【社説】過去最大に拡大した雇用格差を放置するな

 昨年3月にウリ銀行が窓口で1日4-5時間だけ勤務する短時間労働者を募集したところ、170人の募集に3000人以上の応募があったという。長くても2年しか働けない非正規職で、しかも年収がわずか1600万ウォン(約178万円)ほどしかない仕事を得るため、希望者が殺到し長い列をなしたのだ。このように銀行や企業が非正規のパート職採用に積極的に乗り出した影響で、昨年3月からのおよそ1年の間に、韓国全体でパート職の数は17万5000人増え、また非正規職全体の規模は今年はじめて600万人を上回った。

 このような非正規労働者の増加傾向は、韓国における雇用全体の質の低下をもたらしている。昨年3月時点における非正規職の平均給与は月額146万7000ウォン(約16万3000円)で、正規職と比べてわずか54%にとどまっていたが、この正規と非正規の給与格差は2007年以降、徐々に鮮明になりつつある。また双方の勤続年数の差は4年10カ月で、これも1年前に比べて4カ月ほど大きくなった。正規職と非正規職の待遇面における格差是正に向け、政府は様々な方針や対策を次々と打ち出しているが、現実はまさに逆方向に向かっているのだ。

 人生における最初の働き口が非正規職という若者が増加していることも問題だ。20代の非正規職は現在103万人で、これは昨年に比べて3.5%多い。退職後、待遇面での低下を甘受して新しい職場を探し求める60代を除くと、20代の非正規職増加率はすべての年代で最も高い。韓国では非正規職として3年働いた場合でも、正規職に転換されることなく引き続き非正規にとどまる割合が51%に達している。昨年、15-29歳の若い就業者のうち、4人に1人は契約期間が1年以下の非正規職が人生ではじめての職場だった。非正規職として社会人生活をスタートする若者は、将来が見通せないため恋愛や結婚、出産を最初からあきらめざるを得ないことから、「3放世代」などと呼ばれるようになっている。

 政府は昨年末、正規職と非正規職で賃金や社会保障などでの格差を縮めることと、非正規職が正規職に転換する機会を増やすことなどを盛り込んだ「非正規職総合対策」を発表した。ところが労働団体などが強硬に反対したため、労使政による協議は物別れに終わり、政府が定めた方針や対策は1つも実行に移されていない。このように大手企業の正社員からなる労働組合は、自分たちの既得権を守ろうと労働市場改革そのものに強く抵抗しているわけだが、その影響で、若者たちは自分たちの生活を安定させ、将来の計画を立てる基盤となる安定した仕事を得ることが一層難しくなり、正規職と非正規職の賃金や待遇面での格差もさらに広がりつつあるのだ。

 日本はかつて「失われた20年」と呼ばれた1990年代以降、正規職の保護に力を入れて非正規職の待遇改善を怠り、その影響で、経済全体の活力を失ってしまった。雇用者全体の中で、賃金水準が正規職のわずか60%という非正規職の割合が37%を上回るころから、消費全体が委縮し、影響で不況がさらに深刻化するという悪循環を招いてしまったという。韓国もこのままでは日本が失敗したのと同じ道を進んでいかざるを得ない。正規職と非正規職の格差が固定化されるような事態を防ぐためにも、労使政のそれぞれがこれまで以上に強い危機意識を持ち、改めて真剣な議論を行ってほしい。

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