを撮りに行く訳です。
(笑い)何かこうね近所の公園とか行っちゃってね。
一眼レフで撮るとこりゃもう一眼ですからね花にピントが合って後ろがボケてすごいきれいに撮れるんですよ。
大体今のデジタルカメラなんてシャッター押せばきれいに撮れるようになってるんですよ。
「上手に撮れた!」なんて言って。
またプリント技術もいいですからね自分が撮ったきれいな花の写真をこんな大きくプリントしちゃってこれを額に入れて居間に飾っておくと友達が遊びに来て「あ〜きれいな花ですね」なんて言おうものなら…。
(笑い)「そうですか?見ますか?」なんて奥の方からこんなに厚いアルバム花とか花とか花とか木とか花とか花の写真を順番にず〜っと見せられて…でその友達が二度とそこに来なくなるという。
(笑い)パターンなんだそうですね。
これはもう昔も今も同じでございましてこれはある大家の旦那さん。
若い頃一生懸命仕事を致しまして年を取ったから隠居をしよう。
ところが根が倹約な方でございまして自分でもって隠居所を建てるなんて事は致しません。
「どっかにいい出物は?」と聞いておりますと前住んでた方が茶人と見えまして茶室がありまして茶道具一式そろっている。
そこに孫店といって三軒長屋ついておりまして「ここがよかろう」というんで気に入った小僧を連れて根岸の里へやって参りまして…。
「定吉や。
定吉。
定吉や!うん?定吉や!?定吉!定吉や!定…」。
「へ〜い!」「へ〜いじゃないお前は!私が呼んだらスッと来て用事をしてくれなきゃ困るだろ」。
「どんな用事を言いつけられても構わないように近所見て回ってきました!」。
「あ〜そうか。
こりゃ感心だな。
どうだ?この辺りはなかなかいい所だろう」。
「何だか知らないけど蔵前と比べたらさみしいとこですね」。
「お前は何でそういう事を言うんだ!ここはさみしいんじゃない。
ここは閑静というんだ」。
「あっ閑静っていうんですか。
住んでる方も変わってますよ。
隣のお嬢さんなんてね自分に爪がついてんのにそこに爪をつけまして板んとこに糸張ったやつをバラバラバラバラひっかいてました」。
「お前は…不粋な小僧だな!それはお琴だろ。
お琴はひっかくというんじゃないあれは奏でるというんだ」。
「奏でるっていうんですか。
何か釘がたくさん出てるとこに花をブツブツ刺してましたよ」。
「それは生け花!生けるというんだ。
分からない小僧だな」。
「でもねこの近所の方いろんな事やってますからご隠居さんも何かやったらいいんじゃないですか?」。
「うん。
まあまあまあ私も何かやろうとは思っているんだよ」。
「でもご隠居さんは仕事ばかりでそういうの分からないでしょ?」。
「お前は…。
私は…あれなんだよ!若い頃は随分いろんなものやってたもんなんだ」。
「あ〜そうなんでございますか。
じゃ何やるんでございますか?」。
「ほら。
前住んでた方がお茶をやっていたようだ。
茶室があって茶道具一式そろっている。
私はなまあお茶でもやってみようかなと思っているんだ」。
「お茶ですか〜?いえお茶とか分かるんですか?」。
「お前は…。
私は…小さい頃習っていたんだ」。
「そうだったんでございますか。
そんなの知らなかった。
じゃあやりましょう。
お茶やりましょう。
お茶やりましょう。
あれお菓子がつくんですよね?お茶やりましょう。
お菓子がつくでしょ?」。
「お前お茶をやりたいのかお菓子が食べたいのかどちらなんだ。
まあまあやろうとは思っている。
やろうとは思っているがな。
まあまあ一つだけ忘れた事がある。
それを思い出さない事にはできないんだな」。
「あれ?おかしいな。
習ったんでございましょう?」。
「習ってはいるが随分昔に習ったから忘れてしまったんだ」。
「おかしいな。
うちのお父っつぁん言ってましたよ。
