各地から

自殺率下げる、地域の力 全国トップクラスの低率、青森・旧平舘村から

青森

村の公営温泉には、夕方になると仕事を終えた漁師たちがやってくる=外ケ浜町

 青森県に自殺率の低さ全国トップクラスの地域がある。津軽半島の東北端にある旧平舘(たいらだて)村(現外ケ浜〈そとがはま〉町)だ。全国でも自殺率が高い北東北3県の中で、その低さは突出している。自殺を減らすのに役立つヒントがあるかもしれない。都道府県別で自殺率ワースト1の秋田から現地を訪れた。

イラスト:ALTタグ拡大

 北東北は全国でも自殺率が高い。厚生労働省の人口動態統計では、秋田は19年連続ワースト1位、岩手も16年連続で同4位までに入り、青森も18年連続で同8位までに入っている。

 ただ、地域によって自殺率に差があることが研究でわかってきた。和歌山県立医科大学の岡檀(まゆみ)講師は、「平成の大合併」前の全国3318旧市区町村の自殺率について、中高年人口比率の影響を調整した標準化死亡比(SMR)を分析。30年分(1973年~2002年)の平均値を比べた。

 すると、全国平均の100に対し、青森県の平均は126・45だったが、旧平舘村は49・0と東北一低く、全国でも22番目に低かった。平舘村と近接し、合併により同じ外ケ浜町になっている2町村は90・8と130・2で、明らかな差があった。

 岡さんによると、平舘村と近接2町村では3大疾病死亡率や住民1人当たりの所得、失業率などに大きな差はなく、一般に自殺の要因と言われる健康問題や経済問題をめぐる状況に違いはないと考えられるという。

イラスト:ALTタグ拡大海沿いに集落が広がる旧平舘村=同町

 ■仲良く、会話多く

 なぜ旧平舘村はほかの地域に比べて自殺が少ないのか。

 5月中旬、村を訪れた。

 青森市から車で40分。陸奥湾沿いに集落が点在する平舘地区は、人口約1700人、高齢化が進む漁業の村だ。浜辺には漁船や漁網が並ぶ。ホタテや焼干しが特産という。

 主婦の女性(61)は「近所とは仲がいい」と話す。魚が取れれば一輪車で分けて回り、家族の看病で病院に泊まる際は「(留守を)頼むね」と声を掛け合う。別の女性(73)は「互いに関心を持っている。何かあるとすぐに集まって情報交換もする」と言う。

 村には公営の温泉があり、午後には村内外から人が訪れた。近くの漁師、木浪静雄さん(68)は「一番の楽しみだ。今日のホタテの出荷数や波の流れがどうとか仲間と話せるし」。浴室からは漁師たちの笑い声が聞こえ、休憩室では話に花を咲かせる女性たちの姿もあった。

 岡さんは12~13年、外ケ浜町と共同で旧3町村の住民約千人にアンケートを実施。ストレスや悩み、近所付き合い、自殺に対する意識などを尋ねた。

 すると、旧3町村の住民の行動や気質に目立った差はなかったが、旧平舘村では「自殺は悲しいことだ」と感じる住民が最も多く、「事情によっては自殺もやむを得ない」と考える住民が最も少なかった。また、うつ病の受診率が最も高かった。

 岡さんは「自殺をやむなしと考えない人は、何かの困難に直面しても対処が可能だという感覚を持っている人と考えられ、自殺に傾きにくいのかもしれない」と分析する。うつの受診率が高いのは、「住民のうつへの偏見が小さく、他人に助けを求めやすい空気感ができている可能性がある」という。

 かつて村の保健師で、今は外ケ浜町に勤める掛村香寿美さん(43)も「過去に地域で単身の精神障害者を受け入れた時に、思ったよりすんなりといった。偏見が小さいのかもしれない」と話す。

 岡さんは、村の住民が日常的に利用する温泉にも注目する。「行けば誰かと話ができるサロンのような場。新しい情報が頻繁に入ることで、古い価値観や偏見が取り除かれている可能性がある」と分析する。

イラスト:ALTタグ和歌山県立医科大学講師の岡檀さん

 ■危険緩和の5特性

 こうした傾向は、岡さんの先行研究とも矛盾しないという。

 岡さんは08年、離島を除いて日本で最も自殺SMRが低い徳島県の旧海部町(現海陽町)に着目。約4年をかけ、200人以上の住民にインタビューし、3千人以上にアンケートして住民の価値観や処世術、行動パターンなどを調べた。

 結果として浮かび上がったのが、自殺の危険を緩和するコミュニティーの五つの特性だ。

 (1)いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい(多様性を尊重し、異質な者を排除しない)(2)人物本位主義を貫く(地位や学歴で人を評価しない)(3)どうせ自分なんて、と考えない(主体的に社会に関わる)(4)「病」、市(いち)に出せ(悩みは小さいうちに人に相談する)(5)ゆるやかにつながる(人間関係が緊密すぎない)。

 岡さんは「五つとも息苦しさや生きづらさを減らし、人に助けを求めやすい環境づくりを示している。その結果としての自殺率の低さではないか」と語る。

(新田哲史)
(朝日新聞 2015年6月2日掲載)

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