【ソウル=加藤宏一】中韓両政府は1日、ソウルで自由貿易協定(FTA)に正式署名した。両国は中韓FTAをアジアの新たな経済統合の核にしたい考えで、年内の発効を目指して手続きを進める。韓国は日本に先駆けて中国市場で関税自由化の恩恵を受けるが、一方で対象が限られ、日本企業への影響は限定的との見方が強い。韓国では環太平洋経済連携協定(TPP)に参加する日本の競争力強化に危機感も強く、今後はTPP参加議論が本格化しそうだ。
中国の高虎城商務相と韓国の尹相直(ユン・サンジク)産業通商資源相が同日、ソウルで署名式に臨んだ。両者は署名後に記者会見し、高氏は「中韓FTAは中国の一帯一路構想と韓国の(地域連携構想の)『ユーラシア・イニシアチブ』をつなぐ重要な役割を果たす」と指摘。尹氏は「FTAの早期発効へ努力する」と強調した。韓国政府関係者によると、年内の発効を目指す方針だ。
韓国にとって中国は輸出の4分の1を占める最大の貿易相手国で、韓国は中国にとり3番目に大きい貿易相手国だ。FTA発効から20年で両国とも貿易品目の9割強の関税を撤廃する。金額ベースでは中国は85%、韓国は91%に達する。産業通商資源省によると中韓FTAは発効から10年で、韓国の国内総生産(GDP)を0.96%押し上げ、5万人超の雇用創出が期待できるという。
韓国は日本に先駆けて中国で自由化の恩恵を受けるが、日本勢と競合する自動車が対象外となるなどで日本企業への影響は短期的には小さそうだ。みずほ総合研究所によると、今年1月時点で中国に輸出される韓国製品にかかる関税率は加重平均で3.5%だが、発効3年で2.9%と下げ幅は小さい。発効後に関税が即時撤廃される品目も韓国の対中輸出総額の3.7%にすぎず、宮嶋貴之主任エコノミストは「短期的に韓国の輸出環境を大きく好転させるのは難しい」とみる。
中韓FTAでは韓国からの輸出品目で自動車のほか、自動車の外板に使われる溶融亜鉛鋼板、エチレングリコールなどの化学製品が自由化対象から外れた。一方、中国からの輸出品目では豚肉や鶏肉など重要農作物の多くが対象外。早期妥結を優先し双方が妥協した側面が色濃く出ている。
中国にとって韓国とのFTAは昨秋に交渉妥結したオーストラリアと並び、アジア太平洋地域で先進国との経済連携を強化する戦略的な意味を持つ。中国はFTAの基本方針で「全方位」を掲げるが、日米が中国抜きで進めるTPP交渉を強く警戒。中韓FTAの早期実現で東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など多国間交渉で主導権を握ることを目指す。
韓国はTPPについて参加に向けた協議入りを表明したが、参加の是非は検討中だ。韓国貿易協会によると、貿易規模が9兆ドル(約1100兆円)に上るTPPで部品など中間財の需要は2兆ドルという。韓国がTPPに参加しない場合は需要を日本に奪われ、「韓国経済は致命的な打撃を受ける」としてTPP参加を促す声も出ている。
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