何でもね若い頃に習っておくと忘れないって言ってましたけど忘れちゃったんですか?」。
「お前のお父っつぁんが言うようなそんな若い頃じゃないんだ。
私はごくごく若い頃にやった。
あまりにも小さい頃やっていたから忘れてしまったんだな」。
「何忘れたんですか?」。
「あれだ。
お茶やる時入れるのがあるだろ青い粉。
あれが何だったかなと思ってな」。
「青い粉ですか。
あれかな?」。
「分かるのか?」。
「お金下さい。
買ってまいりますから…。
買ってまいりました」。
「何買ってきたんだ?」。
「青ぎな粉買ってきました」。
「えっ青ぎな粉?ん?青ぎな粉!?あっ青ぎな粉買ってきたのか。
あっ思い出した!もうここまで出てたんだ。
『青ぎ』まで出てたんだ。
青ぎな粉そうそうそう!うちのなお師さんっていう人が赤ん坊の私に向かって『いいでちゅか?茶の湯をやる時は青ぎな粉を使うんでちゅよ』と言ったのを今思い出した!それがありゃできるだろ。
さあさあええ茶室に行こう」。
もとより炭を切るなんて事は知りやしません。
釜の下んとこに炭を投げ入れまして渋団扇でもってバタバタバタバタあおぎ始める。
「フフフッハハハハッどうだ?釜の方は」。
「もう大丈夫でございます。
もうグラグラグラグラ煮えたぎってます」。
「あ〜そうか!うわっ本当だ。
ハハハハッ。
ご覧!湯気でもってな釜の蓋をガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ持ち上げているだろ。
この音をこうやって目をつぶって聞くと実に風流だな。
ハハハッ。
それにご覧。
釜を包まんばかりの炎だ」。
(笑い)「この炎を見ていると野性の血が騒ぐというのか実に風流だな。
それじゃあそろそろ始めるか。
あ〜よしよし。
それじゃあな道具を取りなさい。
そこのほら茶碗取りなさい。
その茶碗取りなさい」。
「え?どれですか?この大きいのでございますか?これ名前何ていうんですか?」。
「うるさい小僧だな。
いいだろ?別に名前なんか知らなくて」。
「用意する時があった時困りますから名前教えて下さい」。
「うるさいよお前。
これは大きい茶碗だろ。
だからこれは熊茶碗という。
横の中くらいのが犬茶碗。
一番小さいのは猫茶碗だ。
覚えておきなさい。
それからそのちっちゃいひしゃくみたいなのあんだろ。
それ貸しなさい」。
「はい…これですか?これ名前何ていうんですか?」。
「うるさいよお前はもう…。
これは小さいひしゃくだろ。
だからこれネズミびしゃくという。
覚えておきなさい。
それから…そこのこれ。
これ取りなさい」。
「えっ何?」。
「茶の湯でこれといったら分かるだろ?その目の前にある」。
「え?あっこれですか。
これ名前何ていうんですか?」。
「うるさい小僧だなお前は。
何でもそういう事を知りたがって。
これは…竹で出来ているだろ。
足がたくさん生えている。
これ竹クラゲという」。
(笑い)「『竹クラゲ』『にごりえ』なんてよく覚えておきなさい。
それじゃあなよしよしこれね。
よいしょと。
アハハハッ。
それじゃあなお前が一番初めのお客様だ。
贅沢な小僧だお前。
ええ!ほかの小僧たちは今蔵前でもって額に汗して働いている。
お前は私がなここに呼んだもんだからこんな昼間っからこんなお茶を楽しむ事ができる。
なあよかったな。
お前は子どもだからおまけしてやろう。
ほれほれ。
ほら!よしよしよし。
熱い…熱い…熱っ…熱っ…」。
「熱っ熱っ…熱い熱い!ああ…あ〜…熱い…熱い…」。
「ああ…よいしょ…熱い…」。
(笑い)「おかしいな?」。
「どうしたんでございますか?」。
「泡が立たないな」。
「あれ?私あの一度お茶を見た事ありますがチャッチャッとやったらすぐ立ちましたよ」。
「泡が立たないな…。
入れ忘れたかな?何か」。
「泡が立つものですか?」。
「泡が立つもの入れ忘れたかな」。
