8白熱教室海外版 ハリウッド白熱教室(5)音響効果 世界は音でできている 2015.05.29


アメリカ…映画の都として誕生してからおよそ1世紀。
世界一流のクリエーターたちが編み出す最先端の映像表現から数多くの作品が生み出されています。
そのハリウッドから目と鼻の先。
ロサンゼルスのダウンタウンに私たちが通う南カリフォルニア大学があります。
アメリカ西海岸で最も古い歴史を持つ私立大学です。
この大学で全米一のレベルと実績を誇るのが…卒業生は監督カメラマン脚本家プロデューサーなど映画産業に進みます。
キャンパスにはジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグロバート・ゼメキスなどこの大学出身の巨匠たちが寄付した校舎が建ち並びます。
映画製作を目指す私たちに一から基礎を教えてくれるのが…「ハリウッドの生き字引」と言われるキャスパー教授が脚本映像表現などさまざまな切り口から映画を分析。
プロのまなざしで映画を見る方法を役者顔負けのパフォーマンスで楽しく教えてくれます。
意識して見なければ例えば照明がどのような意図を伝えているか気付かずに終わってしまうでしょう。
あるいは衣装もそう。
そこに込められた工夫を見過ごしてしまう事になる。
映画は綿密に作り込まれているからこそその見方を学ばなければ味わい尽くす事はできないのです。
キャスパー教授は学生だけでなく映画産業を目指す人実際に携っている人に向けて全5回の特別講義を用意しました。
最終回のテーマは…音楽や効果音はもちろん俳優の声歌風や水など自然音更には沈黙。
どれもが映画の世界を形づくる重要な要素です。
いくつもの名作映画を題材にハリウッドの音のテクニックを解明します。
・「MoonRiver…」教授が歌えば生徒も歌う。
キャスパー教授にとって講義は映画と同じ!楽しくなければ意味はありません。
「ハリウッド白熱教室」いよいよ最終回!音の魔法を解き明かします。
(拍手)これまでの講義で映画における「時間と空間の構成」というものを4つの切り口から学んできた。
脚本ビジュアルデザイン撮影編集。
そして今日は「音響効果」だ。
さまざまな「音」が映画の時間や空間にどのように作用するか見ていきたい。
しかし映画が持つ音という構成要素は映画初期は軽視され時に無視されてきた。
トーキー映画が1927年に登場し映画にセリフの声が入るようになったのだが映画の専門家や関係者特に役者たちはこれを快く思わなかった。
考えてみてほしい。
1927年まで映画は芸術だったのだ。
映像だけであらゆる事を表現し多くを物語る事ができていたので音声は必要なかった。
そういう芸術表現だったんだ。
照明や美術カメラワークを完璧に仕上げて映像だけで語る事に映画人は誇りを感じていた。
だから音声を入れる事に多くの人は拒否反応を示したんだ。
実際ビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」でも主役のノーマ・デズモンドという役柄を通してその考えが示されている。
グロリア・スワンソン演じる主人公ノーマが若い脚本家と交わす会話だ。
まず脚本家が言う。
「あなたはノーマ・デズモンドですよね?あなたはサイレント映画の大スターだった」と。
すると彼女が「私は今でも偉大よ。
つまらなくなったのは映画の方よ」と答える。
「もう全部おしまいだわ。
かつて映画は世界中の視線をくぎづけにしていた。
でもそれだけじゃ飽き足らなくなって世界中の耳まで支配したくなった。
その結果大口を開けてベラベラとおしゃべりをするという代物に成り下がったのよ」というわけだ。
ビリー・ワイルダー監督が主人公ノーマに語らせたこの思いは1927年当時に多くの俳優や映画研究者が感じていた事だった。
映画の音響効果に関する研究が進まなかった一因もそこにある。
それに何と言っても映画が人を惹きつけるのはビジュアルだ。
映画は見るものであって「映画を聞き終わった」と言って映画館を出る人はいないだろう?とはいえ実は音は映画の中で重要な役割を初期の時代から果たしていた。
