FIFA会長に再選したゼップ・ブラッター氏
FIFAの副会長や理事など10数人が逮捕されるという大騒動の中で、FIFA会長選挙が強行され、ヨゼフ（ゼップ）・ブラッター氏が5選を果たした。とんでもない事態である。
これまでの経緯を振り返って、汚職の構造を確認しておこう。
事の発端は、1974年にジョアン・アヴェランジェ氏が現職のサー・スタンリー・ラウス氏を破ってFIFA会長に当選したところにある。
それまで、FIFA会長はフランスやイングランド、オランダ、ベルギーの人たちが務めていた。もともとはヨーロッパの7つの国で始まったFIFA。1974年まではヨーロッパの人たちが運営するアマチュア的な団体であり、会長も西ヨーロッパの社会的地位や教養のある人々が務めていたのだ（イングランド人のサー・スタンリーは元々は教師だった）。
ここで「アマチュア的」というのは、「サッカーで利益など求めない人たち」という意味だ。ヨーロッパでも第2次世界大戦後はサッカーが正式にプロ化されていたが、FIFAの役員たちは社会奉仕、利益還元のような意識で運営に携わっていたのだ。
それに異を唱えたのが、ブラジルの実業家（元はオリンピック出場経験もある水球選手）アヴェランジェだった。「ヨーロッパの言いなりにはならない」。「マーケティングをすればサッカーから大きな利益を生むことができる」というのが、アヴェランジェの考えだった。
実際、アヴェランジェの下で大口スポンサー（たとえば、コカ・コーラ）と契約し、テレビ放映権料を吊り上げることでFIFAは大きな財源を確保することに成功。その資金を使ってユース年代の世界大会を開催したり、発展途上国のサッカー振興に力を入れたりしたのだ（この辺りまでは至極まっとうな政策だった）。
FIFAの最大の収入源となったのがワールドカップだった。スポンサー収入とテレビ放映権料の高騰によって、ワールドカップは「金の成る木」となった。大会毎に収入は倍々ゲームのように増えていった。
そのアヴェランジェを事務局長として支えたのが、時計会社のセールスマンやアイスホッケー連盟の仕事をした経歴を持つゼップ・ブラッターだった。アヴェランジェのFIFA運営が独裁化し、またアヴェランジェ自身も高齢化した1998年。フランス・ワールドカップ直前のFIFA総会でブラッターはアヴェランジェの後継者として会長に選出された（この総会は、僕自身も取材に行っていたのでよく覚えている。対立候補だったUEFA会長レナト・ヨハンソンが決選投票の途中で棄権を宣言して、ブラッターの当選が決まった）。