「泡が立つものですか。
あれかな?」。
「分かるのか?」。
「お金下さい。
買ってまいりますから…。
買ってまいりました」。
「何買ってきたんだ?」。
「ムクの皮買ってきました」。
昔はムクの皮を水に溶いてシャボンを作ったというぐらい泡が立つもんなんだそうで。
これを面倒だからってんで釜ん中直接入れまして…。
「うわ〜ハハハハッきれい!カニの戦争みたい!」。
「どうだ?極楽のようだろこれ。
ええ!いやいや…よしよし!こんだけ泡が立ったらなもうなかき混ぜなくたっていい。
このネズミびしゃくでこの泡をすくい取る。
これを…。
よいしょこれだ。
なあ。
よいしょ!アハハッ。
あ〜出来た出来た!ささっどうぞ」。
(笑い)「えっ?これ飲めるんでございますか?」。
「飲めない茶の湯というのがある訳ないだろ。
飲みなさい」。
「えっ…いや私あの…飲み方が分からないんでございます」。
「お前さっき見た事あるって言ったじゃないか」。
「見た事あるんですが飲んでるところは分からないんでございます」。
「お前…お前見て覚えようと思ったのに。
お前本当に知らないのか?知らないんだな。
じゃあ教えてやる。
ああいいか?よそでしゃべっちゃいけないぞ。
まずお茶を飲む時は脇を締める。
脇をこう締める。
…でこうやってこう持つ。
ねっ持ったら目八分というからこのぐらいだ。
ねっ。
これを右に3回回すぞ」。
「いやっ熱い熱い…回す時親指に気を付けなさい。
あとはこう飲む。
泡があるな。
泡を向こうに吹く!」。
(息を吹きかける)「戻ってくるな?強く吹いて隙を見て飲む!」。
(息を吹きかける)
(むせる)「あ〜風流だな!」。
「え〜…分かりました。
え〜こうですか?」。
(息を吹きかける)
(むせる)「ゴロゴロゴロ…」。
「ゆすぐんじゃない!」。
「う〜ううっ…」。
「頑張りなさい!」。
「う〜う〜…うっ」。
(泣き声)「風流です!」。
さあこれから「風流だ風流だ」というので日に3度ずつ10日もやりますとすっかりおなかを下しまして…。
「さ〜だ〜!定吉〜!」。
「へえ。
え〜え〜…」。
「定吉私が呼んだらお前す〜っと駆けてこなきゃ駄目だろう」。
「駆け出せません…駆け出したらピュ〜ッて…ピュッ…」。
「お前もおなかを下したのか。
私もそうだ。
ゆんべは厠にな36ぺん通ったんだ」。
「ああ…私は離れの厠に一度…」。
「あ〜よかったな。
一度で済んだのか?」。
「一度入ったら出られませんでした」。
「あ〜そりゃ大変だ。
え〜じゃあそろそろ茶の湯を始めるか」。
「え〜!?え〜どうでしょう?いつもねほらあの2人でやってると面白くないですからたまには誰か呼びましょうよ。
誰か来てくれるかな…。
三軒長屋!あそこにほらお豆腐屋さんと仕事師の鳶頭と手習いの先生いますからあの3人呼びましょうよ!お願いですから手紙書いて下さい!」。
自分一人でもって茶の湯を受け持つとか嫌なもんですから手紙を書いてもらうとそれを「はあ〜」ってんで三軒長屋へ配って回る。
「いやいやいやありがとうありがとう。
いや〜ハッハッハ…おっかあご覧よ。
え〜あれ教えがいいんだな。
あの小僧さんここへ来た頃はあっちチョロチョロこっちチョロチョロうちの店の中も入ってうるさい小僧さん来たもんだと思ったが今ご覧。
しゃなりしゃなりと歩いて…。
お公家さんみたいであろう。
あ〜ご隠居さんの教えがいいんだな。
あ〜さあさあさあふんふんふんふんふん。
…えっ?おっかあこれいけねえぜ」。
「えっどうしたんだい?」。
「いや茶の湯をやるから茶を飲みに来いって書いてあるんだよ」。
「行ったらいいだろう?」。
「バカ野郎お前。
あれ作法があるんだよ。
俺はそんなの分からねえ」。
「だったら行かなきゃいいだろう?」。
「行かなかったら茶の湯も分からねえのかってバカにされるじゃねえか…。
