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【社会】

「原爆の図」渡米 ワシントンなど 13日から巡回展

米ワシントンでの展示会のため梱包される「原爆の図」=2日、埼玉県東松山市の丸木美術館で

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 画家の丸木位里・俊夫妻(ともに故人)が被爆直後の広島の惨状を描いた「原爆の図」六点が二日、第二次世界大戦終結から七十年を機に、米国での巡回展に向け、原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)を出発した。作品は十三日から首都ワシントンのアメリカン大学美術館を皮切りにボストン、ニューヨークで十二月まで巡回展示される。 (中里宏)

 原爆の図は丸木夫妻が一九五〇〜八二年にかけて十五部を制作した。今回渡米するのは「幽霊」「火」など、原爆の被害や鎮魂などをテーマにした作品群。

 原爆の図は一九七〇〜九五年にかけ三回、米国のマサチューセッツ州などで展示されたことがあるが、ワシントンでの展示は初めて。過去の展示では「先に真珠湾を攻撃したのは日本だ」などの批判の声も受けた。一般の米国人の間では「原爆投下は戦争終結を早め、多くの人命を救った」との考え方がある。

 国連本部(ニューヨーク)で開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は先月、核軍縮に向けた最終文書を採択できずに決裂したばかり。巡回展の岡村幸宣(ゆきのり)学芸員は「核兵器の残虐性は国際政治ではなく、人間の皮膚感覚に戻って考え直すことが一番大事ではないか」と訴える。

 今回の展示作品の中には、広島で被爆死した米兵捕虜を描いた「米兵捕虜の死」や、長崎の造船所で犠牲になった朝鮮人徴用工を描いた「からす」もあり、日本人の被害だけにとどまらず、核兵器の非人道性を訴える。

 米国での展示は、フリープロデューサーの早川与志子さんが二〇一一年ごろに企画した。

 丸木美術館が二十近い米国の美術館に展示を断られるなかで一三年、映画監督のオリバー・ストーン氏とともに来日したアメリカン大のピーター・カズニック教授(歴史学)に話を持ちかけ、昨年、再来日して作品を見た教授が、同大での展示を請け負った。

 渡航費用は丸木美術館が募金を呼びかけ、全国から千二百万円以上が寄せられた。

 小寺隆幸・丸木美術館理事長は「首都ワシントンでの展示は意義がある。被爆者たちは、日本の侵略によるアジアの被害に正面から向き合った上で自らの苦しみを語り、信頼を勝ち取ってきた。核廃絶を訴えるのであれば、日本の戦争責任もはっきりさせなければならない」と話している。

 <原爆の図丸木美術館> 水墨画家の丸木位里(いり)さんと油彩画家の妻俊(とし)さんが、共同制作した「原爆の図」を常設展示するため1967年、埼玉県東松山市下唐子に開館した。原爆の図は全15部の連作で、長崎原爆資料館(長崎市)所蔵の「長崎」を除く14部を所蔵。ほかに「アウシュビッツの図」「南京大虐殺の図」「水俣の図」などが展示されている。

 

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