ダニエル・クロウズの『ウィルソン』の日本語訳がプレスポップよりついに刊行された。
- 作者: ダニエル・クロウズ,Daniel Clowes,中沢俊介
- 出版社/メーカー: PRESSPOP INC.
- 発売日: 2015/05/15
- メディア: 大型本
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- 作者: ダニエル・クロウズ,峯岸康隆,中沢俊介
- 出版社/メーカー: PRESSPOP GALLERY
- 発売日: 2005/05/01
- メディア: 単行本
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背後で、お手製のお姫さまドレスを着た女の子が母親と北へ歩いていた・・・少女の容姿は十人並みで、きっと他の子たちといるときは奥手で引っ込み思案なのだろう。しかし、今はお姫さまの衣装をまとい、自慢の母親の手をとって誇らしげに家へと向かえっている。突然、僕はおいおいと泣き始めた。それほど美しい光景だった・・・やはり、その日の僕はどこかおかしかったのだ。
さて、今作はウィルソンという40代の独身男性の晩年を描く。インテリぶってはいるが、一度足りとも働いた事はなく、往年のウディ・アレンを彷彿とさせる饒舌家であり神経症の持ち主、常に人々ひいては社会に悪態をついている。しかし、それでも彼は常にその孤独の穴を埋めんとコミュニケーションを切実に求める。お店でも道でも見知らぬ人に平気で話かけるのだ。であるからして同時に彼はアメリカという国家、そして”人生”というものに対する優れた批評家でもある。"家族の再生"というアメリカンカルチャーのクリシェをウィルソンもまた実践するわけだが、現代においてもはやそれはおとぎ話なのだ、と言わんばかりに目も当てられない結末が訪れる。それでも、なお、彼は思考する事を止めない。「私は美しい!」と大声で叫ぶのだ。
このナイーブで傲慢な社会学者であり哲学者であるウィルソンという男が唯一心を開いているのは、ビーグル犬のペッパー。ビーグル犬?そうなのだ、本作はチャールズ・M・シュルツ『ピーナッツ』へのちょっとしたオマージュが捧げられている。解説によれば、1ページ1話完結のスタイルも、シュルツからの影響だそうだ。ダニエルと同じように現代アメリカを代表する作家であるウェス・アンダーソンの作品の登場人物がそうであるように、ウィルソンもまた、ひたすらにこんがらがり続け大人になったチャーリー・ブラウンなのかもしれない。もし、そうであるならば、彼にかけてあげられる言葉は「きみはいい人、ウィルソン」に他ならないだろう。
ちなみ、ダニエル・クロウズ、ひいてはオルタナティブコミックの入門としては全く適さないとは思いますので、大声ではオススメしない。なんせ値段も高い(1800円)。しかし、好きな人はとてつもなく好きだろう。そんな貴方がウィルソンに出会えますように。