行ってもバカにされる行かなくっても笑われる…。
よし!おっかあ引っ越しをしよう!」。
「やだ私は。
何で引っ越しなんかしなきゃいけない…。
じゃあじゃあ…こうしなよ。
うちばかりじゃないんだろう?三軒長屋みんなほら配ってたんだからさ隣のほら仕事師の鳶頭若い者何人も使ってるぐらいなんだからあのほら鳶頭だったら飲みようぐらいだったら分かるんじゃないのかい?先に飲んでもらってお前さん見よう見まねで後から飲みゃいいんだから」。
「なるほど。
それは違えねえや。
よしよし…え〜っとさあさあさあおいどど…どうしたんだろうね?えっ?随分立て込んでるな」。
「何やってんだいこの野郎!お前そんなもん1人で持てる訳ねえじゃねえか!2人で持つ当たり前だそんなものは。
それは俺が持つからいいんだよ!おっかさんはここに座ってな。
ケガするといけねえんだから」。
「あ〜大変…ちょっと鳶頭鳶頭」。
「あ〜な…何だい?」。
「今日何かあったんでございますか?」。
「いやいや何という事はねえんだけどね急に引っ越しをする事になったんだよ」。
「引っ越し?この間表を直したばかり…」。
「そうなんだよ。
え〜いい普請が出来たと思ったんだけどよどうしても引っ越しをしなきゃいけないんだ」。
「どういう訳でございますか!?」。
「これね言っても…まあまあお前だからいいか。
実はね茶を飲みに来いって手紙が来たんだよ。
俺は分からねえだろ?向こう行って恥かいたらやだからよ。
どうしたらいいだろう…若い者たちに相談したら若い者たちが全員一致でもって引っ越しをしようって話になったんだ。
うん。
また引っ越し先が決まったらまたね挨拶に来るから」。
「ちょちょちょ…いやうちもそうなんでございます!じゃあじゃあ…いかがでございましょう?隣手習いの先生でございますよ。
子どもたちから先生先生といってものを教えてる。
私らだって先生と呼んでるんでございますよ。
先生と呼ばれる方ですから飲みようぐらいだったら分かるんじゃないでしょうか。
先生に先に飲んで頂いて私たちはそれを見て飲んでしまえば…」。
「なるほど違えねえや!よしよし…荷を降ろせ。
そのままにしとけ。
またいつ引っ越しをするか分からないんだから。
さあさあ…へえへえよしよし…はあ〜さあさあ…」。
(戸をたたく音のまね)「先生いますか?先生先生…」。
「あ〜どうぞどうぞそのまま中にお入り下さい」。
「あ〜そうですか。
え〜よいしょと。
あ〜先生どうも」。
「ああこれはお二人でもって長々お世話になりました」。
「ここにも来ているんだ。
先生あれでございましょ?茶の湯でございましょ?いやいやあっしたちもそうなんだけど先生はほらふだんから先生と呼ばれてる人でございます。
そうでございましょう?ねえ?ほ〜ら子どもたちにものを教えてるんでございますから。
先生ですから飲みようぐらい分かるんじゃないですか?」。
「まあまあわ…私もそりゃえ?子どもたちにものを教えているそういう事をしておりますんでねそりゃ飲みようぐらいだったら分かるんでございますが『お点前は』と言われるともうどうしようもない」。
「分かりました!じゃあねお点前の方はあっしが引き受けますから」。
「鳶頭お点前…」。
「分かる分かる!あっしだけどいいんですよ。
向こう行ったらね拳固をこさえてこういうふうに隠しておくんですよ。
向こうでもって『お点前は』って言ったらこれをこう出すんですよ。
でこう知らんふりしてる。
もう一度『お点前は』と言ったらこれをこうグ〜ッと出してまた知らんふりしてるという。
まだ『お点前は』と言われたらガ〜ンってぶん殴ってやる。
倒れてるうちに引っ越せばいいでしょう」。
「じゃあそうしましょうか」。
ご隠居さんの方は3人呼ぶんだから誰か茶の湯を知っているだろう。
それを見て覚えてしまおう。
