BS1スペシャル「サムライパイロット、世界へ〜室屋義秀・極限の闘い〜」 2015.05.30


空に飛び立つ10分前だった。
周りの音は聞こえない。
頭の中に疾走する自分をイメージする。
まぶたの奥に見えるのは…。
小さな空。
ただそれだけ。
(レース開始コール)「Smokeon」。
とんでもなく速い飛行機の世界大会があるって知ってるだろうか?1,000分の1秒単位でタイムを競ういわば…パイロットには体重のおよそ10倍もの重力が襲いかかる。
この極限の闘いを演じるのは14人の男たち。
各国の空軍のエース級が集う。
その中に大学のグライダー部からはい上がり頂点を狙おうとする男がいる。
アジアからただ一人レースに加わる日本人選手だ。
室屋は雪深い山あいで暮らし飛行機が飛べないなんてしょっちゅう。
それでも前を向く。
そしてカメラはエアレース新シーズン開幕戦に挑む室屋に密着。
日本のメディアとして初めて舞台裏に迫った。
サムライは静かに歩みだす。
極限の闘いが今幕を開ける。
この日の朝室屋がスキー場でトレーニングをするという。
どこだ…?てっきり上級者コースだと思っていた撮影スタッフ。
だが室屋は初心者コースをぎこちない滑りで下りてきた。
この男こそエアレースパイロット室屋義秀だ。
うまくできないから「ウーッ」って。
室屋の名誉のために言うとスキーは40歳を過ぎてから始めたそうだ。
「好きこそものの上手なれ」。
それが室屋の信じる言葉。
スキー場から車で30分。
福島県の山あいにある小さな飛行場が室屋の本拠地だ。
室屋はエアレーサーとして活動する一方ここを拠点に国の内外でエアショーを手がけている。
操縦するのは小型のプロペラ飛行機。
エアショー用のタイプでも300キロ以上のスピードが出る。
(室屋)この3つを使うんですけど…
(取材者)あぁ〜動いてる動いてる。
(室屋)これが左右反対に動くんで…エアレースをしている時の操縦はどんなふうなのか見せてもらう事にした。
特に驚いたのは操縦をミリ単位で行うテクニックだ。
これぐらい調整しながら。
(取材者)今のこれ調整ですか?多分これより小さいかもしれないですねほんの調整は。
(取材者)震えてるぐらいですよね。
(取材者)この動きで?すげぇっすね。
ほんの僅かな動作の揺れでさえ勝敗を分ける空のレース。
ちょっとだけその姿見たくないっすか?じゃあいきます。
何だ!?この回転!過酷なターンを繰り返すレースに向けた訓練だ。
体にかかる重力は最大700キロ。
普通の人なら失神するほどの環境の中操縦かんに神経を集中させる。
(取材者)いやぁすごいですね。
息が上がり話す事すらままならない。
1回のフライトはおよそ15分。
それがギリギリの限界だという。
人類が大昔から願う大空を飛ぶという夢。
それは挫折ばかりの苦難の歴史だった。
でもついに朗報が!その僅か10年後モナコでエアレースが開催。
20年代には6つのレースが行われ飛行機の黄金時代を迎える。
戦後に入るとレース専用にチューンナップした飛行機が続々と誕生しスピードの追求に拍車をかける。
その究極のレースとして始まったのがエアレース世界選手権。
室屋は2009年からこの大会に参加。
当初は世界の壁に阻まれ上位に食い込む事ができなかった。
だが去年のクロアチア戦では初めて3位表彰台に上がった。
今年室屋が目指すのはこのレースの頂点だ。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
(取材者)お疲れさまです。
お疲れさまです。
(取材者)飛行機は大丈夫でした?無事に飛んできましたね。
(取材者)まだ…?時差ぼけじゃないですけど…。
いや結構よく寝てきたんでしっかりすっきりしてますけど。
世界8か所を舞台に1年をかけて戦うエアレース。
新シーズン開幕戦はアラブ首長国連邦の首都アブダビ。
中東特有のしゃく熱の気候と気まぐれに吹く風がこの街の特徴だ。
AbuDhabi!14人のパイロットと飛行機が集結した格納庫。
立ち入りが厳しく制限されるこの場所で密着取材を行った。
パイロットは空軍の元エースなどつわものぞろい。
危険をものともしない個性派ばかりだ。
室屋は3人の仲間とチームを組んでいる。
14年前から室屋を知るロバート・フライ。
チームのマネージメントを担当する。
今シーズンから本格的に加わるのがベンジャミン・フリーラブ。
航空学校で教べんを執る航空力学の専門家。
レース専用の解析ソフトを開発。
ここに実際のフライトデータを加えていくという。
室屋が何かを床に並べていた。
ここを越えてこっち行ってこっちへ行って…2周目。
アブダビの中心街に隣接するこのコース。