実際のところ私もよく使う言葉ではあるが「サイレント映画」なんてものは存在しない。
全く音のない映画なんて初めからないんだ。
映画にはいつだって音がついていた。
1895年から1927年までの映画には確かに音声はないがそれでも映画館で映像に合わせてピアノが伴奏されたりいろんな楽器で伴奏がつけられたりしたんだ。
最大級の映画館ともなるとフルオーケストラ60人編成のオーケストラがスクリーンの下で演奏する事もあった。
映画館によっては「効果音装置」を置いている所もあった。
750種類もの音が録音してあり鳥のさえずりや船の汽笛や列車の音などがボタン1つで鳴らせるようになっていた。
だから「サイレント映画」なんてのはうそだ。
映画には初めから音がついていたんだ。
ただし今日取り上げる映画の「サウンドデザイン」という概念は比較的新しく1979年にフランシス・フォード・コッポラが「地獄の黙示録」を作っている時に生まれたものだ。
戦争映画はそれまでもたくさんあったのでこのジャンル自体は新しいものではない。
しかし彼の映画の新しいところは舞台がベトナムだった事だ。
使われた兵器がこれまでの朝鮮戦争や世界大戦あるいは南北戦争のものとは違っていた。
だからこれまでの戦争映画には無い音を作らなければならなかった。
それにベトナム戦争はジャングル戦だったので使う音も従来の戦争映画とは異なるものが必要だった。
そこでコッポラ監督が起用したのが南カリフォルニア大学出身のウォルター・マーチという音響デザイナーだ。
そして彼にこう言った。
「これが脚本でこれが登場人物。
セリフはこれでアクションはこれで場面の説明がここに書いてある。
それからカメラの位置。
使う色はこれでセットはこういうふうになる。
これが映画で使う全てだ。
この脚本を読んで君にこの映画の音の設計をしてほしい。
映画のあらゆる側面あらゆる要素に注意しながらサウンドデザインをしてほしいんだ。
つまりここは音楽が必要か。
どんな種類の音楽か。
音量は?効果音は必要か。
それはどんな効果音か。
あるいはここは沈黙の方がいいのかなど音による構成を考えデザインをしてほしい」と依頼した。
そうして「サウンドデザイン」という言葉がここから使われ始めるようになったんだ。
では映画のサウンドデザインについて具体的に見ていこう。
まず最初は映画音楽についてだ。
映画音楽を批評的に分析しその効果を検討するには次の3点を考慮しなければならない。
音楽の…「種類」とはもちろん映画で取り上げられている内容や主題やテーマ設定に沿ってどんな種類の音楽を使っているかという事だ。
音楽は何か別の意味を場面に加えているのか。
あるいは音楽で内容を明確にしているか。
音楽は状況設定を分かりやすくしているか。
主題を絞り込んでいるのか。
テーマをより明らかにしているかというふうに分析すべきだ。
2つ目は「長さ」だ。
音楽が始まってから終わるまでの長さは適切か。
長すぎないか短かすぎないか。
「戦火の馬」ではやり過ぎていて思わず叫びたくなったよ。
「音楽をやめてくれ!もう分かったから頼むよ!やめてくれやめてくれ!頼むよ!」。
さて3つ目に考えるのは「場面」だ。
音楽が最適な場面で始まり最適な場面で終わっているかという事だ。
種類長さそして場面だ。
音楽に続いては「効果音」にも注目が必要だ。
「自然音」でもかまわない。
効果音や自然音の例を1つ挙げてみて。
誰か?呼び鈴です。
呼び鈴か。
いい例だゲーリー。
言葉でも音楽でもない音。
呼び鈴とか机をたたく音指を鳴らす音自然音。
それらが効果音として使われる。
さて映画の中の音で音楽や効果音に匹敵するほどの創造性を備えながらあまり注目が払われていない要素がある。
それは「沈黙」だ。
映画の中では沈黙は消極的な意図で使われるものではない。
それは時として映画のクライマックスを表現するために使われる事さえある。
あらゆる芸術の中で映画ほど沈黙をクリエーティブに芸術的にそして効果的に使っている表現はない。
