マインツ移籍が決定したFC東京・武藤 嘉紀選手
3月にイングランド名門・チェルシーから正式オファーが届いて以来、非常に身辺が騒がしかった武藤嘉紀（FC東京）。その後、ドイツのレバークーゼンなども獲得に名乗りを挙げたと言われ、彼を巡る争奪戦はヒートアップした。本人は欧州移籍に関しては何も語らず、FC東京のプレーに集中してきたが、30日の柏レイソル戦後、マインツとの移籍合意に達したことをクラブ側が正式発表。本人もようやく口を開いた。
「最初から高望みをして自分の実力に合っていないチームに行くよりは、自分に合ったチームに行った方がいいと。マインツというチームはすごく誠意を見せてくれましたし、本当に自分を必要としてくれていたので、それも踏まえてマインツに決めました。岡崎（慎司）選手は忙しい中、メールで相談に乗ってくださっていた。岡崎選手の助言も決め手になりました」と、武藤が柏戦後に語った通り、自身の進路を決断するうえで、日本人FWの先輩の存在はやはり大きかったようだ。
岡崎は2011年2月に清水エスパルスからシュツットガルトへ移籍したが、ブンデスリーガ制覇5回を数える老舗クラブでは、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表FWイビセビッチらの壁に阻まれ、思うように活躍できなかった。ポジションもFWではなくサイドで起用されるケースが多く、本人も何とかして点取屋として認めてもらおうと、チームメートの酒井高徳とクロス＆シュートの自主練に懸命に取り組んでいた。が、結局、シュツットガルト時代は2年目の11−12シーズンの7ゴールが最高。完全に攻撃陣の軸を担ったとは言い切れない状況だった。
そんな岡崎をトーマス・トゥヘル監督（来季からボルシア・ドルトムント監督）率いるマインツが食指を伸ばし、1トップに据えて絶対的点取屋へと成長を促してくれた。マインツの強化部門を取り仕切るクリスティアン・ハイデル・スポーツディレクター（SD)の有能さも有名で、敏腕SDがいなければ岡崎の獲得も成功もなかっただろう。結果的に岡崎は2シーズン連続2ケタ得点をゲット。彼の献身的なプレースタイルがチームによくマッチしていた。
先輩の成功例が、武藤にとっては身近なモデルになったのは間違いない。チェルシーでいきなり成功をつかむことにリスクを冒してチャレンジするより、まずはマインツで確実にステップアップを図る方が得策だと本人も考えたのだろう。実際、武藤は岡崎と共通する特性を持つアタッカー。ダイナミックにゴール前へ出ていく推進力と決定力、攻守両面に渡る献身性と泥臭さは抜きん出ている。「自分と似ている」と岡崎も認めており、武藤のスタイルがマインツにフィットする可能性が大いにあることを示唆したという。この発言を取ってみても、武藤はいい選択をしたのではないか。