パイロンと呼ばれる障害物のゲートは全部で7か所。
そこには厳しいルールがある。
更にパイロンが2つあるゲートは必ず水平を保つ。
違反すると2秒のペナルティーが加算される。
パイロンにぶつかっても2秒のペナルティー。
2周してゴールするまで目安となる1分をどこまで切れるかそのタイムを争う。
室屋が指摘したゲート3。
180度向きを変えるこのターン。
ライバルたちより短い距離で通過したいと室屋はもくろんでいた。
この日から3日間本番と同じコースで飛行練習が始まる。
実はレース本番の大事な前哨戦。
この3日間で各チームはコースの攻略法を徹底的に探る。
更にライバルチームの映像とタイムを分析し自分たちのフライトにデータを生かす。
室屋の出番がやって来た。
ポイントのゲート3をチームは1か月前からシミュレーションしてきた。
全体で1分を切ればまずまずの結果だ。
この日14人中3位の好成績だ。
(笑い声)
(音声スタッフの笑い声)
(取材者)すみません失礼します。
はいどうぞ。
レースの時必ず持参するものがあるという。
例えばこう…パイロットは夜も孤独な闘いを続けている…。
室屋義秀は…転勤族だった父親の影響で何度も飛行機に乗り自然とパイロットは憧れの職業に。
何気なく入った大学のグライダー部で空の面白さにどっぷりとはまってしまう。
卒業後パイロットを目指しアルバイトでためたお金を持って渡米した。
そこで室屋は人生で一番の出会いがあったという。
「あぁ〜そう…?」みたいな。
意外と単純なんでね「そう…かもね」みたいな。
全米一の飛行機の指導者と言われたランディー・ガニエ。
自宅に室屋を通わせパイロットとしての生き方までを指南した。
渡米から半年にも満たない室屋をあえて世界大会に飛び込ませた。
結果はさんざんだったものの5分間無事にフライトをやり遂げる。
(笑い声)ランディーは飛行機の楽しさすばらしさを教えてくれた。
これまでにない充実した日々だった。
だがその幸せは突然崩れ去る。
ランディーが操縦を誤り亡くなった。
葬儀に駆けつけた室屋は人生で初めて浴びるほど酒を飲んだ。
人生の師とまで仰いでいたランディーの突然の死。
室屋はパイロットをやめて事務の仕事を始めた。
極限と闘うパイロットの世界自分はそれに耐えられない。
でも1年近くがたった頃空の世界を諦めきれない自分に気が付いた。
…っていう事だけだと思うんですよね。
他にないと思いますよ。
まあ後戻りしても行くとこないしみたいな。
別にしたい事ないし他にっていうのが大きいと思います。
まあしたい事がないって事はこれがしたいんですけど。
25歳の時パイロットの道を究めようと日本で活動を再開した。
だがエアショーのパイロットから始めようと思っても肝心の飛行機がなかった。
当時の室屋をよく知る芦田博。
広告会社に勤めていた時あるイベントで室屋に出会う。
芦田は筋金入りの航空ファン。
「世界一のパイロットになる」と豪語する室屋を面白がり意気投合した。
それで動き始めたんですけど…
(取材者)2,000ですか!?2,000。
こうして念願の飛行機を手に入れ室屋はパイロットとしての人生を復活させた。
そしてたどりついたエアレース世界選手権。
自分を見いだしてくれた恩師。
支えてくれる仲間。
室屋はさまざまな人々の思いを背負い空を飛んでいる。
3日間の試験飛行。
その最終日。
この日エアレースの過酷さの一端があらわになった。
マット・ホール選手が56秒台に突入。
1日目より3秒以上も速い。
前日までの記録がうそのようだった。
56秒台に4人が並んだ。
一方室屋は…。
1日目と同じ59秒台。
11位にまで落ちた。
ライバルたちはこの3日間でコースの攻略法をマスター。
室屋たちは完全に追い抜かれた。
実は室屋の機体は他に比べ旧式でパワーでは劣る。
スピード勝負になれば圧倒的に不利だ。
どうするか…。
ベンジャミンが提案したのはゲート3を通る際の進入角度を変える事だ。
これまでの35度を40度にする。
そうすればターンがより速くなる。
だがリスクも高い。
35度の進入角度でパイロンとの距離は僅か1.95m。
それを40度にするとパイロンとの間は1.6mにまで狭まる。
他のパイロットが敬遠する危険な賭けだった。
室屋はいつになくナーバスになっていた。
ああ…。
(取材者)大丈夫ですかね。
(取材者)すみません。
なんか疲れてるのに…。
うん…そうですね。
まあまあこれは予想済みな事なんで。
まあ大体予想どおりの展開じゃないですかね。
(取材者)ああそうですか。
うんうん。
(室屋)こういうとこ。
この辺狙ってるわけ。
ちょっと足りないんだけどこのぐらい。
(取材者)ここのビルですか?
