プロフェッショナル 仕事の流儀「渡辺謙55歳、人生最大の挑戦」 2015.05.30


成功を夢みる者がしのぎを削るエンターテインメントの聖地…男はこの地で人生をかけた大勝負に打って出ようとしていた。
・「IfmyLordinHeavenBuddha,showtheway」・「EverydayItrytoliveanotherday」その主役を張る。
何もかもがさらされてしまうナマの舞台。
・「Agirlmustbelikeablossom」・「withhoneyforjustoneman」・「Shallwedance?」その重圧は想像をはるかに超えていた。
これまでの名声を地に落としかねない挑戦になぜ自らを駆り立てるのか。
(渡辺)はぁっ…。

(主題歌)「出陣じゃ〜!」。
日本の大スターからハリウッドへ。
その力量は世界のレジェンドをもうならせる。
2度の白血病命の危機に直面した。
心も体も極限まで追い詰められた。
いばらの道を歩んだ先に待ち受ける境地とは。
渡辺謙半年に及ぶ闘いの記録。
俳優渡辺謙と初めて会ったのは去年11月の事だった。
渡辺は大物俳優らしからぬ気取らない男だった。
大体でもさあまあ言っても俳優が「プロフェッショナル」出るとあんまり面白くないんだよね。
「格好悪い姿を余さず記録してほしい」。
異例の密着取材は去年12月ニューヨークで始まった。
渡辺が向かったのはミュージカルが上演されるリンカーンセンター。
アメリカ芸術の殿堂だ。
この日から3日間1月末に始まる稽古に備えセリフと歌の特訓を受ける。
Hi,howareyou?13年前からハリウッドで活躍する渡辺。
英語に不安はない。
だが舞台で観客に伝えるための英語は勝手が違う。
生半可な準備では通用しない。
(渡辺)「Youwillsaynomore」。
「nomore」。
渡辺が挑むのはミュージカルの金字塔「王様と私」。
舞台は19世紀のタイ王国。
王様と子供の家庭教師として雇われたイギリス人女性の心のふれあいを描く。
渡辺が演じるのは主役王様。
名優ユル・ブリンナーが初演し今なお伝説として語り継がれる役だ。