沈黙で重力がなくなったような不安を与えたり抽象的で不気味な恐怖を作ったりあるいは全身から血が抜き取られたような感覚にさせる事もできる。
このように沈黙は映画の中でとても重要でクリエーティブな目的で使われる事を覚えておいてほしい。
映画では映像と音の因果関係を断ち切る事ができる。
つまりある映像を見せたからといってその映像に合わせた音まで聞かせる必要はない。
別の音を使う事もできるという事だ。
列車がトンネルを走る映像を使うからといってそこに列車がトンネルを走る音までつける必要はないんだ。
例えば「ザ・ミュージック・マン」という映画がある。
見た事ある人は?じゃあラッセル。
町の口やかましい女性たちが図書館員のマリアンのうわさ話をするシーンを思い出して。
うわさ話をする場面でどんな音が使われてた?すみません。
覚えてないです。
お決まりの答えだね。
信じられないよ!チャールズ。
(チャールズ)ニワトリでしたっけ?そうニワトリだ!ニワトリの鳴き声が聞こえてくるんだ。
(ニワトリの鳴きまね)これは音を比喩として使っている。
女性たちが図書館員マリアンのうわさ話をしているが聞こえてくるのはニワトリが鳴いている声だ。
つまり口やかましい女性たちをニワトリに例えている。
音の効果的な使い方の一つに「モンタージュ」がある。
前回の講義で映像のモンタージュについては説明した。
ある映像のあとに別の映像を次々とつなげたり重ねたりする事で映画に弾みや勢いを与えて観客を引っ張る編集手法だ。
こうしたモンタージュを音で作る事もできる。
音のモンタージュには2種類ある。
まずは「音と音のモンタージュ」からだ。
これも更に3つの種類に分けられる。
まず1つ目は監督や音響スタッフがある音から始めそこに別の音をどんどんつなげたり重ねたりしていく手法だ。
そうやって音による動きや流れの区切り音によるシークエンスが生まれるまでその作業を続ける。
そうして映画は次の展開へと移っていく。
ロバート・ワイズ監督はこの手法を得意としていて彼のミュージカル作品の2つ「ウエスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」のオープニングでも使われている。
せっかくだから私たちも音と音のモンタージュを実際にここでやってみよう。
今説明したように音の上に別の音を重ねていく事で意味のあるまとまりシークエンスを作ろう。
取り上げるのは映画の冒頭のシーンだ。
映画のタイトルが映し出されるその前のシーンだ。
「サウンド・オブ・ミュージック」の冒頭を覚えている人はいないだろうか?最初にどんな映像が登場しただろう?ベロニカ。
(ベロニカ)草原です。
残念。
それは一番最初の映像ではない。
劇場の幕が開いて…今でも覚えてるよ。
あの映画を最初に見たのはモントリオールだった。
幕が開いても画面は真っ暗なままだった。
まるで何も映っていないようだった。
そして最初は音もなかった。
沈黙だ。
無音だ。
すると雲が見えてきて次々と風に乗って流れていった。
そこである音が聞こえてきたんだ。
映画に登場する最初の音だ。
「サウンド・オブ・ミュージック」で最初に聞く音それは何だろうか?女性が歌いだすんじゃないですか?全然違う。
それはまだだいぶ先だ。
一番最初に聞こえるのは何だろう?風です。
風だ。
今答えたの誰?それどんな音?
(風のまね)もっと大きく!
(風のまね)よ〜しじゃあ前に出てきて。
これからみんなで「サウンド・オブ・ミュージック」の音のモンタージュをやってみよう。
こっちへ来て。
私が「沈黙」をやろう。
ほらこっち来て。
最初に真っ暗なスクリーンがあってそれからカメラが降りてきて流れる雲を抜けていく。
すると風の音が…。
(風のまね)そうだ!よ〜しそうだ。
そのままで。
それからカメラはどんどん降りていって街の教会の尖塔が見えてくる。
するとどんな音が聞こえてくるだろうか?何の音?鐘です。
教会の。
どんな音?キーンコーン。
違うよ!教会の鐘は「キーンコーン」じゃない!ほらどんな音?