でね仕事師の鳶頭とそしてお豆腐屋さんの方は先生を見てやっつけてしまおう。
先生の方はまあ行ったらなんとかなるだろうというね。
狭い茶室ん中熱い視線が交差して大変でございます。
「さあさあさあさあどうぞ」。
「ええ。
それでは」。
(むせる)「ええ!?ええ?」。
「どっち!?こっち?こっち?どっち!?」。
ベ〜ッて大変な騒ぎでございます。
こういう所には人が来なくなるだろうと思うんでございますがそうじゃございません。
出してるお菓子が本物でございましてこれを目当てに人が集まりましてご隠居さんがよそ見してる間にねお茶の方は釜ん中入れちゃったりなんかして。
で月末の菓子代を見て驚きまして大変な金額でございます。
もともと根が倹約な方でございますからこうしちゃいられない。
小僧に言ってサツマイモを買ってこさしましてこれをふかしまして皮をきれいにむきましてアタリ鉢でもってゴリゴリゴリゴリこね始める。
そこに黒蜜と黒砂糖を入れまして小さなおちょこにこれキュッと入れましてポコンとこう抜こうと思ったんですが粘ついておりまして抜けません。
どうしたらいいだろう…。
ヒョイと見ますと行灯がございましてね…。
「そうだ!このともし油をおちょこの内側に塗ってみよう」。
ビャ〜ッと塗りましてキュッと入れましてポコン。
きれいに抜けております。
サツマイモの黄色いところへもってきて黒蜜と黒砂糖。
そこに照りがかかっておりますので見た目には大変おいしそうなんでございますがとても食べられた代物じゃございません。
これを出し始めまして利休まんじゅうなんて名前を勝手に付けまして出し始めますと誰ひとり来なくなりました。
ところが必ずこういうところには悲しい犠牲者が登場する訳でございまして古くからのお友達がやって参りまして…。
「いやいや何でもこちらの方ではお茶をやってらっしゃるという話を聞きまして。
私お茶というものやった事ございません。
是非教えて頂きたいと思ってやって参りました」。
「ああそうでございますか。
あぁたご存じない?そういう方歓迎なんでございますよ。
さあさあ中に中にお入りなさい。
定吉表に鍵を掛けておきなさい」。
久しぶりに来たもんだからうれしくてしょうがない。
いつもの倍入れまして…。
「さあさあさあどうぞ」。
「私飲みようが分からないんでございますが笑わないで下さい。
お願い致します。
ええそれじゃよいしょ。
大変にこういうのお高いものなんでございましょう?私何も分からないんでございます笑わないで下さい。
じゃあ頂戴致します」。
グワ〜ッと飲みますともう口ん中ひっくり返るようでございます。
何か口直しはと目の前見ますと利休まんじゅう。
これがよかろうってんでこれを口ん中へ放り込みましたら口ん中がもう炎が噴いたようでございます。
「こりゃいけない!表へ拝借」。
表へ出ましてこれを口から出しまして庭に捨てようと思ったんでございますがきれいに掃き清めてありまして捨てる場所がございません。
塀の向こうが当時の根岸でございまして一面の菜畑。
ここがよかろうってんでこれをウワ〜ッと投げますとたまたま働いておりましたお百姓さんのほっぺたにうわっちゃっちゃっちゃ!「誰でえ!こんなイタズラした…。
何だまた茶の湯か」。
(拍手)2015/05/30(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「茶の湯」[解][字][再]

落語「茶の湯」▽春風亭昇太▽第668回東京落語会

詳細情報
番組内容
落語「茶の湯」▽春風亭昇太▽第668回東京落語会
出演者
【出演】春風亭昇太

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz

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