(ピアノと歌)一番の課題はユル・ブリンナーでさえ苦戦した韻を踏みながら歌う難易度の高い歌。
はぁ…。
これまでも渡辺は無謀ともいえる体当たりの挑戦を続けてきた。
「押し出せ〜!」。
俳優になって8年後大河ドラマの主役に大抜てき。
「政宗の身上すべからく殿下に献上つかまつるべくはせ参じた次第にございまする」。
超一流の共演者に死に物狂いで挑み渡り合った。
「命は助けてやる」。
「ははっ!」。
42歳の時英語がほとんど話せないにもかかわらずハリウッドに進出。
知恵熱が出るほど猛勉強を重ねアカデミー賞にノミネートされる熱演を見せた。
そして55歳にして挑む山はかつてなく険しい。
だが渡辺にはその人生を貫いてきた流儀がある。
とりあえず安全な所で自分のこう安全で引っ掛かりやすい所に全部こうやっていくというよりかはもうほんとに精いっぱい手を伸ばして足も伸ばして自分の体のどこまでそういうものを引っ掛けてしかも上まで上がっていけるかという事をトライしないと僕はいけないと思うんだよね。
うわ〜!日本に戻った渡辺は大みそか髪をそり落とし本格的な役作りに着手した。
自宅でも旅先でも寝る間を惜しんでセリフを頭にたたき込んでいった。
年明け。
渡辺はいよいよ始まる稽古に向けニューヨークでアパートを借り生活を始めた。
おぉ〜ようこそようこそ。
明けましておめでとうだね。
(取材者)おめでとうございます。
まあどうぞ。
(取材者)よろしくお願いします。
(笑い声)壁にはびっしりの英単語。
100ページに及ぶ台本を暗記し終えたという。
(取材者)おはようございます。
本公演まで2か月半。
稽古初日を迎えた。
ブロードウェイ屈指のキャストとスタッフ100名以上が集結した。
演出はアメリカ演劇界最高とされるトニー賞を受賞した鬼才バート。
主役のもう一人は今注目の実力派女優…
(笑い声と拍手)渡辺の表情はどこか硬い。
熱烈なオファーを受けての今回の仕事。
大きな期待が渡辺に寄せられていた。
4日後。
本番の衣装に袖を通してのCM撮影。
この時渡辺はバートから気になる指摘を受けていた。
ユル・ブリンナーの影を払拭し渡辺ならではの新しい王様を生み出すにはどうすればいいか。
多くの難題に直面した王様が苦悩を側近に打ち明ける場面。
演出のバートが芝居に割って入った。
側近の他にも王の言葉を全て書き留める書記がいる。
妻とのプライベートを記録する事を王として黙認するかどうか。
渡辺は手で書記を制してみせた。
更に3回目。
台本にないセリフまでしゃべりだした。
書記を追い出してしまった。
渡辺はささいなしぐさ1つ容易には納得しない。
「I’mnotsure,I’mnotsureofanything!」。
試しては捨てるその勇気を持てるか。
(笑い声)渡辺はたとえ失笑を買っても恥じる事なく試し続ける。
55歳にしてミュージカルの最高峰ブロードウェイに乗り込んだ渡辺さん。
舞台を終えて帰国するまで半年間の一人暮らし。
王様を演じきるためさまざまな工夫を凝らしている。
(笑い声)Yeah.その一つが自炊。
体が欲するものを敏感に感じ取り補給していくのが渡辺流。
外食はほとんどしない。
毎日ご飯を炊き稽古場にもお握りを持ち込むほどだ。
もう一つ欠かさないのがこれ。
大好きだという花だ。
目に入りやすい所に必ず飾る。
やっぱりつぼみが膨らんで花が咲いて散っていくっていうのは要するに時間の流れなんだよね。
生け替えるまでおよそ1週間。
生活のリズムを作ってくれる。
そして55歳は体のケアも徹底している。
6789…OK!舞台で最高の自分を解き放つため24時間生活の全てをささげる。
おしまい。
本公演まで2か月余り。
渡辺はブロードウェイの厳しい洗礼を浴びつつあった。
懸案の歌が通用しない。
歌詞が聞こえるよう単語を区切るなど特殊な技法で歌わねばならない。
だがそれを意識しすぎると感情が伝わらない。
「But…is…apuzzlement!」。
ああやってバートもさ「いやぁニューヨーカーは厳しいからね」とかプレッシャーかけんなよって感じだよね。
ほんとに失礼しちゃうよね。
そんなもん俺に言われたってさそんなプレッシャーかけられたってさやれないよって感じだよね。
・「EverydayIdomybestforonemoreday」あがきの日々が続いていた。
渡辺さんは子供の頃から人前に出て何かをするのが好きだった。
高校を卒業すると俳優を目指して上京。
劇団に入った。
めきめき頭角を現し27歳で伊達政宗を熱演。
一気に国民的スターとなった。
「父上…」。
だがその後間もなく血液のがん急性骨髄性白血病と診断され人生は暗転する。
5か月にわたって入院。
つらい抗がん剤治療に耐え撮影現場に復帰。
しかし5年後再び発症。
この時渡辺さんはある強い思いを抱いたという。
1回目の入院があって…というか病気があって戻った時にこんなに待ってくれてる仕事仲間もいるしお客さんもファンもいるんだという事ですごいうれしかった。