(鐘の音のまね)よ〜しチャールズも前に来て。
教会の鐘の音だ。
よし練習しよう。
まず「沈黙」からだ。
カメラが降りてきて…。
(風のまね)そして…。
(鐘の音のまね)
(風のまね)そうその調子だ。
よしストップ。
更にカメラが地上に近づいてくる。
すると木が見えてくる。
木の間から聞こえてくる音は何?そう鳥!鳥の何?さえずりです。
そうだ。
じゃあニコールも前に来て。
ほら急いで急いで。
カメラが地上に近づくと画面に川が見える。
川が流れてるんだ。
すると聞こえる音は?そう水が流れる音。
誰か水の音はできるかい?アンディができます。
じゃあアンディ前に来て。
私水なんてできないです。
想像力を働かせてアンディ。
川が流れる音だ。
風の音と同じになっちゃいます。
そんな事はないだろう。
私鳥の方がよかった。
駄目だよ。
いいかい?上手にやってくれよ。
風に似ちゃ駄目だ。
よし練習しよう。
(風のまね)
(鐘の音のまね)
(鳥のさえずりのまね)
(川の流れる音のまね)もっと大きく!
(川の流れる音のまね)まあいいだろう。
聞こえるように大きくね。
いいぞ。
それからカメラが山を更に下っていくと…20世紀フォックスの楽団が演奏するファンファーレだ。
(ファンファーレのまね)誰がやりたい?
(ファンファーレのまね)ブライアンはどうだ?
(ファンファーレのまね)ほら続けて。
(ファンファーレのまね)よしうまいね。
じゃあ前に来て。
そして更に60人編成の大オーケストラだ。
(オーケストラのまね)・「だ〜れがやりたい?だ〜れがやりた〜い?」彼が「やりたい」って。
(ダン)言ってないです。
よ〜しダンで決まりだ。
じゃあ練習してみよう。
いいかい?私が「沈黙」。
(風のまね)
(鐘の音のまね)
(鳥のさえずりのまね)
(川の流れる音のまね)もっと大きく。
(ファンファーレのまね)パンパパパン…。
ちがうよ!パーンパパパーン…。
ちょっと待ってちょっと待って。
パーンパンパンパーンパンパン…。
パーンパンパンパーンパンパン…。
よ〜しそうだ。
そして丘の上にはいよいよジュリー・アンドリュースが登場してどんな歌を歌った?スコット。
はいスコットも前に出て。
君がジュリーだ。
いいねえ。
さあこれで音と音のモンタージュを作る準備が整った。
最初の音に次々と別の音を重ねてある流れを作り音だけで映画の1つの場面冒頭のシークエンスを作る事ができるんだ。
さあいよいよ君たちの見せ場だ。
やるべき事は分かってるね?日本の視聴者にアメリカ人の底力を見せるんだ。
ではまず私から。
「沈黙」だ。
映画は無音から始まる。
「沈黙」のあとは…。
(風のまね)
(鐘の音のまね)
(鳥のさえずりのまね)
(川の流れる音のまね)
(ファンファーレのまね)
(オーケストラのまね)
(歌声)どうもありがとう。
みんなすばらしかった!
(拍手)ありがとう。
(風の音)
(鳥のさえずり)
(鳥のさえずり)音同士のモンタージュには音と音を次々とつなげたり重ねたりする今見た手法以外にも他の手法もある。
その一つが2つの音を並列につなぐ手法だ。
1つ例を挙げよう「土曜の夜と日曜の朝」というカレル・ライス監督のイギリス映画だ。
主人公の男がある女性を家まで送った。
彼はその女性と一夜を過ごしたいと思ったが目の前でドアをピシャリと閉められてしまう。
彼はしかたなく立ち去り道路にあったゴミ箱を蹴飛ばす。
(ゴミ箱が転がる音のまね)すると場面が翌日に変わり…。
(機械の音のまね)ゴミ箱を蹴った音が工場の機械の音に続けられる。
2つの音を並列につなげる事で互いの音の意味を強め合っているんだ。
音と音のモンタージュの3つ目は2つの音を対立させる手法だ。
最初の音と対比が生まれるように次の音をつなげるもしくは重ねる。
スタンリー・キューブリックの作品「博士の異常な愛情」はみんな見た事はあるだろうか?キューブリック監督は映画のラストで世界を爆発させる。
(爆発音のまね)スコットできるかな?