(室屋)うん。
(取材者)ああ。
困難な状況でも室屋は冷静さを失っていなかった。
大会当日を迎えた。
チームはターン対策にギリギリまで取り組んでいた。
補助翼の一部をミリ単位で削る。
昼過ぎ室屋が現れた。
サムライが静かに戦場へ。
レース初日は予選。
14人全員でタイムを競う。
この順位をもとに2日目の本選は1対1のトーナメント方式。
2回勝ち上がると最後は4人で優勝を決める。
予選トップバッターはフランス空軍の元エースパイロット。
パイロンヒット。
2秒のペナルティーでタイムは1分を超えた。
2人目がフライト。
こちらも1分超え。
普通ならありえない悪いタイムが続いた。
何が起こっているのか…。
出発まで10分を切った室屋のもとへ。
実は風の向きが前日までと真逆になっていた。
初めてのコンディションにパイロットたちは戸惑いタイム1分台が続出していた。
室屋の出番が来た。
ポイントのゲート3。
いかに速くターンができるか。
室屋とこの時1位の選手の軌道を合成した映像。
室屋は外側から攻め40度の角度をつけて進入。
差をつける。
そのあとも室屋は快調に飛ぶ。
風向きの変化にも動じない。
59秒093。
なんと3位に躍り出た。
(取材者)いやぁ〜お疲れさまです。
すごいですね。
オッケー。
(笑い声)グッド。
(取材者)3位ですね。
ねえ!いいっすね。
いいスタートですね。
(拍手)室屋は一躍レースの台風の目になった。
優勝が決まる2日目。
昨日の結果をもとに1対1で直接対決。
相手はチェコの元空軍エースションカだ。
(取材者)Really?ションカは昨年の最終戦で3位を獲得し今乗りに乗っているパイロット。
チームにも余裕が漂っていた。
ションカは順調に飛び続ける。
だが2周目。
ションカは1分を超えるタイムに終わった。
室屋は優位に立った。
1つのミスもなく飛べるか。
アブダビの風が行く手を遮る。
だが室屋は…崩れない。
室屋はどこまでも正確だった。
58秒台を出す完璧な勝利だった。
いい感じですね。
(取材者)いい感じですね〜。
レースはいよいよ山場を迎えた。
残った8人で1対1の対決。
ここで勝てば表彰台が見えてくる。
室屋の相手はピート・マクロード31歳。
19歳でカナダのアクロバット飛行の大会で優勝した次世代のエース候補だ。
室屋は集中していた。
呼吸操縦かんを握る手の動きまぶたの奥に見える空。
今室屋は空を飛んでいる。
まずはピートが飛ぶ。
ミスなく安定した飛行を見せた。
だがタイムは平凡な59秒台。
続いて室屋。
だがそのあとだった。
問題の進入の角度。
ピートよりも攻めてはいるが40度ではなく35度で入った。
室屋が遅れ始める。
必死に追いすがる!0秒481届かなかった。
室屋の戦いは終わった。
(取材者)お疲れさまでした。
お疲れさまでした。
え〜6位で終わりですね。
まあ結構上出来だと思います。
(取材者)次がまた楽しみですね。
そうですね。
(取材者)もっと気合い入れて。
(取材者)まだまだですか。
(取材者)楽しみにしてます。
ありがとうございます。
(取材者)お疲れさまでした。
(室屋)ありがとうございました。
アブダビ大会から11日。
室屋はアメリカにいた。
ひそかに準備していた新しい機体を試すためだ。
エアレース世界選手権の第2戦は日本千葉。
日の丸を背負いしサムライは次なる闘いに向け前を向いている。
時速370kmで大空を駆け抜ける。
2015/05/30(土) 01:45〜02:35
NHK総合1・神戸
BS1スペシャル「サムライパイロット、世界へ〜室屋義秀・極限の闘い〜」[字][再]

世界最速のレース・エアレース世界選手権に挑むパイロット・室屋義秀に密着!初戦の地アブダビを舞台に、パワーで圧倒するライバルたちとどう闘うか、緊迫の舞台裏を描く。

詳細情報
番組内容
大空を自在に飛ぶ、そんな夢を追い続ける男たちの闘い・エアレース。14人のパイロットは空軍の元エースなど個性派ぞろい。一方、福島が拠点の室屋は、飛行経験の少なさを正確な操縦術と強い精神力でカバーし、トップを狙う。アブダビで見えてきたのは、航空力学の専門家などを集め、どれが最速のルートか、緻密な作戦を考え抜く「チーム室屋」の頭脳戦。困難な状況の中、導き出した究極の作戦とは…?運命のレースが幕をあける。
出演者
【出演】室屋義秀,【語り】山田孝之

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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