体調を気遣いながら仕事をする中42歳で人生の転機となる作品に出会う。
「ラストサムライ」。
ハリウッドが作るサムライ映画だった。
渡辺さんは英語がほとんど話せないにもかかわらずオーディションを受け参加を決めた。
その撮影初日強い衝撃を受ける。
「お前がそこで生きてる事を勝手に撮るよ」みたいな。
なんかほんとに自分のありとあらゆる細胞を活性化させて受け止めなきゃいけないという。
日本とは全く異なる撮影手法。
そこで究極の演技が求められる。
8か月間もがき続けた。
(雄たけび)映画は全世界で4億ドルを稼ぐ大ヒット。
渡辺さんもアカデミー助演男優賞にノミネートされその名は世界に知れ渡った。
「アルツハイマー病で間違いありません」。
それでも渡辺さんはその余韻に浸る事はなかった。
「俺の病気がやだったら出てけよ!」。
「大丈夫。
大丈夫大丈夫」。
(叫び声)大小問わず日米の作品に次々身を投じていった。
全部一回どこかで捨てちゃわないと次のものには向かっていけないんですよね。
キャリアを捨てないとまた一からできない。
作品を残すべくもらった命。
ただただ俳優としての完全燃焼を目指した。
そんな中あるオファーが届く。
ハリウッド初の主演映画「硫黄島からの手紙」。
監督はあの巨匠クリント・イーストウッド。
硫黄島を舞台に日本人の視点で太平洋戦争を描くという。
だが送られてきたシナリオを見て渡辺さんは驚いた。
ハラキリなどステレオタイプの日本が描かれ歴史考証が不十分だった。
今までやった作品の中で一番プレッシャーかかったのは「硫黄島」ですよ。
政治的なもの歴史的なもの日本人として戦争というものを扱う。
その4つをどうしっかりクリアしていくかっていう事でほんとにこれ間違えたら俺日本に戻れないかもしれない。
渡辺さんは型破りな行動に出た。
歴史的な事実を徹底的に調べ上げセリフの細部に至るまで修正を監督に直談判した。
その作業は撮影の最後まで連日のように続いた。
必死に作り上げた作品は思いもかけない形で実を結ぶ。
ブロードウェイきっての鬼才バートの目に留まったのだ。
55歳でつかんだ世界最高峰の舞台への挑戦権。
貫き通してきた一つの姿勢がその高みに渡辺さんを導いた。
・「Shallwedance?」・「Onabrightcloudofmusicshallwefly?」本公演まで2か月を切った2月終わり。
現場にはある問題が持ち上がっていた。
それは稽古の遅れ。
「Youcount,onetwothreeandonetwothree」。
クライマックスのダンスも踊りや動きの詳細が詰めきれていなかった。
・「Shallwedance?Shallwedance?」・「Shallwedance?」空気が張り詰めていく。
このあと予定されていた初めての通し稽古は撮影が認められなかった。
本公演に向けて渡辺は更なる断崖絶壁へと追い込まれていく。
いやあ…。
3時間の通し稽古を終えた渡辺は開口一番嘆きの言葉を口にした。
どんな状況でも新しい芝居を貪欲に試すのが渡辺流。
いやあ…。
一体何があったのか。
お芝居って積み上げてきたものを一回全部捨てるわけよどっかで。
でもそれをやっぱり何ていうんだろうなものすごい捨てる事が怖いわけ。
だって変な話日本でやってきたお芝居だったら捨てても必ず生まれてくるだろうこれだけやってればね…っていうために稽古してるわけでさ。
それがやっぱり…しゃあないよね。
この日は英語が足かせとなり新しい芝居を試す事がほとんどできなかったという。
これを乗り越えないかぎり探り続けてきた新しい王様を生み出す事はできない。
(セリフ)渡辺は一人特別に英語のレッスンを重ねた。
「WhoismostlikeEuropeanlady…」。
alone.alone.3月。
(取材者)おはようございます。
応援に駆けつけた妻が渡辺の変化に驚いていた。
それじゃあねいってきます。
いってらっしゃ〜い。
渡辺にとって大きな試練が近づいていた。
それは「プレビュー」。
本公演までの1か月間劇場で本番さながらに上演し客の厳しい目にさらされながら完成度を高めていく。
その初日。
会場はミュージカル通のニューヨーカーで満席となった。
上演後。
セリフや歌などいまだ課題は山積。
それでも渡辺は新しいアイデアを追い求め続ける。
3月下旬。
1か月に及ぶプレビューは折り返しを迎えようとしていた。
客の前で連日演じる事。
それは想像以上に渡辺を消耗させていた。
もう朝さ起きて…。
「アー」って声出してみるわけよ。
出た時に…もうねこんな感覚ないですよ。
それがほんとに「ア…ア…」ってなった時はどうしようっていうねその怖さ。
だから結局それと闘うんだと思うんだよね。
その怖さと。
迫る本公演。
55歳にのしかかる重圧は計り知れない。
渡辺ならではの新しい王様は生み出せるか。
(笑い)・「Veryoftenfindconfusion」懸案だった歌の場面。
苦悩に満ちた王様の心の内を歌い上げた。