(爆発音のまね)そのあと監督はどんな音を足しただろうか?
(チャールズ)音楽です。
どんな?ラブソングです。
ヴェラ・リンの歌だ。
あのラブソング歌える?はい。
歌って。
どうやってまた会うんだよ。
世界は爆発したんだぞ?このシーンでは2つの対立する音が重ねられている。
「また会いましょう」というラブソング。
それに対して世界が核爆弾で滅ぶ音だ。
これらが音と音のモンタージュだ。
一方「音と映像のモンタージュ」もある。
まず音と映像が関連し合っている例から考えてみよう。
今日の講義の最後では「ジョーズ」を見てもらうがその例が一番分かりやすい。
あの映画を作るにあたっては現実には存在しないある音を作り上げる必要があった。
「サメが人を襲おうと近づいている事」を想像させるような音だ。
だからジョン・ウィリアムズとスピルバーグが考え出したのはどんな音だった?スコット。

(「ジョーズのテーマ」)
(笑い声)これは「イメージ・サウンド」と呼ばれるものだ。
サメが襲ってくる映像を連想するような音をつける。
サメをイメージできるような音だ。
そうして音と映像を関連づけるんだ。
では続いては「サウンドミックス」。
つまり音の優先順位について考えよう。
通常1時間半ぐらいの映画で超大作でもない場合1つの映像に同時に使われる音の数はせいぜい9つぐらいだ。
一方「スター・ウォーズ」のような映画では50種類もの音を同時に使う事だってある。
しかし9つであっても50であっても音をどうミックスするかその優先順位をつけなければならない。
どの音を一番大きくしてどれを一番小さくするか。
1935年の映画「アンナ・カレニナ」を例にとろう。
2人の人物が登場する場面だ。
アンナ・カレニナを演じるグレタ・ガルボが夫と競馬場にいるシーンだ。
夫を演じるのはベイジル・ラスボーン。
2人は結婚して10年で子供がいる。
夫は医者だ。
とても裕福なロシアの上流階級の家庭だ。
少しあらすじを説明するとアンナは結婚して子供もいながら青年将校のヴロンスキーと出会い激しい恋に落ちる。
そのシーンではヴロンスキーが競馬のレースに出場してるんだ。
サウンドミックスで音のボリュームが一番大きいのは…次に大きな音は…3番目は競馬の音だが馬が走っている映像は映っていない。
ただ音が聞こえるだけだ。
それがサウンドミックスの優先順位だ。
音の大きさの順番は2人の会話ロマンチックな音楽そして競馬の音だ。
ところが同じ映像でもサウンドミックスの違いによって別の解釈が生まれる。
一番大きく聞こえるのは競馬の音。
馬が芝を走っている音だったら?次がロマンチックな音楽で最後にアンナと夫の話はセリフが聞き取れないほどかすかな音量しか聞こえないとしよう。
このサウンドミックスは最初と比べてどんな意味が生まれただろうか?誰か?アンナと夫の声が一番大きい場合では監督は2人の会話の内容を一番重視していてそこに注意がいくようにしているのだと思います。
アンナについては何が分かる?彼女は…。
彼女の注意は夫に向けられていて競馬はどうでもいいと思っている。
では後の場合のサウンドミックスは?夫との会話よりも競馬の方が重要だという意味です。
競馬の方が大切なのは彼女が青年将校に恋をしていて彼がレースに出ているからだ。
夫の事はどうでもいいんだ。
映像は同じでも音の優先順位によってどの音を一番大きくしてどの音を小さくするかによって映像の意味を変える事ができるという事だ。
これも監督の演出の一つで目ではなく耳に訴えているんだ。
例えばセリフをしゃべる役者にそれぞれ声の質感があるように音には色「音色」というものがある。
例えば機関車の音。
もし私が南北戦争の映画を撮っているとしたらその機関車は第1次世界大戦の頃の機関車や現代の機関車とは音が違うはずだ。
こういう音の質感音色にも注意が必要だ。
