東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

安保法制審議 国会権威貶おとしめる不見識

 安全保障法制をめぐる衆院特別委員会での審議。やじを飛ばすなど、安倍晋三首相の不誠実な態度に、与党議員も苦言を呈す。国会は国権の最高機関だ。敬意を持ち、誠実に答弁すべきである。

 安保法制を審議するきのうの特別委は冒頭、首相の謝罪から始まった。浜田靖一委員長が「不必要な発言は厳に慎むようお願いしたい」と注意すると、首相は「重ねておわび申し上げるとともに、指示を踏まえて真摯(しんし)に対応する」と述べた。

 発端は先月二十八日の特別委。発言している民主党の辻元清美氏に、首相が自席から「早く質問しろよ」と挑発した。野党側は「立法府に対する冒涜(ぼうとく)だ」と反発したが、同感である。

 この首相発言がいかに異常か。自民党ナンバー2の高村正彦副総裁が「首相の勇み足。首相たる者、言わない方がよかった」と指摘したことからも明らかだ。

 全国民の代表である国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関である。首相は国会の議決により指名されているとはいえ、国会の権威を貶(おとし)めることは、断じて許されるはずはない。

 安倍首相は、この憲法規定の重さを理解する見識を欠いている。だからこそ、政府が長年の国会審議を通じて積み重ねてきた、集団的自衛権の行使を違憲とする憲法解釈を一内閣の判断で変えたり、専守防衛に変更はないと言いながら、自ら定義を変えてしまっていることに気付かないのだろう。

 首相は「さきの衆院選で平和安全法制の速やかな整備を明確に公約として掲げた以上、選挙直後の今通常国会でその実現を図ることは当然」とも答弁している。

 しかし、昨年暮れの衆院選を経済政策が争点の「アベノミクス解散」と名付けたのは首相自身だ。選挙に勝った途端、公約に書き込んだ全項目が信任されたと強弁するご都合主義に唖然(あぜん)とする。

 共同通信社の最新世論調査で安保法制への反対は依然、賛成を上回り、五割近くに上る。安保法制を「十分に説明しているとは思わない」との回答も八割を超える。

 安倍内閣の安保法制が平和主義の憲法九条に違反し、戦後日本が貫いてきた専守防衛が変質するとの危機感を、国民が広く共有する証左だろう。

 安倍内閣はまず、国会軽視の態度を心から改め、国民の思いに誠実に耳を傾けるべきだ。自らの誤りに気付かず、平和主義を変質させる恐れのある法案の成立を「数の力」で強行すべきではない。

 

この記事を印刷する

PR情報