(ドラ)王様の威厳を表す堂々とした演技。
(ドラ)
(笑い)更に渡辺は人間味を出すため時にコミカルに演じていく。
(笑い)そしてクライマックスのダンス。
新たな芝居を試みた。
靴を投げ捨てはだしとなった。
「Youshowme,youteach,youteach!」。
「Well,it’squitesimplethepolka,」「Youcount,onetwothreeandonetwothree」。
・「One,two,threeand?」・「Shallwedance?」・「One,two,threeand?」・「ShallwethensayGoodnightandmeanGoodbye?」・「One,two,threeandOrperchance,」・「Whenthelastlittlestarhasleftthesky,」軽やかなステップで王様のダンスに弾みをつけた。
・「romance?」・「Ontheclearunderstanding」・「Thatthiskindofthingcanhappen,」・「Shallwedance?Shallwedance?」・「Shallwedance?」更にこの日は休憩を挟んで夜の公演もある。
「fireworks,thebestfireworksI’veeverseenatfuneral」。
渡辺は6時間舞台に立ち続けた。

(拍手と歓声)その日の帰り道渡辺は足を引きずっていた。
(渡辺)ああ…いたたたた…。
日々どこかが痛む満身創痍の肉体。
あっ!痛い痛い!痛い!痛いよ!痛い痛い!つりそうつりそう!痛い…つりそう…。
痛い痛い…。
深夜1時。
それでも明日に向けて米をとぎ始めた。
一日一日をあがき抜く。
そうして生きていく。

(主題歌)
(拍手と歓声)本公演初日。
(拍手と歓声)ニューヨーカーから惜しみない拍手を送られる渡辺の姿があった。
(拍手と歓声)翌日アメリカの新聞各紙が渡辺の講評を載せた。
(取材者)頑張って下さい。
はい。
諦めない事だよね。
もうとにかく何があろうが与えられたものに関しては諦めない事。
その与えられた環境の中で与えられた自分の状況の中でベストを尽くすっていう事をできるかできないかっていう事じゃないかなとは思いますよね。
本公演が始まって2週間アメリカ演劇界最高の栄誉とされるトニー賞の候補が発表された。
渡辺は主演男優賞にノミネートされた。
うれしいんですけれどもやっぱり僕の中でまだまだ未完成の部分というかふんどし締め直して頑張れよという激励の意味も込めた僕はノミネーションかなというふうに思ってますので。
2015/05/30(土) 00:55〜01:45
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「渡辺謙55歳、人生最大の挑戦」[解][字][再]

ハリウッドから、ブロードウェイへ!55歳になる渡辺謙の“無謀なる挑戦”に独占密着!ミュージカルの聖地で浴びた洗礼。苦しみあがき続けた、半年間の濃密なる記録。

詳細情報
番組内容
現在、ブロードウェイミュージカル「王様と私」の主役として、ニューヨークの舞台に立ち続けている俳優・渡辺謙(55)。先月には、アメリカ演劇界最高の栄誉とされるトニー賞にノミネートされた。だが、そこにいたるまでの道のりはハリウッド俳優の渡辺にとっても「断崖絶壁」と言える厳しいものだった。番組では半年前からそんな渡辺に独占密着。55歳にして、なお挑むことをやめない渡辺のプロフェッショナリズムに迫る。
出演者
【出演】渡辺謙,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
劇場/公演 – ミュージカル
情報/ワイドショー – 芸能・ワイドショー
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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