映画では役者は動き照明やセットも画面のフレームの中で動く。
だから役者が動きながらセリフを話す時や小道具の鈴が画面のこちらから鳴り始めて向こうで鳴り終わったり消防車が画面の奥から手前に向かって走ってくる場合は音も映像に合わせて動かさなければならない。
音を動かすというのもサウンドデザインだ。
これらのテクニックを組み合わせて音で演出をする事が可能だ。
画面の中の動きに音を合わせてまるでダンスをしてるように見せる事だってできる。
口で説明するのは難しいのでこれから実際に音の達人の技をお見せしよう。
「いつも2人で」でその手腕を発揮した映画音楽家ヘンリー・マンシーニだ。
マンシーニは「ティファニーで朝食を」でも映像に合わせて音を巧みに操っている。
これから見てもらうのは「ティファニーで朝食を」のすばらしいシーンだ。
マンシーニはこの映画の主題歌でアカデミー賞を受賞している。
その歌はもちろん…。
最高の曲だ。
さてではこの見事に音で演出されたシーンを見てマンシーニの手法から学んでほしい。
見てもらうのはジョージ・ペパードが仕事の報酬として小切手を手にした時のシーンだ。
登場するのはジョージ・ペパードとオードリー・ヘプバーン。
2人は記念にこれまでやった事のない事をしてみようという話になった。
万引きだ。
それで雑貨店に入った。
では「ティファニーで朝食を」を見てもらおう。

(ラッパの音)
(ほえる声)映像と音楽が一体となっていた。
どんな事に気付いただろうか。
(チャールズ)1つ考えた事があります。
突拍子もない事じゃないといいけど。
これは曲を先に作ってそれを流しながら演技したんじゃないですか?それはいい意見だ。
以前スタンリー・ドーネン監督の本を書いた時私も同じような質問を彼にしたんだ。
「あなたの映画『いつも2人で』では曲を先に用意したんですよね?画面の中の役者や車それら全てが音楽に合わせて動いているように見えます。
音楽と映像のリズムがぴったり合っている理由はそういう事ですよね?」と聞いたんだ。
すると彼は「いやあれはマンシーニの手柄だ。
私が映像を編集したあとにマンシーニがそれに曲をつけたんだ」と答えてくれた。
「ティファニーで朝食を」はそういう事だったんだ。
そして今見たシーンはセリフもなくただ動きだけ。
動きも大して派手なものじゃない。
そのかわり小道具がいろいろあって音が使い分けられていた。
登場する2人は音楽のビートやリズムに合わせて動き店の商品を物色しどれを盗んでやろうかといろいろ試す。
商品にはそれぞれ違う楽器の音がついている。
金魚鉢は重すぎるからブーという音。
ブー。
そうやって全体にユーモアあふれる雰囲気を作っている。
ここでは登場する俳優同士あるいは彼らが手にするものがまるで踊っているようだ。
音楽の効果でとても軽やかで心踊るシーンになっている。
キューブリックも「2001年宇宙の旅」で同じ事をしたね。
2隻の宇宙船だ。
宇宙船が踊っていた。
音は「モチーフ」の役割を果たす事だってできる。
同じ音が何度も繰り返されている時はその理由を考えてほしい。
きっとそれが物語の鍵となっているはずだ。
モチーフは音楽である場合も効果音である場合も言葉である場合もある。
映画の途中で歌われる曲である場合もある。
君たちは映画の中で歌のシーンが登場すると「今のうちにトイレにでも行っておこう」と油断してないだろうか?歌のシーンでは物語の進行や登場人物の描写が中断するからちゃんと見ていてもいなくても話の理解には関係ないと思ってないだろうか?ところが大いに関係あるんだ。
歌のシーンにもよく注意を傾ける必要がある。
その例として今から見てもらうのはヒッチコックの1956年の作品「知りすぎていた男」の前半のあるシーンだ。
主役のジェームズ・スチュアートはヒッチコック映画ではおなじみだが歌手のドリス・デイの起用は面白い。
彼女が出るからには当然歌のシーンが用意された。
彼女が歌う曲は実は物語の伏線となっている。
ヒッチコックがよく使う手法だ。
では「知りすぎていた男」を見てみよう。

(ノック)実は映画のエンディングで誘拐された息子が大使館にいる事を夫婦が知る事ができるのはこの歌のおかげだ。
大使館に招かれた彼女がパーティー客の前でこの子守歌を披露する。
すると大使館に監禁されていた息子の耳にも歌声が届く。
息子は母親が近くに来ている事を知り曲に合わせて口笛を吹く。
それで母親も息子が近くにいる事に気付くというわけだ。
この曲は物語の中で重要な仕掛けになっている。
だから歌のシーンにもとても意味がある。
トイレ休憩に使っちゃ駄目だ。
しかもこの「ケ・セラ・セラ」という歌は物語の伏線であるうえに彼女の役柄も描写している。
10年の結婚生活で彼女がどう変わってしまったのか。
彼女は自分を見失っていて今回の出来事によって自分を取り戻すんだ。
そういう意味も込められている。
私はヒッチコックの研究者で家族とも親しくヒッチコックの講座も1年おきに大学で開いている。
そこでは必ずこの「知りすぎていた男」を取り上げる。
本当の事を言うと現実のドリスはあの歌が嫌いだったそうだ。
でもヒッチコックはあの歌にこだわった。
彼は母親が子供に歌うような歌がいいと考えていたが彼女はあの退屈な子守歌がとにかく嫌いだった。
それをヒッチコックはなんとか説得して歌わせた。
更に彼は商売上手でもあったのであの歌のレコードを作るように勧めたんだ。
彼女が乗り気じゃなかったのでヒッチコックは別の曲も彼女に作ってあげた。
大使館のシーンでちょっとだけ歌ったバラードだ。
その2曲を合わせてレコードを作った。
そのバラードの方は全く話題にならなかったが「ケ・セラ・セラ」は違った。
この映画が公開されたのは春の終わりで夏にはどこのラジオやテレビからもどのスピーカーやダンスホールからも聞こえてくるのはあの歌だけだった。
そして翌年3月のアカデミー賞授賞式。
もう分かるよね?そうあの曲が歌曲賞を受賞した。
そうしてあの曲はドリス・デイの代表曲になったんだ。
彼女にとってはまさに予想外の幸せとなったわけだ。
ではここでまたすばらしい作品を見てもらおう。
私は大学でスピルバーグ映画の講座も持っていて本人も時々顔を出してくれる。
スピルバーグにも言ったがこれから見てもらうのは私が彼の最高傑作だと思う作品だ。
「ジョーズ」だ。
彼はいまだにこの作品を超えていないだろう。
これから見るのは「ジョーズ」の冒頭のシークエンスだ。
見る前に答えを言ってしまうがこの映画には音による演出のあらゆる手法が盛り込まれている。
音楽や効果音そして沈黙もだ。
それらがどのように使われどのような効果を発揮しているかお手本を見て学ぼう。
「ジョーズ」だ。
(鐘の音)
(悲鳴)
(悲鳴)
(悲鳴)
(鐘の音)音による演出の恐らく全てのテクニックが使われていた。
何に気付いただろうか。
誰か?本当にいろんなテクニックが詰まっていました。
特に最後浜辺にいる青年の沈黙と彼女がもがいたり叫んだりしている音との対比が印象的でした。
そうだ。
沈黙の効果。
全てが終わったという沈黙。
死を象徴する沈黙。
そうだ。
では効果音は?どんな効果音が使われていただろう?「ジョーズ」の例の効果音が聞こえる事でサメが彼女を見つけたと分かりました。
そう。
イメージ・サウンドだ。
サメが近づいてくる事をイメージする音だ。
サメの姿はまだ見えず泳いでる彼女を水中から撮っている時の音はどうだった?最初は強くありませんでした。
静かでリリカルだ。
気持ち良さそうに泳いでいて詩的な表現だ。
それが変わっていく。
最初は穏やかな音楽。
でもそれが変化していく。
ではシーンの始まり方はどうだったろう?最初はどんな音がした?海岸でパーティーをしている音です。
とても騒がしかった。
若者たちがおしゃべりをして笑ったりキスをしたりいろんな音が聞こえていた。
そこからだんだん音が絞られていくんだ。
ボリュームの変化に注意が必要だ。
一番音が大きかったのはどのシーン?一番音が大きかったのはどこ?彼女が叫んだ時。
そう。
彼女がサメに引きずり回される場面だ。
当然そこが一番大音量だ。
ではさっき浜辺の青年と水中の彼女の音の対比について答えてくれたが青年はどんな音で表現されてたっけ?無音です。
ほとんど無音だ。
何を言ってるのか分からずぶつぶつつぶやくだけだ。
では音の使い方について他に何か気付いた人は?ダン。
鐘の音です。
そうだ。
あれはどういう意味だろう?何度か聞こえていたね。
とするとあれはモチーフだ。
はい。
繰り返し聞こえました。
実は彼女が水に入る前からだ。
水に入ってからも浜辺で聞こえていました。
つまりどんな効果があるんだろう?あれは何か危険を知らせる…。
はい警告です。
警告だ。
警告の鐘だ。
警告しているのに彼女はその音に気付いていない。
それがモチーフで映画の中で何度も使われている。
これまでの講義で時間と空間は相関関係にあると説明したが音と空間も相関関係にある。
音が強くなると距離は近くなり弱くなると遠ざかる。
騒々しい時は空間が狭くなり音が少ないと広くなる。
フレームの外から聞こえてくるような音は画面の外の空間を意識させる。
更に音は空間だけではなく時間とも相関関係にある。
音が多いほど時間が過ぎるのは早く音が少ないほど時間はゆっくり流れる。
映画において音はこのような効果を発揮する。
どういう音や音楽を使うかによって映画の体感時間を早めたり引き伸ばしたりできるんだ。
しかし音は何でもかんでもたくさん使えばいいというものではない。
世の中は音であふれている。
現実の世界では何百何千もの音が同時に存在している。
現実は混沌としているんだ。
音は選んで秩序立てて使わなくてはいけない。
現実を模倣するだけでは芸術とは呼べない。
現実を表現するんだ。
芸術は映画は現実を記録するのではなくてそれを解き明かす表現なんだ。
現実を再現するのではなく解き明かすんだ。
最後にひと言。
今回はたった5回の特別講義だった。
ふだん大学では15週間の講義だ。
それでも君たちをとても近くに感じる事ができた。
君たちがいろんな事を吸収してどんどん心を開いてくれるのが分かった。
それが今回の講義での何よりの収穫だ。
どうもありがとう。
(拍手)2015/05/29(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
白熱教室海外版 ハリウッド白熱教室(5)音響効果 世界は音でできている[二][字]

ハリウッドの映画術を解き明かす講義の最終回は、音響効果。音楽や効果音はもちろん、俳優の声、歌、自然音、さらには沈黙など、映画の中に登場するあらゆる音に注目する。

詳細情報
番組内容
最終回のテーマは、音響効果。音楽から沈黙に至るまで映画に登場するあらゆる音に注目する。教室に学生を並べて「サウンド・オブ・ミュージック」の冒頭を音だけで再現。次々と違う音を重ねて作りあげる音のモンタージュの効果を体験する。また、登場する複数の音のそれぞれのボリュームを変えることで、シーンの意味合いががらっと変わる実験を行う。映画には欠かすことのできない、音に秘められた絶大な効果を明らかにしていく。
出演者
【出演】南カリフォルニア大学教授…ドリュー・キャスパー

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz

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